◇ロープ(1948年 アメリカ 80分)
原題 Rope
staff 原作/パトリック・ハミルトン戯曲『Rope's end』
製作/アルフレッド・ヒッチコック シドニー・L・バーンスタイン
監督/アルフレッド・ヒッチコック
脚色/ヒューム・クローニン 脚本/アーサー・ローレンツ
撮影/ジョゼフ・ヴァレンタイン ウィリアム・V・スコール
美術/ペリー・ファーガソン 音楽/レオ・F・フォーブステイン
cast ジェームズ・スチュアート ジョン・ドール ファーリー・グレンジャー
◇1924年5月21日、シカゴ、ローブ&レオポルト事件
「世紀の犯罪」という表現を史上初めて用いられたこの事件は、
シカゴ大学に在籍し、同性愛の関係にあるユダヤ人学生の、
ネイサン・フロイデンソール・レオポルド二世とリチャード・アルバート・ローブが、
ユダヤ人実業家の息子で当時16歳のボビー・フランクスを誘拐殺害し、
身元がばれないように顔と性器を硫酸で焼き、遺棄した上で、
身代金誘拐に見せかけようとしたものの、ほどなく捕まった完全犯罪未遂事件だ。
ちなみに、犯人ふたりが罪を認めながらも異常性をちらつかせ、
たがいに罪をなすりつけあい、死刑においこまれようとするのを、
老齢の弁護士クラレンス・ダロウが、世間の注視の中、
終身刑(殺人罪)と99年の懲役刑(誘拐罪)に持ち込むという、
至極、興味深い事件ながら、
パトリック・ハミルトンは同性愛の部分を中心に戯曲の下敷きとしただけで、
ヒッチコックもまた戯曲をほぼそのまま映像化し、
事件については追わなかった。
理由は、わからない。
ヒッチコックは『見知らぬ乗客』を観るかぎり、
同性愛には興味があったみたいだから、
この事件はかっこうの題材だとおもうんだけどね。
ま、それはともかく。
この映画が「初づくし」となっているのは、
なにも『ローブ&レオポルト事件』を初めて映像化したってだけじゃない。
よくいわれているように、ホモを題材にした初めての映画であること、
ヒッチコックの初のカラー作品であること、
また、初の製作作品であること、
さらに、初の現実時間との同時進行であること、
くわえて、ジェームズ・スチュアートがヒッチコック作品に初出演したこと、
以上の5点からだ。
初の全編ワンショット撮影ともいわれるけど、これは明らかな間違い。
ワンショットというのは、
カメラが回り始めて停止するまでの一連の動作をいうもので、
途中で止まってしまっては、ワンショットにならない。
尺80分の短さながら、
35ミリカメラの当時のマガジンは最長でも15分ほどしか撮影できない。
だから、全編ワンショットに見せかけるために、
ヒッチコックは苦労したにちがいない。
死体を入れた箱を開いたときの蓋や登場人物の背中に寄り、
暗転したような一瞬をつないで、
あたかもワンショットのように見せているんだけど、
それでも限界はある。
で、結局、カットを割った。
ジェームズ・スチュアートのバストショットから始まるカットだ。
でも、80分の尺の内、ぼくが数えることができたのは、
ちょっと好い加減ながら、トップも含めると7回のカット割りで、
そのほかの繋ぎは見当たらなかった。
カットの長さは約6分から約13分に散らばっていて、
平均は11分くらいだったから、ほぼ80分になるよね?
卒論にこの映画を取り上げるんなら、
ストップウォッチ持って測るんだろうけど、
悲しいかな、ぼくの当時、そんなことはおもいもよらなかった。
実際、『ロープ』を観るためには名画座に行かないといけなかったし、
テレビでやるのを待ってたら、卒業式が来ちゃっただろう。
つまり、映画の研究室にでもいないかぎり、
一般の大学生では、『ロープ』の研究は、ほぼ不可能だった。
てなことからすると、
ほんとに好い時代になったもんだね。