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▽=☆

明日への遺言

2014年06月30日 00時16分40秒 | 邦画2008年

 ◇明日への遺言(2008年 日本 110分)

 staff 原作/大岡昇平『ながい旅』

     監督/小泉堯史 脚本/小泉堯史、ロジャー・パルバース

     撮影/上田正治、北澤弘之 美術/酒井賢 衣裳/黒澤和子

     音楽/加古隆 主題歌/森山良子『ねがい』 題字/今井凌雪

 cast 藤田まこと 蒼井優 富司純子 近衛はな 頭師佳孝 西村雅彦 竹野内豊

 

 ◇法戦の人

 おそらく、真摯な人だったのだろう。

 岡田資陸軍中将は、肖像写真を観てても、

 その眼光の快活さと表情の明朗さから、

 なんだか気持ちの爽やかな青年がそのまま老いていった観がある。

 肖像だけでは人間の本質はわからないという人もいるけど、

 ぼくはそんなことはないんじゃないかっておもうんだ。

 やっぱり、気持ちの爽やかな人は、そういう顔をしてる。

 で、岡田資という軍人さんもたぶんそうだったろうと、ぼくはおもってる。

 この人は、ほとんど敵との交戦はしていない。

 武官として名の知れた人というべきで、

 岡田がB級戦犯になったのは、

 1945年5月14日の名古屋空襲の際、B-29の乗組員27名を処刑したという点で、

 これについて岡田は、横浜の軍事法廷において徹底的に争った。

 主張するところは2点で、

「一般市民を無慈悲に殺傷しようとした無差別爆撃である」

「搭乗員はハーグ条約違反の戦犯であり、捕虜ではない」

 というもので、けれどこの法戦は岡田に利なく、

 1949年9月17日、巣鴨プリズンで絞首刑に処せられた。

 で、ぼくはおもうんだけど、

 この作品はどうしてセミ・ドキュメントにしなかったんだろう?

 あるいは、どうしてドキュメンタリー調にしなかったんだろう?

 岡田の人となりを描くのはもちろんだけど、

 軍事法廷についてまっこうから挑むつもりで描くならば、

 情緒に左右されず、空襲と処刑の真実を探求しようとする方が好かったんじゃないか。

 そんなふうにおもうんだよね。

 ちなみに、この映画は、すーちゃんこと田中好子の遺作だ。

 彼女には『黒い雨』っていう代表作があるけど、

 なんだか戦争をしてた時代がしっくりくる凛としたところのある女優さんだったね。

 ま、ぼくはキャンディーズではいちばんのご贔屓だったけど。

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マイ・ビューティフル・ランドレット

2014年06月29日 18時45分16秒 | 洋画1981~1990年

 ◎マイ・ビューティフル・ランドレット(1985年 イギリス 97分)

 原題 My Beautiful Laundrette

 staff 監督/スティーブン・フリアーズ 脚本/ハニフ・クレイシ

     撮影/オリヴァー・ステイプルトン 音楽/ルーダス・トナリス

 cast ゴードン・ウォーネック ダニエル・デイ=ルイス リタ・ウルフ ロシャン・セス

 

 ◎パンツを洗ってて幸せなのか?

 だからといってコインランドリー屋さんを否定しているとか、

 クリーニング店を揶揄しているわけでないことは、

 この映画を観ればわかる。

 ただ、パキスタン移民の子ゴードン・ウォーネックと、

 ちょっと過激な人種差別主義者の英国人ダニエル・デイ=ルイスは、

 自分たちが生きていくための現実的な条件として、

 古ぼけたコインランドリーを安っぽいながらもステキなランドリーとして、

 人生を出発させていかなくちゃいけない。

 少なくとも、

 ウォーネックの父親、元ジャーナリストでアル中のロシャン・セスに、

 どれだけ知的に「パンツを洗ってるより大学に行け」といわれたところで、

「結局は、飲んだくれて社会に文句しかいえない無職の貧乏人じゃねえか」

 と反論したところで、誰もが「むりないよな」とおもうかもしれない。

 けど、

 人生の旅立ちってのは、いろんな出発点があるわけで、

 それがたとえ、幼馴染なのにいがみ合う立場に立たされた2人でも、

 異性の恋人ができてもおかしくないのに互いに惹かれて抱き合っちゃう2人でも、

 拝金主義の叔父のおかげでなんとかランドリーを開店できるし、

 ここを起点にどんな人生だって送れるし、

 もしかしたらエンドマークの後で、大学へ進学していったのかもしれない。

 だから、

 どれだけ薄っぺらな店だって、人生の起点となれば、

 きらきら輝いているはずなんだ、たぶん。

 だから、マイ・ビューティフルなわけで、

 なんとなく身につまされるところも多いものの、

 なんとなく登場人物たちを応援したくなっちゃったりするんだよな、これが。

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まぼろしの邪馬台国

2014年06月28日 00時37分43秒 | 邦画2008年

 ◇まぼろしの邪馬台国(2008年 日本 118年)

