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☆=☆☆☆☆☆
◎=☆☆☆☆
◇=☆☆☆
△=☆☆
▽=☆

エンド・オブ・キングダム

2017年10月31日 00時00分57秒 | 洋画2016年

 ◎エンド・オブ・キングダム(2016年 アメリカ 99分)

 原題 London Has Fallen

 監督 ババク・ナジャフィ

 出演 メリッサ・レオ、ラダ・ミッチェル、アンジェラ・バセット、シャーロット・ライリー

 

 ◎ホワイトハウス襲撃の2年後

 それにしても各国の首脳ががんがんと殺されちゃってるんだけど、この後の世界はいったいどんな情勢になっていくんだろう?とかいう疑問はこの際あんまり考えちゃいけないのかもしれない。ただ、前作の『エンド・オブ・ホワイトハウス』の出来が恐ろしいほどよかったからどうしてもこちらは見劣りする。まあ、ジェラルド・バトラーの代表作になってるのはまちがいないし、このままシリーズになっていくんだろうけれど。

 そんなことより、どうしてビッグベンに籠もって戦わなかったんだろうっておもうんだよね。英国首相じゃないから国会議事堂を砦にするわけにはいかないのかしらね?まあ物語の都合上、ヘリを落とされ、チェリングクロス駅から大使館まで移動って展開にしないと大統領アーロン・エッカートを誘拐できないし、副大統領に出世したモーガン・フリーマンも見せ場ができないものね。いやしかしアロン・モニ・アブトゥブール演じるところの「疾病よりも多くの人間を殺した男」とかってパキスタンのテロリスト、すごい渾名を考えつくものだな。

 

 

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ザ・ボーイ 人形少年の館

2017年10月30日 00時51分22秒 | 洋画2016年

 ◇ザ・ボーイ 人形少年の館(2016年 アメリカ 97分)

 原題 The Boy

 監督 ウィリアム・ブレント・ベル

 出演 ローレン・コーハン、ルパート・エバンス、ダイアナ・ハードキャッスル、ジム・ノートン

 

 ◇イギリス、ヒールシャー

 人形のベビーシッターをするためにわざわざアメリカからやってきたという設定はありだとおもうんだけど、その忌まわしそうな館の老夫婦から、人形の世話をするための10のルールとかをおもわせぶりたっぷりに聞かされてからがもうあかんようになっちゃう。

 結局、この夫婦は、かつて火事をおこしてその衝撃でひとり息子が外へ出られないようになってしまったことから、火事の頃の息子の幻影だけを見、成長していく息子からは目をそむけていたというとんでもない夫婦で、しかも自分たちは心中するから呼び寄せたベビーシッターに息子もなにもかも預けてしまおうという信じられないような考えを持っていたわけで、これはひとり残されたローレン・コーハンとしても困るわね。

 けどまあ、ホラー風味なのは前半だけで、後半はもう活劇になっていくっていうハリウッドのB級作品の定番であることだけはまちがいなくて、ローレン・コーハンがテレビの『ウォーキング・デッド』とかいうシリーズで人気が出てきたものだから、それにおんぶする形で急ごしらえされたって観は否めないね。

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ハクソー・リッジ

2017年10月29日 00時09分50秒 | 洋画2016年

 ◇ハクソー・リッジ(2016年 アメリカ、オーストラリア 139分)

 原題 Hacksaw Ridge

 監督 メル・ギブソン

 出演 アンドリュー・ガーフィールド、サム・ワーシントン、テレサ・パルマー、ヒューゴ・ウィーヴィング

 

 ◇前田高地の戦い

 良心的兵役拒否者としてはアメリカ史上初めて軍人最高位となる名誉勲章を受賞したデズモンド・T・ドスの物語だ。

 中心になっているのは、かれが武器を手にしないとする理由のひとつとなった、弟のこめかみを煉瓦でぶんなぐった幼い頃の喧嘩、あるいはアル中の父親をいさめようとしつつもついつい発砲してしまった親子喧嘩、そして兵役拒否にいたる訓練と父親の応援を得て兵役拒否を認められる軍事法廷、そして沖縄戦におけるハクソー・リッジこと前田高地の戦いの模様だ。

