Kinema DENBEY since January 1. 2007

☆=☆☆☆☆☆
◎=☆☆☆☆
◇=☆☆☆
△=☆☆
▽=☆

ピアノ・レッスン

2022年11月04日 19時40分13秒 | 洋画1993年

 ◎ピアノ・レッスン(The Piano)

 

 ホリー・ハンター、すごいわ。人間っておもいつめるとこんなに怖い顔になるんだなっていう演技だったわ。

 しかし、このあられもない濡れ場もよくやったな~って感じだった。

 まあ、時代設定が19世紀だし、もっといえば未開の地みたいなニュージーランドだし、都会から嫁いできた深窓の令嬢はこういう展開の不倫をしちゃうのねっていう感じだった。でも、令嬢な分だけ気持ちが純粋で、それゆえの強烈な誇りがあって、ピアノをひいてるときは機械仕掛けの人形みたいだし、こういう女は梃子でも動かないし、相手になる男もそうとうな奴じゃないと無理なんだよね~って、観ながらおもった。

 っていう映画だったかな。

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日の名残り

2022年05月28日 21時50分30秒 | 洋画1993年

 ☆日の名残り(The Remains of the Day)

 

 不器用な恋だ。

 20世紀前半の忍ぶ恋が美徳とされた時代に完璧であろうとするが故に無理に恋を否定しようとする執事と、自分の恋を整理できずに悶える女中頭とのまだるこしくじれったい関係は、たいがい、悲恋に終わる。でも、そこに自己陶酔にもにた酩酊と満足があれば、その恋はよい思い出として残っていくんだね。

 (以上、2012年7月の感想)

 いい邦題だなあ。

 ジェームズ・アイヴォリーのいかにも文芸調の落ち着いた色調と展開は、この恋愛すら堪えきってしまう滅私奉公の主人公アンソニー・ホプキンスによく合ってる。ま、上品さで恋心すら押し隠してしまうエマ・トンプソンもいいんだけど、左右非対称の館もいいし、なんといってもリチャード・ロビンズの音楽がいい。堅苦しく時に単調に過ぎてしまいそうな導入部を見せるのは、軽やかながらも悲劇を予感させるようなこの音楽だ。

 (以上、2022年5月の感想)

 

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シンドラーのリスト

2022年05月03日 23時43分02秒 | 洋画1993年

 ☆シンドラーのリスト(Schindler's List)

 

 何度観ても観ちゃうな~。すごいな。けど、長いな。気持ちはわかるけどさ。どうやら、スティーブン・スピルバーグの映画の中でも最長の尺らしい。だろうなあ。つか、もしかしたら、この作品が、ぼくがリーアム・ニーソンを知った最初かもしれないわ。

 しかし、パナビジョンを使えなくてアリフレックスだけでこれだけのものを撮っちゃうのもすごい。ヤヌス・カミンスキーのカメラには驚くね。

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青いパパイヤの香り

2021年11月13日 18時44分09秒 | 洋画1993年

 ☆青いパパイヤの香り(1993年 ベトナム、フランス 104分)

 安南語題 Mui du du xanh

 仏語題 L'odeur de la papaye verte

 英語題 The Scent of Green Papaya

 staff 監督・脚本/トラン・アン・ユン 撮影/ブノワ・ドゥローム

     美術/アラン・ネーグル 音楽/トン=ツァ・ティエ 衣装/ダニエル・ラファーグ

 cast トラン・ヌー・イェン・ケー リュ・マン・サン ヴォン・ホア・ホイ グエン・アン・ホア

 

 ☆パパイヤの香りって、どんな?

 おもってみれば、熟したパパイヤはデザートで食べることがあるけど、青いパパイヤは食べたことがない。なんてまずしい食生活なんだーってな話は、おいといて。パパイヤはベトナムあたりでは野菜として扱われてるらしい。煮ても焼いてもいいようで、映画の中で印象的なのは千切り。これに、ほかの野菜をちょちょいと足して、鷹の爪を刻んで入れた甘酢をかけて食べる。う~ん、おいしそうじゃん。

