コタツ評論

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お詫びと訂正とマオロス

2014-02-28 03:16:00 | スポーツ
下の「そりゃあもう大騒ぎさ」の文中、次の箇所は間違いとわかったのでお詫びして訂正します。

たまりかねたロシアオリンピック委員会は、その公式サイトでキム・ヨナとソトニコワの採点内容を公開し、画像入りで説明しています。

ロシアオリンピック委員会は記事を転載しただけで無関係でした。アメリカのフィギアスケート代表のコーチと技術顧問をつとめたアダム・レイブ(Adam Leib)氏が、二人のパフォーマンスを比較分析したものをニューヨークタイムズ紙が紹介したのが元記事でした。

How Sotnikova Beat Kim, Move by Move
http://www.nytimes.com/interactive/2014/02/20/sports/olympics/womens-figure-skating.html

ついでに、その後の動きを。

アメリカでも賛否両論のようです。著名なスポーツコラムニストの「キム・ヨナは金メダルを盗まれた」というロシア大批判を朝鮮日報が紹介しています。

ソチ五輪:「不公平判定はISUが1年前から計画した詐欺劇」
http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2014/02/27/2014022700516.html

公式には反論していませんが、もちろん、ロシア側は「妥当な判定」としています。

タラソワ「私ならもっと低い点付けた」ヨナのスピンを酷評=韓国報道http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140225-00000161-scn-kr

タチアナ・タラソワはロシアの女子フィギアスケートの重鎮だそうですが、日本では真央ちゃんの元コーチとして知られています。ソチ五輪の真央ちゃんフリーでは、地元TV局で涙の解説をして話題になりました。タラソワさんの「一推し」は誰よりも真央ちゃんなんですね。

ま、正直、ソトニコワかキム・ヨナかはどちらでもよいというか、どうでもいい気がします。その背景も含めてどちらが強かったか、というに過ぎないように思えます。そして、涼しい顔で「過ぎない」といえるのは、ソチ五輪で「最高」の女子フィギアスケーターは、浅田真央さんであることが証明されたからです。「最高」こそ「無敵」、そこには敵も味方もいないことを示したからです。

浅田真央がソチ五輪のフリーで跳んだ「8トリプル」とは
http://thepage.jp/detail/20140221-00000002-wordleaf

大人になりましたね。素敵な笑顔でした。森元首相の「肝心なところでいつも転ぶ」発言への質問についても、さわやかに、ユーモアをまじえ、しかし、きちんと「お返し」しています。あまロスからようやく回復したのに、今度はマオロスになりそうです。

外国人記者クラブ 記者会見


籾井NHK会長、視ましたか? 記者会見とはこういう風に受け答え、個人的見解とはこういう風に述べるものなんです。もちろん、記者会見の場数でいえば、浅田真央さんは籾井会長よりはるかにプロですから当然のことに思えますが、コックがオムレツのフライパンを振るのとは違って、これは場数を踏めばよいというものではありません。他者とのコミュニケーションに必要なのは、自他ともに敬意を払う姿勢がスキル以上に必要だからです。

(敬称略)

そりゃあもう大騒ぎさ

2014-02-25 11:16:00 | スポーツ
キム・ヨナ銀メダルをめぐって、韓国国民の大騒ぎが続いています。

国際スケート連盟(ISU)に調査を要求するインターネット嘆願書に200万人以上が署名しただけでなく、プーチン大統領のフェイスブックにも批判が殺到して、「暗殺予告」まで出るほどに炎上。金メダルのソトニコワのフェイスブックには、嫌がらせコラージュが次々に貼り付けられています。

韓国だけでなく、欧米のメデイアからも、「ホームタウンディシジョンではないか?」という疑惑の声が相次ぎ、たまりかねたロシアオリンピック委員会は、その公式サイトでキム・ヨナとソトニコワの採点内容を公開し、画像入りで説明しています。


