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☆=☆☆☆☆☆
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◇=☆☆☆
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▽=☆

詩人、愛の告白

2024年10月23日 17時10分11秒 | 洋画2012年

 △詩人、愛の告白(Confession d'un enfant du siècle)

 

 ジョルジュ・サンドとアルフレッド・ド・ミュッセの恋愛劇。雰囲気を味わえば充分。それなりにセットもカメラもいいしね。

 ま、多弁になるけど、それはそれで、ミュッセは詩人だし、言葉の花が咲き乱れて、かたっぱしから散っていくのは、それでいいかなって。

 サンドを演じてるのは、シャルロット・ゲンスブール何だけど、なんだかむかしの面影が先行しちゃうなあ。

 しかし100年前のこの時代はコルセットで脱がすのも脱ぐのもましてや付けるのはひと苦労で、逢引するのも楽じゃなかったろうに。まあ、それはそれとして、サンドは最初とにかくよそよそしい。人の噂の的にされるのが嫌でミュッセとの恋愛をためらってたっていうんだけど、まあ男と女の仲になっちゃうと、コルセットなんかまるでしめないし、階段だろうがベッドの上だろうが、こうもじゃれ合うもんかねって感じになるし、男の無神経なうわつきと女の嫉妬は、ほんと、どれだけ時代が変わってもおんなじだっていってるのかなあ。

 ただまあ、年上だってことを気に病むサンドの痛々しさはつらいなあ。

 この映画がつまんないのは、サンドもミュッセも仕事をしてないことで、好いた惚れたの一点張りで、恋愛の理屈をこきあうのに終始してるのはさすがに飽きる。もっと創作の苦労を出した方がよかったんじゃないか?

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チョコレートドーナツ

2023年02月13日 00時09分26秒 | 洋画2012年

 ☆チョコレートドーナツ(Any Day Now)

 

 なるほど1970年代の実話が元なのか。そうおもえば、ちょっと時代が前な感じはある。でも、ゲイのカップルが母親にうとまれたダウン症の少年の世話を焼き、やがて養子にしたいほどに可愛がりながらも、世の中の偏見によって裁判に負け、引き離されていくっていう物語は、今でも充分に通用するわね。

 ひと目で実生活でもバイセクシャルだろうなっておもえるアラン・カミングの演技は凄まじく、アイザック・レイヴァの存在感とが相乗効果になってる。でも、かなり痛々しいなあ。

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アンコール

2023年02月10日 00時23分10秒 | 洋画2012年

 ☆アンコール(Song for Marion)

 

 合唱団「年金ズ」てのがいかにも現代的で、こういうストレートな題名のとおりの物語だった。癌で逝った最愛の妻の通っていた合唱団に参加することで、残された頑固者の人生を変えていくっていうのは簡単ながらも上手い脚本だった。まあ、テレンス・スタンプもバネッサ・レッドグレーブもその上手さと存在感で見せちゃうから余計にうまく感じさせるし、男にふられたせいで合唱団の指揮者になっちゃうジェマ・アータートンもあいかわらず上手い。これが『ビザンチウム』の吸血鬼の姉かとおもうほど、いつも違う演技をするのは凄い。

 主題歌『Unfinished Songs』がなんとまあセリーヌ・ディオンなのね。

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ザ・マスター

2022年12月26日 00時22分46秒 | 洋画2012年

 ◎ザ・マスター(The Master)

 

 芸の無い邦題、なんとかならんかな?

 とどのつまり、行き場を失った男ホアキン・フェニックスの魂の置き所を見つける話なんだけど、このマスターのフィリップ・シーモア・ホフマンがどれだけいかがわしくてもかまわない。なぜかっていえば、割れ鍋に綴じ蓋で、相思相愛になるとき、相手がどれだけ不細工だろうが、どれだけ性格がねじまがっていようが、おたがいが必要だとおもってしまえば、もはや、誰のいうことも耳に入らなくなる。そういう関係が、魂の救済をもとめる男と、魂を救済することは可能なんじゃないかっておもいながらも自己撞着してる男とが出会うことで出来上がっていくんだね。ちがうか~。

 

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THE GREY 凍える太陽

2022年10月18日 00時16分08秒 | 洋画2012年

 ◇THE GREY 凍える太陽(The Grey)

 

 これって「gray wolf」のことなのか、それとも別な暗示があるのかしら?