 英題 Yamataikoku

 staff 原案/宮崎康平『まぼろしの邪馬台国』 監督/堤幸彦

     脚本/大石静 撮影/唐沢悟 美術/相馬直樹 音楽/大島ミチル

     主題歌/セリーヌ・ディオン『ワールド・トゥ・ビリーヴ・イン ヒミコ・ファンタジア』

 cast 吉永小百合 竹中直人 宮崎香蓮 黒谷友香 麻生祐未 余貴美子 由紀さおり

 

 ◇ついに吉永小百合が卑弥呼に

 その昔、

 卑弥呼を演じたのは岩下志麻や高峰三枝子とかだったような気がするけど、

 そんなことはどうでもいい。

 書籍をめったに読まない僕の本棚に『まぼろしの邪馬台国』が入ってる。

 昭和55年に出された改訂版だ。

 当時、ぼくは大学生で、邪馬台国にとっても興味があって、

 まあそんなことから買い求めたんだけど、

 いやあ、なんていうのか、邪馬台国論争もさることながら、

 宮崎康平その人に興味を抱かせられたような覚えがある。

 で、実をいうと、その頃、

「これ、映画にならないかな~」

 とか、漠然とおもってた。

 だから、この映画化が発表されたとき、うわっとおもった。

 けどまあ、予想どおりの出来栄えだったし、

 どうして、宮崎和子さんの半生が中心になってるのかがよくわからない。

 吉永さんの映画なんだから当たり前だろ!

 とかいわれそうだけど、でも、なんてゆうのか、

 ちょっと、ぼくの望んでた感じとちがうんだよね。

 夫婦の物語となるのはかまわないんだけど、

 問題は邪馬台国であって、それを調べ始る切っ掛けに至るまでが、

 長い。

 ていうか、要らない。

 邪馬台国九州説に没頭してるふしぎな男がいて、

 それを支える献身的な奥さんがいて、

 ふたりがもうぼろぼろになっても認められず、

 たったひとつの証を探そうとしているほんの数日の話でいいじゃん。

 余計な枝葉をくっつけちゃうと、

 吉永さんの卑弥呼も印象が薄くなっちゃう気がするんだけどな。

 どうしても、邦画は箇条書きのような半生記になっちゃうんだけど、

 そのあたりもうちょっとだけ頭をひねられないかな~と、

 くそなまいきにもおもってしまうわけなんですよ。

 ちなみに、

 さだまさしの曲に「まぼろしの邪馬台国」を歌った作品がある。

 ぼくはとっても好きな歌なんだけど、

 こちらの方が、ストレートに宮崎康平を印象づけてる。

 さすが、さだまさしだ。

 で、なんで、この映画の主題歌が、さだまさしでなかったのかが不思議だ。

 まあ、そもそも映画の主題歌がタイアップされる日本の習慣は、

 ぼくは好きじゃないけどさ。

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30アサルト 英国特殊部隊

2014年06月27日 01時43分46秒 | 洋画2011年

 ◇30アサルト 英国特殊部隊(2011年 イギリス 94分)

 原題 AGE OF HEROES

 staff 監督/エイドリアン・ヴィットリア 脚本/エド・スケイツ、エイドリアン・ヴィットリア

     撮影/マーク・ハミルトン 美術/リチャード・キャンプリング

     衣装デザイン/エルヴィス・デイヴィス 音楽/マイケル・プロウマン

 cast ショーン・ビーン ダニー・ダイア アクセル・へニー イザベラ・ミコ

 

 ◇イアン・フレミング登場

 どうやら、この英国特殊部隊は、

 イアン・フレミングが編成したものらしい。

 へ~てな話なんだけど、

 本編中、部隊の訓練を視察しているのが、当人だ。

 イアン・フレミングが英国軍の将校で、腕っこきの間諜だったらしいのは、

 007ことジェームズ・ボンドのおかげで有名になってるけど、

 本人そのものが登場してる作品なんてなかったんじゃないかしら?