 で、このパパイヤなんだけど、なんともエロチックな食材だ。

 ていうより、絡みの場面が一度もなく、女性の肌もほとんど露わにならないのに、なんてまあエロチックな映画なんだろう。何度観ても、同じ感想が浮かんでくる。木魚の添えられた仏壇を見上げるトラン・ヌー・イェン・ケーの有名なカットは勿論、リュ・マン・サンの弩アップになる唇に塗られてゆく口紅の赤、おなじく、洗われてゆく髪の艶やかな黒、また、ほつれた鬢、どれをとってもエロチックだ。

 けど、なによりもエロチックなのは、パパイヤなんだよね。パパイヤは、青い頃は男根の象徴で、熟したものを割ると女性器の象徴になる。木になっている青パパイヤをもぎとると、そこから白い濃厚な樹液が滴り出る。それをふたつに裂くと、真っ白な種が無数に現れる。夜這われたリュ・マン・サンが翌朝、青パパイヤを切り、そのぬめぬめとした糸をひくような真っ白な種をひと粒つまんで、水盤に漂う木の葉の中にそっと置くところなんざ、映画の中でいちばんのエロスだろう。熟パパイヤは、表面の青さは時の彼方に去って、黄色くなる。これをぱっくりとふたつに割ると、紅潮した肌色の中で、種は真っ黒に変わっている。この女陰そっくりの形状のせいで、パパイヤは女性器の象徴になるんだけど、映画ではさすがにそれを映すことはしないで、かわりに衣装で表現してる。横恋慕している作曲家の婚約者の口紅を黙って借り、自分の唇に塗るんだけど、そのとき、和毛がうっすらと輝き、くちびるが赤く塗られていく。割れたパパイヤが赤く色づくようにだ。

 そのときのリュ・マン・サンの衣装は、初潮を経験しておとなになった証の赤。さらに、家政婦のときには教わらなかった字を覚え、昔から憧れていた作曲家と結婚し、お腹にいる子供に朗読してやるときの衣装は黄。そのラストカットで「あ、動いた」という表情をして、お腹をさすり、カメラはティルドアップするんだけど、そこには道教の神像が祝福するように立ってるんだよね。神様はおまえのことをずっと見つめてきたんだよって。なんてまあ、心憎い演出だこと。

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ジョイ・ラック・クラブ

2020年05月17日 19時22分01秒 | 洋画1993年

 ◇ジョイ・ラック・クラブ(1993年 アメリカ 139分)

 原題/The Joy Luck Club

 監督/ウェイン・ワン 音楽/レイチェル・ポートマン

 出演/ミンナ・ウェン タムリン・トミタ ロザリンド・チャオ ローレン・トム

 

 ◇原作エイミ・タン

 なんでみんな金持ちなんだ?

 もちろん戦後まもない頃に苦労したのはよくわかるし、ほんと、いろいろあったんだろうってこともわかるんだけど、どうにも今の生活はちょっと桁外れな印象を受ける。よくわからないのは3番目の親子の挿話で、割り勘が悪いとはいわないがこの割り勘男はなにがあっても好きにならないんじゃないかって。

 もともとの設定が苦しくて、観る気が殺がれたかなあ。

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木と市長と文化会館 または七つの偶然

2019年09月21日 00時52分58秒 | 洋画1993年

 △木と市長と文化会館 または七つの偶然(1993年 フランス 105分)

 原題/L'Arbre, le maire et la mediatheque ou les sept hasards

 監督/エリック・ロメール 音楽/セバスチャン・エルムス

 出演/ギャラクシー・バルブット ジェシカ・シュウィング アリエル・ドンバール

 

 △パリ南西部ヴァンデ県サン=ジュイール

 退屈しのぎにはならんな。おもいきり真剣に見ないと理解できん。

 田舎が好きなんだね。のんびりできるし美しいから。でも、3日もすると退屈になるの。小説を書くには騒音やざわめきや混乱が必要なの。ここはなにも起きないから思考が停止する。政治という目的がなきゃあなたも退屈する。まさにそのとおりだ。

 この映画にメッセージがあるとすれば、文化会館の建設中止の決定から始まる歌かな。

 田舎は美しくなる、燕も戻ってくる、花が咲き乱れる草原、てんとう虫もいる、殺虫剤も農薬もいらない、重油も高速道路もいらない、酸素はいるけど灯油はいらない、ごみ捨て場も原発もいらない、オゾン層の穴もない、整備地区もいらない、メディアセンターもいらない、図書館は古い物語の中、ビデオセンターは古い水車小屋、ディスクセンターはワイン倉庫の中。

