禿の小柄な老人、ジューコフ将軍の料理人(例の火事で帽子を焼かれた
男だ)が入ってきた。彼はそこに座り、話に
耳を傾ける。やがて彼もまた思い出話を始めた。
暖炉の上に腰を下ろして、脚をぶらぶらさせながら、ニコライは
その昔はどんな料理を旦那がたに出していたかというような
話を聞き、それについていろいろ質問をした。
彼らは骨つき肉やらカツレツやら様々なスープやらソースやらについて語り、
やたら物覚えの良いその料理人は、もう今では作られるこどのない
料理について語った。たとえばこういうのがあった-牡牛の目玉で
作られた料理で、その名も
「朝の目覚め」
The little bald old man, General Zhukov's cook, the one whose cap had been burnt,
walked in. He sat down and listened, then he, too, began telling stories of all sorts.
Nikolay, sitting on the stove with his legs hanging down, listened and asked questions
about the dishes that were prepared in the old days for the gentry. They talked of
issoles, cutlets, various soups and sauces, and the cook, who remembered everything
very well, mentioned dishes that are no longer served. There was one, for instance
-- a dish made of bulls' eyes, which was called "waking up in the morning."
アントン・チェーホフ『火事のあとで』(「百姓たち」より)
レイモンド・カーヴァー 『滝への新し小径』
村上春樹 訳“After the fire”
牛の目玉というと、他界した賢兄の石井智幸と京都駅前にあったホルモン焼き屋台で立ち食いして
いたころ。と、言っても彼が話すなかでのことで口にした経験はないのだが、彼によると食べるの
ではなくて飲み込むのだというので、味もへったくれもないのだがそんな思い出話を肴に、新聞紙
でくるんだ焼き肉を頬張りながら夢を語り合った蒼い時(あのころ)が懐かしい思い出だ。
【ハイブリッド木質路面材】
輸入木材の増加で日本の森林蓄積量は過去40年で約2.5倍に膨れ上がり、国産材の消費量が増えな
ければ林業の衰退だけでなく森林を荒廃させることにもなりかねない状況だという。京都の「NP
O木の町づくり協議会」は森林の健全化を建設業の視点から解決できないかと間伐材を路面材にし
た「優ブリック」を開発し事業展開している。試験施工した小中学校では好評木質路面材は基材とな
る道水性のインターロッキングと木質板を特殊な加工法で一体化したもの。コンクリートなどで舗
装された歩道と比べて足への衝撃が柔いので歩きやすく、転んでも怪我をしにくい。また木は熱に
対して蓄熱性が低く冷めやすい。夏はコンクリートやアスファルトのようには熱を溜めずヒートア
イランド抑制効果がある。優ブリックの工事費は従来のブリック路面工事と基本的に同じ、資材費
は石材の中上級グレードと同価格帯に設定。従来の透水性インターロッキングの約2倍。「現在180
00円~20,000円/㎡で販売。木質系の路面材はおおむね15,000円~18,000円/㎡(将来は10,000円/㎡
を目標)。これは岐阜大学と「高圧水蒸気圧縮成形法」を共同開発だが、木材の特殊な圧縮技術を応
用したもの、杉などの柔らかい材質の木材を、高硬度で収縮変形の少ない材質に変性する。標準品は
杉などの間伐材と基材の透水性インターロッキングを接着なしで一体化、表面は防腐処理を施し筋
状の溝を掘ることで滑り止めとし、基材は透水性なので木材を適度な乾燥状態でせ耐久性を維持。
製造原価は原材料費、製材費、防腐費、ハイブリット化(一体成型化)で、その5割以上をハイブリ
ッド化がに費やす。事業拡大にはコスト縮減が不可欠で、原材料費の間伐材と加工の製材費を低減
させ、ハイブリット化の効率を高め、コストダウンすることが課題となる。市場は都市公園、公共
施設を対象として、全国展開で、約12万ヘクタール×5%=6千ヘクタール(=6千万㎡)と予想
している。
この木質路面材は都市公園と公共施設(学校関係)を対象としているが、ハイブブリッド材の範疇
や機能範疇を広げると市場は広がると楽観的なことを過去に記載してきたが、機能・機構(軽量×
強度)×意匠性でいえば登山道の路面補強材とか海洋浮体材などに応用展開できるはずだと考える。
【ゲノム工学の行方】
iPs細胞の数々の臨床例は衝撃を与え続けている。再生医療分野だけではなくゲノム工学を包括する
生物工学の著しい成果に誰もが目を見張る思いだが、従来用いられてきた育種技術は、突然変異、性
的接合、細胞融合、組換えDNAの技術応用開発は、多大な時間と労力がかかり、ごく少数の遺伝子
の操作は限定で、複合的なストレスに耐え得る生産菌の育種に有効でない指摘されてきた。しかし、
2010年に米国のJ.Craig venter教授らの、マイコプラズマゲノムの化学合成の衝撃は、今後の微生物
育種の技術方向は2つあり、その1つは、有用物質の生産に応じ、ベストゲノムの「化学合成」(
DNA合成のコスト、知識蓄積の未熟が残件)と2つめは、既存のゲノム(微生物)から、短時間
で細胞を創り出し、そこから目的物質生産にベストな細胞を選び出してくる多様性創出ゲノムエ学
の方向が考えられている。近年、ゲノムシャフリングエ学、ゲノム再編成工学、グローバル転写因
子工学、人工転写因子工学、翻訳装置工学など、多様なアイデアに基づく、新しい技術が次々と報告
されているが、と同時に「科学技術のデュアルユース問題」(=科学技術の応用における二面性)
が浮上してくる。
ゲノム科学、ゲノムエ学、情報科学の進展によって、コンピューターに配列を与えれば、それが、
どのような大きさの、どのような形の生物で、どのようなものを食べて、どのようなものを生産す
る生物(細胞)かということがディスプレー上に表示される、これまで想像できなかったことができ
るような時代が来るだろう。科学技術デュアルユース問題は、国際的な枠組みの中で慎重な対応が
必要とされるわけだ。工学のエッセンスとは、「自然界にない人工物を創ることである」。ベストゲ
ノムの化学合成は、本格的な工学あるいは工業時代を迎えた。 iPS細胞の例を出すまでもなく、生
物工学には夢のある未来が広がる。
※ Synthetic biology(合成生命)
叶わぬ夢、叶わぬ恋、そして、叶わぬからこそ、何かを捨て、チャレンジできると。文体を裏返すこともできる。
そんなことを思い、瞬く間に今日という日が過ぎ去っていく。