 とはいえ、

 ノルウェーにナチス・ドイツが構築したレーダー施設を破壊するべく、

 刑務所から出たいがために部隊入りした若造も含めて、

 ショーン・ビーンひきいる特殊部隊が、

 地下組織の一員ベオウルフっていう女性の案内で雪山に挑んでいって

 ナチスの住民を虐殺したりするさまに怒りつつ任務を果たしていくっていう、

 なんとも昔懐かし『コンバット』だったりする。

 ちなみに、この英国特殊部隊(30 Assault Unit)は、

 のちのSASなんだそうだ。

 そのあたりが好きな人間は別な愉しみ方があるのかもしれないんだけど、

 ぼくはあんまり得意分野ってわけでもないので、

 単純に戦争活劇としての愉しみ方しかわかんない。

 

 

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地獄の七人

2014年06月26日 02時26分27秒 | 洋画1981~1990年

 ◇地獄の七人(1983年 アメリカ 95分)

 原題 Uncommon Valor

 staff 監督/テッド・コッチェフ 脚本/ジョー・ゲイトン

     製作/ジョン・ミリアス、バズ・フェイシャンズ 撮影/スティーブン・H・ブラム

     美術/ジェームズ・L・ショップ 音楽/ジェームズ・ホーナー

 cast ジーン・ハックマン ロバート・スタック パトリック・スウェイジ レブ・ブラウン

 ◇七人の侍ベトナム版

 ジョン・ミリアスよ、あんたはそこまで黒澤明が好きなのか?とまでいいたくなっちゃうくらい、おもいきり『七人の侍』してる。

 ま、オマージュだとおもって笑って済ませたいところだし、黒澤明がこの作品について文句をいってるって話も聞いたことがない。もしかしたら孫の夏休みの自由工作でも眺めるように、にこにこしながら鑑賞してたのかもしれない。

 まあ、ジーン・ハックマンが志村喬なんだろうけど、ほかの連中もそのまま配役できそうだ。

 ランダル・テックス・コブはおそらく三船敏郎だし、

 パトリック・スウェイジはたぶん木村功だろう。

 ティム・トマーソンは加藤大介、

 ハロルド・シルヴェスターは千秋実、

 フレッド・ウォードは宮口精二、

 レブ・ブラウンは稲葉義男だ。

 しかも、空恐ろしいことに『七人の侍』へのオマージュだけかとおもえば『ランボー怒りの脱出』まで一緒くたになってる。

 このあたり、ミリアスはまじに凄い。

 まあもともと、ベトナム戦争はミリアスのライフワークみたいなもので『地獄の黙示録』のときだって、コッポラは自分が倒れたらルーカスとミリアスに代行してほしいといってたらしいし、『ビッグ・ウェンズデー』のときだって、ミリアスは荒削りな演出ながら、とってもがんばってた。

 日本人が好きで、黒澤を尊敬してて、ベトナム戦争に怒りをおぼえ、日本刀が世界一の剣だと信じて、戦うことがなんだか好きなミリアスは、たぶん、テッド・コッチェフとも気が合うんだろう。

 だって、コッチェフは『ランボー』の監督なんだから。でも、こちらはどうもなあ。ラオスに乗り込んでいく前の訓練が長過ぎるし、あまりにも予定調和な展開なんだよね。素人臭さがそこかしこにあって、それでもいいっていうミリアス好きのための作品かも。

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アフロ田中

2014年06月25日 23時58分14秒 | 邦画2011年

 ◇アフロ田中(2011年 日本 114分)

 staff 原作/のりつけ雅春『上京アフロ田中』

     監督/松居大悟 脚本/西田征史 撮影/小林元

     美術/尾関龍生 衣裳デザイン/西留由起子 ヘアメイク/酒井夢月

     音楽プロデューサー/笹井章 主題歌/鶴『夜を越えて』

 cast 松田翔太 佐々木希 堤下敦 田中圭 原幹恵 美波 辺見えみり リリー・フランキー

 