 単純に狼のなわばりに墜落してしまった男たちの末路を描いただけだとしたらあまりにもお粗末な物語になっちゃうわけで、かといって父親の遺した詩がどれだけの意味を持っていたのか、彼女との過去の因果がなにかあるのか、いろいろと勘繰っちゃうけど、結局のところはなんかだらだらしているようないないような雪中行軍の物語だったかな。

 なんだかね、リドリー・スコットとトニー・スコットが製作なのに自分で撮らなかったのがわかるような気もする。

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ビザンチウム

2022年10月13日 23時21分16秒 | 洋画2012年

 ◎ビザンチウム(Byzantium)

 

 なんで吸血鬼の母子の巣食う売春宿がビザンチウムって名称なんだっておもっちゃうんだけど、やっぱり、なんつうか因果があるんだろうね。そうじゃなかったら、こんな紛らわしいタイトルにならないよねっていうのは、ぼくの勘繰りなのかそれともなにか見落としてるのか、まるでわからない。

 画づくりは好い感じだ。孤島の崖をつつむような瀧が血に染まるイメージも悪くないし、炭焼き窯のような吸血鬼の洗礼を受ける場も悪くないんだけど、蝙蝠がもうすこしきちんと合成してあるとよかったなあと。でも、この吸血鬼がどうして派生したのか、サム・ライリーのいう同盟ってのはなんなのか、よくわからない。最後になってもわからない。

 シアーシャ・ローナンは着実に作品をこなしててちょうど過渡期になるような作品なんだろうけど、いや、なんていうか生きていくためには仕方ないし街角のか弱い女たちを救うためにジェマ・アータートンが経営する売春宿と、彼女の清楚さの対比が好いわ。

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定められし運命

2022年06月28日 22時18分29秒 | 洋画2012年

 ◇定められし運命(Malgré-elles)

 

 レーベンスボルン(生命の泉 )をあつかうのはかなり珍しく、これはこれなりに興味深い。

 モロッコ人のマーシャ・メリルがアルザス人っていうのはちょっと無理があるような気がしないではないけど、まあ、ルイーズ・エレーロはまあなんとなくLebensbornに送られてアーリア人の子孫を産めって強要されそうな感じではあるかな。

 それはともかく、ナチスを悪者にしてしまえば物語もなんなく進行していくんだけど、でもどうなんだろうね、アルザスっていうドイツとフランスの国境紛争の地だからこそ、フランスがこういう映画をつくり、ただ、ドイツにも配慮するために爆弾製造工場の責任者として召集されたっていう設定の独法学者を登場させて、その妹の修道院に避難させるっていう苦肉の策に出るしかなかってっていうのはよくわかる。

 ただ、アーリア系の赤ん坊を産んじゃうルイーズ・エレーロがせっかく出産したのに自殺する理由がいまひとつ納得できないのと「黒い方は始末しろ」と命じられたのにマーシャ・メリルが掃除婦として雇われ続けるっていうのも、なんだか都合上のことにおもえて納得しづらいんだけど。

 それと、ちょっと予算が少なすぎるんじゃないかな。あまりにも現場と構図がおんなじで、単調すぎるかなあ。けど、たとえ嬰児のおしゃぶりのためとはいえヒロインの乳房をもろだしにするんだから、劇場公開された映画なのかなあ。

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ゲットバック

2022年06月11日 01時16分32秒 | 洋画2012年

 ◇ゲットバック(Stolen)

 

 監督のサイモン・ウエストはおろか、主演のニコラス・ケイジまで忘れちゃうくらい印象が薄い。トラックにゴミが。ま、ゴミという5,4㎏の金塊が。っていう最後のお返しくらいしか覚えていない。メダリオンタクシーのカーチェイスはかなりちからが入ってたけどね。

