http://www.tegami-movie.jp/
DVDレンタルではなく、CATVで。
思わぬ拾いものだった。
兄・剛志(玉山鉄二)が刑務所の慰問に来た弟・直貴(山田孝之)の舞台姿を拝むクライマックスシーンで、不覚にも泣かされました。
舞台の上で久しぶりの漫才をするという以上に、兄が服役している刑務所に来て動揺している直貴は、兄・剛志をそれと認めることはない。私たち観客も、坊主頭ばかりの服役者たちの中で見分けがつかず、必ずいるはずの剛志をなかなか見つけられない。ただ、遠目にでも弟と会えた感謝の祈りを捧げる剛志の合掌の姿が映される。
ここで、カメラは剛志に寄らない。その頬を濡らしている涙で剛志の視界が曇っているのと同様に、剛志の表情の輪郭はぼやけている。服役者中の一人という構図より近くには剛志に近づかない。よく考え抜かれた再会シーンだと思う。
凡庸な演出なら、舞台の上と下から兄弟は互いを認め、涙顔のクローズアップとなるか、もっと凡庸な演出なら、さらに舞台の後に刑務所の計らいで二人が対面するという愁嘆場をつくるところだが、そうはしなかった。
それまで送られた「手紙」のように、兄は遠くから弟だけを思い、弟は兄の犯した罪によって世間に苦しめられながらも、なんとか世間に居場所を見つけようとしている、そんな二人の立場と視野を象徴する場面とした。
原作は読んでいないが、「犯罪者の家族は差別されて当然だ」という科白にみられるように、あるいは、被害者の息子である緒方(吹越満名演!)が「もう終わりにしよう」というところなど、犯罪の加害者と被害者の責任と心の均衡をよく測った脚本は、原作に拠るものらしい。
坊主頭で合掌する玉山鉄二の姿が、どこか南方で戦死したまま骨を晒している兵隊さんの幽霊を思わせて、哀切だった。ただ、まるで死者のように、剛志に人間臭さがないのは原作の造型だろうか。「手紙」の中でほんの数行、あるいはわずかな刑務所のシーンでも、更正一途だけではない剛志の日々の喜怒哀楽を見せてほしかった。
しかし、それでも吉岡秀隆の演技の影響から脱せない山田孝之より、玉山鉄二に印象が深かった。「日本の役者は、兵隊とヤクザを演らせると上手い」といった監督がいたが、なるほど坊主頭がよく似合っていた。
昔なら、吉永小百合が演ずる役どころが沢尻エリカ。若いが完成された女優だと思った。一人の職業人に対して、やり遂げた映画の上映に先立つ舞台挨拶の場で、「スタッフの皆さんにお手製のクッキーを差し入れたそうですが」などと仕事とは無関係な質問をされて、年若いとはいえそのキャリアを否定するような少女扱いに、ムッとしたのは当然と思える、立派な演技だった。
まだ、涙が多すぎたと思う。が、これも佳作だろう。
DVDレンタルではなく、CATVで。
思わぬ拾いものだった。
兄・剛志(玉山鉄二)が刑務所の慰問に来た弟・直貴(山田孝之)の舞台姿を拝むクライマックスシーンで、不覚にも泣かされました。
舞台の上で久しぶりの漫才をするという以上に、兄が服役している刑務所に来て動揺している直貴は、兄・剛志をそれと認めることはない。私たち観客も、坊主頭ばかりの服役者たちの中で見分けがつかず、必ずいるはずの剛志をなかなか見つけられない。ただ、遠目にでも弟と会えた感謝の祈りを捧げる剛志の合掌の姿が映される。
ここで、カメラは剛志に寄らない。その頬を濡らしている涙で剛志の視界が曇っているのと同様に、剛志の表情の輪郭はぼやけている。服役者中の一人という構図より近くには剛志に近づかない。よく考え抜かれた再会シーンだと思う。
凡庸な演出なら、舞台の上と下から兄弟は互いを認め、涙顔のクローズアップとなるか、もっと凡庸な演出なら、さらに舞台の後に刑務所の計らいで二人が対面するという愁嘆場をつくるところだが、そうはしなかった。
それまで送られた「手紙」のように、兄は遠くから弟だけを思い、弟は兄の犯した罪によって世間に苦しめられながらも、なんとか世間に居場所を見つけようとしている、そんな二人の立場と視野を象徴する場面とした。
原作は読んでいないが、「犯罪者の家族は差別されて当然だ」という科白にみられるように、あるいは、被害者の息子である緒方(吹越満名演!)が「もう終わりにしよう」というところなど、犯罪の加害者と被害者の責任と心の均衡をよく測った脚本は、原作に拠るものらしい。
坊主頭で合掌する玉山鉄二の姿が、どこか南方で戦死したまま骨を晒している兵隊さんの幽霊を思わせて、哀切だった。ただ、まるで死者のように、剛志に人間臭さがないのは原作の造型だろうか。「手紙」の中でほんの数行、あるいはわずかな刑務所のシーンでも、更正一途だけではない剛志の日々の喜怒哀楽を見せてほしかった。
しかし、それでも吉岡秀隆の演技の影響から脱せない山田孝之より、玉山鉄二に印象が深かった。「日本の役者は、兵隊とヤクザを演らせると上手い」といった監督がいたが、なるほど坊主頭がよく似合っていた。
昔なら、吉永小百合が演ずる役どころが沢尻エリカ。若いが完成された女優だと思った。一人の職業人に対して、やり遂げた映画の上映に先立つ舞台挨拶の場で、「スタッフの皆さんにお手製のクッキーを差し入れたそうですが」などと仕事とは無関係な質問をされて、年若いとはいえそのキャリアを否定するような少女扱いに、ムッとしたのは当然と思える、立派な演技だった。
まだ、涙が多すぎたと思う。が、これも佳作だろう。