一昨日、鳩山由紀夫元首相が政界引退を発表した。
「不出馬にあたって」を読みながら、鳩山由紀夫と小沢一郎は少しも似ていないようにみえて、じつはよく似ている。そんな感慨に至った。
以前に、小沢一郎をダースベーダーに擬したが、鳩山さんはウルトラマンにも似ている
波瀾万丈の政治人生でしたが、多くの方々に支えられ、ここまでやってきました。政治家としては、やはり幸せな人生だったと思います。
「波瀾万丈」と抑えているが、「毀誉褒貶」とも換言できる。「毀誉褒貶(きよほうへん)」とは、褒められたり、貶されたり、どちらも同じくらいにあった、と振り返るときに使う。だが、「鳩山首相」はそのわずか9か月の在任期間中、ほとんど貶され通しだった。
小沢自由党と合体した民主党が政権を奪取して、最初の首相の座に就くことが決まったとたん、野党時代に書いた、アメリカの「強欲資本主義」を批判した論文が問題にされた。就任後すぐには、地球温暖化の原因となる温室効果ガスを2020年までに25%削減することを目指す、と国連で表明して批判された。
とりわけ非難の的になったのは、沖縄の普天間基地の移転をめぐり、「最低でも県外」と発言したことだ。以降は、ほとんど鳩山叩き一色になった。「尖閣諸島は中国と共同開発」との発言が問題にされ、アセアン+3での「東アジア共同体構想」も批判された。また、実母から政治資金をもらっていた政治資金規正法違反事件もあった。首相を辞任してからも、経済制裁中のイランを訪問し、アフマディネジャド大統領と会談、国際社会と対話の道を呼びかけて、これまた非難された。
振り返れば、「鳩山首相」の主張のほとんどは正論、もしくは論議に値するといえ、時宜を得たものだったことがわかる。にもかかわらず、鳩山バッシングは凄まじかった。「永田町」「霞ヶ関」「経済界」「アメリカ」などの「筋」や「関係者」といった正体不明の「毀貶」を根拠に、連日マスコミは「鳩山首相」の言動を徹底的にコケにした。
なぜ、ウォール街の強欲を批判してはいけないのか、なぜ、温室効果ガスの25%削減を打ち出してはいけないのか、なぜ、沖縄の米軍基地の「県外移転」を求めてはいけないのか、なぜ「尖閣諸島は中国と共同開発」という議論さえ封じられなければならないのか、なぜ、「東アジア共同体構想」に言及してはならないのか。なぜ、実母からの政治資金提供まで罪に問われるのか、なぜ、イランを孤立させず対話の道へ導くことが許されないのか。寡聞にして、これらのなぜに答える、反論らしい反論を見聞したことがない。
「政治とカネ」の問題からもっとも遠く、理念や政策にもっとも近い政治家の一人だったはずなのに、「鳩山首相」を評価する声はほとんど聞こえなかった。つねに、「政局より政策が大切」といっているマスコミは、こぞって鳩山叩きに回った。首相として主張しながら、できなかったという批判ではなく、主張そのものを冷笑的に無視した上で、「政治手腕に乏しい」と非難した。
そして、鳩山とは反対に、「政治とカネ」の問題にもっとも近く、理念や政策にもっとも遠い政治家といわれる小沢一郎も、この間、鳩山由紀夫以上に貶され続けている。両者に多少の違いがあるとすれば、鳩山は「宇宙人」「ルーピー」と嘲笑され、小沢は「金権」「闇」と憎悪されていることか。
いずれにしろ、二人とも、その政策や思想より、終始、その資質が問題とされてきたといえる。少しも似ていないようで、その扱われかたはじつによく似ているわけだ。資質をいえば、この二人には共通する美質がある。他人の悪口をけっして言わないことだ。自らが代表をつとめた党から、次の選挙では公認しないといわれても、鳩山はキレなかった。
鳩山元首相 衆院選に立候補しない意向
NHK 11月20日 20時50分
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20121120/t10013641751000.html
「永田町」「霞ヶ関」「経済界」「アメリカ」などの「筋」や「関係者」が、鳩山小沢を評価しないなら、二人がよく似ていると彼らは考えているのだろう。彼らの考えは、インサイダーではない私にはよくわからない。しかし、問題と思えるのは、よくわからなくて困惑するのは、国民の多くがそうしたマスコミの論調をそのまま信じたことだ。
たとえば、沖縄の米軍基地の一部に移転の必要があった場合、沖縄県民がこぞって反対しているのだから、基地の増設より「県外移転」は当然検討されるべき選択肢のひとつのはず、グアムなど海外移転ならなおベターといえる。なのに「鳩山首相」が言い出した「県外移転」は、沖縄県民以外からは評価されず、民主党内からでさえ援護されなかった。
たぶん、近い将来、「県外移転」を言い出したことは評価できるが、その手続きや方法論において、あまりにも拙速であったと「毀誉褒貶」のバランスがとられ、「鳩山首相」の再評価という歴史の偽装が行われるだろう。だが、マスコミはいうまでもなく、当時、国民大多数は、「県外移転」に事実上反対したということは、ただしく記憶されねばならない。
今後、どのように歴史が記録しようとも、記憶を改変しないように注意しなければならない。はじめて「県外移転」に言及した首相として、あるいは、「日米同盟を傷つけた」はじめての首相として、そのいずれにしても事実に変わりはない。「友愛」には参ったが、鳩山由紀夫は私たちが長く記憶にとどめておくべき政治家である。
ついでに、小沢が率いる第三極の「国民の生活が第一」が、衆院選を前に、「反原発」「TTP不参加」「消費増税凍結」の旗幟を鮮明にしたことも記憶されるべきだろう。つねに政策ではなく政局にこそ腐心していると悪口を浴び続けてきた小沢が、もっとも第三極の政党らしい異議申し立てを、不支持を恐れぬ公約を掲げたことを。
とここまでヨイショを書いてきたが、鳩山さん、「やっぱり、無所属でも出馬します!」はないだろね。いや、あるかもしれない。鳩山と小沢の似ている点をもうひとつ。どちらもけっしてめげず、前向きなところだからね。
昨日の12時のNHKニュースでは、民主党の前原某が、「円は高く評価され過ぎていたので、現在の円安は基本的に歓迎します」とコメントを出していた。円が低く評価されたのを評価するという変な話に自信たっぷり。資質が問われるべきはこの人じゃないのか。いや、資質を問うこと自体が、やはり間違っているか。
(敬称略)