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アウトロー

2022年02月12日 00時35分07秒 | 洋画2012年

 ◇アウトロー(One Shot)

 

 ちょいと、テンポが悪い。

 けど、無実の連続狙撃犯を救うのはよく考えてある。イラクで25万発の狙いを定めて撃ってないストレスというのはよくわかるたとえだったわ。雨の中、追い詰めた真犯人となんで殴り合うのか意味わからんのだけど、まあ、トム・クルーズのファンは満足できただろう。

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囚われ人 パラワン島観光客21人誘拐事件

2022年02月01日 00時10分30秒 | 洋画2012年
 ◇囚われ人 パラワン島観光客21人誘拐事件
 
 
 リアルだな~。
 
 2001年5月、観光客を人質にして政府と交渉して活動資金を稼ごうとするイスラム原理主義集団のアブ・サヤフと、拉致された21人が、暴力と恐怖だけの関係からほんのちょっとだけ人間らしい絡み合いを見せつつも、結局は禍々しい記憶にしかならずに終わるという救いのない物語なんだけど、人質のひとりイザベル・ユペールだけが光ってる。
 
 ただ、かれらが逃げ込んでた病院でフィリピン軍と銃撃戦になったとき偶然にも陣痛で駆け込んできた妊婦が出産するんだけど、ほんものの出産を撮影してる。カットバックとはいえ、すごいわ。
 
 佳境、ユペールが森の中を逍遙する際、極楽鳥がゆったりと飛ぶ場面があるんだけど、これがなんだかとっても美しい。嵐の前の静けさみたいな感じなのかもしれないな~っておもわせる。で、やっぱり、そうなる。政府の強烈な人質奪還と集団潰滅の戦闘が行われるんだ。だったら、377日もひっぱらずに速攻しろっておもうけどなあ。
 
 ま、それはそれとして、ラストカットのストップモーションがDVDの表紙になるってのはどうよ。
 
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アルゴ

2021年12月08日 14時47分35秒 | 洋画2012年

 ☆アルゴ(2012年 アメリカ 130分)

 原題 Argo

 staff 原作/アントニオ・J・メンデス『The Master of Disguise』

          ジョシュア・バーマン『The Great Escape』

     製作/ジョージ・クルーニー グラント・ヘスロヴ ベン・アフレック

     監督/ベン・アフレック 脚本/クリス・テリオ

     撮影/ロドリゴ・プリエト 美術/シャロン・シーモア 音楽/アレクサンドル・デスプラ

 cast ベン・アフレック アラン・アーキン ジョン・グッドマン ブライアン・クランストン

 

 ☆1979年11月4日、イラン過激派、米大使館占拠

 どうしてこの話が18年間も正式に公表されずにいたのかはわからないけど、イランがこの映画を「アメリカによるプロパガンダだ」と発言し、イラン人を不当に冒涜していることについて提訴する構えだとかいう報道を読んだり、映画のラストでかなりカナダに対して気を使っているのを観たりすると、なるほど、たかが映画なのに、されど映画ってわけね~とかおもったりする。

 いつもいうことだけど、映画と現実はちがう。

 ベン・アフレックが監督したのは、現実に大使館占拠と潜伏と脱出を体験した職員たちへのインタビューと、ベン・アフレックが演じたCIAの脱出専門家であるトニー・メンデスの証言による事実を、あたかもすべてが真実であったかのような物語を映像化したものだ。

 現実は、映像作品になったとき、真実ではなく映画になる。

 だから、ここで描かれていることは事実と異なるから云々とかいう話は、ちょっとね…。

 だいたい、佳境に入ったときの空港の場面で、飛行機と官憲とのチェイスがあるけど、現実にあんなことがあったら、即刻、イラン政府はアメリカ政府を糾弾するでしょ?

