☆アバウト・タイム〜愛おしい時間について〜(About Time)
実に愛おしい映画だ。
監督のリチャード・カーチスがこの作品をかぎりに引退するっていってるそうなんだけど、これだけ上手な人がどうしてそんなことを口走ったのかよくわからない。
誰もがそうだとはおもわないけれども、ぼくはしょっちゅうタイムスリップしないかなって願う。もちろんこの映画のように自分の記憶が完全に残されたまま時間だけが遡り、過去の自分が戻りたいとおもっている時間へ跳躍するんだ。そうすれば人生のまちがいを修正できるかもしれないっておもうからだ。
ただ、この映画の味噌は、これで、今の妻レイチェル・マクアダムスとはうまく結婚できるようになるものの、自分ドーナル・グリーンソンの子供が生まれる前に跳躍してしまうのはやめた方がいいというところだ。愛する子供が生まれなくなってしまうかもしれないからで、なるほど、いわれてみればそのとおりだ。子供は偶然の産物で、主人公もそれをしてしまって苦労する羽目になるんだけど、最大の問題は三人目の子供が生まれる前に父親ビル・ナイの死を看取ることになってしまうことだ。父親を死なせたくないけど死の原因が自分が生まれる前からの喫煙であるならそれはもはや取り返しのつかないことだから、せめて生前の父親との日々を繰り返すことはできるようになるものの、しかし三番目の子供が父親の死の後に生まれてしまってはもうそれもできなくなる。だから、子供を選ぶのなら、父親とは永訣の日を迎えなければならない。これはつらいね。つらいけど、うまい物語の作り方だね。まいったな。
(以下、2022年7月2日)
過去にさかのぼることでいつも難題になるのは子供のことで、何億分の一かの偶然で生まれてくるわけで、それはほぼ繰り返せない。途中まで男の子になってしまったときまた運良く同じような、しかし絶対的に同じではない女の子に交換できるというか繰り返した末に巡りあってるけどその繰り返しは気の遠くなるほどだったにちがいない。
つまり子供が生まれる前には戻ってはいけないわけで、親の病死を避けようにもその起因になっていることが子供が生まれる前では病死を回避させることは難しい。多少の延命はできるだろうか。しかしその親とは繰り返し会えるものの次の子が生まれてしまったらもう時をさかのぼることはできない。
ほんと、うまく作ってあるわ。
さらに、結局のところ日々をたいせつにおもって向き合うことが大事なのだという締めくくりは気恥ずかしくはなるもののそのとおりだよなとおもわせるんだから、実に上手い映画だったんだろう。