 先に中身について、ちょっと触れておくと、日本兵の描かれ方がなんだかシューティングゲームに出てくる化け物のようで、なんだかな~て気はする。ここまで人間性に乏しい戦意のかたまりだったんだろうかと。画面の迫力はたしかに凄まじい。この絵はCGによるものが大きいんだろうけど、それでも凄い。音響も効果も編集も、なるほど、たいしたものだ。主人公とそれをとりまく同期あるいは鬼軍曹的な立場となっているヴィンス・ヴォーンとの友情めいた関係もまた定番ながらわかりやすい。

 まあ、それはそれでいいが、しかし、どうにも気分が良くない。

 宣伝の仕方についてだ。

 沖縄戦の「お」の字もないというのはどういうことだろう。厳しい訓練を茶化したような宣伝をしたり、兵役拒否について宗教上の理由とかを前面に押し出したり、もういい加減にしてくれっていう広報だった。沖縄戦の映画だったら、まずいのか。日本兵がひとからげになって無残に殺されていく映像があるなんてことがばれたら誰も観てくれないとでもおもったのか。観客をばかにしているとしかおもえないし、それをとおりこして悲しくなる。

 事実、映画の中でも日本兵をふたり救い出している。まあそのふたりはまもなく死んだそうだけれども、でも、敵味方の区別なく救出した衛生兵がいたということをなぜ前面に押し出さなかったんだろう。宗教というものがあって、それで兵役拒否したというのであれば、そこからさらに発展して敵味方の区別なく人の命の尊さを知り、それを救おうとした兵士がいたという事実を正面からとらえようと、なぜ、しなかったのか。情けないな、まじで。

 恥ずかしいぞ。

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ベニシアさんの四季の庭

2017年10月28日 11時49分42秒 | 邦画2013年

 ◇ベニシアさんの四季の庭(2013年 日本 98分)

 監督 菅原和彦

 出演 ベニシア・スタンリー・スミス

 

 ◇京都大原2009~2013

 このドキュメンタリは好きで、テレビでふと見かけるたびに観てた。

 いつ放送されてるのか知らないんだけど、ほんとにふとしたときテレビがついててさらりと視界に入ってきたとき、そのままなにげなく観てた。なにかの参考にするわけでもなく、ああいいな~とおもうわけでもなく、それでいてなんとなく愉しみな番組だった。

 そういうことからいうと、彼女が丹念に栽培している庭のハーブに似ているのかもしれないね。イギリス庭園はぼくみたいなど素人には想像もつかないほど手入れが大変で、雑草が生い茂ってるんじゃないかって勘違いしちゃう人間はまあおいといて、でも常に自然体で驕らず気取らず風光に身をゆだねるようにして時を刻んでるように作っていく。なかなかできることじゃない。それを彼女はほんとに緩やかにテレビの向こうの誰かに語り掛けるような独白を続けて手入れしている。演出がそうさせるのかもしれないけど、彼女の優しくも厳しくかつ誇り高い人柄が漂ってくるような番組だった。

 ただ、テレビの場合、あまり深くは入り込んでおらず、たとえば、イギリスの壮麗な実家っていうか城だとか、娘たちのこととか、さらにはご主人との出会いと暮らしと別れにいたるまでのこととか、まるで語られてこなかった。いつのまにか、どこからか大原にやってきて、その風物と一体化したような透明感のあるふしぎな英国女性という印象は、にわかに現実味のあるベニシア・スタンリー・スミスという英国婦人になった。観てよかったのかどうか、よくわからない。