 ただまあ、あのチェイスは、それまでの緊迫感をだいなしにしてしまいかねないものだった。才能あるベン・アフレックがどうしてB級活劇をぶちこんだのか、よくわからない。映像的にはたしかに派手な場面になるけど、なんだか作品の内容からすると異質な感じがしないでもなかった。

 ちなみに、作劇について、こんな対比ができる。

 たとえば『ゼロ・ダーク・サーティ』みたいに、最初から最後まで主人公の目線だけで物語を進行させると、襲撃したりされたりする場合、敵の視線が入ってこない分、観客の不安感が増し、じりじりした緊迫感に包まれる。一方で、この作品みたいに、たとえば、空港を脱出するとき、イラン側の視線を交互に絡めてくると、主人公たちが追い詰められているのを観客が観、それによって緊張と焦慮が一挙に増大するものの、見えないものに対する不安感はなくなる。

 どちらの手法が良いとかいう話ではなく、作品によってサスペンスの盛り上げ方は異なるってことだよ。

 なのに、なんで飛行機と車輛のチェイスをするかな~。演出力の乏しい監督が「派手な画面にしないと盛り上がらねーだろ」とかいってるみたいで、アメリカ大使館が襲撃されたときのドキュメンタリータッチの見事な演出が飛んじゃうよ。ただ、チェイスを除けば、非常におもしろかった。

「アメリカ合衆国は、きみたちの映画の製作を認めよう」

 という台詞は、なんとも傑作におもえた。

 CIA製作によるニセモノ映画を合衆国政府が正式に許可するなんて、なんかいいじゃん。

 実際、ここまで映画的な事実が存在したのかどうか、ぼくにはわからないけど、アホみたいなことをクソまじめに考えて、命を賭けて実行するというのは、実はとっても洒落ていることだとおもうんだよね。

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ゼロ・ダーク・サーティ

2021年12月07日 00時30分00秒 | 洋画2012年

 ☆ゼロ・ダーク・サーティ(2012年 アメリカ 157分)

 原題 Zero Dark Thirty

 staff 監督/キャスリン・ビグロー 脚本/マーク・ボール 撮影/グレッグ・フレイザー 

     美術/ジェレミー・ヒンドル 音楽/アレクサンドル・デスプラ

 cast ジェシカ・チャステイン ジェイソン・クラーク ジェニファー・イーリー

 

 ☆2011年5月2日0時30分、Navy SEALs、アボッターバード襲撃

 オサマ・ビン・ラディンが、米海軍特殊部隊(Navy SEALs)によって殺害された、というニュースを聞いたのは、いつだったろう。なんだか、ある日、唐突に発表されたような気がする。よくおぼえていないんだけど、テレビを観ていたら、いきなり、それも淡々と報道された。

 最初は、疑った。なんだってこんな突然に発表されるんだろうと。

 ニセモノじゃないのかなともおもったし、真実だとしたらなにか裏があるだろともおもった。

 アメリカが隠密裏に調査しているのは見当がついていたけど、まさか、主権を持った国家であるパキスタンに夜間いきなり進攻するとはおもわなかった。いったいなにが起こったんだろうともおもったけど、これでひとつのケリがついたんだろうなあとは、おぼろげに感じた。

 あとになって、オバマ政権の中枢にいる人々が、ホワイトハウスでビン・ラディン襲撃の一部始終の中継を観ていたと報道されたとき、そうだよね、大統領の陣頭指揮による徹底した秘密作戦だったんだよねと感じたものだ。

 で、この映画なんだけど、すこぶる、おもしろかった。

 アメリカとかでも、批評家の受けはものすごく好く、完璧な映画と絶賛されているらしい。

 とおもっていたら、どうやら、それなりに賛否両論あるらしい。どういうことかといえば、プロパガンダという問題だ。そのせいで、大統領選挙直前だった封切が遅らされたらしいんだけど、すぐあとになってオバマのプロパガンダではないと批評家たちがまた断言したとか。でも、そうじゃなくて、アメリカ合衆国のプロパガンダじゃないかともいわれているとか。

