Kinema DENBEY since January 1. 2007

☆=☆☆☆☆☆
◎=☆☆☆☆
◇=☆☆☆
△=☆☆
▽=☆

汚名

2022年05月22日 23時10分17秒 | 洋画1941~1950年

 ◇汚名(Notorious)

 

 けど、この映画が1946年に出来上がってるのには驚く。

 というのも、この映画のモデルにはなることは決してないアドルフ・アイヒマンがブエノスアイレスで連行されるのは1950年のことで、その瞬間まで、アイヒマンの逃亡先は世界の誰も知らないし、実際、1946年の段階ではアイヒマンはまだドイツにいた。けど、アイヒマンの潜伏が発覚するのはその息子が当地のユダヤ人の娘と交際したことが原因とされるんだけど、このユダヤ人の娘は背後があるんじゃないかとすらおもえるほど鮮やかな発覚で、そういうことをおもえば、この映画の設定は未来を予見していたような、そんなふしぎな気分にすらなる。

 とはいえ、イングリッド・バーグマンはスウェーデン生まれの完璧な北欧系の女性だから、全然ちがうんだけどね。

コメント

わが谷は緑なりき

2021年12月27日 23時47分13秒 | 洋画1941~1950年

 ◇わが谷は緑なりき

 

 美術が凄い。これだけのオープンは作れないよ。撮影もたいしたもんだし。

 リアリティってやつは、こういう画作りをいうんだろう。炭鉱の坑道も、昇降機の上がり下がりする縦穴も、もくもくと白煙を吐いていく煙突も、どれもみんな、現実味にあふれてる。当時のウェールズの炭鉱町ってこんな感じだったんだろうなあって気になってくる。もちろんセットはひと目でわかるんだけど、そういうことをいってるんじゃないんだよね。

 1941年の作品ってことに、なにより驚く。

 さすが、ジョン・フォードってことになるんだろうなあ。

コメント

誰が為に鐘は鳴る

2021年12月02日 17時53分37秒 | 洋画1941~1950年

 ◇誰が為に鐘は鳴る

 
 小学生の頃、テレビで放送される映画はかなり決まってて、この作品も飽きるくらい見かけた。そう、見かけたというのがいちばんしっくりくる。なぜなら、小学生の僕にスペイン内乱も義勇軍もヘミングウェイもまるきりわからなかったからだ。
 
 インディアナ・ジョーンズの原型のようなゲーリー・クーパーが『アメリカでは共和党でも逮捕されない』といったところでよくわからなかった。
 
 ただまあ、中学生くらいになってからは今度は興味の対象は『キスはどうやってしたらいいの?鼻は邪魔にならないの?』とかいう台詞に凝縮されるんだけど、それでもなんだかわかったようなわからないような感じだった。
 
 で、このたび、ひさしぶりに観たんだけど、イングリッド・バーグマンの知的な可憐さは変わらないものの、なんだかドーラのようなゲリラの女魁はさておき、引きの絵がほとんどなくて、どうにも単調なんだよね。
 
 1943年に制作されたことへの驚きはあるものの、なんだかね。そこへゆくと同じ頃に撮影された『白い恐怖』のおもしろはどうだろう。サム・ウッドとヒッチコックの才能の差をあらためておもいしらされるわ。
 
 にしても、バーグマン、髪の毛を切ってサム・ウッドに売り込みに行ったとかいう話がまことしやかに残ってるけど、それはともかく撮影されたのは、少なくとも髪の長かった『白い恐怖』の撮影後ってことになるよね。
 
 
コメント

市民ケーン

2021年08月03日 15時46分51秒 | 洋画1941~1950年
◇市民ケーン



冒頭掲げられる『中央日報』の見出しは『新聞王ケーン死す』で、小見出しは『世界最大は新聞チェイン建設者、大衆数萬の哀悼裡にねむる!』で、本文は『紐育・世界最大の出版業者として知られたチャールズ・フォスター・ケーン氏は壮麗なるザナデウ邸宅に於て昨夜死去した。同氏は過去数ヶ月間、専門医も匙を投げた大病のため静かに息を引き取った。ケーン氏の創立した大新聞王国は今後も依然として活躍を続くべくも、未来の経営方針の詳細は未だ発表されてゐない。』とある。

だからなんなんだって話なんだけど、新聞王にのぼりつめてゆく男の悔悟と懺悔みたいもんだなとしか受け止められず、とてもじゃないけど、名作中の名作のように扱われるのはちょっと合点がいかない。
コメント