 私達は田舎に住んでいる、畑と草原に囲まれて、ブルターニュに住むのもいい、ノルマンディでも、オフィスの責任者で会計士で技術者、オフィスに行く必要はない、車や電車に乗ることもない、年中バカンス気分、農産物も豊富にある、ほんとうに幸せだ、解決策を見つけた、新しい世代のために。

 それが実現したら週末や休暇は、インドやカラカスに飛行機で行かず、人里離れた場所に車で行かず、都会に行きましょう、アスファルトやコンクリートを見に、町の娯楽を味わいましょう、これこそ真の余暇よ、ほんとうに幸せね。

 ほんとか?

 そうした余暇を支えていく人達はどないすんねん?

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ブロンクス物語、愛につつまれた街

2019年09月16日 23時34分54秒 | 洋画1993年

 ◎ブロンクス物語、愛につつまれた街(1993年 アメリカ 120分)

 原題/A Bronx Tale

 監督・出演/ロバート・デ・ニーロ 音楽/ブッチ・ギンボール

 出演/チャズ・パルミンテリ フランシス・キャプラ ジョー・ペシ

 

 ◎チャズ・パルミンテリ『A Bronx Tale』より

 デニーロの演出はノスタルジックかつリズミカルだ。さすがだな。

 お!馬乗りやん!

 僕が小学生だった頃、休憩時間になるとかならず男子のやっていた遊びが馬乗りだった。ブロンクスの遊びだったんか!まあたしかに日本の遊びっぽくない感じだったな~と今にしておもえばそうおもえるわ。

 ま、ハリウッドらしく子役とおんなじ顔をキャスティングしてる。煙草の吸い方や、への字口はまあご愛敬だが、似てる。

 なるほど、後半の構図はロミオとジュリエットなのね。さらに、なるほど。息子が金を貸した奴を追おうとしたら、刑務所で10年間マキャベリを読んだという顔役のヤクザが止めてこういう。20ドルで嫌な奴を追い払った、もう奴はお前に金を借りに来ない、20ドルなら安いもんだと。おお、そう考えればいいのか。

 邦画にはない展開だな。ことごとく死んじゃうことで、新たな世界が訪れるのかとおもいきや、因果はめぐるんだね。

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トゥルー・ロマンス

2018年07月03日 13時00分39秒 | 洋画1993年

 ◇トゥルー・ロマンス(1993 アメリカ 121分)

 原題/True Romance

 監督/トニー・スコット 音楽/ハンス・ジマー

 出演/パトリシア・アークエット デニス・ホッパー ブラッド・ピット サミュエル・L・ジャクソン

 

 ◇タランティーノ脚本のロード・ムービー

 そりゃあたしかにタランティーノが撮ったらどうなってただろうっていう気持ちはある。

 千葉真一の『激突! 殺人拳』を観に行ったり『カミカゼ野郎 真昼の決斗』や『東京-ソウル-バンコック 実録麻薬地帯』のポスターが貼ってあったりと、もうめちゃめちゃタランティーノなんだけど、でも、トニー・スコットはやっぱりトニー・スコットで、異様なかっこよさが散りばめられてた。

 もちろん、テレンス・マリックの『地獄の逃避行』へのオマージュということであるなら、これは三人の監督の合作みたいなもので、それぞれの長所も短所も融合させたものと受け取った方がいいかもしれない。まあ、テレンス・マリックからすればはた迷惑な話かもしれないけどね。

 とはいえ、クリスチャン・スレーター演じる主人公にいまひとつ共感できない身としては、ああ、派手な映画だったな~ていう感想が最初に来る。とはいえ、最初の酒場で綺麗な年増にふられるときのサニー千葉の話から、たしかにうきうきはしてた。で、このうきうきする展開から、さらに『娼婦じゃないわ、コールガールよ、レンタル店の店長に頼まれたの』と泣きながら告白する段になると、のめりこんでるかもしれない自分に気がつく。

 で、途中、すっかり忘れてたゲーリーオールドマンの奪った麻薬を手にいれたとき、なるほどかなりハードな展開だと納得したんだけどね。あ、それはそうと、クリストファー・ウォーケンとの決着はつけなくてもいいのかしら?