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愛のコリーダ

2017年10月27日 00時00分19秒 | 邦画1971~1980年

 ☆愛のコリーダ(1976年 日本、フランス 104分)

 仏題 L'Empire des sens

 英題 In the Realm of the Senses

 監督・脚本 大島渚

 出演 小山明子、殿山泰司、芹明香、白石奈緒美、岡田京子、中島葵、松井康子、東祐里子

 

 ☆昭和11年、帝都中野、吉田屋

 くだらないのはこの映画に関連した裁判で、映画本編のことではなくてその脚本と宣材スチルを綴じた書籍が猥褻物頒布罪にあたるかどうかってことだった。ばかばかしい話で、結局無罪になるんだけど、そんなくだらない裁判をしている閑があったらもっとほかにしなくちゃいけない裁判がごまんとあるだろっておもったのは、いったいいつだったんだろう?

 実をいうと、てほどの話でもないんだけど、この『愛のコリーダ』と『愛の嵐』はほとんどおなじ時代に作られてて、後者の方が2年早い。で、ぼくはこの2本はかなり好きなんだけど、それはともかく、2本に共通しているのは男と女が密室に籠もりっきりになって愛欲に浸り続けるってことだ。それは死をも超越した愛欲で、人として生まれたからには徹底した愛欲の日々は経験しないとあかんのじゃないか、人生に後悔してしまうんじゃないかっておもえるほどの痴情の極致なんだけど、まあ吉田屋の主人吉蔵こと藤竜也のように他の芸者も揚げて乱交に及ぶのはちょいと無理として、阿部定こと松田暎子とふたりきりで密室で数日を過ごすくらいは誰でもできる。たまには、若芽か栗の花のような匂いのする饐えた空気の中でこれでもかってくらい痴態の時を過ごしてみるのもいいもんだろう。

 実際、この作品は興味本位で観られることが多いけど、大島渚の作品の中では『戦場のメリークリスマス』と双璧を成すくらいの傑作だとおもうんだよね、実は。まあ、陸軍の歩兵隊の行進とすれちがうくだりで、さまようように歩いていく藤竜也の心と体がもはや世間から遊離しちゃったどころか逆行してるってだけじゃなく、戦争するくらいなら性戯に溺れるだけの生活の方が遙かにましだっていう反戦もちょっと見せてたりするものの、そんなものは刺身のつまにしかならず、ひたすら男と女の性の真実を追求してるわけで、まさしくそれが好くて、しかも花柳界の下卑た遊びがぎゅうぎゅうに詰まってるところがさらに好いっておもっちゃうんだよね。

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愛の嵐

2017年10月26日 00時11分30秒 | 洋画1971~1980年

 ☆愛の嵐(1974年 イタリア 117分)

 原題 Il Portiere di notte

 英題 The Night Porter

 監督 リリアーナ・カヴァーニ

 出演 シャーロット・ランプリング、ダーク・ボガード、フィリップ・ルロワ、ガブリエーレ・フェルツェッティ

 

 ☆1957年、冬、ウィーン

 リリアーナ・カヴァーニの演出が凄いのかシャーロット・ランプリングの演技が凄いのかわからないけど、この倒錯した性愛劇のリアリティは並大抵なものじゃない。それはなにもシャーロット・ランプリングが騎乗位になったときの腰の使い方があまりにも官能的すぎるとかいう些細なことではなく、画面から饐えた匂いが漂ってくるような全体の雰囲気のことだ。

 まあ、ここでいまさらあらすじを追いかけたところで仕方がないけど、なんとも皮肉というか偶然というか、ダーク・ボガードのことだ。

 ダーク・ボガードが演じてるのはかつてのナチスの将校で、こいつが収容所でシャーロット・ランプリングを奴隷人形のように扱い、性愛の妙を骨の髄まで染み込ませてしまった張本人で、そのせいでシャーロット・ランプリングは性愛の奴隷と化し、異常な性愛がそのまま深層心理にこびりつき、さらにそれが自分にも相手にも苦痛と屈辱を与えることに死と引き換えにしてもいいとまでおもえるような官能の極地へ堕とされてしまうわけだけれども、そのダーク・ボガード本人、戦争を経験している。

