A Challenge To Fate

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【失われた女子バンドを求めて】第2回:エッグプラント eggplant~"なすび"という名の90's英国インディポップバンドの謎

2020年04月18日 02時38分23秒 | ガールズ・アーティストの華麗な世界


1995年秋のある日、60年代サイケの中古盤探しで訪れた吉祥寺の輸入レコード店の新譜コーナーに面出しされていたシングル盤に目が留まった。元々ガールズバンドが好きだったが、このころはどっぷりサイケに漬かっていて、ガレージ系やモッズ系女子アーティストばかり聴いていた。"eggplant(なすび)"と赤いスタンプが押された『girl wants a dinosaur(女の子は恐竜が欲しい)』(Bus Stop / 94)という7インチ。ブライトン風の浜辺に立つボーダー女子は60’sガールグループやサーフポップ風にも見えたが、それだけではないハンドメイドのDIY精神を感じた。大好きだった80'sガールズパンクバンド、ドリー・ミクスチャー Dolly Mixtureを思わせるキュートな1分前後のギターロックが突っ走っるサウンドに一耳惚れした。

Eggplant ‎– Girl Wants A Dinosaur 7"


エッグプラント eggplant は、ジュリー Julie (g/vo)、タミー Tammy (b)、グラハム Graham (ds)の女子二人・男子一人の三人組。
このシングルは、ロンドン、ハックニーのRedchurch Studioで93年10月23日にレコーディングされ、イギリスのインディレーベルfluffからリリース予定だったが何らかの問題があって(”奴は完全に狂ってた”と書いてある)決裂し、アメリカ・アイオワシティのBus Stopレーベルからリリースされた。

とても気に入ったが、当時はネットが発達しておらず、雑誌やラジオで紹介されない海外のインディバンドの情報を得る術はなかった(いや、おそらく一部のクラブや輸入盤店に出入りしていれば情報通と知り合えたのだろうが、そこまでの社交性はなかった)。そうして数か月後、別の輸入盤店のフリーペーパーでeggplantのCD発売の情報を見つけた。『anorak twat(アノラックの愚痴)』というタイトルで、ジャケットにバイキンマンが描かれていることがちょっとした話題になった。全14曲入りですべて1~2分のジャングリーポップ。「このCDの前にBus Stop、Pop Narcotic、Elefantから出ているシングル盤を買うこと」と注意書きがあるように、93~94年にレコーディングされリリースされたシングル4枚のコンピレーションである。

Eggplant - Anorak Twat (Compilation Album)


それ以来都内・国内はもちろん、海外出張先でのレコード店巡りのときは必ずシングル盤の「E」のコーナーを掘るようになり、そのおかげでシングル盤3枚『Because Some Things Are Meant To Be Throwaway(捨てられるものもあるのだから)』(Pop Narcotic / 94‎)、『Crushed By Ale(エールに押しつぶされて)』(Elefant / 95)、『I Believe In The Loch Ness Monster(あたしはネス湖の怪獣を信じてる)』(Candy Floss / 96)と唯一のオリジナル・アルバム(Elefant / 96)を入手することが出来た。1stシングル『Sweet Anarchy(甘いアナーキー)』(Bus Stop / 93)だけ見つけられていないが、音は『anorak twat』で聴ける。アルバムはLPが『Catboy(キャットボーイ)』、CDが『Catgirl(キャットガール)』とタイトルが異なり、ジャケットも違うが内容は同じ。1曲を除き、すべて1~2分だが、アコースティックナンバーも含め音楽的な成長を感じる。5分を超えるラストナンバー「We Only Wanted To Be Loved」はジュリーのヴォーカルじゃないように聞こえる。アルバムにクレジットされているもう一人のKeriというヴォーカリストが歌っているのかもしれない。”私たちは愛されたかっただけ”というタイトルが意味深。

Eggplant - Can't Get Better Than This


バンドのことをもっと知りたくてレコードに載っていた住所に手紙で問い合わせた。写真やバイオやニュースレターが欲しいと返信用クーポンを同封したのだが、半年以上経った97年秋に届いたのはジュリーからのタイプ打ちの手紙1枚だけだった。「2年間楽しく活動してきたがバンドは終わりました。2,3か月中にElefantレーベルで新しいアルバムを録音するかもしれませんが、グラハムは大学に進学し、タミーは赤ちゃんが生まれ、私は世界の果てのスコットランドに引っ越すので多分無理だと思います」と書かれていた。その手紙通り、新たな作品がリリースされることはなかった。また、調べた限りでは、それ以降ジュリー、タミー、グラハムが音楽シーンに再び登場した記録は存在しない。

ジュリーがワット・タイラー Wat Tylerというパンクバンドのメンバーでもあったことを最近知った。ワット・タイラーは86年に結成され、政治や風俗をネタにしたお下劣なパロディソングを得意とするコメディ風パンクバンドだった。ジュリーがクレジットされている95年の『Tummy』という43曲入りコンピレーションアルバムをYouTubeで聴いてみたところ、8曲がジュリーのヴォーカルで、そのうち7曲がエッグプラントの『anorak twat』収録曲だった。タイトルは違うが聴き比べると全く同じバージョンであることが分かる。つまりエッグプラントはワット・タイラーの覆面バンドだったのか?ヴォーカルはジュリーで間違いないが、グラハムとタミーは架空の存在だったのだろうか?確かにYouTubeにエッグプラントのライヴ動画はないし、ネット検索してもアーティスト写真やライヴの記録は見つからない。しかしそうなるとジュリーからの手紙にふたりのことが書かれているのはなぜ?それも嘘っぱちだったのだろうか・・・・?

Wat Tyler - Tummy CD - 24 - 100% Top Quality(Girl Wants A Dinosaur 7" tr-1 Candy Floss Conspiracyと同じ曲)


Wat Tyler - Justify Your Book(この曲はエッグプラントとしてはリリースされていない。)


謎の答えは見つからないが、エッグプラントとしてリリースされた曲に漲る直向きな純真さは、ワット・タイラーの捻くれたユーモアとは全く異なるティーンエイジャーのDIY精神の証明であり、ジュリー、タミー、グラハムの三人がバンドと音楽にかけた我武者羅な情熱の証に違いない。たった2年間の活動に凝縮された輝きは、永遠に消えることはないだろう。それこそ不滅のロックンロールマジックに他ならない。

青春を
ギターポップに
捧げました



<参考 Reference>
Wat Tyler - Tummy / eggplant - anorak twat
2. Poems On The Underground / 4. Still We Fall (Into The Same Trap)
10. How Doesn Ed Cope? / 14. How Does Ed Cope?
14. Not Supersticious / 2. All I Can Do (cover of Letherface's song)
24. 100% Top Quality / 8. Candy Floss Conspiracy
35. Played For And Got / 11. Played For And Got
36. Big Girls Blouse / 12. Exactly The Same
40. Fuck Pump / 13. It'll Make You Wanna Throw Up

<参考リンク Link>
第1回:失われた女子バンドを求めて~RAP/Bárbara/OXZ 

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