ソトニコワとキム・ヨナの軸のブレ違い



助走距離とジャンプの高さの違い

ロシア語は読めず(なぜか、Google翻訳が応答しない)、採点の内容もわかりませんが、分解写真をみると、「一目瞭然」に見えます。ただし、「一目瞭然」にわかりやすいものほど注意しなければならないわけで、その点、国民の過熱に水を差す、次の朝鮮日報の記事がよくまとまっています。

ソチ五輪:プーチン氏FB、韓国人の書き込みで炎上
http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2014/02/22/2014022201213.html

キム・ヨナは判定へ不満など示さず、終始立派な態度だったのに、どこが劣っていたかと画像まで出されて気の毒です。こんな国内の「応援」とせめぎ合い、勝ち続けてきた彼女の精神力の強さにはあらためて敬服です。

かつてのフィギア王国から新星が飛躍し、東アジアから出て君臨した女王が退き、その長年のライバルが最後の最後に意地を見せた。2014ソチ五輪の女子フィギアの激闘は、なまじの映画や小説を凌駕する、数々の伝説とエピソードに彩られた、圧巻の叙事詩の終幕のようでした。前記のような後日談まであるし。

ついでに、下のような声もあるので、わが真央ちゃん(また、ちゃん呼ばわりに戻ってしまった)の採点内容と同様な分解写真も公開してほしいものです。いや、採点に不満があるのではなくて、3人比べてみたいだけです。少しはフィギア通になりたいですよね。羽生君もいるし。

<ソチ五輪>「浅田真央の得点がソトニコワより7点も低いのはなぜ!?」にコメント殺到―中国版ツイッター
http://www.recordchina.co.jp/group.php?groupid=83797&type=

(敬称略)

今夜は研ナオコ

2014-02-25 02:09:00 | 音楽
この人が好きだという話をあまり聴きませんが、とても優れた歌手のひとりです。中島みゆきをはじめ、宇崎竜童、松任谷由実、谷村新司、桑田佳祐、西島三重子、小椋佳、谷山浩子、荒木一郎など、有力なシンガーソングライターたちが楽曲を提供したくなるほど、類をみない個性があります。他の才能を引きよせるのも、才能の顕現のひとつといえます。

歌っているとき視線が固定しているのは、カンニングペーパーの歌詞を追っているのではないか、そう思わせるほどやる気を疑わせる無表情ですが、言葉を包み込むような繊細な歌唱には唸ります。バラエティ番組へ露出して悪ふざけや「ふられ歌を歌うブス」といった先入見を脇において耳を傾けてみれば、これは絶品です。

Tokyo 見返り美人

追尾する車がなぜライトバンばかり。ベンツやBMWか、せめてタクシーならよかったのに。

夏をあきらめて


夏の海岸のスケッチ描写としては、桑田佳祐以上、過去形ですが。この負担の少ない歌い方で、ここまで衰えるとは!

アザミ嬢のララバイ

中島みゆき以上とはいわないが、勝るとも劣らぬ優良別件です。

ひとりぽっちで踊らせて

ぼっちと濁点ではなく、ぽっちと○点なのが気になる。どっちが主流なんだろ。

六本木レイン

COVER以外で本人が歌っているのはこれしかなかった。猫はカーイイけど。

愚図

これは完成度の高い動画ですね、拍手。

youtube 検索してみると、研ナオコを聴きたいファンは少なくて、研ナオコをカラオケで歌うファンはけっこういた。したがって、再生数は、どれも意外になほど少ない。玄人ウケする歌い手といえば聞こえはよいが、歌手生活43年にして自分のリスナーをいまだに獲得していないといえなくもない。バラエティなど各方面で活躍といえば聞こえはよいが、どこか歌手活動に投げやりな印象もある。最近の動画では声の衰えを隠せないのも不摂生を疑わせる。間違った指摘ならよいのだが、才能を惜しむ気持ちは変わらない。

(敬称略)

映画企画 ライバル

2014-02-24 10:32:00 | スポーツ


彼女が泣きそうなときは、私もグッとくる」をポスターの宣伝惹句に使ってもいい。

タイトルはズバリ「ライバル」。意表をついて、キム・ヨナが主、マオは従。太陽のようなマオを周回する、冷たく輝く月のようなヨナのドラマ。

キム・ヨナである前に、大韓国民の代表であることを宿命づけられ、勝ち続けることだけを期待され、そのために最高難度のトリプルアクセルへの挑戦を禁じられた少女スケーターの悲劇。