 ただし、枢軸軍ではなく、連合軍の将校としてだ。ただ、皮肉か偶然かわからないけれど、ダーク・ボガードが進軍していった先は、アンネ・フランクが最期を迎えたベルゲン・ベルゼン強制収容所だったってことだ。なんか見えない糸に絡みつかれているような、そんな感じを受けちゃうなあ。

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BFG : ビッグ・フレンドリー・ジャイアント

2017年10月25日 00時42分50秒 | 洋画2016年

 ◇BFG : ビッグ・フレンドリー・ジャイアント(2016年 アメリカ 117分)

 原題 The BFG

 監督 スティーヴン・スピルバーグ

 出演 マーク・ライランス、レベッカ・ホール、ペネロープ・ウィルトン、ジェマイン・クレメント

 

 ◇スピルバーグとディズニー

 まさかその両者が合同で映画を作るときが来るとはおもってもみなかった。

 とはいえ、どちらも、もともと子供と夢を描いてきたんだから当然の帰結なのかもしれないし、その原作を童話に求めるというのもまあ妥当なところだろう。12歳のルビー・バーンヒルも難なくこなしてたって感じだしね。まあそれはさておき、BFGだ。巨人マーク・ライランスの仕事が夢を届けることっていうのも発想としてはいいし、エリザベス女王とおぼしき女王陛下に謁見し、さらにおたがいにひとりぼっちだったマーク・ライランスとルビー・バーンヒルがイギリスの危機を救うことになるっていう飛躍もまた好ましかった。

 それと、これはどうでもいい話ながら、昔、ぼくの好きだった児童文学がある。天沢退二郎の『光車よ、まわれ!』っていう小説なんだけど、これが水の向こうにある世界への冒険と向こうの世界からの侵略を食い止める話だったとおもうんだけど、もう40年以上も前に読んだ作品だからかなりうろ覚えだ。でもものすごく興奮したことはおぼえてる。それをふとおもいだしたのが、巨人の国が水たまりの向こうにあることだったんだよね。ま、単なる思い出話だけどさ。

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竜馬の妻とその夫と愛人

2017年10月24日 00時12分07秒 | 邦画2002年

 △竜馬の妻とその夫と愛人(2002年 日本 115分)

 監督 市川準

 出演 木梨憲武、中井貴一、鈴木京香、江口洋介、橋爪功、トータス松本、小林聡美、嶋田久作、梅津栄

 

 △明治13年夏、昼下がり

 もともと土佐勤皇党の志士で坂本竜馬とともに勝海舟の弟子になり、海援隊士でもあった菅野覚兵衛が、竜馬の13回忌に横須賀観念寺裏長屋に住まうおりょうを訪ねる話なんだけど、なんだかだらだらしてて、個人的にはちょっと辛かったな。まあぼくは元になってる舞台を観たわけじゃないから、この物語にとっかかりがないっていうのか、ちょっと戸惑ったりしたからかもしれないね。

 まあそれより菅野覚兵衛なんだけど、この人はほどなく福島県郡山に入植するんだね。竜馬の夢だった北の大地の開拓を実践しようとしたんだね。で、安積原野に挑むわけだけれども、明治26年に志半ばで斃れる。享年52。ちょっと辛いな。

 

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居酒屋ゆうれい

2017年10月23日 23時56分17秒 | 邦画1991~2000年

 △居酒屋ゆうれい(1994年 日本 110分)

 監督 渡邊孝好

 出演 豊川悦司、橋爪功、余貴美子、西島秀俊、三宅裕司、尾藤イサオ、絵沢萌子

 

