◇警察日記(1955年 日本)
大学時代、ぼくは原付で下宿から大学に通ってた。
原付スクーターは、
いまではもうほんとに町中を走る姿は少なくなってるけど、
当時、おばさんスクーターとかお買物スクーターとかいわれたやつで、
ぼくの愛用してたのはキャロットってやつだった。
バックミラーをわざわざ左右につけて、しかもノーヘルで通用した。
こいつを手放したっていうか、友達にあげちゃったわけは、
ヘルメット着用が義務づけられたからで、
それがなかったら、ずっと乗ってただろう。
で、その原付で、ぼくは名画座にも通ってた。
いちばんよく出かけたのが銀座の並木座で、
当時、並木通は自動車だってそっと置いておけたし、
原付にいたっては並木座のまんまえに堂々と駐車できた。
のんびりした時代だったわ、ほんと。
で、この映画も、
その並木座で観たのが初めてだったんだけど、
当時よりも遙かに映画の中はのんびりした時代の話だった。
この映画は、
刑事が取り調べをするときの定番、
「天丼食うか?」
といって天丼を食べさせてやる場面を、
日本でいちばん最初に撮ったらしい。
ほんとかどうかは知らないけど、たぶん、ほんとなんだろう。
この後、刑事ドラマではその丼がかつ丼になったり親子丼になったりした。
ま、人情刑事物にはいちばん似つかわしい挿話なんだろね。
それと、もうひとつ。
この映画でデビューしたのが、宍戸錠だ。
ちっちっち、エースの錠もまだ青二才だぜ。
ところが、いまひとり、
最高の子役が登場してる。
仁木てるみだ。
初めてこの映画を観たときには、いやもう、泣いたわ、てるみちゃんに。
ものすごく好い演技をして、もうすべてをかっさらってくれた。
ところが、だ。
今観直すと、いやあなんていえばいいんだろ、間延びしてるんだよね。
ひとつひとつの挿話はおもしろいんだけど、
この会津磐梯山のふもとにある田舎町を撮った映画は、
いったいなにがいいたいんだろうってな疑問にかられ、
ほんのちょっとため息をつく。
團伊玖磨の見事な調べから始まるタイトルバックは、
その重低音にしても合唱にしても天下一品だし、
姫田真佐久のカメラワークも秀逸だし、
バスに花嫁さんが乗ってくるくだりの調子は、いや、たいしたもんだ。
ところが、
その小気味良さが最後まで持続しないで、途中、間延びする。
当時としては軽快な喜劇だったはずだし、
それから30年間くらいは、観客もちゃんとついてきたはずだ。
なのに、時代は変わってきてる。
もっとも、これは『警察日記』だけの話じゃなくて、
デジタルが登場するあたりまでの映画は、
なんとなく間延びした感じを受けるようになっちゃってる。
いやだな~と、ぼくはせかせかしてる自分に対しておもうのだよ。