 ◇なるほど、アフロの中は妄想だらけか

 くっだらねえ。

 でも、おもしろかった。

 あらためておもうまでもなく、

 世の中の男の大多数の頭の中は、

 スケベなことしかない。

 そのほかにちょっとだけあるものは、

 仕事のことか、家族のことか、友達のことか、

 地球と人類の未来についてのほんのわずかな不安と絶望くらいなもので、

 どだい、たいしたことは考えてない。

 だから、髪の毛がアフロになっているかいないかっていうだけの差だ。

 で、

 もしも、アフロ田中にモテナイ問題があるとすれば、

 それは単純にいえば垢抜けてないってことだけで、

 要するに野暮はモテナイ。

 どれだけかっこつけても田舎者はすぐにお里が知られるし、

 頭の悪さも行儀の悪さもすぐに見破られる。

 ぼくもかなりの田舎者だから、そのあたりのことはよくわかる。

 田舎者はどうしても心が偏狭で、金に醜く、口が賤しく、股間は貪欲だ。

 この国は実をいうとふたつあって、

 日本国都会部と日本国田舎部に分かれる。

 簡単にいってしまえば、人口の増えているのが都会部で、

 いまや社会問題になっている人口の減少地域が田舎部だ。

 アフロ田中はその田舎の生まれだから、

 常に可愛い女の子とみだらなことをする妄想することで生き永らえている。

 ま、そういう性衝動すなわちリビドーの塊が、

 純愛なんて幻想はくそくらえだ!とばかり、

 いかにして妄想を具現化してゆくかっていう、

 栄光への挑戦の過程が描かれているわけで、

 こんなやつが可愛い子ちゃんをものにしたら、ぼくはゆるさん。

 だけど、このアフロ田中が失敗することによって、

 世の中のくそ野郎どもは、ほっと幸せな気分になれるんだよね、たぶん。

 もちろん、どうしようもない田舎者のぼくも、ほっとし、笑った。

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鑑定士と顔のない依頼人

2014年06月24日 12時15分08秒 | 洋画2013年

 ◎鑑定士と顔のない依頼人(2013年 イタリア 131分)

 原題 La migliore offerta

 英題 The Best Offer

 staff 監督・脚本/ジュゼッペ・トルナトーレ

     撮影/ファビオ・ザマリオン 美術/マウリツィオ・サバティーニ

     衣装/マウリツィオ・ミレノッティ 音楽/エンニオ・モリコーネ

 cast ジェフリー・ラッシュ ジム・スタージェス シルヴィア・フークス ドナルド・サザーランド

 

 ◎カフェ「ナイト&デイ」は閉店

「おひとりさまですか?」

「いや、連れを待っているんだ」

 映画を観終わって、

 いくらなんでもあの内装はセットだろう、と勝手におもってたら、

 どうやら、プラハに実在するビアホールだかビアハウスだかの、

 ロケセットだったらしい。

 ただし、2013年の夏に閉店したんだとか。

 誰か、この映画を気に入った人がいたら、

 買い取ってロケセットを復活させればいいのに。

 エンニオ・モリコーネのぶきみな旋律がくりかえし奏でられる中、

 緻密に計画された悪巧みが静かにかつ正確に進められてゆくのを、

 ぼくたちはじっと耐えながら見つめていくわけだけれども、

 こうしたじれったさを緊張感と呼ぶのかどうかよくわからない。

 鑑定士、故買、隠し部屋、贋作、廃屋、広場恐怖症、歯車、修理屋、機械人形、美女、

 とかいう事物がつぎつぎに登場し、そこにあきらかに、

 鼻持ちならない鑑定眼と自負心を併せ持った人嫌いで初老の童貞鑑定士と、

 鑑定士の独自の価値判断によって一流画家への道を断たれた贋作師と、

 機械修理の腕前は超一流ながら次々に女を替えている一見優しげな色男と、

 莫大な遺産を持つことになった広場恐怖症で純粋無垢の美人作家とが出てくれば、

 これはもう当然のことながら、

 この鑑定士が、贋作師と修理屋と遺産相続人の共謀に嵌められるんだろな~、

 という予想が働くわけで、あとはそれがいつ勃発するかっていう興味に変わる。

 この作品の愉しみ方はそういうもので、

 ちょっとずつ小出しにされてくる嵌める直前の設定について、

 あれ、予想ちがいかな、とおもわせる場面が随所に挿入されてるんだけど、

 いやいやそんなことには騙されないぞと自分に言い聞かせつつ、

 徐々に正体を現してくるカタストロフィへの罠の断片を観て、

 そうだろ、そういうことだよな、と自分で納得していくわけだ。

 ただ、

 実をいうと、ぼくはこれは前半の話だとおもってた。

 隠し部屋に収蔵してある大量の女性の肖像画と裸体画の、

 つまり、世界中の美術館にあるのは偽物だという前提のもとに、

 その本物をまんまと盗み盗られてしまった鑑定士が、

 老いた身体に鞭打って必死になって探し始め、やがて追い詰めるんだけど、

 しかし、その途中から、

 自分の行動は復讐心によるものなのかそれとも恋心によるものなのか、

 まるでわからなくなり、最後の最後に追い詰め、復讐を果たそうとするとき、

 生まれて初めて抱いた恋心がおもわぬ作用をひきおこしてしまうとかいう、

 長々しい話だとおもってたんだけどな~。

 げにおそろしきは美人なりけりっていう哀れな老人の話だったわ。

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小川の辺

2014年06月23日 11時36分11秒 | 邦画2011年

 ◇小川の辺(2011年 日本 103分)

 staff 原作/藤沢周平『小川の辺』

     監督/篠原哲雄 脚本/長谷川康夫、飯田健三郎

     撮影/柴主高秀 美術/金田克美 音楽/武部聡志

 cast 東山紀之 菊地凛子 勝地涼 片岡愛之助 尾野真千子 松原智恵子 藤竜也

 

 ◇小川って、どこの川なんだろ?

