奇を衒うわけではありません。マスコミウォッチとしては、昨日の稲田記者会見は注目に値すると考えます。どこがといえば、およそ1時間にわたり記者たちが稲田朋美さんを激しく追及したことが、です。
「誤解」受け手が悪いのか 食い下がる記者に稲田氏は…
http://www.asahi.com/articles/ASK6Z4QVWK6ZUTFK00Y.html
「あなたはそれでも大臣の座にしがみつき」と一部の記者は、稲田防衛相を「あなた」と呼んで、彼女が35回も連発したという「誤解を招きかねない発言」を論難しました。
マスコミ記者が政権を監視し、何か事があれば追及するのは当たり前なのですが、この間、それは等閑(なおざり)にされてきました。たとえば、以下のようなイベントさえ催されているくらい、それは周知のことです。
「ガースー決壊」 菅官房長官を「毎日新聞」が攻める攻める責める
新しい政治コミュニケーションとしての「菅話法」
http://bunshun.jp/articles/-/3114
たしかに、今回の稲田朋美さんの発言は、100%公職選挙法に違反した撤回できないものであり、記者の質問に対しても応答の体をなしていません。
しかし、これまで安倍首相をはじめ、菅官房長官、あるいは政府閣僚の国会答弁を含む、諸々の虚偽や失言や暴言に対しては、マスコミはほとんど沈黙してきました。そして、いまでもそれは続いています。
菅官房長官は、「昨夜の会見で(稲田氏が)しっかり説明された。今後も誠実に職務にあたっていただきたい」と語った。
http://jp.reuters.com/article/suga-comments-on-inada-idJPKBN19J0AY
自民・下村氏は、「イメージで言われたんだと」
http://www.asahi.com/articles/ASK6X4H2LK6XUTFK00F.html
稲田朋美さんへの追及の厳しさとは比べものにならない、「形ばかりの質疑」と「愚説の拝聴」です。どうしてこれほど記者の態度や姿勢は違ってしまうのか?
すると、どういうわけか、口がひん曲がってきて、「あれ女性ですよ女性」という麻生太郎副総理の直近の「問題発言」が思い浮かんできます。
これはもちろん、「このハゲ~~っ」と絶叫して、全国の髪の不自由な男性を震え上がらせた豊田真由子議員を指してのことですが、稲田朋美さんにもほとんど当てはまると思えます。
「あれ女性ですよ」麻生氏発言が物議 自民・豊田氏暴言問題の余波続く
http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201706/CK2017062802000135.html
つまり、追及する記者たちにも、追及をかわそうとする政府高官側にも、「あれ女性ですよ女性」という侮りがうかがえるのです。
安倍首相の「寵愛」がなければ陣笠議員に過ぎないくせにという「侮り」、国会の女性議員はマイノリティであり党派を越えた連帯も乏しいという「侮り」、したがって、首相や官房長官には言い返せない悔しさをぶつけても後難は少ないだろうという「侮り」。
さまざまな「侮り」が考えられますが、その根底には、「女性議員」であるがゆえにすでに劣っているという「侮り」があるように思えます。
前記の麻生発言の「あれ女性ですよ女性」の前段は、「学歴だけ見たら一点の非もつけようのないほど立派だったけど」でした。
「学歴」や「職歴」がどれほど立派であろうと、すなわち、いかに優れた能力を備えていようとも、「しょせん、女は女なんですよ、皆さん」と麻生派の男性議員や党員、後援者の笑いをとろうとしているのです。
そういう麻生副総理は、学習院初等科からエスカレーターで学習院大学を卒業し、父の経営する麻生セメントに就職した後、麻生財閥の選挙地盤を受け継いで政界に転じた人です。
ほぼ独力で人生を切り開いてきた豊田真由子さんや稲田朋美さんに比べれば、それほど立派ではない「学歴」や「職歴」ですが、座興の笑い話にできるほど余裕を保ちながら、(女性だから、大目に見てあげてくださいよ)と麻生さんは庇ったつもりなのです。
今回、稲田朋美さんは失言という100%の証拠を提供してしまいましたが、安倍首相や菅官房長官、二階幹事長など、政権の誰に対してもマスコミ記者が「あなたは」と追及するには、証拠だけでは足りません。実際、証拠はじゅうぶんにありました。
『小さな巨人』香川照之のセリフwwww
https://www.youtube.com/watch?v=OUZFxT7wYDc
「100%の証拠だけでは足りないっ。200%の覚悟が必要だ!」
小野田捜査一課長に扮する香川照之が警察の闇を告発しようとする部下に、あの顔芸と大声(下の動画のような)で迫りました。
稲田朋美さんが頑迷な応答を繰り返すのは、彼女にも覚悟が足りない記者たちに対する「侮り」があるからではないかとも思います。
記者の後ろには国民がいるとされ、不誠実な応答をすることは国民を舐めている、バカにしていることになるといわれます。
少なくとも選挙の洗礼を受けている稲田朋美さんや豊田真由子さんが選挙民を舐めたり、バカにしているとはとうてい思えないのです。
(敬称略していないはず)