◇波の塔(1960年 日本 99分)
監督/中村登 音楽/鏑木創
出演/有馬稲子 津川雅彦 岸田今日子 桑野みゆき 沢村貞子 西村晃 佐藤慶
◇深大寺
清張初のメロドラマだとおもうんだけど。
不倫を情感こめて描くとこうなるのね的な悲劇に向わざるを得ない設定が、なんとも昭和35年。
日暮里か西日暮里の駅近くの待合旅館で、機関車の蒸気が聞こえる中の別れの演出は、まあ、なんというのか、客車と客車ががっしゃんがっしゃんと何度も連結したり離れたり、それが男女の睦事に見立てられてるのは想像つくけど、ちょっとばかり直接的すぎないかしら。
ちなみに、津川雅彦は46年後に夫役を演じてる。
なんかね~時の流れを感じちゃうよね。
メロウな有馬稲子がなんとも生々しいわ。
ただ、男と女の抜き差しならない関係ってのは、得体が知れないね。不倫してたときはあれほど離れがたいとおもっているのに、それが成就できるとおもったとき、女は富士山の樹海に身を投じていくっていうのは、いったいどういう踏ん切りのつけ方なんだろ?
このあたりが現実と違って物語なんだよな。
ちなみに、1978年に現役で大学を受験したとき、ぼくはこの映画のような待合旅館に宿を取り、入試を受けた。
木造二階建ての和風旅館だったんだけど、二階のぼくの客室に行くまでに、赤い欄干のついた小さな太鼓橋があった。部屋の入り口には小さな軒があって、格子戸を開けて小さな玄関があり、障子を開けた先に四畳半の座敷があった。これまた小さな床の間があって、窓を開けると駅の遠景が見えた。
谷中の墓地が裏手にあったから、駅の裏側の丘の上の宿だったような気がする。朝食がついてて、帳場の奥にある座敷で食べた。何泊かしたとおもうんだけど、駅前はなんともさびれた雰囲気で、おのぼりさんの僕は満足に食堂も見つけられなかった。
映画が作られてから18年後のことなんだけど、津川雅彦と有馬稲子の密会した待合は、たぶん、あんな雰囲気だったんだろうなぁ。
それと、ぼくが初めて調布に行ったのは、それから4年後のことだ。深大寺がふたりの出会いの場なんだけど、ぼくが深大寺に初めていったのはさらに数年経った1985年あたりだ。映画の撮影が行われてから25年後の深大寺は、現在とほとんど変わっていない。
たぶん、映画が撮られてすぐに凄まじい勢いで都市化したんだろね。