 とおもってたら、

 逐電した片岡愛之助夫婦の棲んでるとこの川なのね?

 まあ、藤沢好みの方々からは失笑と痛罵を浴びせかけられるんだろうけど、

 短編小説だというこの原作を読んだことはない。

 だから原作の世界はよくわかっていないのかもしれないんだけど、

 これはあくまでも監督の創り出した世界のみで勝負する映画の話なので、

 とかいって、逃げる。

 逃げるのは嫌いなんだけど、ぼくの人生、いつも逃げてる。

 もともと気も弱いし、どちらかといえば自分から身を引いちゃうし、

 ちょっと難しそうな問題にぶちあたるとすぐに背を向ける癖がついてる。

 逃げ癖っていうのかどうかわからないんだけど、

 だって、物事にまともにぶちあたるのは怖いし、逃げた方が楽じゃん。

 なんていう姿勢が、おそらく、ぼくの体内に常にあるらしい。

 で、片岡愛之助なんだけど、

 東山紀之の妹菊地凛子を妻にしてて、一緒に逐電する。

 藩の農政を批判したために身の危険を感じての脱藩だ。

 ヒガシはこの竹馬の友を討つように命ぜられて討ちに行くわけだけど、

 まあ、小川に至るまでは一族郎党おのおのの葛藤があったりして、

 ちょっとばかり淡々とし過ぎてるきらいがないでもないながら、

 それなりに観られた。

 問題は、その先で、片岡愛之助と菊地凛子に再会したとき、

 東と従者の勝地涼はどういう態度で臨むのかってことだ。

 結局は藩命をまっとうして斬り合いになるんだけど、それでいいんだろか?

 いやまあ、リアルといえばリアルなんだろう。

 でも、なんとなく、肚の底にちっぽけなわだかまりが残らないでもない。

 そりゃあ、片岡愛之助とふたりして藩に逆らうのもありだけど、

 それは藩をおもう気持ちと矛盾するし、

 かといって藩に棄てられたような身の上の友を斬ることが、

 はたして藩のためかどうかもわからない。

 さらにかといって小川の辺で自害しちゃったりしたら、

 今度は自分の家族に類がおよぶ。

 だから、東はもっと葛藤しなければいけないし、

 なるほど!とかいうような結末が待ってなくちゃいけないはずだ。

 このあまりにも淡白な前半と、

 あまりにも予定調和な後半を持った映画の最大の難問は、

 佳境の始末だったはずで、

 音楽も行動もなにもかも淡々と進んでいるとはいえ、

 すべてが丁寧に撮られてる分、

 結末の付け方はもうちょっとばかり勘考してほしかったかなと。

 あ、それと。

 話題性や時事性を考えれば、

 菊地凛子と尾野真千子は旬のキャスティングだったんだろうけど、

 彼女らのすこしばかり傾斜したスタイルを活かそうとするんなら、

 もうすこし中身を考えてあげないといけないんじゃないかしらね。

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17歳

2014年06月22日 22時52分09秒 | 洋画2013年

 ◎17歳(2013年 フランス 94分)

 原題 Jeune & Jolie

 staff 監督・脚本/フランソワ・オゾン

     撮影/パスカル・マルティ 美術/カティア・ワイスコフ

     衣裳デザイン/パスカリーヌ・シャヴァンヌ 音楽/フィリップ・ロンビ

 cast マリーヌ・ヴァクト ヨハン・レイセン シャーロット・ランプリング

 

