
さて明菜姉ちゃんの高校へゆくか・・・。
「おい!、こら!!、勝手に学校へ入るな!!!」
そう警備員に上から目線で呼び止められて、だから書類に記入して・・・。
そういえば、アチキのキャンパスなんか幼稚園のお散歩コーズになるぐらいだから、大学の先生は学校が自由に入れないということが不思議なんだ。靴から来客用と書かれたスリッパに履き替えると足下が冷たい。
さて目指すは美術準備室っと・・・・。
美術準備室に入ると、窓側にたくさんのイーゼルが並び、描きかけの絵やモチーフであふれていて、テレピン油の松ヤニの臭いが色濃くにおってくる。ここねえー、この空気・・・。
・・・
明菜「あっ、ホントに来たぁー!!」
「はい、ケーキの差し入れ!!」
キャーと歓声が上がる。ケーキの嫌いな女子高校生はいないですからね。
「みんなここで絵を描いているんだ」
明菜「先生が部活で使いなさいっていってくれたの。だから春休みでも暖房が入っているんだ」
「いいアトリエだな。ふとテーブルのクロッキー帳をパラパラとしていたら裸婦だ。あっ、そうかあ、みんなでモデルをしながら描きっこしているわけだ」
明菜「やだんーーん、オジサン。恥ずかしいからあまり見ないでよー」
「フゥーーん、みんな綺麗なボディをしているじゃん」
美ボディのたまり場か・・・。なんかいい場所だなぁー。
明菜「神谷先生がやってきたぁー」
「ああ!どうもどうも!、お邪魔してますぅー」
神谷「カミヤカーンです、はじめまして、ツカモッチャン先生は、よく知ってます」
「なんだぁー、身内だったか。いいアトリエですねぇー」
神谷「うん、生徒達に小さいけど家具で間仕切りをいれて一人一人のスペース風にしています。絵を描く生徒用です」
「デザインの生徒もいるの?」
神谷「中央の大きなテーブルがデザインの学生達のスペースです。コンピュータをつかうので学校の情報室にこもっている者も多いですよ」
「小さくても一人一人にスペースを与えると面白いよね」
神谷「一人一人スペースの作り方が全然違うでしょう」
「凄く個性がよく出ているよねぇー。こんな居心地の良いアトリエだったら毎日来たいよねぇー」
神谷「来たいどころか、学校が休みの時もお盆もお正月も・・、つまり1年中ここで制作して暮らしているんですよ。しかも朝一番に来て守衛さんに鍵をあけてもらって、夜8時の下校時まで、必ずいるんですよ。ここはかれらの蛸壺ね」
「すばらしい時間を生徒達におくらせてますねぇー」
神谷「それが私にできる唯一の教育だもんね。あっ、そうだ、4月は新入生が来るから、土曜日のお昼に歓迎パーティーをするんですよ。是非来てくださいよ」
「ハイハイ、ケーキ持って伺います」(歓声)
神谷「(笑)。生徒達が学校のキッチンをつかって料理を作るんでよ。おい!、誰だ、次の当番は?」
「あたしですぅー・・・」
神谷「美和子か・・、なにつくるんだい?」
美和子「キーマカレーとサラダですぅー・・・、ケーキにピッタリ(笑)」
神谷「生徒達は、ここで暮らしていると料理がうまくなるんですよ。彼女達の料理は美味しいですよ。是非食べにきてください」
「そりゃ、楽しみだなぁー、是非、是非・・・」
・・・
1日中隠っていたくなるなんて、なんて素晴らしい教育環境だ。
カミヤカーン先生は、生徒達に画力と記憶に残る最高の時間を与えている。
・・・
今年の岡本太郎現代芸術賞は、高校3年生の大西茅布(ちふ)の「レクイコロス」という作品だ。人間の欲望が運命によって翻弄されてゆく赤裸々な様子を油絵で制作し、55枚のインスタレーションとして展示された作品だ。どうみたって立派な大人の作品にみえるテーマと技量だ。それが今の高校生の実力だ、ということを思い出していた。
出典:美術手帳:https://bijutsutecho.com/magazine/news/headline/23601
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