 △横浜反町「かずさ屋」

 居酒屋を営む萩原健一と、幽霊になった前妻の室井滋と、後妻になった山口智子の三角関係。

 それ以上でもそれ以下でもない物語で、まあカウンターだけの居酒屋で常連もいて、なんだかんだと人情味のある話が出たり引っ込んだりってのは邦画の定番のひとつのような感じだけど、いやなんていうのか、脚本が田中陽造なんだよね。陽造さんだったらもうちょっと湿っぽくてどろどろした感じになっててもいいような気がするんだけど、そういうつもりはなかったのかな。

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九ちゃんのでっかい夢

2017年10月22日 23時35分53秒 | 邦画1961~1970年

 △九ちゃんのでっかい夢(1967年 日本 89分)

 監督・脚本 山田洋次

 出演 坂本九、倍賞千恵子、竹脇無我、九重佑三子、犬塚弘、有島一郎、ジェリー藤尾、大泉晃、渡辺篤

 

 △てんぷくトリオも出てる

 幸せな時代だったんだな~っておもった。

 まあ、設定として、自分が不治の病だとおもいこんだ坂本九が世を儚んで自殺しようとするけれどできないものだから殺し屋佐山俊二を雇うってのはありだ。さらにそこへスイスの古城に住んでる大富豪がかつての日本人の恋人の孫つまり坂本九に遺産を相続させようとするのを阻止するために殺し屋E・H・エリックを雇うってのもありだ。どたばたの見本みたいな脚本で、このあたりはさすがだなっておもうけど、当時の坂本九は凄かったんだろうな、これ新曲披露のための映画みたいなんだもん。

 それにしても、倍賞千恵子の可愛いことといったらないわ。

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FEAR X フィアー・エックス

2017年10月21日 22時50分43秒 | 洋画2003年

 △FEAR X フィアー・エックス(2003年 デンマーク、カナダ、イギリス、ブラジル 91分)

 原題 Fear X

 監督 ニコラス・ウィンディング・レフン

 出演 ジョン・タトゥーロ、デボラ・カーラ・アンガー、ウィリアム・アレン・ヤング、マーク・ホフトン

 

 △赤いホテル

 妻ジャクリーン・ラメルを撃ち殺したのは誰なのか、またその理由はなんなのか。

 ジョン・タトゥーロはそれだけを求めて妻が殺害されたウィスコンシン州のショッピングモールの警備員になり、日々、怪しい人間を追い、防犯カメラの映像をひたすらチェックし続ける。同時に、ジョン・タトゥーロは妻の幻想を見る。妻は常に自分に笑顔を向けるものの自分から離れていく。自宅でも、自宅の前でも、宿泊したホテルの部屋でも廊下でも、暗闇の中へ去っていってしまう。

 それは死ということなのだろうけど、自宅の正面に建っていて数年先まで団体契約が結ばれている平家にだけは、雪のふりしきる中、明瞭な映像で入っていく。ということはもしかしたらこの幻想だけは現実なのではないか。ジョン・タトゥーロはそうおもって人気はないながらも毎日夕方になると明かりの灯る不気味な家1329番地へ潜入する。

 そこでジョン・タトゥーロはフィルムを見つける。フィルムに映っていたのはモンタナ州ルート200にあるレストラン「スティーヴ&ニッキー」の前で戯れる母子だったが、ジョン・タトゥーロにその母子の記憶はない。けれど、その写真を撮ったとおぼしき野郎がドアに映りこんでいた。この野郎は防犯カメラに映っていたピンボケ野郎ジェームズ・レマーだった。

 ジョン・タトゥーロはモンタナ州へ急ぎ、かつて妻と訪れたことのある思い出の町モリストンのベル・ホテル305号室に宿泊し、野郎と母子を探していくのだが、野郎はその土地で表彰までされる警官で、母子はその家族だった。どうやら、この野郎は警察のからんだ大掛かりな事件に関与しているようで、その事件に妻も引き摺り込まれていた可能性があることだけはわかった。