 根拠がないことはない。

 ビン・ラディンがそもそもすでに死んでいて、治療したが目撃したとかいう説があって、死んでいる人間をどうやって襲撃できるんだ、だから死体はまったく公表されず、火葬も土葬もされず、水葬されたんだろう、死体があればそこが聖地になるとかいうのはとってつけた理由で、DNA検査をしたことにするためには死体が存在していては困るわけだろう、テロとの戦いを標榜して、莫大な国家予算を費やしてきたアメリカとしては、ビン・ラディンが病死していたなんてことはあってはならないし、かといって、この先ずっと世界の警察となって、テロリストと戦い続けるはもう無理、みたいなことになってきたし、ここらでなんらかの終止符を打たないと大変なことになるから、ビン・ラディンのアジトを発見し、ついに襲撃して、見事に殺害したということにすれば、ラディン一族やサウジアラビアとの関係もぎくしゃくしないですむだろうし、アメリカ市民の留飲も下がるし、正義の為に戦ってきたという大義名分も立つし、なにより、テロとの戦いに厭き、疲れ果ててきたアメリカ合衆国のカンフル剤になるし、そのためにはCIAがずっと内緒で頑張ってきたんだよと報道しなくちゃいけないし、適当な時期に、関係者の証言をもとにするという形で凄まじく面白い映画を製作し、高卒でリクルートされた女性が、CIAの分析官として10年も戦い続け、自分も危機に陥りながらも友達の死を乗り越え、ついに本懐を遂げるという設定にすれば、世の男どもはおろか女性の皆さんも納得してくれるんじゃない?

 てな感じだ。

 こういう批評が出てくるのは当然なことで、どれだけ完璧にちかい出来栄えの映画であろうとも、フィクションとかノンフィクションとか、ドキュメンタリとかいった区別なく、演出やカメラというフィルターが存在するかぎり、たしかに、真実ではなくなっている。

 スタッフが命がけで真実に迫ろうと努力して、それなりの満足を得られたにせよだ。

 だからといって、この映画がすべて嘘っぱちだと断言されても、困る。

 正直、ぼくは、ビン・ラディンがすでに死んだか、この襲撃で殺害されたのか、はたまた襲撃されたのは影武者で、依然として生存し、テロ活動の指揮をとっているのか、そのあたりのことについては、なんの知識もないから、なんともいえない。

 ただ、ひとつだけいえることは、くりかえしになるけど、この映画はめちゃくちゃおもしろかった、ということだ。

 ビン・ラディンのアジトを再現するなど細部にわたった絵作りも見事だったし、最初から最後まで緊迫と昂揚を維持させる不気味な低音の音楽もまた凄いし、襲撃場面の撮影にいたっては、赤外線暗視スコープをカメラに取り付けたような絵もさることながら、どうやって照明したんだろう、デジタルカメラの凄いやつはライトなしでも大丈夫なわけ?

 とか悩んでしまうような新月の夜の場面には、ずっと首を傾げながら驚き続けてた。

 けど、この映画は、なにが優れているかといって、アメリカ合衆国の戦いを、ひとりの女性の戦いに置き換えてしまったことだ。映画のすべてを、ジェシカ・チャステイン演じる分析官マヤの視点で描いている。だから、しょっぱなの2001・9・11の場面は、真っ暗闇の中に実際の声だけで表現された。だって、そのとき、彼女はまだ高校生で、テロの現場にはいなかったんだもん。

 彼女が実際の現場を目撃するのは、現地に赴任してからのことで、だから、延々と展開される拷問という現実にもおもわず眼をそむけてしまうわけだ。この拷問の場面は、やっぱり一部で問題にされたらしいけど、実際に拷問が行われたとかどうとかいうのではなく、この映画では必要だったという、ただそれだけのことだ。観客や批評家が「こんなことは現実ではない」とか「真実はちがう」とかいうけど、それって、なんだか違うんじゃないかな~とおもったりするんだよね。

