4分間のピアニスト
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女子刑務所で手のつけられない囚人ながら天才ピアニストのジェニー(ハンナー・ヘルツシュプルング)が、老ピアノ教師のクリューガー(モニカ・ブライブトロイ)と出会い、ピアノコンクール優勝をめざすという、ハリウッド映画によくある話なのだが、ドイツ映画になると色調はぐんと昏く、ほとんどの舞台を占める古びた刑務所がまるで中世の城壁のように陰鬱にみえる。
しかしだからこそ、シューマンはじめ、映画のなかで演奏されるクラシックのピアノ名曲が、しっくりと映像に馴染んだ。ヨーロッパでさえ、クラシックは大衆性をほとんど失っていて、日本と同様、一部好事家だけのものと聞く。ジェニーもハイティーンらしく、ジャズやロックをクラシック同様に愛するが、クリューガーは俗悪な音楽として斥け、ジェニーが弾くのを禁ずる。
天才少女ピアニストから挫折して不良少女になるジェニーの軌跡や、フルトベングラーから将来を嘱望されたピアニストなのに、演奏家の道を自ら閉ざしてピアノ教師を続けてきたクリューガーの決断の理由も、孤独な二人が寄り添うまで過去や心象はこの映画では枝葉末節に過ぎない。だから、少女マンガのように荒唐無稽な試練と不幸で構わないのだ。
この映画は触れ込み通り、ラスト4分間のコンサート決勝におけるジェニーの圧倒的な演奏場面のためにつくられた。すなわち、ジェニーを演じたハンナー・ヘルツシュプルングがどのような音楽を演奏して新星誕生の喝采を受けるか、それがこの映画の肝だったことが、この4分間でわかる仕掛けだ。
音楽を学び、味わうことで人間的成長を遂げ、自分以外の人間と和解し、受け入れていくという感動的なヒューマンドラマに見えて、実はそうではない。どこまでも音楽に取り憑かれた人間の物語であるとラスト4分間に反転することで、類似の映画と異なった音楽映画になった。
ホセ・メンドーサと対決した矢吹丈がラストラウンドで、ダンクシュートを決めたみたいなものだが、スカッとしたからこれでいいのだ。本場のドイツでもクラシックは落ち目の三度笠なんだなとあらためて知った映画だった。一緒に観た、かつてのピアニストは、あんな演奏をしたら指が切れてしまうと呆れていた。ヒューマンドラマだけでなく、演奏も荒唐無稽だったのか。
ONCE ダブリンの街角で
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アイルランドのダブリンの街角で歌うストリート・ミュージシャンがチェコ移民の娘と出会う。恋愛に向かうと思いきや、この映画でも二人は音楽的な逢瀬を繰り返しはするが、結局は結ばれないという、類似の映画と異なった音楽映画である。
グレン・ハンサードの曲と歌が素晴らしい。マルケタ・イルグロヴァの歌もいいが、映画女優としても表情豊かで魅力的だ。次回作を観たいものだ。
ダブリンをよく知った歌手とスタッフがつくっているため、伝統的な建物や穴場紹介のような観光映画にはならず、ダブリンは近代的な平板な都市なんだなと印象薄いが、容貌魁偉なダブリン市民は登場する。
サントラを買いに走りたくなった。ドラムがよかった。