(写真の撮影・掲載については出演者の許可を得ています。以下同)
寒気が急に強まった師走最初の週末に、地下音楽愛好家の心をくすぐるライヴイベント二連荘ハシゴに挑んだ。
朝生愛, 樋口寿人@八丁堀・七針
16:00 Open/16:30 Start八丁堀七針にて東京アシッドフォーク男女ペアの対バン。最近はどちらも然程活発に活動している萌(きざし)はないので、狭い七針が満席の盛況ぶり。若干出遅れたためフロアへ降りる階段の中程に腰を下ろす。
●朝生愛
会場に着いた時には既にスタートしていた。ボーンボーンとギターの単音が断続的に鳴る。朝生愛はテン年代半ばに惚れ込み足繁くライヴに通った。暫くご無沙汰していたが、最近ライヴ現場等で逢うようになった。ライヴ演奏を観るのは7年ぶり。昔と同じ赤いリッケンバッカーを指で弾き、囁き声で歌う。元々スローテンポの曲ばかりだが、ライヴで観る度に遅くなって行く。小型キーボードも用いた独りきりの演奏は、彼女の頭の部屋を覗くようなプライベートな空間。濃厚なPSYCHE(サイキ)が結晶する40分だった。
▼2007年当時のライヴ写真(筆者撮影)
⇒朝生愛@吉祥寺Manda-la2
⇒朝生愛@新高円寺 Salon by Marbletron
⇒朝生愛@三軒茶屋 a-bridge 2007.11.11(sun)
●樋口寿人
PSFから作品をリリースする男性アシッドフォーク歌手。7年前に朝生の対バンで観たことがある。同じエレキギターの弾語りだが、聴き手を包み込む朝生に比べ、孤独に漂うような寂寥感がある。細かいビブラートのギタープレイが美しく、ルーツにあるブルーズが滲み出るのを感じる。アシッドフォークというと総じて儚いイメージがあるが、朝生や樋口のように透徹した自意識を貫く者しか生き残れないのかもしれない。
灰野敬二 (g, etc) 太田惠資 (vln, voice)@下北沢Lady Jane
おッ、午年最後の満月だ
関西ではつぶし餡にしてぜんざいとし、関東ではお汁粉と言って張り合うが、見ろよ浮かんだ白玉の満月の可愛らしさよ。
(Lady Janeフライヤーより)
灰野と太田は今年6月18日にタブラ奏者のU-zhaanを交え六本木SuperDeluxeでライヴを行ったが、デュオとして観るのは2012年2月12日下北沢Lady Jane以来。偶然にも前回はユニヴェル・ゼロとのハシゴだった。2003年の初顔合わせ以来10年以上共演する二人の演奏は、毎回何が起るのか判らないスリリングな愉しみを与えてくれる。
⇒灰野敬二+太田惠資@下北沢 Lady Jane 2012.2.12 (sun)
演奏スペースのテーブルの上に「OTO」と呼ばれる円形メタルパーカッションが9個並んでいる。10月19日狩俣道夫とのデュオライヴで披露して以来灰野が積極的に取り組んでいるオリジナル創作楽器である。小型鉄琴やシンバルを使ったり、2ndセットでギターを弾いたりしたが、この日の演奏のメインは「OTO」だった。ヴァイオリンは基本的にアコースティック楽器だから、打楽器との相性は良い。想像するに、どんな冒険的試みにも対応できる太田とのデュオに於いて、この楽器の可能性をとことんまで試してみよう、という気持ちがあったのかもしれない。それは邪推に過ぎないが、2セット述べ2時間に亘る「OTO」の演奏は、微弱音から大音量までダイナミズムに富み、表情豊かで多彩で、演奏の流れをリードする主体性も共有しており、メイン楽器としての役割を十分に担っていた。生物学的理論に基づいて考案された、いわば「自然界の音」を産み出す楽器である。連続した打撃音は、厄よけの火打石を打ち続けるお祓いと同じである。頭の中にエコーする金属音が、悩みや煩悩を払拭し、体内がすっかり浄化された気分になった。
エレクトリックを含め3台のヴァイオリンと大きなタンバリンや拡声器を使い、ホーミーを交えた太田の演奏も、人間的な「OTO」のサウンドと見事にシンクロし、ダイナミックなストーリー性のある即興演奏を繰り広げた。灰野の新しい試みが見事に開花した今、2015年の灰野の活動が愉しみで仕方がない。
[2015/1/2 22:00追加]
存在を
浄化するよな
自然のOTO
▼灰野敬二が自身を語る1時間半の映像公開。「OTO」の実演有り。
⇒オーストラリア人音楽ライターが解説する「灰野敬二を知るための15枚のアルバム」&灰野敬二トークイベント映像が公開