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☆=☆☆☆☆☆
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金環蝕

2014年01月09日 23時14分47秒 | 邦画1971~1980年

 ◇金環蝕(1975年 東宝 155分)

 staff 原作/石川達三『金環蝕』 監督/山本薩夫 脚本/田坂啓 撮影/小林節雄 美術/間野重雄 音楽/佐藤勝

 cast 仲代達矢 京マチ子 三國連太郎 宇野重吉 中村玉緒 高橋悦史 西村晃 久米明 神田隆 北村和夫 大滝秀治 中谷一郎 嵯峨善兵 山本學 加藤嘉 永井智雄 神山繁 内藤武敏 根上淳 鈴木瑞穂 前田武彦 峰岸徹 夏純子 笠原玲子 安田道代(大楠道代)

 

 ◇1965年、九頭竜川ダム汚職事件表面化

 事件そのものがなんだかうやむやの内に消えてしまった感があって、どうもしっくりこないものだから、それが映画になってもいまひとつしっくりこない。政界に知られた金貸しが主役になるのはいいんだけど、宇野重吉があまりにも上手に銭にも女にも汚く、容貌すら汚らしく演じてしまっているために、映画全体がなんとも不潔に見える。もちろん、それが山本薩夫の狙いには違いないんだけど、リアリズムだけが先行してしまった感じかな~。

 ダム建設についての汚職ということはわかるんだけど、でもどうにも山本薩夫らしい外連味に欠けるというか、ダムの映像そのものがもうすこし利用できなかったんだろうかと。出たり入ったりの人間模様ばかりが描かれて、全体的に単調なものになってしまっているのは否めない。

 たしかに役者たちはそれぞれのモデルをほうふつさせるし、それなりに熱演してはいるものの、モデルに似せようとするあまり、物語そのものの持っている面白味に興味が向かなかったんじゃないかって、そんな気もするんだよね。

 ただ、こういう汚職事件はなにもびっくりするようなものではないし、政治と金と女は常に語られてきたことで、いまさらどんなえぐいことが出てこようと驚くにはあたらない。いや、事実はもっとおぞましいかもしれないし、小説が発表された時代や、映画が制作された時代はこれでもよかったのかもしれないんだけど、いまや、この程度の露出ではちょっとおとなしい気がしないでもない。

 とはいえ、こういう政界スキャンダルの物語はほとんど観られなくなっちゃったけどね。

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仇討(1964)

2014年01月08日 13時59分47秒 | 邦画1961~1970年

 ◎仇討(1964年 日本 103分)

 英題 Revenge

 staff 監督/今井正  脚本/橋本忍 企画/岡田茂、小川貴也、翁長孝雄、本田延三郎 撮影/中尾駿一郎 美術/鈴木孝俊 音楽/黛敏郎

 cast 中村錦之助 田村高廣 佐々木愛 神山繁 丹波哲郎 石立鉄男 加藤嘉 信欣三 三田佳子 山本麟一 進藤英太郎 小沢昭一 蜷川幸雄

 

 ◎播州脇坂藩竜野城

 橋本忍の傑作のひとつであることはまちがいない。

 けど、いったいこの企画はどうやって成立したんだろう。当時、時代劇は衰退の一途をたどってて、血みどろになって戦うリアリズムに活路を見出していた。だから、この果し合いを主場面にした作品になったであろうことはわかるんだけど、誰がいいだして作品の中身を検討したんだろう。ふつうだったらこんな地味な企画はとおらない。原作があるならまだしも、橋本忍のオリジナルをよくもまあ当時の東映つまり大川博が許したもんだ。

 しかもプロデューサーにのちの社長岡田茂と同じく東京大泉撮影所所長の翁長孝雄が名をつらねてるのを見れば、この人達が橋本忍と顔をつきあわせて物語を練ったことになるんだけど、いや、まじな話、これだけ凄い構成をよくぞ練られたもんだ。というより、橋本忍の独壇場といっていい回想形式という実に映画的ながらも東映的ではない構成を、よくぞ、このプロデューサーたちが認めたもんだ。

