◎クリムゾン・タイド
君はハーバード出か。趣味は乗馬か。わしは、乗りこなせんよ。老馬がせいぜいだ。馬には感心するよ。頭は悪いが勘は鋭い。女子高生に似ている。男のスケベ心だけはすぐ見抜く。教養は不要だってことだ。わかるようなわからんようなジーン・ハックマンの台詞だ。が、この馬の話が最後まで尾をひくんだ。
スピニッツァー種がスペイン生まれで最初は黒毛だが大人になると白毛になるというデンゼル・ワシントンと、ポルトガル生まれで最初から白毛だというハックマンだが、最後にわたしがまちがっていたといい、潜水艦の指揮をあやまるのかとおもえば観客をいなしてスピニッツァーはスペイン生まれだと嗤う。
たいしたもんだ、リドリー・スコット。
(2021-12-22 13:08:24)
チェチェン紛争にからんで核ミサイルが日米に向けて撃ち込まれるんじゃないかっていう危機が、潜水艦アラバマの出撃のひきがねになってるんだけど、この映画ではそんなロシア方面の情勢は背景以外の何物でもない。ハンス・ジマーの傑作曲に乗って描かれるものは、たたきあげで傲慢な白人と、知的な訓練をおこなってきた冷静な黒人の相容れない感情がどのような危機を経れば互いに歩み寄ることができるかという考察だ。それが、実際はトリエステ近郊スロベニアの馬ながら、ふたりおのおの、スペイン生まれとポルトガル生まれというまちがった主張を展開するふたりという構図で説明される。でも、構図を描きたいのなら文章ひとつで十分なわけで、これを背景にした緊迫劇がトニー・スコットの描きたかったものなのは疑いない。潜水艦という密閉された舞台空間がその緊張感をますます駆り立てる。うまい映画だ。