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ラスト・アクション・ヒーロー

2016年03月14日 20時30分56秒 | 洋画1993年

 ◇ラスト・アクション・ヒーロー(1993年 アメリカ 131分)

 原題 Last Action Hero

 監督 ジョン・マクティアナン

 

 ◇サリエリ登場

 まあ『アマディウス』を観てないとなんのことかわからないからあれだけど、そもそも楽屋落ちってのはそういうものでここで説明したら野暮になる。とはいえ『ターミネーター』のパロディに始まり、ともかく悪のりでも楽しめればいいじゃんねっていうのが制作総指揮のシュワルツェネッガーの考えだったようで、これはこれでいい。

 おもいきり弩外れたアクションをするにはどういう設定がいいかっていう考えから物語を作ろうとしたのかなっておもって観ていればどうやらそうでもなく、さほど弩外れてもおらず、普通のアクション映画の中に入り込んじゃった子供の夢の冒険譚だけなのかなとおもっていたらこちらもそうではなく、なんともまあ『カイロの紫のバラ』よろしく、映画の中から現実に抜けてくるっていうのは要するに二重世界の物語だったってことなんだよね。

 もちろん、二重世界を知ってしまったパラレルワールド人はそれを元にさらなる悪事を始めようとするもので、このあたりは定番の展開になるんだけど、これもまあこれでいい。本物のシュワルツェネッガーを登場させるあたりはこの撮影のときがいちばん乗りに乗ってるときだったのかな~と。

 それにしてもシュワルツェネッガー、若いわ。シュッとしてるね。

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ギルバート・グレイプ

2015年08月23日 19時22分57秒 | 洋画1993年

 ◎ギルバート・グレイプ(1993年 アメリカ 118分)

 原題 What's Eating Gilbert Grape

 監督 ラッセ・ハルストレム

 

 ◎ギルバートを食っているのはなんだ?

 故郷、家族、兄弟、愛人、単純労働つまりしがらみなんだけど、それは結局、ギルバート自身の優しさなんだよね。

 家族や故郷を愛している者は誰でも似たような呪縛を受けている。その家族が人前に出られないほど肥えてしまった母や知恵遅れの弟レオナルド・ディカプリオであったりしたら、どうだろう。まわりの連中から同情的な目で見られる環境であれば、なおさらだ。外へ出てみたいという本能的な欲求は、年増の人妻メアリー・スティーンバージェンとの不倫に向けられてるんだけど、それも限界がある。自由でいたいと身悶えるようにおもうけれど、それはできない。たまらない立場だ。

 そうしたギルバードことジョニーデップの気持ちは痛いほどによくわかる。

 でも、人間はときにはなにもかもを棄てて旅立たないといけない。そんなことはギルバートもわかってるんだけど、それができない。ただ、お母さんもやっぱり母親で、そういうギルバートの重荷になってることをようやく気づくんだよね。それが焼死という結果に追い込まれてしまうのはつらいところだけどさ。けど、物事を理性的に考えられる母親はまだいいけど、知恵遅れの弟はどうしようもない。これ以上おれを食べないでくれと叫びたいよね。

 こういう境遇の青年が旅立ちを迎えるのに必要なきっかけになるのは、もちろん、恋だ。放浪の民の娘ジュリエット・ルイスがその相手なんだけど、いやまあ、ほんとに上手に物語が展開していく。ラッセ・ハルストレム、上手だわ。

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ジャック・サマースビー

2014年05月23日 20時13分16秒 | 洋画1993年

 ◇ジャック・サマースビー(Sommersby 1993年 アメリカ)

 原題 Sommersby

 監督 ジョン・アミエル

 

 ◎実は

 フランス映画『Le Retour de Martin Guerre』のリメイクらしい。らしいってのは、ぼくがその元の作品を観てないからで、ジェラール・ドパルデューとナタリー・バイだったらDVDとかになってないのかな?