 いや、まったく、たいしたもんだわ。

 作品自体は決して大掛かりなものではないし、果し合いの場といってもロケセットはたいしたことはないんだけど、どこをとってもリアルな時代劇になってるのは、さすが今井正というべきなのかそれとも当時の京都太秦撮影所の力量なのか、どちらにせよ見事なものだった。

 役者さんたちも若くてなんだか気持ちがいいしね。

 中でもやっぱり錦之助の迫力は凄い。神経が昂ぶって血まみれになって突進するさまはことに凄い。

 必見だね。

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地獄門

2014年01月07日 13時36分21秒 | 邦画1951~1960年

 ◇地獄門(1953年 日本 89分)

 英題 Hell's Gate

 別英題 The Gate of Gate

 staff 原作/菊池寛『袈裟の良人』 監督/脚本:衣笠貞之助 撮影/杉山公平 色彩指導/和田三造 技術監督/碧川道夫 美術/伊藤熹朔 助監督/三隅研次 音楽/芥川也寸志

 cast 長谷川一夫 京マチ子 山形勲 黒川弥太郎 田崎潤 千田是也 清水将夫 香川良介 澤村國太郎 殿山泰司 伊達三郎 市川男女之助

 

 ◇つまりはストーカー?

 原作を読んだことがないのでよくわからないんだけど、その題名からすると主人公は京マチ子の夫を演じた山形勲ってことになるんだけど、これってただのお人好しってことになるんじゃないのかな?

 まあどだい菊池寛だの直木三十五だのといった往年の作家について作品を読むような機会はなかなかないわけで、ことにぼくみたいな活字嫌いには縁遠い存在だから勝手な想像にしかすぎないんだけど、いったい、この物語の主題ってのはあるんだろうか?

 平清盛の厳島詣の留守を狙って起された平康の乱、その後始末が物語の背景にはなってるんだけど、実をいえば、そんな背景はあんまり関係ないわけで、戦乱の中で夫があるということを知らずに見初めてしまった女のことが忘れられずやがて夜這いして密会を重ねるんだけど結局は女を苦しませるだけのことでしかも女が夫を殺してくれと嘘をいって夫の代わりに布団に入りみずから刺されて死んでしまったために嘆き悲しんで出家し旅立つという、いつの時代でもかわまないような普遍的な劣情が主題といえば主題になってる。

 しかし、なんでこの物語がアカデミー賞の外国映画賞なんだ?

 たしかに男女のどうしようもない、いわゆる抜き差しならない恋なのかもしれない。恋に惑われてしまうことで人生をも狂わせてしまうという、人間の儚さや脆さを描いているのかもしれない。けどな~観終わったあとには決して晴れ晴れとはしないんだよな~。

 ただまあ、撮影は凄いわ。色彩もまた凄い。そういう技術的な面においてはいうことないし、世界的にも上々のレベルだってことはよくわかる。邦画の技術の高さと感性の凄さに世界が感嘆したであろうことはうなずけないこともない。

 そのあたりのことを加味すると、そうだね~、ある意味においては傑作なのかもしれないね。

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新・平家物語

2014年01月06日 18時43分06秒 | 邦画1951~1960年

 ◇新・平家物語(1955年 日本 108分)

 英題 Taira Clan Saga

 staff 原作/吉川英治『新・平家物語』 監督/溝口健二 脚色/依田義賢、成澤昌茂、辻久一 撮影/宮川一夫 色彩監修/和田三造 美術/水谷浩 音楽/早坂文雄

 cast 市川雷蔵 久我美子 木暮実千代 進藤英太郎 千田是也 澤村國太郎 菅井一郎 伊達三郎 香川良介

 

 ◇保延三年初夏、京都今出川

 その昔、東京駅の八重洲口を出たところに名画座があった。八重洲スター座っていうんだけど、そこではよく溝口健二の作品を上映してた。それも英語字幕の版で、もうほんと、気がつくと溝口週間になってた。まあそんなこともあってちょくちょく出かけて、溝口の作品はかなり観た。この映画を観たのもそうした中でのことで、最初に観たのは大学2年生だったんじゃないかしら。ただ、そのときはやけに賑々しい天然色だな~とおもい、実をいうと肩にちからの入りまくった感じがして、あんまり溝口っぽくないな~とおもってた。