 原作はほんとはこうじゃないんだよ~と知ったかぶりするのとおんなじなんじゃないかと。

 だって、映画は独立したひとつの作品で、そこに表現されている世界はその映画のための世界にすぎないんだもん。

 だから、この作品では、9・11はビン・ラディンの命令によって為されたものだし、主人公たちの身にも降りかかってくる自爆テロは、ラディンによる攻撃だと解釈されるし、パキスタンの主権を侵害するような越境襲撃と殺害も実際におこなわれたとされる。

 実際にあったかどうかではなく、それらの行為と行動はこの映画において真実なんだよね。

 まあそれはさておき、拷問から眼をそむけ、机の上の埃を気にし、発言にも自信がなかった彼女は、徐々成長してゆくわけですよ、友達が殺されたり、現場がちっとも動かなかったりすることで。やがて、この砦のような建物にビン・ラディンは100パーセント隠れてると断言するわけです。つまり、この映画は、ジェシカ・チャステインの眼をとおしたひとりの女性の成長譚なんだよね。

 だから、10年という歳月を、ひたすらひたむきにビン・ラディンを殺すことに費やした彼女は、それに成功して、おもいもよらず有能で重要な人物になってしまったにもかかわらず、自分がこれからなにをすればいいのか、自分はいったいどこへ行けばいいのか、まったくわからないまま当惑し、自分の置かれている空虚さを実感することになるんですよ。

 いや、まあ、もしも、この作品が、アメリカ合衆国の依頼により、CIA指導のもとに製作されたとしたら、ホワイトハウスの面々を一度も登場させなかったのは、監督の意図かどうかわからないけど、ジェシカ・チャステイン演じる一個人を追ったのは、見事だったとかいいようがないです。

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クラウド アトラス

2021年11月14日 14時24分34秒 | 洋画2012年

 ☆クラウド アトラス

 原題 Cloud Atlas(2012年 アメリカ 172分)

 staff 原作/デイヴィッド・ミッチェル『クラウド・アトラス』

     監督・脚本/ラナ・ウォシャウスキー トム・ティクヴァ アンディ・ウォシャウスキー

     撮影/ジョン・トール フランク・グリーベ 美術/ウリ・ハニッシュ ヒュー・ベイトアップ

     音楽/トム・ティクヴァ ジョニー・クリメック ラインホルト・ハイル

 cast トム・ハンクス ハル・ベリー スーザン・サランドン ヒュー・グラント ペ・ドゥナ

 

 ☆小さな正義が、次の時代の鍵になる話

 なんとも懐かしい感性っていうか、方向性っていうか。

 30年ほど前、こういうスタイルはものすごく好きだった。なんていうか、80年代の自主映画のノリっていうんですか。簡単にいってしまえば、別々な世界を描きつつも個々の世界はしっかり繋がり、かつ影響しあい、やがてひとつの話にまとまっていくという、異なった時代のモザイクがパズルのように重なるか、あるいはパラレルワールドが並列したまま語られてゆく構成のことだ。

 そこに輪廻転生が語られていれば、なおさら、ぞくぞくする。

 そう、ちょうど『豊饒の海』や『火の鳥』や『アポロの歌』のように。

 で、映画の中身なんだけど、

 第1楽章「アダム・ユーイングの太平洋航海記」

 1849年 南太平洋諸島 数奇な航海物語

 第2楽章「セデルゲムからの手紙」

 1936年 イギリス 幻の名曲の誕生秘話

 第3楽章「半減記 ルイサ・レイ最初の事件」

 1973年 カリフォルニア 原子力発電所の恐るべき陰謀

 第4楽章「ティモシー・キャヴェンデッシュのおぞましい試練」

 2012年 イギリス 平凡な編集者の類希な冒険

 第5楽章「ソンミ451のオリゾン」

 2144年 ネオソウル クローン少女の革命

 第6楽章「ノルーシャの渡しとその後のすべて」

 2321年 ハワイ 崩壊後の地球の行方

 てな構成になってて、これが解体され、複雑に絡み合う展開になってるんだけど、各楽章は時の流れに逆らわずに描かれているから、話としては理解しやすい。かつ、時代と時代とのつなぎは、同一の行動や台詞を用いているから、より鮮明だ。役者がひとり6役になったりしているのは、もちろん、輪廻転生の証だし、彗星の刺青もそうだけど、小道具がそれぞれの時代を繋ぐ役割にもなってる。

