◇迎春花(1942年 満洲)
満映と松竹の提携作品ってのは実にめずらしく、
しかも李香蘭が主題歌まで歌ってるなんて、
いやまあなんて貴重な映画なんだろ。
とおもって、それだけの興味で観てみたんだけど、
意外にちゃんとした映画だった、
とかいったら叱られるだろうか?
奉天や哈爾浜の風景も見られるし、
氷祭りみたいなものもあったりするし、
なんといっても、李香蘭と小暮実千代のスケートシーンもあったりで、
話が、社長令嬢と親日満洲人の娘が建設会社のエリート日本人を争うっていう、
なんともありきたりなものとはいえ、
結局は女性がふたりとも恋よりも自分の道を選んでいくなんていう、
当時としてはかなり先進的な女性像が描かれてたりするわけで、
まあよく撮れたもんだな~と感心しちゃったわ。
とはいえ、
主題歌の『迎春花』が『蘇州夜曲』のようなインパクトがない分、
映画もまたそれくらいな印象で、
とりとめのないほんわかさの漂ってるものではあったけどね。
◇陸軍(1944年 日本)
なにが凄いって、ラストの10分だ。
それまでは、
まあ、幕末から大東亜戦争までの小倉のとある一家の歴史を駈け足で追ってるだけで、
ところどころに木下恵介の反戦思想が見え隠れしている。
戊辰戦争で家屋敷が焼かれる中、
『大日本史』をいちばんに守ろうとするあるじの滑稽ぶりが斜めに語られるのをはじめ、
三国干渉から日露戦争にいたるまで、
ひたすらお国に忠誠をつくし続ける一家の姿を追うことで、
観客にその可哀想なほどの滑稽さを描いて、
戦意高揚映画でありながら軍国主義の愚かさを描いているわけなんだけど、
そういう中で、
出征していく息子のあとを懸命に追っていく田中絹代を延々と撮ったラストは、
いやもう凄い。
後援している陸軍省のはからいで、西部軍司令部の指示のもと、
福岡の大通りに百十三連隊800名が行進し、
これを、動員された大日本国防婦人会や国民学校の生徒が見送るんだけど、
ドキュメンタリーでも観ているかのような錯覚すら受ける。
まあ、実際にこの部隊はマニラに出征して九割潰滅という悲劇を迎えるそうで、
そういうことからいえば、
きわめて貴重な出陣の場面になるんだろう。
とはいえ、
木下恵介の力量にももちろん圧倒されるし、
田中絹代の名演技にも驚かされるんだけど、
当時、こういう反戦映画が堂々とまかり通ってしまうほど、
陸軍部には映画の主題をしっかりと検閲できるだけの眼のなかったことが、
そもそも、この国の貧しさだったのかもしれないね。
☆晩春(1949年 日本 108分)
監督/小津安二郎 音楽/伊藤宣二
出演/原節子 笠智衆 月丘夢路 杉村春子 桂木洋子 三宅邦子 宇佐美淳
☆床の間の壺
まあこんなものの意味するところは小津にしかわからないわけだから、それをくだくだと推論したところで始まらない。小津が文書にでもしておいてくれていればいいし、でもたとえそうであっても本当のところを書き残しているかどうかはわからない。
でも、個人的にいえば、父と娘というのは、余人の入り込めないものがあり、それは性的なものであろうとなかろうとどうしようもなく繋がっており、母と娘よりも切っても切れないところがあるのではないかとおもったりする。そんなところだけど、それがこの作品の印象を左右するかといえば、そうとはおもえない。