 ◎少女は何に渇いていたのか

 援助交際とかいっちゃうと、なんだか、生々しいだけじゃなくて、

 この映画の主題から離れちゃうような気がしないでもない。

 でも、SNSを使った援助交際にはちがいないわけで、

 かといって、少女から大人になっていく思春期の揺れ動く時代を、

 とかなんとかいうほど、ぼくは詩的に出来ていない。

 マリーヌ・ヴァクトはさすがに、

 イヴ・サンローランのイメージモデルだけあって、

 華奢ながらも均整のとれた肉体である一方、

 憂いをおびた眼がとても蠱惑的だ。

 ただ、官能的であって官能的でない分、

 どちらかといえば、ぼくの趣味ではないんだけど、でも美しい。

 でも、こういう淡白な子を主役にしないと、映画が崩れる。

 父親は養父で、母親は知り合いの黒人と不倫し、

 母親は娘がsexをおぼえたことを察してコンドームを渡し、

 黒人の家庭でベビー・シッターをしているときには、

 その奥さんが使っているとおぼしきバイブを見つけ、

 客たちは、

 それこそありとあらゆる行為におよぶ。

 これが、お金をもうけて何かに使うのかといえばそうではなく、

 結局のところ、

 変身して見知らぬ男と待ち合わせてsexにおよぶという、

 しかも、それが未成年での売春行為だという背徳さが、

 自分でも知らない内にもうひとりの自分を目覚めさせていて、

 気がついたときにはもはや抜き差しならない事態に陥っている。

 けど、そういうだけの映画かといえばそうでもなく、

 弟に「変態女」と蔑まされるようにいわれながらも、

 ひとりの老いさらばえた客だけには、

 恋愛にもにた感情を持ってしまっているという、

 矛盾を抱えるようになってしまうのが、味噌だ。

 で、このバイアグラを服用している心臓病の老人は、

 男の夢のような腹上死を遂げるわけだけれども、

 佳境にいたって登場するのが、

 老人の妻、シャーロット・ランプリングだ。

 さすがに、堂々たるもので、

 彼女が登場することによって映画全体がひきしまる。

 ランプリングにとって、マリーヌ・ヴァクトはどういう存在なんだろう?

 自分の夫が最後にsexした女、

 夫が死ぬときに腹の上に跨っていた女、

 夫の死ぬ瞬間を見ていたたったひとりの女、なのだ。

 この女を連れて、夫が死んだ部屋に行き、ふたりでベッドに横たわるとき、

 ふたりはそれぞれなにを考えていたんだろう?

 ぼくなりの答えはあるけど、たぶん、数日後には変わる。

 いろんなことを考えるけど、どれも陳腐になりそうだから、書かない。

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私がクマにキレた理由

2014年06月21日 15時54分23秒 | 洋画2007年

 ◇私がクマにキレた理由(2007年 アメリカ 106分)

 原題 The Nanny Diaries

 staff 監督・脚本/シャリ・スプリンガー・バーマン、ロバート・プルチーニ

     撮影/テリー・ステイシー 美術/マーク・リッカー

     衣裳デザイン/マイケル・ウィルキンソン 音楽/マーク・スオッゾ

 cast スカーレット・ヨハンソン クリス・エヴァンス アリシア・キーズ ドナ・マーフィ

 

 ◇子守のねえや

 昔、それなりの家には、ねえやがいた。

 子守をする若い女性のことで、

 ねえやの多くは住み込みで、

 童謡にも歌われてる。

 ところが、このシステムはいつの間にやら日本から無くなった。

 ぼくが知らないだけなのかもしれないんだけど、

 ぼくの知るかぎり、どこの家にもねえやはいない。

 ベビー・シッターすら少なくなってるし、

 事件をひきおこしたりしたベビー・シッターまで出る始末だ。

 ところが、欧米はそうじゃなくて、

 大人が夜出かけるときには、かならず、ベビー・シッターを置く。

 置かないと罰せられる国もあるようで、

 まあ、ぼくとして当たり前だとおもうんだけど、

 ベビー・シッターを頼んで夫婦でお出かけするなんてことは、

 まずもってこの国では聞いたことがない。

 家政婦さんがいる家はあるし、子供の世話もすこしだけ見てくれるけど、

 かといって、この映画のようなナニーがいるかといえば、おもいあたらない。

 ただまあ、このところ、

 洋の東西を問わず、ベビー・シッターの質は低下しているのか、

 あるいは、頼む方も疑り深くなってるのか、

 監視カメラを仕込んでいる家庭も少なくなくなってるらしい。

 だからといって、

 クマに隠しカメラとか仕込まれてたら、そりゃキレるわね~。

 以下、関係ないながら、

 スカーレット・ヨハンソンは、ほんと、ハリウッドで可愛がられてる。

 いったいどこがいいのか、いまひとつよくわからないんだけど、

 子役の時代からすくすくと育っている気がするんだよね~。

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ステキな金縛り

2014年06月20日 13時57分36秒 | 邦画2011年

 ◎ステキな金縛り(2011年 日本 142分)

 staff 監督・脚本/三谷幸喜 撮影/山本英夫 美術/種田陽平

     装飾/田中宏 衣装デザイン/宇都宮いく子 音楽/荻野清子

 cast 深津絵里 西田敏行 阿部寛 竹内結子 中井貴一 市村正親 小日向文世

 

