デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

いつかチャンスが、とクリス・アンダーソンは弾き続けた

2012-04-01 07:46:00 | Weblog
 エディ・ヒギンズをはじめミシェル・サダビィ、ハロルド・メイバーン、デニー・ザイトリン、スティーヴ・キューン等、50年代から70年代にかけてに活躍したピアニスト達の新作が、90年代に入ってから日本のレーベルによって録音されている。なかには別タイトルのアルバムに違うディスクを入れても気付きもしない金太郎飴的なアルバムもあるとはいえ、忘れ去れようとされているピアニストにスポットライトを当てるのはジャズファンとして喜ばしい。

 パーカーのサヴォイ盤「An Evening At Home With The Bird」にクレジットされていたクリス・アンダーソンもそのひとりだ。シカゴで家庭用レコーダーで録音された音源ということもあり音は良くないが、天才をバッキングするピアノを見事にとらえている。その後の音源といえばフランク・ストロージャーのジャズランド盤「Long Night」と、同レーベルのリーダー作「Inverted Image」しかなく、地元シカゴのヴィージェイに吹き込んだ60年の初リーダー作「マイ・ロマンス」はお蔵になっていて陽の目を見たのは83年のことである。このアルバムの発掘によりにわかに存在を知られるようになったものの録音数が少なく注目されることはなかった。

 パーカーと共演したことが即名声につながるわけではないが、独学で会得した高度なテクニックとハーモニー感覚は特筆すべき点がある。これほどのピアニストが埋もれてしまったのは重度な身障者で盲目というハンディを背負っていたため行動範囲が限られたのだろう。91年にDIWレーベルの手で録られた「Blues One」は、障害を克服してピアノを弾き続けてきた孤高の証といえる作品だ。日本企画でスタンダード中心の選曲となると丸みを帯びた所謂日本人好みの音やフレーズを想像してしまうが、そんな一辺倒の甘さや媚びは微塵も感じられない。これがカクテルピアノ紛いに慣れた耳には新鮮に聴こえる。

 そのメロディのロマンティックさから夢見る乙女的になる「いつか王子様が」でさえ、極力メロディラインを抑えアドリブに移るスタイルをとっており、与えられた曲は何であれ重要なのはアドリブだ、というパーカーから引き継いだジャズ精神を保ち続けているのだろう。実力がありながらレコーディングの機会に恵まれないピアニストは多数存在する。「いつかチャンスが」と願いつつ腕を磨いているのかもしれない。
コメント (16)
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