W杯もオリンピックも征しながら、挑戦し続けるフィギアスケーターとしての理想と栄光はいつもマオに寄せられ、それを横目に007のテーマ曲でお色気演技を強いられるヨナ。

つねに倒すべき敵の筆頭であるマオは、苦しく厳しい練習をたがいに知るライバルであり、ともに絶賛と中傷を繰り返すメディアと国民感情に苦しめられる戦友でもある。

私は、キム・ヨナ、もうたくさん、と一度は引退してみたものの、結局は、最後の闘いに招集される。そして、ともに引退を前提とした最後の戦場、ソチ五輪へ。

過熱する報道、憶測飛びかう舞台裏。台頭する次世代の強敵たち。しかし、ショートプログラムの場で、ヨナはけっして自分が勝てないことを知った。マオは? 彼女は闘い続ける!ところが、なんと無残な16位! 青ざめた顔、震える肩、噛みしめる唇。光は輝きは消えた。

「どうしたの、マオ!」「私のライバルじゃなかったの?」「マオはもう気にしなくていい」「彼女はもうおしまいだよ」「日本にはもう切り札はない」「マオなどいてもいなくても、ナンバー1はヨナ、君だよ」

周囲の声はヨナを凍りつかせた。「マオを貶めるなんて、あなたたちは何もわかっていない。マオこそわたしの目標だった!」ジュニア時代から競い、トリプルアクセルとトリプルルッツと技は違えど、ともに相手の強さと自らの弱さと闘ってきた。Maoを否定することは、私の10年の競技生活そのものを否定すること。消えかけたヨナの闘志に火がともされた。

一度は投げかけたフリーに挑む決意を新たにするヨナ。しかし、その完璧な演技は、審判に減点される。冷笑を浮かべるヨナ。観客の拍手とブーイング。激高するコーチやスケート団体役員。そして、マオが静かにリンクへ滑り出した。目も覚めるようなブルーの衣装。ENDマーク。

最後のタイトルロールでマオのショートとフリープログラムのパフォーマンスが流れ、2人の過去にさかのぼる映像や写真のカットバック。ヨナとマオの微笑。この映画企画、5万円で売ります。日韓合作は無理だろうが、ヨナ役は韓国でオーデション。取材とスケート演技の習得に、最低、1年はかかるだろう。

お断り:この映画は実在の人物や出来事に基づきますが、あくまでもフィクションです。

(敬称略)

ソチ五輪が泣いた!

2014-02-21 22:24:00 | スポーツ
昨年のクリスマスに、真央ちゃん宮本武蔵説を書きましたが、真央ちゃんは負けても美しい佐々木小次郎でした。日本国内はもちろんですが、世界のスケーターたちから賞賛の声が寄せられ、とくに中国ではたいへん盛り上がっているようです。

前日のショートプログラムですべてのジャンプに失敗して16位となりながら、一夜明けたフリースタイルでは、トリプルアクセルをはじめ、6種8回のジャンプのすべてに成功する見事な演技。どん底から再起した美しきスケーターの物語に感動するのは当然です。

ただし、そうした佳話はなにも真央ちゃんに限ったことではありません。41歳にしてはじめてオリンピックメダルを二つも獲得した葛西選手をはじめ、ほかの日本選手たちにも感動の物語がありました。もちろん日本以外の国々の選手たちにも、たくさんの物語があるはずです。

日本国民はただ純粋に日本代表の真央ちゃんのがんばりに拍手したのですが、世界のスケーターたちや中国の人々は、真央ちゃんにそれ以上のものを見出したのかもしれません。ときにスポーツが実現する無垢な光といったものに、喝采を贈ったように思えるのです。いうまでもなく、同じ日に、「疑惑の判定」という闇を見せつけられていることと無縁ではありません。

