☆グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち(1997年 アメリカ 127分)
原題 Good Will Hunting
staff 監督/ガス・ヴァン・サント 脚本/マット・デイモン、ベン・アフレック
撮影/ジャン・イヴ・エスコフィエ 美術/ミッシー・スチュワート
音楽/ダニー・エルフマン 音楽監修/ジェフリー・キンボール
cast マット・デイモン ロビン・ウィリアムズ ベン・アフレック ステラン・スカルスゲールド
☆誰にでも一度はある旅立ちのとき
ぼくにもあった。もうずいぶんと昔のことになるけど、田舎から上京したときが、たぶん、旅立ちだったんだろう。布団一式と押入箪笥、それと当面の着替えを運送会社に託して、身ひとつで上京した。当時は宅配便とか引っ越し屋とか聞いたこともなかったし、たぶん、なかったんだろう。だから、運輸会社に荷物を取りに来てもらい、縄で縛って運んでもらった。
映画の中でマット・デイモンは、自分の下宿をひきはらうとき、荷物は処分した。そして、真っ赤なんだけど、ところどころシミのついた車一台で、さっそうと旅立っていった。けど、おもってみれば、人間が生きていくには、それだけの荷物でいいんだよね。おそらく、軽自動車に積み込めるくらいの量、一間の押入にきっちり収まる量、それくらいの荷物で、人間は生きていけるんだろう。
上京してから色んな物が増えたけど、そのほとんどは余分なものなのかもしれない。
映画の中で、なにが好いって、労働者階級の親友ベン・アフレックだ。100年にひとりの天才マットが、幼いころに両親と死に別れ、養父に虐待されながらも、勉学への志を持ち、本という本を読み漁り、そこらの大学教授よりも知識と応用に長けているのを、ベンは、ずっと見てきた。マットが、大学に金銭的な事情から入りたくても入れないことも知ってたし、でも、大学の清掃員をしながら、大学の空気に触れているのもよく知ってた。だから、マットが、その才能を生かそうとせずに、ビルの壊し屋をやって生きていけりゃいいんだよとうそぶいたとき、こんなふうに、いう。
「おれは、あほうだ。20年後も、この町でこうしてビルを壊してるだろう。だがな、もしも、おまえが20年経ってもここにいたら、おれはおまえをぶっ殺す。おまえは、おれたちとはちがうんだ。おまえは、その手に、当たりくじを持ってんだ。誰にもできねえような未来をつかむことができるんだ。だから、行け。さっさと、旅立て。このくそばかやろう」
泣けるぜ、ベン。
旅立つときのマットの車は、ベンが悪ガキ仲間と金を出し合って、プレゼントしてくれたポンコツ車だ。
「おれはな、いつもスリルを味わってる。朝、おれが、おまえを迎えに行くとき、おまえがいなくなってるんじゃねえかってな。だけど、おれは、待ってんだ。おまえの部屋が空っぽになって、おまえがいなくなってる日が来るのを」
これも泣けるぜ、ちくしょう。 ちなみに、この映画の成立過程で常に語られることだけど、無名時代のマット・デイモンが、ハーバード大学に在学しているとき書いた短編を、幼馴染のベン・アフレックとふたりで書き直し、それが回りに回って映画化されたって話がある。マット・デイモン27歳、遅咲きの旅立ちって感じになるんだろうけど、ぼくは、かれがこの映画の4年前に出演した『ジェロニモ』はけっこう気に入ってる。ジェロニモを護送する青年少尉の役だったけど、話をひっぱるモノローグはかれの役目で、ある意味、主役のひとりだった。だから、この『グッド・ウィル・ハンティング』の時期、かれはもはや無名ではなく、とうに旅立ってたってことだよね。