 ま、それはいいとして、そもそもは実話が基になってる。

 マルタン・ゲール事件っていうんだけど、フランス領バスク北部アンダイエで起こった事件だ。1548年に失踪した男マルタンが、1556年に帰ってきたんだけど、まるで人となりが変わっていて、とんでもない男がきわめて紳士になってた。周りの人々はそれを歓迎したんだけど、ところが、この男はマルタンじゃないだろうってことで、1559年に告発されて、翌年、裁判にかけられた。ただ、この裁判ではほとんどの村人が男の無罪を信じてた。だって、とってもいいやつだったからだ。ところが、この裁判中に本物のマルタンが帰ってきた。イタリア戦争に従軍してたらしく、片足は義足になってたらしい。で、この男が何者かといえば、アルノー・デュ・ティルっていう詐欺師だった。アルノーは詐欺罪と姦通罪で有罪を宣告されて絞首刑に処せられたんだけど、まじか?てな話ではある。なんで夫だってわからなかったんだっていう疑問もあるし、村人連中もなんで本人だとわからなかったんだっておもえちゃわない?けど、事実なんだから仕方がない。

 で、この話が1982年にフランスで映画化され、さらに、リチャード・ギアとジョディ・フォスターが主演で、リメイクされた。まあ、微妙な駆け引きの恋愛映画になってて、結局のところ、夫がどうしようもない奴だったから、夫だといつわってきた男を選んでしまったって話になるんだけど、これを有罪にもってくるために、いろいろと伏線まじりの物語が展開する。こういうあたりは上手だとはおもうものの、事情はあるにせよ、どうしても詐欺を働いている男が主人公になるのは、事実として処刑されてる分、難しいのかもしれないね。 

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ザ・ファーム 法律事務所

2013年05月30日 13時59分51秒 | 洋画1993年

 ◇ザ・ファーム 法律事務所(1993年 アメリカ 155分)

 原題 The Firm

 staff 原作/ジョン・グリシャム『法律事務所』

     監督/シドニー・ポラック

     製作/シドニー・ポラック スコット・ルーディン ジョン・デイヴィス

     脚本/デヴィッド・レイフィール ロバート・タウン デヴィッド・レーブ

     撮影/ジョン・シール 美術/リチャード・マクドナルド 音楽/デーヴ・グルーシン

 cast トム・クルーズ ジーン・ハックマン エド・ハリス ホリー・ハンター テリー・キニー

 

 ◇人間味という点において

 シドニー・ポラックという人は、いつも知的だ。監督としても、製作者としても、俳優としても知的な印象を崩さない。この作品ももちろんそうで、底辺にあるのは社会悪に対する正義の志だろう。トム・クルーズはそうしたポラックの代弁者ってことになるわけだけど、やっぱり法科大学院を出たてって設定だから非常に若い。この若さが正義感が即時そのまま行動に反映する。

 貧窮の子ども時代を送った者はたいがい、給料も自家用車も住宅も、なにもかも高級でありたいと渇望する。子どもの頃にかみしめた惨めさは、金持ちになって、ほかの連中を見返し、優越感にたっぷりと浸りたいという強烈な意志を生む。トム・クルーズはそうした過去を持つ勤勉な学生ってことになってる。けれど、こうした勉強だけやってきたような青臭い新入社員は、社会人として練れてない分、甘い罠に嵌まりやすい。結局、嵌められる。

 けど、持ち前の行動力によって、自分の就職した法律事務所がマフィアと深く関係し、マネーロンダリングなどを行い、それに抗おうとした同僚4人を殺しているという、とんでもない真実を、盗聴や脅迫や実際の危機を乗り越えて暴露していく。そこに大きく関与してくるのがトムの妻ジーン・トリプルホーンで、彼女はジーン・ハックマンの誘いに乗るふりをして秘密を探り出そうとするんだけど、このふたりの場面は、別な緊迫感をもたらしてくれる。というのも、正義感だけで突っ走られても、どうも人間味が足りないからだ。

 冒頭から中盤にかけてはいろんな物に執着するさまが描かれてるのに、途中からどんどん正義の人になっていく。けど、ジーン・トリプルホーンとジーン・ハックマンはちがう。夫の不貞に嫉妬しながらも夫を愛している自分に悩み、考え、行動するのは、それはそれで人間的だし、悪に手を染めたいとはおもっていなかったのに、いつのまにか手先になり、手先になりながらも、心の奥底にある良心によって完全な悪になりきれない、といったなんとも人間臭いところをハックマンが見せてくれているからだ。