 こういうのは、とっても嬉しい。

 けど、ラストは別な惑星に移住しちゃってるんだね、やっぱり。

 地球の超古代になってれば、よかったのにな~。

 それじゃまったく『火の鳥』になっちゃうか。

 ただ、6つの話がるつぼ状態になっている分、6本の映画を観たのと同じことになるのは、なんとなく得した気分だ。ほんとだったら、1時間くらいの映画を6本観ると合計で6時間になるけど、この映画はぎりぎり3時間におさまってる。これは、別な話が交互に展開するため、場面と場面を繋いでいる部分が削ぎ落とされ、ぎゅっと凝縮されてるせいだろう。

 その分、緊張の連続になるんだけど、濃密なストーリー展開になるから、ぼくとしてはとってもお好みなのです。

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私が愛した大統領

2020年04月20日 00時10分53秒 | 洋画2012年

 ◇私が愛した大統領(2012年 イギリス 94分)

 原題/Hyde Park on Hudson

 監督/ロジャー・ミッシェル 音楽/ジェレミー・サムズ

 出演/ビル・マーレイ ローラ・リニー エリザベス・マーヴェル オリヴィア・ウィリアムズ

 

 ◇ローズヴェルトの不倫

 従妹を親しい友人つまり愛人にして車椅子に乗った大統領には強烈な専制君主のような母親と礼儀知らずで我が儘な妻がいて、そこへ、どもりの英国王と高慢ながらも野暮ったい王妃の夫妻がナチスに対抗するべく協力を求めてきたところ、なんとなく心を交流させてしまうっていうのが、まあ表向きの筋立て。

 で、そのふたりの男の日々を、その愛人のモノローグで綴ってるってのが味噌なんだけど、なんだかね。

 退屈だな~とおもった矢先に、大統領が愛人のために建てたといった屋敷にそっと来て良い気分にひたってれば、秘書もまた愛人のひとりだったことを知って混乱し始めるあたりからちょいとおもしろくなる。だけど、まあなんとなく予想はされてたわね。

 それにしても、フランクリン・ローズヴェルト、つきつぎに、手当たり次第に手を出してたのね。どの場合も切手帳を見せて、となりに来させてたんだろうか?

 いや、そんなことより、ホット・ドッグがここまでアメリカの象徴で、それを英国王が頬張ることが両国の強固な繋がりになって記者や随行員が大喜びするとか、まじにほんとのことなんだろうか?

 なんにしても、秘密を暴かない寛大さのあった時代というのはええもんだね。

 

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ゲーム・チェンジ 大統領選を駆け抜けた女

2019年12月11日 23時55分35秒 | 洋画2012年

 ◇ゲーム・チェンジ 大統領選を駆け抜けた女(2012年 アメリカ 118分)

 原題/Game Change

 監督/ジェイ・ローチ 音楽/セオドア・シャピロ

 出演/ジュリアン・ムーア ウディ・ハレルソン エド・ハリス サラ・ポールソン

 

 ◇日本ではまず作れない

 2008年のアメリカ合衆国大統領選挙で、共和党の副大統領候補となったのはアラスカ州知事のサラ・ペイリンなんだけど、彼女の選挙戦をそのままドラマにしちゃうのは、さすがアメリカとしかいいようがない。くわえて、ジュリアン・ムーアのびっくりするくらいのメイクアップもさすがだ。よくもまあここまで似せたもんだっておもうわ。

 ところが、このサラ・ペイリンなんだけど、実は女優で脚本家のティナ・フェイに似てるっていわれれて、ティナは自分の番組でペイリンに扮して人気を博し、さらにその番組にペイリン本人も出演して喝采を浴びたっていうんだから、もうなにがなんだかわからない。

 とはいえ、大統領選挙では、オバマとバイデンに負けちゃったけどね。

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