馳星周といえば、歌舞伎町の中国人マフィアの血で血を洗う裏社会を書いた「不夜城」とか
出会い系サイトに嵌った主婦が暴力団に麻薬漬けにされていくのを書いた「M」とか
私はその二つを読んだだけで、自分とはもう無縁の作家だと思っていたのですが…
こんなに愛犬家だったなんて。
この本は、7種の犬にまつわる物語を集めた短編集です。
その中で私にもっとも印象的だったのは、ジャック・ラッセル・テリアの章。
ペットショップで可愛かったからというだけの理由で飼い始めたジャック・ラッセル犬を
どうにも制御できないと元妻に泣きつかれて
7才の息子、亮とその犬インディを短期間預かることになった康介。
離婚して以来、初めて息子に逢えた喜び。
亮に犬の躾け方を教えながら、自分の息子に触れ合えることができる喜び。
康介とその愛犬アンドレ、亮とインディとで野を駆け回ることができる喜び。
しかしそんな日々は長く続かず、亮とインディは妻の元に戻り、
康介は二度と逢えなくなってしまう。
康介にはそうされるだけの理由があって、父親に愛されたことがない彼は
息子が生まれた時その愛し方が分からず、家も息子も顧みずに遊びまわって
妻と亮を散々に傷つけたのです。
起こした会社も潰れ、家族もなくし、尾羽うち枯らして田舎に暮らす康介。
息子が愛しく思えるようになって後悔しても、時は既に遅し。
やがて愛犬アンドレも死んでしまい、息子と暮らした短い夏の日を思い出して涙する。
康介がインディにつぶやいた言葉。
「知ってるか、インディ?亮はおまえが大好きなんだぞ」
「亮を頼む。おれは守ってやれないから、おまえが代わりに亮を守ってくれ」
「頼んだぞ、インディ。おまえはジャック・ラッセルだ。
小さな身体にライオンみたいな勇敢さを詰め込んだ犬だ。亮を守れるだろう?」
この本を読むと、著者がいかに犬を愛しているかがひしひしと伝わってきます。
虐待を受けた犬、3.11で置き去りにされた犬、癌に苦しむ犬、
読むのがつらいシーンもありますが…。
余命わずかのバーニーズ・マウンテン・ドッグの章、その最期の様子は
正に著者の最近の体験から書かれたらしい。
犬は確かにいつか死んでしまうのだけど
それでも無償の愛を捧げてくれる犬を、愛さずにはいられない。
誰にも言えないことも犬には言える。
誰にも見せられない姿も犬には見せられる。
何でも黙って受け止めてくれる、ソウルメイトだものね。
愛犬家にはたまらない一冊です。
「ソウルメイト」 http://tinyurl.com/ox729gs