コタツ評論

あなたが観ない映画 あなたが読まない本 あなたが聴かない音楽 あなたの知らないダイアローグ

ダビンチ・コード

2006-05-28 13:43:30 | レンタルDVD映画
珍しく映画館で観た。ビデオを待てばよかった。金はかかっている。役者もわるくない。とくにイアン・マッケラン。というか、イアン・マッケランくらいだな、役といえるような造形が必要な登場人物は。原作本のダイジェスト。一種のパブ。極東の小さな島国の無宗教者には、キリストに実は血脈があって、子孫がいることが明らかになると、とんでもなくえらいことになるという実感がまるでない。麻原が神でないのと同様に、キリストも神ではないのは当たり前だと思っているから。それ以前に、神格から人間宣言した例を、同時代ではないが、身近に知っているという極東固有の条件もあるだろう
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ミリオンダラーベイビー

2006-05-27 20:54:26 | レンタルDVD映画
続けて2回観てしまった。たしかに、観終わったとたん、すぐさま誰かに語りたくなる映画だった。脚本とカメラと俳優と演出と美術と衣装が上出来。とくに脚本とカメラと俳優と演出と美術と衣装が素晴らしい。よく知らない分野だが、たぶん編集も。

「モ・クシュラ」「レモンパイ」「君は21歳じゃない。俺もそうだが」「生と戦った娘」「タフなだけでは充分ではない」「自分を守れ」「ボス」。

二重、三重の意味を込めた小道具と台詞、伏線に満ちたエピソード。主要な場面はボクシングジムに限られ、登場人物もほぼ3人。イェーツを愛読するボクシングトレーナー・フランキー(Clint Eastwood)と片目を失明した元ボクサーでジムの下働きのスクラップ(Morgan Freeman)という老残のコンビに、典型的な「ホワイトトラッシュ(白人の屑)」の家庭に育ち13歳から食堂のウェイトレスをして生きてきた31歳のマギー(Hilary Swank)。

栄光と無残に満ちたストーリーはモノローグによって進められ、ダイアローグによって色づけられる。そう、きわめて演劇性が高い映画だ。舞台でもできる。マギーとフランキーにおいてはイライザとヒギンズ教授、あるいは白雪姫と王子(原典とは異なり、王子の口づけで白雪姫は眠るのだが)、フランキーとスクラップはドンキホーテとサンチョパンサなど、3人の造型についてはいくつもの典型を思い浮かべることができる。

しかし、舞台では再現できない絵も多い。圧倒的なボクシングのファイト場面、ボクサーが受けた傷の応急処置の手際、なにより、マギーの輝く瞳と挑戦的な口許、フランキーの愛おしげな睫毛の震え、すべてを見通している虚ろな瞳ながら狂おしいばかりに期待するスクラップの鼻と髭。ニュアンスを織り込んだすべての表情のアップは映画ならではのものだ。あるいは、最後の最後、色を失っていたマギーの唇には口紅が塗られていたところなど、見間違いかとテープを戻して見た。こんな小さな幻想シーンは舞台ではできない。

とにかく、エディ・タウンゼントを思い起こさせるイーストウッドの深い皺と出し殻のような声、スワンクの無垢な直視が映されただけで、胸が詰まってくる。何かが込み上げてくる。この情動には覚えがある。やはり恋愛映画である。自分の身の上に起きたことをフランキーがどのように受け止めるか、マギーはまずそれを心配する。そこまでの情は愛だ。恋して愛したのだ。2人とも。

瑕疵があるとすれば、神父と教会か。アイリッシュの映画だから、キリスト教の影響が抜きがたいのかと思ったが、というより過半を占めるクリスチャンの観客たちのために必要だったのかもしれない。

ついでに、「オープン・ウォーター」。海の肉感的なまでの不気味さと禍々しさ。だが、実話にしては決定的におかしい。


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『アジアパー伝』(鴨志田穣・文 西原理恵子・挿し絵 講談社)。

2006-05-24 13:47:52 | ブックオフ本
さすが、凶眼の西原が亭主にしただけに(やはりその後離婚したそうだが)、鴨志田穣、非凡なり。タイの山頭火だな。凡百のアジア紀行文や旅行記を読むより、はるかにその地の色や匂いや音が感知できる。ほとんど色や匂いや音について書いていないのに。こんなのを読むと、紀行文や旅行記を書くというのは空恐ろしいことだとわかる。車谷長吉が女房のお供で出かけた豪華客船世界一周記を書いているそうだが、何処にいっても自らの「欲どおしく、卑しい人間性」ばかりに思いを馳せる好評連載になっているらしい。やはり紀行文や旅行記は恐ろしい。ところで、穣というのは雰囲気のあるよい名前だな。
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