子どもの頃、こんな「ごっこ遊び」に熱中したのは、私だけではないはずだ。女の子の膝枕に頭を乗せて、唇の端から血を一滴たらしながら、「暗くなってきたぜ、ゴフッゴフッ、ガクッ」と死んでいく殺し屋、あるいはギャング。銀玉鉄砲を片手の銃撃戦あり、裏切りありの抗争劇のシナリオを口伝するのも、立ち回りを振付けるのも、膝枕を提供するヒロインを指名して、「死なないでえ~」というセリフ指導をするのも、もちろん主役の殺し屋、あるいはギャングを演ずる私だ。
赤インクを調達してきて、口に含んでおいて、唇からたらす練習だって、前夜に余念なかったものだ。救急箱から包帯をひと巻き持ち出して、赤インクを滲ませて頭に巻き、利き腕を余りの包帯で吊った敵役と、新聞紙を丸めて固めたナイフで決闘したこともある。おかげでどれほどお袋の財布から金をくすねたか。ときには500円札もあったくらい。敵役や悪役、端役、エキストラ諸君に、駄菓子屋で飲み食いさせるギャラを支払うためだ。唇の端から血をたらしながら、何か一言いって死ぬ。それだけがしたかった。いまから思うと、身悶えするほど恥ずかしい思い出だ。
しかし、それを大人になっても続けているのが、いわゆるヤクザ映画、アメリカではギャングやマフィア映画、フランスならフィルムノアール(暗黒映画)なのだ。そして、黒澤や小津の作品以上に、日本のB級アウトロー映画は、世界の映画界に影響を与えてきた。香港映画についてはよく知られているが、タランティーノをはじめとしてアメリカ映画にも、かつての日活アクション映画や東映現代ヤクザ映画の影響を受けた、「唇の端から血をたらしながら、何か一言いって死ぬ」だけの映画がときどき企画される。これもその一本。
THE HITMAN チャーリー・バレンタイン
http://www.allcinema.net/prog/show_c.php?num_c=342521
「唇の端から血をたらしながら、何か一言いって死ぬ」映画は、「唇の端から血をたらしながら、何か一言いって死ぬ」奴ばかりが登場して、その「唇の端から血をたらしながら、何か一言いって死ぬ」奴に感情移入する映画です。最初から最後まで、決まりきった展開と場面が続くわけですから、見どころはひと癖もふた癖もある俳優たちの面構えと、いかにもな演技合戦です。
私もいつも主役ばかり演っていたのではなく、悪役や敵役もかなりこなしました。ギャラに限りがあるというだけでなく、たまには他に譲らなくては怒るやつが出てきますし、悪役とはいろいろな殺され役でもあるので、それなりに死に工夫ができるのは楽しいものです。「仁義なき戦い」を観たとき、東映の大部屋俳優にひとしい端役たちが、チンピラヤクザに扮して大仰に死んでいく場面は、いかにも楽しそうでした。子どもの「ごっこ遊び」と同型の楽しさがあるから、「唇の端から血をたらしながら、何か一言いって死ぬ」映画は、世界に伝染していくのでしょう。
主役の老ギャング・チャーリー・バレンタインを演ずるレイモンド・J・バリーをはじめ、キース・デヴィッド、ジェームズ・ルッソ、スティーヴン・バウアーといった悪役俳優が嬉しいですね。キース・デヴィッドは、「レクイエム・フォー・ドリーム (2000)」でジェニファー・コネリーを犯す黒人麻薬密売人でした。スティーヴン・バウアーは「スカーフェイス」でアル・パチーノの相棒でした。メラニー・グリフィスと結婚していたとは! ジェームズ・ルッソのこの怖い顔はどこかで観ているはず。
キース・デヴィッド
右がスティーヴン・バウアー、かなり太りました。ジェームズ・ルッソ
冒頭、なんと日本の歌謡曲が流れます。キャバレーシーンの代わりに、ポールダンスクラブが出てきます。まさに、日活アクションか東映ギャング映画です。
Pink martini - Taya Tan | Live on Later with Jools Holland
赤インクを調達してきて、口に含んでおいて、唇からたらす練習だって、前夜に余念なかったものだ。救急箱から包帯をひと巻き持ち出して、赤インクを滲ませて頭に巻き、利き腕を余りの包帯で吊った敵役と、新聞紙を丸めて固めたナイフで決闘したこともある。おかげでどれほどお袋の財布から金をくすねたか。ときには500円札もあったくらい。敵役や悪役、端役、エキストラ諸君に、駄菓子屋で飲み食いさせるギャラを支払うためだ。唇の端から血をたらしながら、何か一言いって死ぬ。それだけがしたかった。いまから思うと、身悶えするほど恥ずかしい思い出だ。
しかし、それを大人になっても続けているのが、いわゆるヤクザ映画、アメリカではギャングやマフィア映画、フランスならフィルムノアール(暗黒映画)なのだ。そして、黒澤や小津の作品以上に、日本のB級アウトロー映画は、世界の映画界に影響を与えてきた。香港映画についてはよく知られているが、タランティーノをはじめとしてアメリカ映画にも、かつての日活アクション映画や東映現代ヤクザ映画の影響を受けた、「唇の端から血をたらしながら、何か一言いって死ぬ」だけの映画がときどき企画される。これもその一本。
THE HITMAN チャーリー・バレンタイン
http://www.allcinema.net/prog/show_c.php?num_c=342521
「唇の端から血をたらしながら、何か一言いって死ぬ」映画は、「唇の端から血をたらしながら、何か一言いって死ぬ」奴ばかりが登場して、その「唇の端から血をたらしながら、何か一言いって死ぬ」奴に感情移入する映画です。最初から最後まで、決まりきった展開と場面が続くわけですから、見どころはひと癖もふた癖もある俳優たちの面構えと、いかにもな演技合戦です。
私もいつも主役ばかり演っていたのではなく、悪役や敵役もかなりこなしました。ギャラに限りがあるというだけでなく、たまには他に譲らなくては怒るやつが出てきますし、悪役とはいろいろな殺され役でもあるので、それなりに死に工夫ができるのは楽しいものです。「仁義なき戦い」を観たとき、東映の大部屋俳優にひとしい端役たちが、チンピラヤクザに扮して大仰に死んでいく場面は、いかにも楽しそうでした。子どもの「ごっこ遊び」と同型の楽しさがあるから、「唇の端から血をたらしながら、何か一言いって死ぬ」映画は、世界に伝染していくのでしょう。
主役の老ギャング・チャーリー・バレンタインを演ずるレイモンド・J・バリーをはじめ、キース・デヴィッド、ジェームズ・ルッソ、スティーヴン・バウアーといった悪役俳優が嬉しいですね。キース・デヴィッドは、「レクイエム・フォー・ドリーム (2000)」でジェニファー・コネリーを犯す黒人麻薬密売人でした。スティーヴン・バウアーは「スカーフェイス」でアル・パチーノの相棒でした。メラニー・グリフィスと結婚していたとは! ジェームズ・ルッソのこの怖い顔はどこかで観ているはず。
キース・デヴィッド
右がスティーヴン・バウアー、かなり太りました。ジェームズ・ルッソ
冒頭、なんと日本の歌謡曲が流れます。キャバレーシーンの代わりに、ポールダンスクラブが出てきます。まさに、日活アクションか東映ギャング映画です。
Pink martini - Taya Tan | Live on Later with Jools Holland