断崖

2021年06月04日 19時09分03秒 | 洋画1941~1950年

 ◎断崖

 

 戦後、この映画がようやく日本で封切られたときの影響はものすごいものがあったんだろう。それは、ぼくらの想像できないくらいなもので、殺人事件と断崖をセットにしちゃうっていう、小説や漫画から2時間ドラマまで日本人が最大級に好む世界を作っちゃった。そういう意味からいえば、この作品はすごい。

 それだけじゃなく、たとえば、ジョーン・フォンテインがケーリー・グラントを疑い、親友を殺したんじゃないかと確信して屋敷に戻ると、美しき青きドナウの口笛が聞こえてくる。殺人を成功させて気分がよくなってるていう夫の心理と妻の恐怖が醸し出され、それが勘違いだとわかるやレコードのオーケストラに変わる場面とかだが、こうした一連の疑心暗鬼の描き方はもうヒッチコックならではで脱帽するしかない。

 けど、ラストはどうかなあ。原作では、夫はとんでもないゲス野郎だそうだけど、やっぱりもしかしたらほんとに殺人を犯してるかもしれないな~とおもわせる濃厚な不気味さが漂っててほしかったな~。

コメント

ミルドレッド・ピアース

2020年05月14日 00時42分49秒 | 洋画1941~1950年

 ◇ミルドレッド・ピアース(1945年 アメリカ 111分)

 原題/Mildred Pierce

 監督/マイケル・カーティス 音楽/マックス・スタイナー

 出演/ジョーン・クロフォード ジャック・カーソン ザカリー・スコット イヴ・アーデン

 

 ◇殺人事件の容疑者の回想

 やけに、撮影がいい。

 白黒映画だからだろうけど、照明が抜群で、影や光の演出が実にうまい。人物の影、手摺の影、暖炉の火の揺れた灯り。すべてが整えられてる。

 まあ、そんなことより中身の話なんだが、実は大して覚えてない。これが歳ってことかのかなって、特別におもったりするのだ。

コメント

天井桟敷の人々

2015年10月18日 00時00分34秒 | 洋画1941~1950年

 ◇天井桟敷の人々(1945年 フランス 190分)

 原題 Les enfants du Paradis

 第1幕 犯罪大通り(Le Boulevard du Crime)

 第2幕 白い男(L'Homme Blanc)

 監督 マルセル・カルネ

 

 ◇「愛し合う者同士にはパリも狭い」

 高校生の頃、映画にめざめた。

 で、田舎の少年の定番なんだけど、キネマ旬報を毎月購読するようになった。とはいえ、けっこう難しくて、すべてを読みこなせたわけでもなく、それでもまあ惰性で読み続けた。で、大学に入ったとき、戦後復刊800号記念で外国映画史上ベストテンってやつがあって、そこでこの作品は堂々第1位を獲得した。へえ~とおもった。おもって、いつかこの映画はちゃんと観なくちゃいけないな~ともおもった。

 それから、何度か観る機会があったような気もするんだけど、よく憶えてない。

 で、このたび観て、こりゃ忘れるよ、とおもった。

 考えてみればそりゃそうだろう。当時、キネ旬のベストテンに投票した人達は青春時代にこの作品を観てるわけで、当然、青春時代の甘酸っぱい記憶と共に投票されれば第1位にもなろうってもんだ。といいきっちゃうのは、おそらく、ぼくが映画については結局のところど素人で、鑑賞眼なんてものは欠片すら持っていないからだろう。

 けどさ、落ち目の女芸人アルレッティを臍に、パントマイム芸人と女たらしの役者と富豪の伯爵が恋仇となって、そこへ強盗殺人犯と明きめくらの古物商とが絡んで、ひたすら恋物語に時間が費やされるこの物語が、たとえフランスあたりでリメイクされたとしても、たぶん、つまらない恋愛映画にしかならないだろうってことくらいはわかる。つまりは、それくらいのあらすじなんじゃないのかなと。たしかに大作だってことはよくわかるし、当時よく制作できたものだっていう驚きもあるし、マルセル・カルネもさぞかし大変なおもいをして撮影したんだろうなって気もするけどね。

 ただ、おもうんだけど、アルレッティについてどうして自叙伝の「女優アルレッティ・天井桟敷のミューズ」が映画化されないんだろう?この作品がそれほどの名画なら、とっくに映画化されても不思議じゃないんだけどな~。ドイツ将校の愛人だったために対独協力者として嫌疑をかけられ、公爵夫人の愛人だったことも暴露され、それでも人気は衰えず、さらには銀幕に復帰して『史上最大の作戦』にまで出演(役名バロー夫人)するなんて、誰も考えつかないような最高の物語じゃんね。

