◎古都(1980年 東宝 125分)
監督 市川崑
脚本 日高真也、市川崑
原作 川端康成
製作 堀威夫、笹井英男
制作補 金沢修
撮影 長谷川清
美術 坂口岳玄
音楽 田辺信一
主題歌 山口百恵 『子守唄(ララバイ)』
録音 大橋鉄矢
照明 加藤松作
編集 長田千鶴子
助監督 川崎善広
スチール 橋山直己
出演 山口百恵、三浦友和、實川延若、沖雅也、加藤武、小林昭二、泉じゅん、
常田富士男、浜村純、石田信之、北詰友樹、三條美紀、岸惠子
◎山口百恵引退作品
盛り上がることもなく淡々と進む。町育ちの姉が沖雅也とくっつくのは普通に進むのだが、機織り屋の息子が山育ちの妹に姉の代わりとして惚れるよりも三浦友和を選ぶのはわからないでもないが、それによって姉妹はやはり並行したままの人生を歩んでしまうのだなと。人は生まれではなく育ちなのだといわれているような気がした。
以下、おまけ。
その壱『山口百恵は、川端康成の申し子である』
『もみじの古木の幹に、すみれの花がひらいたのを、千重子は見つけた』
川端康成がノーベル文学賞を受賞したときに対象となった作品は幾つかあるが、その中に『伊豆の踊子』と『古都』がある。冒頭に挙げたのは、その『古都』の冒頭である。紅葉に菫が咲くという、なにやら不思議な出だしの意味については、物語を知れば「ああ、そういうことか」と納得できるので、ここでは触れない。
触れたいのは、山口百恵という不世出の歌手にしてアイドル、そして女優のことだ。山口百恵の主演デビューは『伊豆の踊子』だった。そして引退作品はこの『古都』である。これはもはや運命的な出会いといっていい。なぜなら、新人が文芸作品で主役を演じてそれなりの箔をつけ、やがて押しも押されぬ女優となってから本格的な文芸大作に出演してゆくというのは、当時の邦画界における常道とされた。田中絹代、美空ひばり、鰐淵晴子、吉永小百合、内藤洋子、そして山口百恵が『伊豆の踊子』で踊り子を演じたのもそうした登龍門のひとつとなるのだが、ただ、この女優たちの中で『古都』の双子姉妹を演じたのは山口百恵ただひとりだからだ。他に『古都』の主役となったのは岩下志麻と松雪泰子だけで、さらに川端作品の範囲を広げて探索すると、このような表を作成することができる。
有りがたうさん(1936年) 監督・脚色:清水宏
出演:桑野通子、築地まゆみ、二葉かほる
舞姫(1951年) 監督:成瀬巳喜男、脚本:新藤兼人
出演:高峰三枝子、岡田茉莉子
浅草紅団(1952年) 監督:久松静児、脚本:前田孤泉
出演:京マチ子、乙羽信子
千羽鶴(1953年) 監督:吉村公三郎、脚本:新藤兼人
出演:木暮実千代、乙羽信子、杉村春子
母の初恋(1954年) 監督:久松静児、脚色:八田尚之
出演:岸惠子、丹阿弥谷津子、三宅邦子
山の音(1954年) 監督:成瀬巳喜男、脚色:水木洋子
出演:原節子、中北千枝子、角梨枝子
雪国(1957年) 監督:豊田四郎、脚色:八住利雄
出演:岸惠子、八千草薫
雪国(1965年) 監督:大庭秀雄、脚色:斎藤良輔、大庭秀雄
出演:岩下志麻、加賀まりこ
美しさと哀しみと(1965年)監督:篠田正浩、脚色:山田信夫
出演:八千草薫、加賀まりこ
女のみづうみ(1966年) 監督:吉田喜重、脚本:石堂淑朗、大野靖子、吉田喜重
出演:岡田茉莉子、夏圭子
眠れる美女(1968年) 監督:吉村公三郎、脚本:新藤兼人
出演:香山美子、中原早苗、松岡きっこ
千羽鶴(1969年) 監督:増村保造、脚色:新藤兼人
出演:若尾文子、梓英子、京マチ子
美しさと哀しみと(1985年)監督:ジョイ・フルーリー
出演:シャーロット・ランプリング
オディールの夏(1995年) 監督・脚本:クロード・ミレール(眠れる美女より)
出演:エマニュエル・セニエ
眠れる美女(1995年) 監督:横山博人、脚本:石堂淑朗
出演:大西結花、吉行和子、鰐淵晴子
眠れる美女(2007年) 監督・脚本:ヴァディム・グロヴナ
出演:アンゲラ・ヴィンクラー、モナ・グラス
sleeping beauty/禁断の悦び(2011年)監督・脚本:ジュリア・リー
出演:エミリー・ブラウニング
つまり、川端康成原作の映画に、主演級の役どころで2作品出演しているのは、乙羽信子、八千草薫、加賀まりこ、岡田茉莉子、京マチ子、鰐淵晴子と6人いるものの、看板となる主役を2作品演じたのは、岩下志麻と岸惠子のふたりしかいない。市川崑は、その岸惠子を『古都』に起用した。もちろん、岸惠子は市川組の常連という一面もあるが、しかし、あえて起用したとおもいたい。この起用により、岸惠子から山口百恵に川端作品のバトンが手渡されたことになるからだ。
山口百恵は川端康成の申し子であるというのは、そうしたことからである。
その弐『京都へ行かはったら、古都をお呑みやす』
上京区日暮通椹木町下ル北伊勢屋町に佐々木酒造株式会社なる蔵元がある。明治26年の創業だが、建てられた地が興味深い。出水と呼ばれる上京区で、仕込み水には地下水を用いている。その濾過も脱色も控えた水が、聚楽第において千利休が用いたといわれる金明水と銀明水なのである。この蔵元に、ひと樽の銘酒がある。祇園の料亭でよく呑まれ、川端康成が「この酒の風味こそ京の味」と堪能した酒で、銘は『古都』である。もちろん、小説の題名に由るもので、ラベルの字は川端の揮毫である。古き都の京へ旅し、いずれかの劇場で『古都』を鑑賞し、祇園で『古都』を味わう。古都に酔い痴れるというのは、そういうことで、贅沢な映画の愉しみ方ともいえるのではないか。