 ◎昔のハリウッド映画みたい

 なんかメモをとりづらいんだけど、

 総じておもしろかった。

 メインは法廷劇になってて、

 このあたりがひと昔前のハリウッドっぽい。

 もちろん、幽霊譚がハリウッドのわけはないから、

 そのあたりは和式だ。

 で、感じたのは、役者たちの伸びやかさだ。

 芝居の上手さをひきだすのが監督のちからだとするなら、

 うん、三谷幸喜、上手になってきた。

 とかいったら、なんとまあ上から目線なやつだって話だけど、

 これまでのビリー・ワイルダー好みな観ありありの作品よりも、

 なんか一本つきぬけた印象があるんだよな~。

 まあ、

 素人がくそなまいきなこというんじゃないよって話だけどね。

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アイリス

2014年06月19日 01時57分26秒 | 洋画2001年

 ◎アイリス(2001年 イギリス 91分)

 原題 Iris

 staff 監督・脚本/リチャード・エア

     原作/ジョン・ベイリー『Elegy for Iris』

     撮影/ロジャー・プラット 美術/ジェンマ・ジャクソン

     衣装デザイン/ルース・マイヤーズ 音楽/ジェームズ・ホーナー

 cast ジュディ・デンチ ケイト・ウィンスレット ジム・ブロードベント ヒュー・ボネヴィル

 

 ◎アイリス・マードックの伝記

 実話だけに、ひしひしと感じるものはある。

 作家がアルツハイマーになるっていうのは、なんだか皮肉めいた話だ。

 もちろん、誰にだって見舞われる可能性のある症状なんだけど、

 哲学者としても高名だったアイリスにしてみれば、

 頭が働かなくなってくるときの恐怖はたまらなかったろう。

 そういう微妙なところをジュディ・デンチは見事に演じてて、

 夫役のジム・ブロードベントがこれまた好い。

 20世紀英国を代表する女流作家であろうとなんだろうと、

 病魔は静かに忍び寄り、本人も気づかない内に脳を蝕んでゆく。

 この映画のいいところは、

 単にアルツハイマーに冒された妻の看護をするものじゃなくて、

 オックスフォード大学での恋物語が濃厚に描かれているところで、

 それがあるからこそ、

 老人映画になっていない。

 そのあたりは脚本が上手に練られてる感じがするし、

 きちんと片づけられていた書斎が、

 どんどんと乱雑になり、やがて薄汚くなっていくんだけど、

 こういうあたりはリアルなんだろな~とおもった。

 もっとも、

 片づけられない人間の部屋の中ってのは、

 最初からくちゃくちゃなんだけどね。

 それだと悲しさが伝わってこないんだろな~。

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フレフレ少女

2014年06月18日 01時28分03秒 | 邦画2008年

 △フレフレ少女(2008年 日本 114分)

 staff 監督/渡辺謙作 脚本/橋本裕志

     撮影/藤澤順一 美術/花谷秀文 衣裳デザイン/宮本まさ江

     音楽/上田禎 主題歌/アクアタイムズ

 cast 新垣結衣 永山絢斗 染谷将太 内藤剛志 モロ師岡 柄本時生 斉藤嘉樹

 

 △あのヘアメイクは辛い

 なんだかよくわかんないんだけど、

 すくなくとも、新垣結衣のおでこをまるきり出して、

 髪の毛をぴったり撫でつけるのは、

 やめといた方がよかったような気がするんだけど、

 そんなことないのかしら?

 まあ、応援団物ってのは、これまでにもいろいろあったし、

 たいがい、へっぽこへなちょこ応援団が、

 ゼロから出発してそれなりに認められていくってのが定番だ。

 でもさ、

 それって昭和時代からおんなじなわけで、

 どうせだったら、女の子だけの応援団にした方が好かったんじゃない?

 ま、そんなことをおもいながら、見た。

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クリスティーン

2014年06月17日 10時55分23秒 | 洋画1981~1990年

 ◇クリスティーン(1984年 アメリカ、ポーランド 110分)

 原題 Christine

 staff 原作/スティーヴン・キング『クリスティーン』

     監督/ジョン・カーペンター 脚本/ビル・フィリップス

     撮影/ドナルド・M・モーガン 特殊撮影/ロイ・アーボギャスト

     美術/ダニエル・ロミノ 音楽/ジョン・カーペンター、アラン・ハワース

 cast キース・ゴードン アレクサンドラ・ポール アレクサンドラ・ポール

 

