
予告編とレヴューでパスしようと思っていた「シェイプ・オブ・ウォーター」だが、アカデミー作品賞を受賞したというので話の種に観た。米ソ冷戦下のアメリカが舞台で、孤独な女性と不思議な生き物の愛を描いた物語である。「水の形」という原題は意味深長だ。映画関係者が諸手を挙げて褒めちぎっている作品に水を差すようだが、どうにも釈然としない。ノミネートされた作品を全部観てはいないが面白さでいうならこれを超えるものがあった。
きわどいシーンもあり大人の御伽噺としての楽しみ方もあるが、SFやファンタジーが苦手な小生はどうしても否定的になる。好みは別にして、水も漏らさぬ機密機関の警備を掻い潜るシーンは娯楽性満点だし、芸術的観点からみるなら色使いは見事だ。ティール色と呼ばれる緑がかった青色が全体を包んでいて、主人公の心理が色に映される。また、60年代のアメ車が好きな方なら思わず身を乗り出すシーンがある。ティール色のキャデラックが出てくるのだ。それも新車である。アメ車でなければ似合わない色が一段と輝く。この時代の車を新車と変わらぬ状態で保存しているカーマニアに脱帽だ。
バックに流れる音楽もシーンに溶け込む。数々の名作を手掛けているフランスの作曲家、アレクサンドル・デスプラが担当しているのだが、サウンドトラック盤を聴くだけで幾つもの物語が生まれるほど深い。挿入歌はマック・ゴードンとハリー・ウォーレンの名作「You'll Never Know」を使っていて、メロディーといい歌詞といいピタリとはまる。映画ではルネ・フレミングが歌っていたが、曲名を聞いてローズマリー・クルーニーの名唱を思い浮かべたヴォーカルファンも多いだろう。ハリー・ジェイムスがヴァースを語るように吹き、ロージーがコーラスを楽器のように歌いだす。心地よさがトランペットのベルから抜け出たように広がる。
2017年のアカデミー作品賞は、最有力とみられていた「ラ・ラ・ランド」を覆して、黒人が主演した「ムーンライト」だった。前年、男優賞女優賞ともノミネートされたのは全て白人だったため「白すぎるオスカー」と揶揄されたことが遠因とも言われている。アカデミー賞は社会状況や政治に大きな影響を受け、芸術性や作品の完成度の高さだけでは選ばれないときく。水面下で何かが動いたのかも知れない。