◇動乱(1980)
昭和7年4月仙台から始まる。姉の手紙で脱走する展開は『銃殺』とほぼ同じ。脱走兵の永島敏行の姉が吉永小百合なんだけど、身売りサせられそうな貧農にしては小綺麗だし、訛ってないのが気になるなあ。
そして皇道派の五一五事件。皇道派かと問われる高倉健は「自分は軍人であります。政治に興味はありません」というが、これに対して小池朝雄が「国民が豊かになるにはまず国家が豊かにならにゃならん。そのためには強い軍隊が必要だ」という。まあ、定番の理屈だね。
満洲朝鮮国境にて匪賊と戦い、陸軍の横流しした武器で負傷した部下が「日本帝国陸軍の兵隊はいったい誰のために死ぬのでありますか?」と叫ぶにおよび、高倉健は手紙をしたためる。
『國軍の御威光は今や地に堕ちたり。我が隊にはもはや医薬品なく、弾薬なく、食糧もなく、あるは兵士の御國をおもう忠誠心のみなり。我らが兵士らは辺疆の地にありて誰がために戦い 誰がために散らんとするや。ここに至り國軍の腐敗極まれリと閣下に直訴するも我ひとりの憤激の私情にあらずしてあまねく兵士らの声なき声というなり。閣下には国権を司る君側の奸賊らを今直ちに打ち倒し、國軍の改革こそ御国に対する急務なり。もしや閣下にそのご意思なしとするならば、我ひとりといえども御国のために暴発するを辞せず、もとより我が身はこの世に生を受けしときより大御心に対し奉り、一命を捧げるべしと』
こんな感じで第一部が終わるんだけど長い。
で、兵営やら会議やらは議論の応酬。
「おなじ日本国民でありながら、贅沢三昧な暮らしをしている奴がいる。一方、労働者や農民はいくら働いてもその日の飯が食えない。これが正しい国のあり方だといえるのか?」
「われわれは兵隊のために血気するんじゃないんですか?国防の第一線に立つ兵隊たちの家族がどんな暮らしをしているとおもってるんです?百姓は食えないから娘を売り、それでも食えないから首吊りをする、中小企業はばたばた倒産する、全国で小作争議や労働者のストライキが頻発し、それをいいことに財閥や政治家どもが豚のように肥えている。この期に及んで迷うということは同志に対する裏切りになりませんか?」
「五一五事件は一個人として蹶起した。だがわれわれはちがう。万一の場合、陛下の軍隊に汚名を着せることになる。しかしやるべき時がきたようにおもう」
ベクトルがまっすぐすぎないか?
感情的になりすぎた自己陶酔度が高いようにも感じるんだけど、森谷司郎、調子よくないなあ。