◇沙羅双樹(2003年 日本 99分)
staff 監督・脚本/河瀬直美 撮影/山崎裕 音楽/UA
cast 福永幸平 兵頭祐香 河瀬直美 生瀬勝久 樋口可南子
◇1997年夏、神隠し
好きな映画のひとつに『萌の朱雀』がある。
ずいぶん前に観たんだけど、観たとき、なんか懐かしいな~と感じた。
同時に「これ、好きだわ~」とも感じた。
映画っていうのは、たぶん、そんな感想が出れば充分に成功なんだろう。
出来がいいとか、不出来だったとか、技術がどうのとか、演技がどうたらとか、
そんなことは、もしかしたら、二の次なのかもしれない。
で、この映画の場合、透明感のある雰囲気がとても好かった。
ぼくはめんどくさがり屋なので、映画を観る前に情報を得ることはまずない。
監督や俳優に取材したものも見ないし読まないし、あらすじも聞かない。
だから、なんとなく面白そうかどうか、というだけで判断する。
沙羅双樹、ええ題名やんかとおもえば、もう観たくなる。
けど、どうしても内容や批評とかいった情報は入ってくるもので、
双子の片方が神隠しに遭う話らしいと知ったとき、
あ、だから、沙羅双樹なのね、とおもってしまったし、
奈良町でロケしてるんだし、なんとなく線香臭い死生観が語られて、
もしかしたら転生輪廻の話とかに持っていくのかな、とちょっぴり期待してた。
で、
冒頭のややハイキー気味の長回しが始まったとき、
双子の少年の声が聞こえてきた。
おお、はやくも双樹かとおもってから、ずっと長回しの連続に眼を凝らした。
身代わり猿、地蔵盆、町家、土間、坪庭、百万遍(数珠回し)と、どれも好きなアイテムだ。
ふむふむとおもいつつ、UAの音楽とアドリブ(もしかしたら、書の陰光も?)を聞き、
同時録音で入ってくる町の音と、あとで付け足されたのか、特有の効果音を聞き、
『萌の朱雀』では風を感じたけど、こっちでは空気と時間を感じるな~とかおもい、
健康的な性のおとずれを感じさせる自転車ふたり乗りの長回しは、
もしも、風のいたずらによってスカートが捲れあがるのでなく、演出だったとしたら、
すげ~何度も撮り直したんだろうな~とかおもったり、
なにより、
河瀬直美の異様に上手な腹ぼてで立ち上がるところとか出産シーンとかに感心し、
ラストは、どんなふうにするんだろう、ということだけに関心を向けてた。
主題については、たぶん、映画が始まる前から自分なりに想像してた。
墨職人の父親は、等身大の兄弟の絵を描き続ける息子に、淡々とこう語る。
「忘れていいことと、忘れたらあかんことと、ほれから忘れなあかんこと」
それが、たぶん、主題なんだろう。
家族にとって、周りの人々にとって、町にとっての思い出のことだろう。
最後の長回しは見事だった。
出産の場からカメラを引き、冒頭の失踪現場まで移動するんだけど、
途中、双子の会話がすうっと囁かれる。
あとは、昇天。
やっぱり、自主製作映画のようでいて、玄人でしか撮れない映画だよね。