 しかし謎解きはここまでで、あとはジョン・タトゥーロが怪我を負わされ、モリストンから追い返されるところで物語は終わってしまう。なんじゃこれは!という怒りだけが、ぼくたちに残るのだね。好かったのは売春婦役のアマンダ・オームスがやけに綺麗だったことくらいだ。

 まあ、野郎が、その汚職事件だかなんだかに手を染めているとき、ウィスコンシン州へ出張するたびにジョン・タトゥーロの妻と不倫をしていたわけで、たぶん、妻は事件についてもなにか知っちゃったんだろうね、で、殺された。野郎ジェームズ・レマーとしては、この事実を明るみに出されたくない。けど、奥さんのデボラ・カーラ・アンガーは感づいちゃう。このときの追い詰める演技は上手だね。で、これはいかんということで、野郎はベル・ホテルへ乗り込み、503号室へジョン・タトゥーロを呼び出し、幻想的な赤い廊下で殺人未遂をしでかすわけだけれども、やけにいろんな数字にこだわった不思議な雰囲気の映画だった。

 単調に進んでいくんだけど、妙な緊張感がある。ずっと奥さんを殺した犯人を突き止めようとしているのを撮ってるからそうなるんだろうけど、でも音楽もないし、行動的なところもない。ただ、効果音っていうのか、空気を震わせるような微妙な音がずっと続いてる。けっこう、鼓膜に残る。濃密な雰囲気なんだよね。警備員をしているスーパーマーケットが騒々しい分、家のある住宅地の森閑とした空気との差がかなりあって余計に緊張感を生んでたかな。

 けど、脚本がどうにも中途半端で、赤い部屋と廊下とプールのような雫のような幻想的な映像だけが突出してた。もうちょっとなんとかなったんじゃないかっておもうんだけど、幻想的な雰囲気を濃厚にしたいんならそれ相当の演出もあったろうに、物足りなさがいっぱいだね。

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誰よりも狙われた男

2017年10月20日 13時26分19秒 | 洋画2014年

 ◇誰よりも狙われた男(2014年 イギリス、アメリカ、ドイツ 122分)

 原題 A Most Wanted Man

 監督 アントン・コービン

 出演 ウィレム・デフォー、ダニエル・ブリュール、ニーナ・ホス、ロビン・ライト

 

 ◇フィリップ・シーモア・ホフマンの遺作

 原作者のジョン・ル・カレが製作総指揮のトップとして参加しているところを見ると、かなり入れ込んだのだろうし、映画そのものも完成を迎えているわけだからそれなりに満足したとおもわれるんだけれども、さて、どうなのかしら?

 なんていうのか、派手さはないというよりも地味で淡々としてリアリズムに徹しているといえばいいんだろうか。でも単調ならば単調なりの緊迫感があって然るべきだとおもうんだけど、そういう抜き差しならない感覚があまり味わえないのは辛いところだね。

 いやまあ、アメリカの旅客機墜落テロのあった2001年9月11日を境にして世界中のスパイ活動が大きく様変わりしたっていうのはなんとなくわかるし、スパイ活動がいかに目立たない中で行われて、深く静かに起きて止んでいるかってこともそれなりに想像はつくんだけど、うん、難しいな。実際、フィリップ・シーモア・ホフマンがベイルートで失敗し、ていうか諜報戦で嵌められ、自分の情報網をずたぼろにされたっていうのはわかった。その後、ハンブルクへ流れてきてドイツ側のスパイとして活動して新たな情報網をようやく作り上げてるっていうのもわかった。でも、その資金をどうやってドイツからひきだしたのかがわからない。だって、ドイツは物語の中ですらそういう諜報部員を抱えていないことになってるっていうことわりをいれるくらい神経質になってるわけでしょ?