ソトニコワは素晴らしい演技をしましたが、あきらかに、金メダルはキム・ヨナのものでした。プルシェンコのツイッターも、それを裏づけていると思います。



最後のロシア語はGoogle翻訳してみます。
おめでとう、アデリーヌ・ソトニコワ。ロシアのオリンピックチャンピオンの歴史の中で、初の女子フィギア金メダル! ブラボー

時系列でいくと下から上へ、①金のソトニコワへ「おめでとう」、②銀銅のキム・ヨナ、コストナーへ「すばらしいスケートをありがとう」、そして、③真央ちゃんへという順です。注目すべきは、②③の投稿間隔が、4:15~4:16 とわずか1分しかないことです。つまり、ソトニコワ以外の非ロシア選手3人へのコメントは、たぶんいっぺんに書いたものを分けて投稿したと考えられます。

②③をひとつの文章だったと考えれば、Maoへの賛辞が本論という構成になります。3つを読み比べてみると、真央ちゃんへのツイッターが、ほかとは異質に熱狂的で肉声に近いことがわかります(ほかはフルネームなのに、Mao、ですもんね)。プルシェンコの一連のツイッターを、ソトニコワ、キム・ヨナ、コストナーより、Maoだ!と読んでも、うがち過ぎとはいえないと思うのです。

Maoへのコメントで、女子選手としては、唯一浅田真央だけが可能な、難技のトリプルアクセルを決めた闘志を手放しで褒め称えています。その高い技術と挑戦する姿勢をプルシェンコは何より誰より尊んでいることがわかります。"amazing skating!" とスケートへの賛辞と "great" や "real fighter!!" の存在や姿勢への賞賛はあきらかに違います。

ロシアを代表する金メダリストのプルシェンコとすれば、誰よりもソトニコワに言及するのが、ふさわしい態度のはずです。あるいは、ソチ五輪女子フィギアをオーソライズするためには、金銀銅の3選手をその内容を含め称えて然るべきでした。自国主催の冬季五輪、ロシアが上位を占めたフィギア競技という観点からは、真央ちゃんの再起パフォーマンスは、1エピソードに過ぎません。

ツイッターという個人の「つぶやき」の場としても、かなりアンバランスなコメントといえます。そこに、たぶん不本意な棄権で終わったプルシェンコの無念が、また「疑惑の採点」への鬱屈した思いが、Maoの再起によって晴らされた、とまでいうなら、それはうがち過ぎというものでしょう。

ただし、少なくともこうはいえるはずです。さまざまなスポーツ以外の要素に、オリンピックや競技や選手が左右されるからこそ、メダル獲得が絶望的になってもなお、自己ベストを尽くした真央ちゃんにプルシェンコは感動したのではないでしょうか。

引退同然だったのに国威発揚のために出場させられ、ショートプログラムを前に怪我を理由に棄権したことで、国内から厳しい批判に晒されたプルシェンコですから、真央ちゃんの再起に自らを重ねたかもしれません。

中国の観客たちの感動もプルシェンコのそれに通ずるものでしょう。真央ちゃんによって、オリンピックとは国威発揚の舞台という通念が覆され、彼らはほとんどはじめて、オリンピックが選手それぞれの努力による可能性を追求する場であることを知ったのです。

皮肉なことに、真央ちゃんの素晴らしいパフォーマンスが話題をさらうことで、結果的に疑惑の判定がかすみ、スポーツを鑑賞する純粋な悦びへの信頼もつなぎ止められたわけです。ソチ五輪女子フィギアもまた、真央ちゃんに救われたようです。プーチン、真央ちゃんに、お礼は?

さあ、もう真央ちゃんでは失礼ですね。浅田真央さん、ありがとう、おつかれさまでした。

と終わるつもりでいたら、プルシェンコに勝るとも劣らない偉大なスケーターから、真央ちゃんへ心のこもった言葉が寄せられました。滲みるなあ。
http://japanese.yonhapnews.co.kr/headline/2014/02/21/0200000000AJP20140221003800882.HTML?input=www.tweeter.com

H. Grimaud 1/3 Rachmaninov piano concerto No.2 in C minor, op.18 [Moderato]


(敬称略)