◎ダブルフェイス 秘めた女(2009年 フランス 110分)
英題 DON'T LOOK BACK
原題 NE TE RETOURNE PAS
staff 監督/マリナ・ド・ヴァン 脚本/ジャック・アコティ マリナ・ド・ヴァン
撮影/ドミニク・コラン 美術/ヴェロニク・サクレ
衣裳/マグダレーナ・ラビューズ 音楽/リュック・ロランジェ
cast ソフィー・マルソー モニカ・ベルッチ アンドレア・ディ・ステファノ
◎豪華な二人一役
実におもしろい映画なのに、どうして日本では公開されなかったんだろう?
一般受けしないかもしれないけど、
ソフィー・マルソーとモニカ・ベルッチの二人一役なんて、
おそらく、最初で最後だとおもうんだけどな。
ただ、ほんのちょっと、話がややこしい。
こんな話だ。
ソフィー・マルソーには8歳までの記憶がない。
だから、自伝的小説を書き始めたものの、どうしても感情面が物足りない。
その内、異変が起きる。
違和感といってもいいんだけど、
家族の顔の変化、家の調度の場所が変化、自分であって自分でない感覚、
そう、いってみれば、自分の趣味どおりに生きているはずなのに、
まるで別な誰かの趣味に、生活のすべてがすり替えられていく気分、
それも、夫や子どもまでもが、
まちがいなく夫や子どもなのに、自分の夫や子どもではなくなっていく気分、
自分すら、自分であるはずなのに、自分ではなくなっていくような気がし始める。
ところが、家族は誰ひとりとして違和感がなく、いつもと同じだと断言する。
このあたり、良質なスリラーかSFでも始まった観がある。
鍵は、失われた記憶にあると、ソフィーはおもい、
たったひとつの手掛かりといえる8歳の頃の写真を頼りに、旅に出る。
イタリアへ。
旅の途中から、さらに変化は強まる。
ソフィー・マルソーからモニカ・ベルッチへ、顔も身体も変化してゆく。
すると、イタリアのその地には、モニカを知っている人々がいた。
やがてわかった事実は、ソフィーは8歳のときに死んでいたということだった。
モニカは、母の連れ子で、養父と折り合いが悪く、フランスへ養子に出された。
ところが、
養父母とその娘ソフィーとの4人で交通事故に遭い、
養母と自分だけが助かっていた。
このとき、モニカの体内で、
母に捨てられた事実と、養父とその娘ソフィーを失ってしまった事実の否定が始まり、
以後、
モニカの精神はソフィーになり、養母とふたりで暮らし、育ち、夫と子どもを得た。
ところが、自伝を書く段になり、昔の事実をおもいだそうとしたため、
思い出したくないことを思い出さざるを得なくなってしまったってわけだ。
けれど、事実はわかったものの、
これから先は、
8歳から今までソフィーとして生きてきたモニカの心には、
ソフィーとモニカというふたりの自分が同居していくしかないのだろう。
っていう話なんだけど、あらま、書いてみると単純な話だわね。
ソフィー・マルソーとモニカ・ベルッチが二人一役をしてるだけじゃなくて、
ほかの家族も一人二役をしてたり、
自分だけが違和感というか幻想というか要するに変化してしまい、
それを一人称の映像で追い駆けていくから、小難しそうに見えるんだね、きっと。
でも、そうやって描かなかったから、
単に「妙なことを口走ってる女がいる」てなふうに見えちゃうのかな?
ま、自分探しの旅の好きなぼくとしては、非常に好みの映画でした。