転落事故か投身自殺か、それとも殺人か。
自宅山荘の窓の下で、サミュエルが不審死を遂げ、その妻で小説家のサンドラ(ザンドラ・ヒュラー)が殺人罪で起訴される。目撃者は視覚障害を持つ、11歳の息子ダニエルだけ。真実は何処に…!?
去年のカンヌ国際映画祭パルムドール、本年度アカデミー賞の脚本賞受賞。
予告編やタイトルから随分と不穏なものを感じ取っていましたが、その予想を裏切らない作品でした。
法廷での様々な証言や挙げられた証拠から、夫婦のこれまでの経緯が次第に明らかになる。
作家として成功した妻と、教師の仕事をしながら作家の夢を捨てきれず、しかし書けないでいる夫。結果的に家事の多くを押し付けられ、妻に鬱屈した気持ちを持っている。
私は殺していない、というサンドラに対して、友人の弁護士ヴァンサンは、重要なのはそこではない、君がどう思われるかだ、という。
この言葉はこの映画の真髄を表しているようで、裁判は一応決着するが、どうにもスッキリしない。そのモヤモヤを観客に押し付けることが、ジュスティーヌ・トリエ監督の狙いだったのかとも思います。
面白くはあるのですが、これだけ登場人物に感情移入できないことも珍しい。
サンドラは出ずっぱりでずっと喋っているのに、彼女の性格はまるで伝わってこないし、つまり好きになることができないのです。
法廷で、母親が実はバイセクシュアルであること、かつて女性と不倫したことなどを聞かされる11歳の息子、多感なダニエル君には、同情せずにはいられませんでした。
ボーダー・コリー犬のスヌープは見事な演技をしていましたが、あの目を剥いて倒れる所は、軽い薬を飲ませたのかしらん?
エンドロールに、これは動物虐待ではないというような文言が出るかと思いましたが(最近では散見する)、何もなかったということは、やはり演技だったのか…?
英題は「Anatomy of a Fall」。
「落下の解剖学」公式HP
もしかして、観客をもやもやした気持ちにさせるのが監督の狙いだったのかも…?と思わせる作りでしたね。
実は私はサンドラの気持ちって結構理解できたのですが、そこがこの作品を好きになるかならないかの分岐ではなかったです。むしろ夫の方が嫌過ぎたからかも。
だって解釈によっては、夫が自分の死後の嫌がらせを行使したとも思えなくはないし、ひょっとしたら狂言で飛び降りて意に添わず絶命しちゃったかもだし。
いずれにしても夫婦揃って息子の精神的なものには何も寄り添っていなかったのだなぁ、という気がしました。
そう思いながらも、狙い通りにもやもやしましたw
夫の方をそう見ましたか。
私は夫にはそんなに嫌悪感抱かなかったのですが
あの可哀想な息子、ダニエル君。
裁判の前には、サンドラと一緒にいることも拒否したのに、あの証言。
殺人者の息子として一人ぼっちになるよりも
そうじゃない方を子どもなりに選んだのかと勘ぐってしまいました。