 それと、レイチェル・マクアダムスがなんでチェチェンから逃れてきた闇の大資金を受け継ぐ青年に頼られることになったのかもいまひとつ理解しがたいし、さらにいうとこうした人間どもが複雑に絡んでいるものの、いちばんの闇の中で蠢いている連中はあまり描かれていないんだよね。結局、狙われているっていうか最後の最後に嵌められてしまうフィリップ・シーモア・ホフマンの無念さが、かれの人生の無念さと多重露光してしまって、なんだかな~って感じだ。

 ただ『東ベルリンから来た女』のニーナ・ホスをまた観られたのは嬉しかったわ。

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夜に生きる

2017年10月19日 00時00分53秒 | 洋画2016年

 ◇夜に生きる(2016年 アメリカ 129分)

 原題 Live by Night

 監督・脚本・主演 ベン・アフレック

 出演 ゾーイ・サルダナ、エル・ファニング、シエナ・ミラー、ブレンダン・グリーソン、クリス・クーパー

 

 ◇1920~1933年、マサチューセッツ州ボストン

 禁酒法の時代というのは同時にギャングの時代っていってもいいのかもしれない。

 この作品もそうで、第一次世界大戦に出征してフランスで戦ってきた警視正ブレンダン・グリーソンの息子ベン・アフレックはすべてのことにうんざりしてギャングになった。とはいえどの組織にも属さない一匹狼を気取って、気の合う仲間とつるんで銀行強盗をくりかえしていく。売春や麻薬といった犯罪は犯さず、おのれの引き金で人を殺すこともない。とまあいったかっこをつけて常に気取ったギャングでいようとするんだけど、なかなかそうはいかない。一方の組織のボスの女シエナ・ミラーを寝取ったらそうなる。で、シエナ・ミラーに売られてそのボスから金玉をつぶされるほど痛めつけられたことから復讐をたくらみ、それをばねにしてフロリダでのし上がってやがて復讐を果たして、貧困の母子のための養護施設をつくろうとするゾーイ・サルダナと結婚するんだけど、まあその町の顔役クリス・クーパーの娘エル・ファニングが麻薬でぼろぼろにされたことから歯車が狂い始め、やがて復讐したはずのボストンの顔役どもと決着をつけることになるっていう話なんだけど、こうして見てくるとそこらの大河マフィア物とさして変わることもなく新鮮味は感じられない。

 これがベン・アフレックの最新作なのかって目を疑いたくなるような物語だ。

 胸板をひたすら厚くすることに一所懸命だったんじゃないのかって揶揄したくもなるけど、まあ、かっちり撮ってる割には、なんていうのか『ゴッド・ファーザー』のような品格は感じられないし、かといって『スカー・フェイス』のような破滅的な破壊力と凄絶さも感じられない。小器用にまとめたって感じかな。

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ラビング 愛という名前のふたり

2017年10月18日 00時10分52秒 | 洋画2016年

 ☆ラビング 愛という名前のふたり(2016年 イギリス、アメリカ 123分)

 原題 Loving

 監督・脚本 ジェフ・ニコルズ

 出演 ルース・ネッガ、ジョエル・エドガートン、マートン・チョーカシュ

 

 ☆1958年、アメリカ合衆国バージニア州

 ラビング対バージニア州裁判として知られる異人種間結婚を禁じる法律を無効にするか否かという公民権裁判のラビング夫妻の物語なんだけど、この裁判は1967年6月12日に判決が下されて、バージニア州の反異人種間混交法である1924年人種統合法について、アメリカ合衆国憲法修正第14条の平等保護条項に反しているため、憲法違反であると宣言された。

 で、この映画なんだけど、ルース・ネッガの綺麗なことといったらない。その誇り高い演技が余計に綺麗に見せるんだろうけど、いやほんと、人間が人間らしく生きていこうとする上でなにひとつ障碍があってはならないし、そんなものはすべての人々がちからをあわせて打ち壊していかないといけないはずなんだけど、世の中、なかなかそうはいかないもので、そうしたジレンマにもめげず頑張り通す意志の強さもしっかりとその美しい表情でミルドレッド・ドロレス・ラビングを演じてる。