 でもまあ、こういう話は、歴史街道とかで掲載されたりするのが一番なんだろうけどね、たぶん。

コメント

白い恐怖

2013年05月15日 15時55分15秒 | 洋画1941~1950年

 ◎白い恐怖(1945年 アメリカ 111分)

 原題 Spellbound

 staff 原作/フランシス・ビーディング『Spellbound』

     監督/アルフレッド・ヒッチコック 脚色/ベン・ヘクト

     撮影/ジョージ・バーンズ 音楽/ミクロス・ローザ

     美術/ジョン・エウィング 夢シーン装置/サルバドール・ダリ

 cast イングリッド・バーグマン グレゴリー・ペック ドナルド・カーティス ロンダ・フレミング

 ◎Spellboundの意味

 直訳すれば「魔法をかけられた、魅了された、うっとりした」とかいう形容詞なんだけど、意味のひとつに「呪文に縛られた」っていうのがある。

 てことは「呪縛」って訳すのがいちばんいいかもしれない。

 で、誰が呪縛されてるのかって話だけど、グレゴリー・ペックとイングリッド・バーグマンだ。

 謎解き混じりにいってしまえば、記憶を失って目覚めたときの状況から、偽りの医者となって病院に赴任したものの、白時に波線を眼にするとパニック発作が起きてしまうんだけど、それは幼い頃に弟を自宅の門で過失死させてしまったことからの呪縛で、スキー場で滑落したために意識と記憶を失ったものの呪縛は残っていて、自分を苦しめ、かつ身分と名前を偽ったため、同時に滑落した主治医殺害の汚名まで被せられてしまうという話。

 これに、絶世といっていいほどの美貌を備えながらも、真面目に診療と研究を続けることが当然だとする四角四面の女医が絡む。

 もちろん、イングリッド・バーグマンなんだけど、くそまじめで、なんのおもしろみもない女性ながら、実は、ペックにひと目惚れしちゃうわけだから、心の底では恋愛に憧れる女性だったんだろうなと想像できちゃうのがいい。

 ペックの呪縛はかなり深刻だけど、バーグマンの呪縛はかなり単純だ。恋も知らず、もちろん、男も知らずに医者になってしまったため、甘酸っぱくも苦しくかつ狂おしい緊張と焦慮と切迫をともなう体験もできず、ほんとうは悶々としているのに、それにすら気づかない天然娘なため、ひとたび恋を知ってしまうと、あとは彼のために雪山の危険な斜面にだって立っちゃうんだっていう、なんとも健気な行動派ぶりは、まあいってみれば、世の男どもの心をわしづかみにするような設定なわけで、誰もがペックになりたいと、当時、おもったことだろう。

 ちなみに、ヒッチコックは「理想の犠牲者はブロンド女。その美は、新雪に残る血の足跡に似ている」といってるから、雪山に立つバーグマンは、まさしく理想のブロンド女だったんだろね。

 ま、そんなつまらない感想はともかく、いまもいった背景を、バーグマンの視点で描いていく手法は、まさに心理サスペンスの教科書といってもよくて、記憶の断片と証拠の欠片とが徐々に明かされ、それと同時に、登場人物たちの心の綾が徐々に解けてゆく展開に加え、病院の禍々しさと雪山の恐ろしさと美しさが重なり合うことで、いっそう、面白みが増してくる。

 この映画が、以後の推理劇やSF劇にどれだけ貢献したか計り知れないけど、なんともため息をついちゃうのは、1945年に製作されたってことだ。

 終戦の年だよ。

 たまらんよね、まったく。

 なんたって、夢のシーンの装置を作ったのが、ダリ。

 ほんと、ヒッチコックとダリが組んで、バーグマンと映画を撮ってるとき、こちらは、生きるか死ぬかの瀬戸際にあったなんて、いやほんと、当時の日本が哀れにおもえてこない?

