☆青いパパイヤの香り(1993年 ベトナム、フランス 104分)
安南語題 Mui du du xanh
仏語題 L'odeur de la papaye verte
英語題 The Scent of Green Papaya
staff 監督・脚本/トラン・アン・ユン 撮影/ブノワ・ドゥローム
美術/アラン・ネーグル 音楽/トン=ツァ・ティエ 衣装/ダニエル・ラファーグ
cast トラン・ヌー・イェン・ケー リュ・マン・サン ヴォン・ホア・ホイ グエン・アン・ホア
☆パパイヤの香りって、どんな?
おもってみれば、熟したパパイヤはデザートで食べることがあるけど、青いパパイヤは食べたことがない。なんてまずしい食生活なんだーってな話は、おいといて。パパイヤはベトナムあたりでは野菜として扱われてるらしい。煮ても焼いてもいいようで、映画の中で印象的なのは千切り。これに、ほかの野菜をちょちょいと足して、鷹の爪を刻んで入れた甘酢をかけて食べる。う~ん、おいしそうじゃん。
で、このパパイヤなんだけど、なんともエロチックな食材だ。
ていうより、絡みの場面が一度もなく、女性の肌もほとんど露わにならないのに、なんてまあエロチックな映画なんだろう。何度観ても、同じ感想が浮かんでくる。木魚の添えられた仏壇を見上げるトラン・ヌー・イェン・ケーの有名なカットは勿論、リュ・マン・サンの弩アップになる唇に塗られてゆく口紅の赤、おなじく、洗われてゆく髪の艶やかな黒、また、ほつれた鬢、どれをとってもエロチックだ。
けど、なによりもエロチックなのは、パパイヤなんだよね。パパイヤは、青い頃は男根の象徴で、熟したものを割ると女性器の象徴になる。木になっている青パパイヤをもぎとると、そこから白い濃厚な樹液が滴り出る。それをふたつに裂くと、真っ白な種が無数に現れる。夜這われたリュ・マン・サンが翌朝、青パパイヤを切り、そのぬめぬめとした糸をひくような真っ白な種をひと粒つまんで、水盤に漂う木の葉の中にそっと置くところなんざ、映画の中でいちばんのエロスだろう。熟パパイヤは、表面の青さは時の彼方に去って、黄色くなる。これをぱっくりとふたつに割ると、紅潮した肌色の中で、種は真っ黒に変わっている。この女陰そっくりの形状のせいで、パパイヤは女性器の象徴になるんだけど、映画ではさすがにそれを映すことはしないで、かわりに衣装で表現してる。横恋慕している作曲家の婚約者の口紅を黙って借り、自分の唇に塗るんだけど、そのとき、和毛がうっすらと輝き、くちびるが赤く塗られていく。割れたパパイヤが赤く色づくようにだ。
そのときのリュ・マン・サンの衣装は、初潮を経験しておとなになった証の赤。さらに、家政婦のときには教わらなかった字を覚え、昔から憧れていた作曲家と結婚し、お腹にいる子供に朗読してやるときの衣装は黄。そのラストカットで「あ、動いた」という表情をして、お腹をさすり、カメラはティルドアップするんだけど、そこには道教の神像が祝福するように立ってるんだよね。神様はおまえのことをずっと見つめてきたんだよって。なんてまあ、心憎い演出だこと。