『壊れかた指南』(筒井康隆 文芸春秋)を読んだ。
例によって、帯文を引く。
筒井康隆は、壊れ続ける
これぞ世界文学遺産、全30篇のサプライズ
7年ぶり、21世紀初のオリジナル短編集
デモーニッシュな笑い、油断ならぬ展開、途轍もないカタルシス!
ファンが涎をたらして待っていた、天才作家の恐るべき短編集
以上のうちで、「筒井康隆は、壊れ続ける」以外については、まったく同意できない。短いから、短編であることには同意するが、短編小説であるかについては、ただちに同意できない。いったい、この30篇は小説なのだろうか。驚嘆と畏怖をこめて、「これは小説なのか?」というのではなく、呆れ返って、「これって小説?」という読後感。読むに堪えないナアと思いつつ、しかし、一気に読んでしまったのだ。どうしてだろう。
かつて、筒井康隆はひとつのジャンルだった。筒井康隆の小説は筒井康隆でしか読めなかった。これは当たり前のことではない。余人をもって代えがたい作家だった。『大いなる助走』や『虚人たち』あたりから、ちょっと読みづらくなってきた。実験小説を手がけるようになって、俺は遠ざかった。それは別にかまわない。こっちがついていけないということは、筒井康隆にかぎらず、ままあることだ。その後、いくつか短編集を読んでみた。尻切れトンボが多いなという感想を持つ作品が少なくなかった。しかし、『驚愕の荒野』のような秀作もあった。
この『壊れかた指南』では、最初の「漫画の行方」と最後の「逃げ道」をのぞけば、後は箸にも棒にもかからぬ思いつきとしか思えなかった。解説がないのは、引き受け手がいなかったのではないか、と疑いたくなるくらいだ。しかし、一気に読んでしまったのだ。どうしてだろう。もしかすると、俺が筒井康隆を、あるいは最先端の現代小説を、まったくわからないせいかもしれない。誰か筒井康隆はだいじょうぶなんだと教えてくれる人はいないものか。いまや筒井康隆はジャンルからジャングルになったように思う。見通しが悪く、どこにも出ることができない。「おおーい!」。
誰も言わないらしいが、ついでに、「エキストラレベル」の「俳優・筒井康隆」も店じまいしてほしいものだ。
(敬称略)