で、2021年12月01日にまた観たんだけど、すっかり忘れてた。恐ろしい。白い恐怖だ、まじ。ところでSpellboundの意味なんだけど、これ、バーグマンがペックに『魅了された』のもあるんだろうね。ところが、魅了された相手の署名を見たときに、別人じゃないかと怪しみ始め、Who are you?と尋ねるんだけど、この緊張した展開の数秒後、ペック自身が『ぼくが院長を殺してすりかわった』と告白しちゃうから観客は戸惑い始める。これがまた、Spellboundの『魔法をかけられる』のに通じるわけだね。

テーブルクロスにつけられたフォークの痕、鉄道の複々線、ベッドに平行に寄った皺、白い洗面台、こういう謎解きのかけらの小出しが徐々にペックの記憶を呼び起こすだけじゃなくて観客の興味と興奮も誘う。

なるほど、たいしたもんだ。

コメント

ロープ

2013年05月14日 23時24分44秒 | 洋画1941~1950年

 ◇ロープ(1948年 アメリカ 80分)

 原題 Rope

 staff 原作/パトリック・ハミルトン戯曲『Rope's end』

     製作/アルフレッド・ヒッチコック シドニー・L・バーンスタイン

     監督/アルフレッド・ヒッチコック

     脚色/ヒューム・クローニン 脚本/アーサー・ローレンツ

     撮影/ジョゼフ・ヴァレンタイン ウィリアム・V・スコール

     美術/ペリー・ファーガソン 音楽/レオ・F・フォーブステイン

 cast ジェームズ・スチュアート ジョン・ドール ファーリー・グレンジャー

 

 ◇1924年5月21日、シカゴ、ローブ&レオポルト事件

「世紀の犯罪」という表現を史上初めて用いられたこの事件は、

 シカゴ大学に在籍し、同性愛の関係にあるユダヤ人学生の、

 ネイサン・フロイデンソール・レオポルド二世とリチャード・アルバート・ローブが、

 ユダヤ人実業家の息子で当時16歳のボビー・フランクスを誘拐殺害し、

 身元がばれないように顔と性器を硫酸で焼き、遺棄した上で、

 身代金誘拐に見せかけようとしたものの、ほどなく捕まった完全犯罪未遂事件だ。

 ちなみに、犯人ふたりが罪を認めながらも異常性をちらつかせ、

 たがいに罪をなすりつけあい、死刑においこまれようとするのを、

 老齢の弁護士クラレンス・ダロウが、世間の注視の中、

 終身刑(殺人罪)と99年の懲役刑(誘拐罪)に持ち込むという、

 至極、興味深い事件ながら、

 パトリック・ハミルトンは同性愛の部分を中心に戯曲の下敷きとしただけで、

 ヒッチコックもまた戯曲をほぼそのまま映像化し、

 事件については追わなかった。

 理由は、わからない。

 ヒッチコックは『見知らぬ乗客』を観るかぎり、

 同性愛には興味があったみたいだから、

 この事件はかっこうの題材だとおもうんだけどね。

 ま、それはともかく。

 この映画が「初づくし」となっているのは、

 なにも『ローブ&レオポルト事件』を初めて映像化したってだけじゃない。

 よくいわれているように、ホモを題材にした初めての映画であること、

 ヒッチコックの初のカラー作品であること、

 また、初の製作作品であること、

 さらに、初の現実時間との同時進行であること、

 くわえて、ジェームズ・スチュアートがヒッチコック作品に初出演したこと、

 以上の5点からだ。

 初の全編ワンショット撮影ともいわれるけど、これは明らかな間違い。

 ワンショットというのは、

 カメラが回り始めて停止するまでの一連の動作をいうもので、

 途中で止まってしまっては、ワンショットにならない。

 尺80分の短さながら、

 35ミリカメラの当時のマガジンは最長でも15分ほどしか撮影できない。

 だから、全編ワンショットに見せかけるために、

 ヒッチコックは苦労したにちがいない。

 死体を入れた箱を開いたときの蓋や登場人物の背中に寄り、

 暗転したような一瞬をつないで、

 あたかもワンショットのように見せているんだけど、

 それでも限界はある。

 で、結局、カットを割った。

 ジェームズ・スチュアートのバストショットから始まるカットだ。

 でも、80分の尺の内、ぼくが数えることができたのは、

 ちょっと好い加減ながら、トップも含めると7回のカット割りで、

 そのほかの繋ぎは見当たらなかった。

 カットの長さは約6分から約13分に散らばっていて、

 平均は11分くらいだったから、ほぼ80分になるよね?

 卒論にこの映画を取り上げるんなら、

 ストップウォッチ持って測るんだろうけど、

 悲しいかな、ぼくの当時、そんなことはおもいもよらなかった。

 実際、『ロープ』を観るためには名画座に行かないといけなかったし、

 テレビでやるのを待ってたら、卒業式が来ちゃっただろう。

 つまり、映画の研究室にでもいないかぎり、

 一般の大学生では、『ロープ』の研究は、ほぼ不可能だった。

 てなことからすると、

 ほんとに好い時代になったもんだね。

コメント