 ところが、あらためて観直すと、これが意外によかったりした。

 まあ、さすがに時代というべきか、清盛がまじめで好い奴なんだよね。父親おもいだし。

 ただ、宮川一夫のカメラがものすごくいいかといえば、なんでフランスのヌーヴェルバークに影響を与えるほど絶賛されたのかいまひとつわからない。たしかにクレーンショットの長回しはたいしたものではあるけれど、そんなのこれまでにいっぱいやってるじゃんっておもったりもする。けど、色は凄い。みごとなもので、さすがに色彩設計が慎重になされただけのことはある。っていうか、やっぱり和田三造が凄いんだろうね。

 ちなみに、大映はこの『新・平家物語』は3部作にしたようで、実をいうと、ぼくはまったく知らなかったんだけど、どうやら第2部と第3部はそれぞれ役者も監督もちがうらしい。長谷川一夫の木曽義仲を衣笠貞之助が、菅原謙二の源義経を島耕二が監督してる。へ~ってなものだけど、これ、どこかで一挙上映すればいいのにね。

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駅station

2014年01月05日 18時44分13秒 | 邦画1981~1990年

 ◎駅station(1981年 日本)

 端的にいって、ぼくはこの映画が好きだ。

 倉本聰が健さんのために書き下ろしたっていう話だったから、

 当時、ぼくはものすごく期待し、わくわくしながら劇場に向かい、観た。

 たしかに健さんはとってもかっこよくて、

 電車に乗るとき片足をちょんと乗せてちょっと考え込むポーズは、

 なんともいえず渋かった。

 ただ、ひとつだけわからないのは、

 倍賞千恵子と出会って男と女の関係になったとき、

 健さんはどんなふうに考えていたんだろう?

 淋しさをまぎらわすための相手だったんだろうか?

 真剣に好きになっていたんだろうか?

 中途半端だったから、

 やがて逃げてきた室田日出男を銃撃するという、

 ある種、罰があたったような運命が待ってたんだろうか?

 それだけが、どうも判断しにくい。

 ま、そんなことはいいとして、

 ぼくは酒飲みじゃないもんだから、

 ひとりで酒場に足を踏み入れることはまずもってないんだけど、

 健さんはこうやってふらりと暖簾をくぐる。

 で、居酒屋でかかってるのは紅白歌合戦で、

 しかも矢代亜紀の『舟唄』だ。

 こういうしみじみ感は、倉本聰の骨頂だね。

『北の国から』でもそうだったけど、

 どうしてこういう心寂しい世界に矢代亜紀は合うんだろう?

 悲しくて淋しい映画だったな~。

 ひさしぶりにしみじみ観ちゃったわ。

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夜叉

2014年01月04日 18時34分18秒 | 邦画1981~1990年

 ◇夜叉(1985年 日本)

 実はこの映画は予告編を劇場で観て、

 それ以来、なんとなく気にはなってたんだけど、

 なかなか観る機会にめぐまれなかった。

 で、ようやく観られた。

 でも、

 なんだか時代が逆戻りしちゃった観のある作品だった。

 たしかに1985年あたりっていうのは、

 男が男っぽく生きようと突っ張ってた最後の時代かもしれなくて、

 そういうことからすると、

 ここに出てくる健さんの人生は、とっても男っぽい。

 けど、あの時代にして、

 やっぱり、老年と中年と若造の男というものに対する考え方は、

 かなり違ってきてたのかもしれない。

 絵づくりはさすがに木村大作で、

 海やら雪やらまったく見事な仕上がりだった。

 ただ、

 物語がどうにもこうにも、

 ぼくの今いる世界っていうか時代とはちがってる気がして、

 ちょっと入り込みにくかったんだよね。

 まあ背中の刺青から「人斬り夜叉」とか呼ばれた男の、

 再生という主題はあるにせよ、

 結局のところは不倫相手のためにひと肌脱いじゃった男の話なわけで、

 う~んとおもわず腕を組んじゃうのは、

 もしかしたら、

 ぼくがおとなのおとこの世界がよくわかってないのかもしれないね。

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ホタル

2014年01月03日 18時22分33秒 | 邦画2001年

 ◇ホタル(2001年 日本)

