☆砂漠でサーモン・フィッシング(2011年 イギリス 107分)
原題 Salmon Fishing in the Yemen
satff 原作/ポール・トーディ『イエメンで鮭釣りを』
監督/ラッセ・ハルストレム 脚本/サイモン・ボーファイ
撮影/テリー・ステイシー 美術/マイケル・カーリン 音楽/ダリオ・マリアネッリ
cast ユアン・マクレガー エミリー・ブラント クリスティン・スコット・トーマス アムール・ワケド
☆イエメンで鮭釣り
どうやら日本の釣り人口密度は、世界で第一位らしい。そりゃそうだよね。池釣り、川釣り、海釣り、釣り堀釣りと、そこらじゅうに釣りをする所がある。でも、イエメン共和国じゃそうはいかない。なんせ、アラビア半島の南のはしっこにあって、ものすごく乾燥してて、なんといっても、どでかい砂漠があって、しかも川がほとんどない。そんなところで、どうやって鮭を釣るんだ。釣りにまったく興味のないぼくでも、そう考える。だから、この映画を知ったときも、ま、砂漠ってのはイメージで、そこでしょぼい男と知的な女性の恋愛物なんだろなあ、とか、勝手におもいこんでいた。
ところが、まるでちがった。なんの前知識もなく観たのが、余計によかったのかもしれない。
この映画、好きだわ~と、素朴に感じた。
実際、妻と乾燥しきった仲になっている水産学者のユアン・マクレガーも、ぼくとおんなじことをおもい、イエメンで鮭の養殖なんてばかげてると一蹴した。おそらく、この映画が上映されるまで、世界中の人はおんなじ反応をしただろう。けど、映画の中でイエメンの山岳地帯の降水量と豊富な地下水を知るにおよび、お、なんだか、まじな話じゃないか、とおもうようになるんだから、もう、製作者の術中に嵌ってる。しかも、英国が中東外交を考慮に入れた国家プロジェクトで絡んでくるとなると、奇想天外な夢の話がいよいよ現実味をおびてきて、決して相容れないような恋の行く末までもが現実味をおびてくる。
このあたり、原作はどうなってるか知らないけど、脚本はめちゃくちゃうまい。
で、結局、どんな主題になっているかといえば「釣りは、奇跡を信じてひたすら待つことが極意のように、人生における夢も恋も、ひたすら信じて待つことができれば、きっと叶う」という、くすぐったくなるような、でも感銘したくなるようなものだ。
いいじゃないか~。
他人が聞いたら一笑に付されるような、それどころか呆れかえられるような話が、どんどん大きくなっていって、やがて国家を動かすようなプロジェクトになっていくなんて、しかも、そのおおもとが、アラビアで雄一の立憲共和制のイエメンの王が、国内に緑を増やしてゆくために、まず、鮭の養殖をして水を豊富にするんだっていう筋の通る理屈を抱えた上で、富豪貴族の道楽と勘違いされるのを承知で「わたしは、砂漠でサーモンフィッシングをしたいのだ」とだけ口にするのは、脚本上の導入の都合とはいえ、なんだかいいじゃん。
こういう、ほんとにできるかどうかはわからないけど、現実と理想の狭間にある夢に向かって進んでいく話って、わくわくするんですわ。