キラー・コンドーム(Kondom des Grauens)
公開時は、観られなかった。観たかったんだけどね。
なんといっても、この怪物コンドームのデザインが、エイリアンのH・R・ギーガーってのがまじらしい。すげえ~とはおもいながらも、どれだけつぶさに観察しても、なにもギーガーである必要はないな。しかしまあ、この手の物語ってのは、誰でもおもいつくんだけど、たいがいは予算がないとか、冗談はさておきってなことになって中止になる。この作品は、それをやっちまったところに価値を見いだせる。
さて。
捜査を担当した32センチのペニスを誇るニコチン中毒の刑事のもとへ、オクラホマから容疑をかけられている女子大生の両親がやってくる。
「娘に何があったか話してもらおう」
「ニューヨークの薄汚、い連れ込み宿で、教授のペニスを噛み切った。残念だが証拠はそろってる。発見したとき彼女はベッドの上で悲鳴をあげ、教授は床で意識不明、ペニスはベッドの上にあった。この街では決して珍しくない事件だ。ひと晩で4本のペニスが噛み切られ、42番地では義母を乾燥機に入れ、そのうえ窓から投げ捨てた。これがニューヨークだ。オクラホマとはちがう。娘さんは田舎へ戻った方がいい」
そしてナレーション。
「この街は変態たちのはきだめだ。田舎育ちの娘もチンポを噛み切るようになる。俺は街の清掃係のようなものだ」
なんとなく、まとめてる。
しかし、このゲイとセックスしても記憶にないという刑事、髪の毛は薄いが、知的で可愛すぎる。ジョン・ベルーシみたいなアクが欲しいな。
そして『サイコ』のパロディのあと、キラー・コンドームは瓦斯管で破裂し、解剖に附されるのだが、やはりニコチン中毒のおばちゃん解剖医に、
「人間の上皮の細胞でできているわ。普通のコンドームに見えても皮膚に似た外殻質の層を持つとても複雑な有機体よ。肉眼では見えない神経、均等に広がる脳、歯は鋭いけど柔軟性があるようね。消化機能がないから自然界の生物とはいえないわ。それにエネルギーは自給自足してる。人造生物ね」
そんなわけないだろ、とおもったら。
「ミミズやクラゲなどの下等動物の混合よ」
なるほど、なんとなくまとまってる。
しかし、おばちゃんは興味がない。
「ここにある遺体の方がおもしろいわ。体重180キロの恋人が顔に座って窒息を。セックスか殺人か。女は無実を主張。男の喉には陰毛が数本入ってたわ。喉に詰まってる陰毛、見たくない?」
見たくないだろ、ふつー。
しかし『ジョーズ』のパロディはつまらんし、途中からかなりだれるな。
ただ、病院の教会の地下に監禁されてるスミルノフ博士によると、
「幼態動物であるミリアリスとセタリアと好塩性生物ノイコサエダを掛け合わせた生殖核が融解したときリン酸、蟻酸、アミド酸、イミダゾール、カルボキシル基、異性化酵素が感応物質のラテックス繊条組織の収縮を生み出し、自主的に動く物体が完成した。そして人間と同じようにゼリーのような食物を摂取する」
とかいうのには、感心した。こういうもったいつけた説明は欲しいな。
で、このあたりは、おもしろかった。
「なぜ男の性器を噛み切るんだ」
「ゼリーがもらえるからさ」
精液か!とおもったら、ちがった。
そーか、聖書が鍵なのか。だから教会なのか。聖書には男は男と姦淫してはいけないとほんとに書いてあるのかどうかは知らないが、たしかに避妊やコンドームの記述はないし、意味のない射精もない。だから安ホテルの男娼が狙われるのか。この時代、性的な少数派が市民権をもっていたのかどうかはわからないけれど、とにかく、この映画はからかい半分ながら、かなり本気で向き合ってるような気がするんだけどなあ。