 それと、めだたない存在ながら、ジョエル・エドガートンもがんばってた。意外にいい感じのキャリアなんだけど、その体格のわりには地味で武骨そうな容貌からあまり印象に残らないのかもしれないね。

 

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幸せのバランス

2017年10月17日 00時01分34秒 | 洋画2012年

 ☆幸せのバランス(2012年 イタリア、フランス 107分)

 原題 Gli equilibristi

 監督 イバーノ・デ・マッテオ

 出演 バレリオ・マスタンドレア、バルボラ・ボブローバ、ロザベル・ラウレンティ・セラーズ

 

 ☆家族すら養えないようなおまえなんか寄生虫だ!

 ちなみにこの原題は「綱渡り」って意味らしいんだけど、タイトルバックにFrancesco Cerasiの割と好い音楽が流れるのっけから、市役所の倉庫の片隅で立ったままエッチしているバレリオ・マスタンドレアとその同僚にして愛人Grazia Schiavoのカットになる。けど、これが綱渡りってわけじゃない。なら、なんなんだって話で、この不倫がひきがねになった転落の物語のように見えるんだけど、実はそうじゃないんじゃないか。

 だって、その不倫の要因になってるのは、妻バルボラ・ボブローバとの不仲にあるわけで、どうしようもなく心が離れてしまったのには、まあ子育ての問題があったり、たとえば娘ロザベル・ラウレンティ・セラーズの奔放な音楽活動と高校生とはおもえないような化粧、衣裳、男友達みたいなところや、息子の歯の矯正とかひとりで寝られない弱虫さもあったりしてもう臨界点に達しつつも、娘がなんでか知らないけど父親が好きで父親に甘え父親を頼りにすることへの母親の嫉妬みたいな複雑な感情もあったりしたことで、もはや夫婦仲は修復不可能に近くなってる。

 こうなると、妻のヒステリーは夫にとって最悪の代物で、感情が昂ぶり、神経症になりかけたりして、実際このバレリオ・マスタンドレアはかなりの鬱状態になり、それで家を出ていく。市役所も辞め、愛人のところへ転がり込むことすらできず、市場の肉体労働もしてみるが働くのを拒まれ、そこへもって「おまえなんか寄生虫だ!」と心臓を突き刺すような自分でも気が狂いそうになるほどわかってる台詞をぶつけられたら、もうだめだ。ゆいいつ残った財産の車に寝泊まりし、どんどん肉体的にも精神的にも堕落し荒廃し破壊されていく。これが綱渡りなんだな。つらいね、こういうのは。

 人間って、ちいさな切っ掛けで人生の歯車が狂うんだよね、たぶん。いちど歯車が狂うと、その狂いはどんどんと大きくなっていって、もう自分では直せないくらいになってっちゃう。このバレリオ・マスタンドレアの人生もそうで、なにが悪いってわけじゃないんだけど、どんどんダメな人間に堕ちてっちゃう。頭も働かなくなって、ものを考えることを放棄しちゃう。こうなると身体にも異常が出てきて、目がうつろになって、歩き方すらぎこちなくなって、食欲もなくなり、身なりも整えられなくなり、もう生ける屍状態になってっちゃう。でも、妻は心配しないんだな。このあたり、現実味あるわ。

 ただまあ、子は鎹とはよくいったもので、お父さん大好き娘ロザベル・ラウレンティ・セラーズがあとをつけるんだな。それで炊き出しを受けてる父親の姿に涙し、母親を説得して連れ出し、救い出そうとするんだね。好い娘だな。ラストカット、この娘の電話に「もしもし」と出たときおもわず目頭が熱くなっちゃったよ。いやまじで。

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