【社説②】:学術誌の高騰 研究力の低下を招きかねない
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説②】:学術誌の高騰 研究力の低下を招きかねない
学者が研究成果を発表する学術誌の購読料が世界的に高騰し、大学が対応に苦慮している。国は研究活動の停滞を招かないよう、具体的な対策を講じる必要がある。
研究者は、発表した論文の数や他の論文に引用された回数で評価される。有力な学術誌に論文を掲載してもらったり、他の学者の論文を参照したりするため、有力大学では、海外の学術誌などの購読に年数億円を費やしている。
論文1本当たり数十万円の掲載料を学術誌の出版社に支払って、インターネット上に公開してもらうケースもある。
論文の発表は、新たな知識や技術を社会に広める出発点であり、重要なプロセスだと言えよう。
しかし、近年は、それら学術誌の購読料が値上がりし、大学が負担に苦しんでいる。全国の大学が2021年度に支払った購読料は電子版だけで329億円に上り、10年前の1・5倍に増えた。
出版社側は「論文数の増加で編集費用が増えている」などと説明しているが、大学側は限りある研究費を圧迫し、研究力の低下につながると懸念している。
論文の半数近くは、科学誌「ネイチャー」を発行する独企業など欧米の大手3社が発行する学術誌に掲載されている。寡占状態で価格競争が起きにくいため、大学側は値段が高くても、購読を続けざるを得ないのが実情だ。
そのため政府は、公的資金を投じた研究の論文は政府系のサーバーに提出して無料公開することや、掲載料を補助することなどを検討している。国が対策に本腰を入れたことは評価できる。
ただ、国立大などが論文を公開するために設けているサイトは、大手学術誌ほどの影響力はない。各大学のサイトを集約したとしても、世界に認知してもらうのは容易ではないだろう。
また、掲載料の補助は、掲載費を捻出できない若手研究者らの助けにはなっても、公的資金が国外に流出する点は変わらない。根本的な解決策とは言い難い。
優位な立場にある出版社との交渉は大学には難しい。欧州では国を代表するチームが交渉を主導しているという。日本も交渉を大学の現場任せにせず、国主導で交渉力のある体制を整えるべきだ。
出版社は、論文やデータを広く利用できるようにすることで、研究活動に貢献している。利益の追求だけでなく、学術界の発展を持続的に支えられるビジネスの形を目指すことも重要ではないか。
元稿:讀賣新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2023年05月26日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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