 ◇真っ赤な58年型プリマス・フューリー

 1957年のデトロイトから1972年のカリフォルニアと舞台は変わるんだけど、

 そのあたりのこまかな描写はないもので、

 アメリカに行ったことのないぼくは、ちょっとばかり残念だったりする。

 ま、それはさておき、

 昭和60年代、ぼくはスティーヴン・キングに狂ってた。

 本を読まないぼくにしてはものすごく珍しいことに、

 ともかくむさぼるようにして読んだ。

 どれもおもしろかったけど、この『クリスティーン』も興奮した。

 すげーな、キング、とおもった。

 どれも引っ越しのどさくさで無くなり、もう一冊も残ってないけど、

 でも初期のキングはぼくにとって鮮烈だった。

 で、この作品なんだけど、

 ちょっと予算が足りないかもねっていう印象は濃い。

 けど、それがいいんだ。

 CGを使ってなめらかな再生をさせるよりも、

 廃車になったものも含めて5台のプリマスを用意して、

 フィルムの逆回しっていう古典的な技術を駆使してる分、

 かえって質感が出て、リアルだ。

 人間は、妙な幸福感を得ると自信が生まれる。

 クリスティーンという彼女(アメリカ人はほんと物に名前をつけるね)を得、

 その魔力によるものかもしれないんだけど、

 ともかくポンコツを再生させたキース・ゴードンは圧倒的な自信をもつ。

 フューリーというローマ神話の女神フリアイに由来するこの車は、

「止まない者」「復讐の殺戮者」「嫉妬する者」の名のとおり、

 凄まじい恐怖をもたらすんだけど、

 それと並行して、キースの人格変貌がメインになる。

 まあ、映像にしても音楽にしても、

 もうすこしマニアックなこだわりがあってもいいとはおもうけど、

 ぼくなりに愉しめた映画ではあったかな~。

 

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屋根裏部屋のマリアたち

2014年06月16日 00時50分19秒 | 洋画2010年

 ☆屋根裏部屋のマリアたち(2010年 フランス)

 原題 LES FEMMES DU 6EME ETAGE

 staff 監督/フィリップ・ル・ゲ

     脚本/フィリップ・ル・ゲ、ジェローム・トネール 撮影/ジャン=クロード・ラリュー

     美術/ピエール・フランソワ・ランボッシュ 音楽/ホルヘ・アリアガータ

 cast ファブリス・ルキーニ ナタリア・ベルベケ サンドリーヌ・キベルラン

 

 ☆1962年、パリ

 家政婦役のナタリア・ベルベケが妙に美しい。

 つい垣間見てしまったシャワーの場面でのスタイルも、

 これまた美しい。

 着痩せするたちなのねってことがわかる分、

 ファブリス・ルキーニの胸のときめきが増すんだな、これが。

 憎い脚本だわ。

 ただ、有閑マダムのサンドリーヌ・キベルランが、

 まあ、財産と対面もあるんだろうけど、

 意外に旦那のことが好きだったんだよね?

 ファブリスがナタリアの裸を観てしまったことで興奮して誘いかけたときも、

 まんざらでもないまま誘いに応じてセックスしちゃったり、

 ファブリスが屋根裏に住んだ理由を自分なりに解釈して、

 自由や生きることの大切さについて旦那の主張を認め、

 おたがいにゼロからやりなおそうといってセックスに誘うのは、

 自分の気持ちが旦那にまだあるっていうことの証なはずでしょ?

 ところが、そのとき、

 旦那におもわずナタリアがもう辞めたと告げてしまい、

 ファブリスが自分の肉体を捨てて屋根裏へ急いだときに、

 自分はもう愛されていないのだと自覚したことで、

 離婚に踏み切り、画家と出会ったっていう解釈でいいんだろうか?

 まあ、そんなことはいいとして、

 ラスト、スペインのバスク地方へファブリスが行くとき、

 それまでのシトロエンじゃなくて真っ赤なオープンカーで行くのは、

 かれの昂揚ぶりをあらわすのに恰好の車だし、

 さらに、

 ナタリアが、

 生んですぐに別れさせられて寄宿舎に入れられていた息子を取り返しただけじゃなく、

 あらたに娘を生んでいたという事実がそっと聞こえてくるあたり、泣かせる。

 家政婦の仲間たちで、

 ナタリアの家のすぐ近くに移住していた連中が、

 ファブリスの問いに口を濁すあたりのナタリアの気持ちを重んじる心情も、

 実によく描けてる。

 また随所に挿入され、最後にも奏でられる音楽もいい。

 たしかに夢物語ではあるし、

 登場人物に悪者はおらず、それどころか美容院のオーナーにしても、

 みんながみんな好い人ぞろいなのは、好かない向きの観客もいるだろうけど、

 ぼくは、とっても安心できて、おもしろかった。

 こういう観ていてほっとする映画に久しぶりに出会った気がするわ。

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