 東映という映画会社は、

 戦後まもない頃の『聞け、わだつみの声』以来、

 終始一貫して反戦を訴えてきた会社だとおもってる。

 たとえば『大日本帝国』なんかその骨頂だといえるはずなんだけど、

 どうしても暴力的な映画や官能的な映画を撮ってきたこともあって、

 戦争というものに肯定的な立場をとってるように見られることがある。

 でも、そうじゃないんだよね。

 だから、東映の創立50周年企画としてこの作品ができて、

 あきらかな反戦仕立てになってるのかもしれない。

 まあ、それはそれでいいとしても、

 なんでわざわざ朝鮮半島を舞台にしなくちゃいけなかったんだろう?

 まあ、それでないと、

 戦争の総括にはならないのかもしれないんだけど、

 観る側にすれば、

 特攻隊の生き残りの話とはいえ、

 昭和天皇が崩御された年の、

 感慨と慙愧と新たな人生を語ることに搾った方が、

 焦点がぼやけなかったんじゃないのかな~とおもっちゃうんだよね。

 たしかに、

 ああいう時代に、こういう立場に立たされた朝鮮半島の青年将校はいたはずで、

 ぼくみたいな戦争を知らない人間があれこれいうわけにもいかないけど、

 物語の比重として考えると、

 なんだか二分されてる気がしてならないんだよなあ。

 そんなことないのかしら?

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あ・うん

2014年01月02日 18時14分02秒 | 邦画1981~1990年

 ◇あ・うん(1989年 日本)

 高倉健と坂東英二の関係がどうにも不自然な気がしてならないんだけど、

 そんなふうに受け取るのはぼくだけなんだろうか?

 ぼくはテレビシリーズを観たことがないし、

 いつものとおり活字嫌いなため原作も読んでないので、

 この映画だけで考えちゃうんだけど、

 なんだか、

 健さんの感情をどう考えればいいのかよくわからない。

 女性の観客はこういうのもいいとかいうんだろうけど、

 そりゃあ、女性にしてみれば、

 自分には絶対に手を出さないで、ひたすら尽くしてくれるだけの存在、

 ってのは、まじ、ありえないながらもある理想のひとつなんだろうけど、

 生身の肉体をもっている男の側からすれば、

 こりゃちょっとできすぎだろ、みたいなことになる。

 結局、

 健さんにとって坂東英二は自分の恋心の隠れ蓑になってるわけで、

 もしも、冨司純子がいなかったら、

 はたしてこれほどまでに面倒を観ただろうかと。

 そういう下司のかんぐりをしたくなる展開であることはまちがいなくて、

 なんだか冨司純子にしても、坂東英二にしても、

 健さんの感情をよく知っていた上で、

 甘えている構図ができてるような感じが、

 ぼくにはちょっとな~とおもえちゃうんだよね。

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昭和残侠伝

2014年01月01日 18時04分22秒 | 邦画1961~1970年

 ◇昭和残侠伝(1965年 日本)

 降旗康男という監督は、

 ほんと、高倉健とは終生を共にした観がある。

 この作品では助監督をつとめてたらしいんだけど、

 後の作品のような情緒とはちょっとちがう。

 ちなみに、

 このときの健さんも、

 花田秀次郎っていう役名じゃなくて、

 寺島清次っていう役どころだ。

 まあ、そういうことからいえば、

 まだ混沌とした感じだったんだろうね。

 東映もまさかすごい長寿シリーズになるとはおもってなかったろうし、

 健さん自身、初期の代表作になるともおもってなかったんだろう。

 ただ、

 ぼくはどういうわけか、侠客物やヤクザ物が好きじゃないんで、

 友達が「唐獅子牡丹」とか歌ってても、あんまり興味はなかった。

 まあ、ある意味では東映の進路を決めたシリーズのひとつなんだろうけど、

 昭和21年っていう設定からすると、

 どうしても『仁義なき戦い』が頭に浮かんでくる。

 時代ごとに流行りすたりはあるものの、

 侠客という世界観を世に知らしめた一本であることはまちがいないんだろね。

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