 ただ、もっと人間臭いのは事務所の連中だ。法律を扱っているからといって、それはひとつの職業に違いないわけで、仕事を依頼されれば、それがマフィアであろうと淡々とこなして何が悪いんだと、この事務所の連中はひらきなおってる。もちろん、悪事に加担した時点でそれはいけないことなんだし、だからこそ、FBIの捜査対象にされてるんだけど、人間がいかに金に弱く、高級な物に惑わされるのかっていう賤しさを、かれらは見せてくれてる。賤しい人間にはなりたくないけど、そういう気持ちはよくわかる。

 いやだ、いやだ。

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フォーリング・ダウン

2009年07月14日 12時27分34秒 | 洋画1993年

 ◇フォーリング・ダウン(1993年 アメリカ 118分)

 原題/Falling Down

 監督/ジョエル・シュマッカー 音楽/ジェームズ・ニュートン・ハワード

 出演 マイケル・ダグラス ロバート・デュヴァル レイチェル・ティコティ バーバラ・ハーシーン 

 

 ◇共感しちゃうのは僕だけか?

 現代病のおじさんの物語だが、いやまじよくわかる。

 ただ、テンポがいまひとつ緩慢なのと爆裂する感情の昂りと理由が表現しきれていない気もしないではない。

 それと、家庭内暴力のために離婚させられ子供には100フィート以内に近寄ってはいけないと判決されたあたりの回想もいるんじゃないかって感じもあるけど、そんなものをつけてたら、ノンストップの爆走劇にならないか。

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天と地

2007年09月29日 12時54分39秒 | 洋画1993年

 ◇天と地(1993年 アメリカ 141分)

 原題/Heaven & Earth

 監督・脚本/オリバー・ストーン 音楽/喜太郎

 出演/ヘップ・ティ・リー トミー・リー・ジョーンズ ジョアン・チェン

 

 ◇ベトナム共和国の崩壊

 映画そのものの力強さは確かにあるけど、

「あの時代にこういう女性もいたんだろうなぁ」

 という感慨しか湧いてこないのはなんでなんだろ?

 米国のベトナム戦争に対する見方はほぼ一致しているのにどうして似た事を繰り返すのか、ていうような主題の成立していないのが、本作の弱さかもしれないね。

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テルミン

2007年06月07日 02時04分30秒 | 洋画1993年

 ☆テルミン(1993年 アメリカ 83分)

 原題/Theremin an Electronic Odyssey

 製作・脚本・監督/スティーヴン・M・マーティン

 音楽/デイヴィッド・グリーンウォルド

 出演/レフ・セルゲイヴィッチ・テルミン クララ・ロックモア ロバート・モーグ

 

 ☆1920年、電子楽器テルミン登場

 小学生の頃、東宝の怪獣映画やSF映画、テレビの特撮ドラマや怪談を観たりしたとき、かならずといっていいほど、特徴的な音楽が流れてた。ぼくは勝手に、大きな鋸をふにゃふにゃさせて、それを弦で弾いて奏でてるとおもいこんでた。けど、どうやら、すこしばかりちがったらしい。

 ていうのも、その音楽の多くは電子楽器テルミンで演奏されたものだったみたいだから。

 で、この映画は、そのテルミンを発明したソ連の物理学者のドキュメンタリだ。とはいえ、かたくるしいものではなくて、博士の見事な愛情、とでもいえるような作品に仕上がってる。

 この天才科学者の名前は、レオン・テルミン。ソ連名は、レフ・セルゲーヴィッチ・テルミンね。

 戦前、いったんは渡米したんだけど、第二次世界大戦の前夜にほとんど拉致同然でソ連に引き戻され、収容所に投獄されて、強制労働も経験したらしい。戦後は、秘密研究所に入れられて、西側諸国は死んだものとおもってたとか。まあ、そんなこんな、いろいろある人生なんだけど、チェロ奏者である事もテルミン博士の発明と愛情に一役買っているのかしら?

 この作品が感動的なのは実際に生きた博士を撮影できた事もさることながら、編集の妙がとってもある。ドキュメンタリの場合、編集が如何に重要なものか教えてくれるよね。

 電子楽器「テルミン」がどれだけ不思議な楽器かってことは、コンデンサ(蓄電装置)とアンテナ(2本あって、右上と左横にある)のことを、どれだけ説明しても文章だとよくわからないし、演奏の仕方も、左右の手を踊るように動かしていくんだけど、これもまた文章だとよくわからない。

 映画は、便利だ。

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