コタツ評論

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トランプが支持を集めるわけ

2016-07-18 22:42:00 | レンタルDVD映画


マネーショート
サブプライムローンの破綻からリーマンブラザース倒産に至るアメリカの金融危機をいち早く予見して、「売り」を仕掛けたヘッジ・ファンドや銀行マンを追った実録映画。クリスチャン・ベイル、スティーブン・カレル、ライアン・ゴズリング、ブラッド・ピットなど名優たちがアメリカの経済犯罪を徹底的に暴いている。ヘッジ・ファンドはPCに向かって刻々と変わる経済情報を眺めているだけかと思っていたら、住宅バブルを調べるために現地に飛び(アメリカは広いから、本当に航空機で飛ぶ)、足を使って一軒一軒ノックして歩き、不動産業者をインタビューして回る、ほとんどジャーナリストの仕事もするとわかった。一方、WSJの記者は、「裏付けの取れない話は書けない。女房子どもがいるんだ」と業界紙記者に成り下がって、逃げ口上を述べるところは日本と同じ。「ウォール街占拠」デモがなぜ起きたのか? 反ウォール街を標榜するトランプがなぜ人気を集めるのか? かなりわかった気がする。高度なデリバティブ商品はサブプライムローンの焼き直しだというナレーションが恐ろしい。



カットバンク
ウォール街を舞台にした「マネーショート」とは対照的なアメリカで「一番寒い」田舎町が舞台(ただし季節は夏)。ブルース・ダーン、ビリー・ボブ・ソーントン、ジョン・マルコビッチというこちらは名優と怪優の嬉しい顔合わせ。老郵便配達夫が射殺されるという町ではじめての殺人事件が起きて・・・。偏屈な人々の奇怪な人間模様が徐々に明らかになって、と思いきや、思わぬ方向に転がりだした連続殺人から、かえって田舎の人々の善良さや健全さが身に染みてくる。こういう田舎の人たちはヒラリー・クリントンには投票せず、やはりトランプに入れるのだろう。

挿入歌の Ain't No Mountain High Enough 。マービン・ゲイやダイアナ・ロスのヒット曲ですが、これはジェニファー・ローレンス(17歳)やクロエ・グレース・モレッツ(10歳)が映画「早熟のアイオワ」のなかで歌っています。
 


(敬称略)

もっとプロパガンダ芸術を

2016-07-10 12:11:00 | 政治
木下惠介 「陸軍」


2009/02/12 にアップロード
昭和19年の陸軍省全面後援の国策映画。最後の10分。


はじめて観たが、はじめて木下惠介を素晴らしい映画作家だと思った。ひとり軍楽隊の音を追いはじめた田中絹代の母親に、町のあちこちから人々が加わっていき、出征兵士の行進と沿道の群衆を鳥瞰するまでの長いショットの見事なこと。出征する息子を探すおぼつかない足どりが、その姿を認めてからは人の波に逆らい分けながら前に出て、行進に追いすがっていくときの千変万化する表情と身ぶり。映像から伝わってくるのはまぎれもなく母親の痛切な愛惜の念であり、誰しも涙ぐまずにはいられない。

たぶん、アメリカでこんなラストシーンなら、「戦意高揚映画」どころか「反戦映画」にジャンルされるか、少なくとも厭戦気分を煽るとして検閲を通らないだろう。もちろん、木下惠介がひそかに反戦や厭戦の意図をこのシーンに込めたわけではないはずだ。本物の陸軍兵士を動員し、膨大な送迎国民のエキストラを得て、じゅうぶんな予算とフイルムを費消できる満足感だけでなく、とにかくリアルに撮ろうということしか念頭になかっただろう。むしろ、快活な笑顔を向ける息子に、作り笑顔で応える母親の全身が表す裏腹な思いこそ、国民の戦意を高めると陸軍省は認めたのだろう。邪悪な敵に立ち向かうというより、脆弱な自らを国策に奮起させるところに、きわめて日本的な高揚があるようだ。

このシーンだけを観ても、映画「陸軍」が写実に優れた傑作であることが容易に推測できる。いまは封印されている藤田嗣治の戦争画にも素晴らしい作品がいくつもあった。かつて喝采を受けた作品が後に見向きもされなくなったのは、「流行」が去ったからだけではなく、作品としての価値を認めざるを得ないことを怖れたからではなかったか。芸術が政治に奉仕したことは論難できても、傑作や秀作を駄作や凡庸と罵ることはできない。そしてなにより、邪悪な敵に正義の鉄槌を下すという理ではなく、苦しく辛い戦争に死ぬまで耐え忍ぶしかないという情に訴えたものであれば、そうたやすく是非を問えるものでもない。それは国民感情に似て我が事になるからだ。

昔の兵隊さんが、「天皇陛下万歳!」と叫んで死のうと「お母さん!」と呟いて死のうとさほど変わりはなかったのではないか、という不埒な思いがこのラストシーンを観て込み上げてしまった。少なくとも、神聖視されたという天皇陛下とおろおろ歩く母が等しく非政治的な存在でなければ、とうていこのシーンはプロパガンダとはなり得ない。「ジジイが考えて、オッサンが命令して、ガキが死んでいくのが戦争」(@大橋巨泉)とは反戦プロパガンダとして明快すぎる。そこに欠落している見守る存在をくわえてはじめて、プロパガンダにも芸術にもなり得るのではないかと考えてみた参院選の朝。

(敬称略)


三宅洋平と山本太郎と小沢一郎

2016-07-02 00:10:00 | 政治
20160623三宅洋平 選挙フェスDay2 JR高円寺駅北口 東京都選挙区 参議院選挙


いい顔をしています。意外な靖国神社擁護、日本会議評価、保守中道の標榜、そして、「謎の下から目線」の国民批判というラップ選挙演説です。三宅洋平と盟友の山本太郎は、「まれなあれ」な二人かもしれない。

(敬称略)