A Challenge To Fate

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【私のB級サイケ蒐集癖】第29夜:ムーミンの国フィンランド発、化学の友人『ケミアリセット・イスタヴァト Kemialliset Ystävät』の曖昧性理論

2020年04月03日 11時58分25秒 | 素晴らしき変態音楽


1979年高校生の頃サンフランシスコの匿名音楽コンボ、ザ・レジデンツと出会い夢中になった。特に愛聴したアルバムは『ノット・アヴェイラブル Not Available』(78)だった。N.セナダという前衛音楽家の「曖昧性理論」に基づき74年に制作され、制作者がこの作品の存在を完全に忘れるまでリリースされない(アルバム『ザ・サード・ライヒンロール The Third Reich 'N' Roll』ライナーノーツより)とされていた作品である。N.セナダの存在自体がレジデンツの創作ではないかと噂され、リリース制限も「やらせ」っぽい気がするが、初期レジデンツの作品中で最も哀感のあるメロディと夢の中を彷徨うような朦朧としたサウンドが産み出す訳の分からなさは、聴くたびに展開を見失う健忘症状をもたらし、初体験とノスタルジアの軋轢で脳の一部が機能放棄する無明の悦楽に耽れる。それこそ「曖昧性理論」の本質だと感じた。80年代半ばまでレジデンツを追っていたが、85年の初来日公演を観てから、なんとなく聴かなくなってしまった。筆者が求める「曖昧性」のベールが剥がれてしまった気がしたのかもしれない。

The Residents - Not Available - 2CD pREServed edition


サイケデリックやノイズ/アヴァンギャルドに筆者が求めるひとつの基準が「曖昧性理論」と言える。直裁的なガレージパンクの輪郭を暈すストレンジなエフェクト、誰がどの楽器を鳴らしているのか判然としない集団フリークアウト、先の展開が読めない非イディオム即興。。。例えばサン・ラ・アーケストラやヒューマン・アーツ・アンサンブルのとりとめもないサウンドの森に木霊する奔放な自由演奏は、脳の思考機能をオフにして耳と心をなすがままに泳がせる時に初めて別世界の扉を開けてくれる。トリップよりもジャーニーと呼びたい夢見心地の音楽旅行こそ最高のサイケデリック体験なのである。

Sun Ra Arkestra "Shadow World" West Berlin


そんな悦楽の旅に誘ってくれる現行アーティストを某レコードショップのサイトで見つけた。「不思議の国の森林状況レポート」とコメントされたケミアリセット・イスタヴァト Kemialliset Ystävät(ケミカル・フレンズ=化学の友人)という覚えにくい名前の音楽ユニット。1995年にフィンランドの地方都市タンペレ出身のミュージシャン、ヤン・アンデルセン Jan Anderzénを中心に結成された。ギター、マンドリン、バラライカ、ハンド・パーカッション、ハルモニウム、玩具、サン・ラやシュトックハウゼンのサンプリング、ポエトリー、エレクトロニクス等様々な楽器を使って産み出すサウンドは途轍もなくカラフルでストレンジな手工業音楽。曲によってはレジデンツやスロッビング・グリッスル、大竹伸朗よりもポール・モーリアやふきのとうに近いラヴリーポップなメロディも飛出し、一筋縄では語れない迷宮入りの音楽性と曲と曲の繋がりすら暮夜けてしまう躊躇い溢れる展開は「曖昧性理論」の源流を遡って進化した異形のスピリット(精霊)が息づいている。サウンドにさらなる曖昧模糊のスパイスを振りかけるのがビデオクリップ。

Kemialliset Ystävät: Kajastusmuseo(反省劇場)


Kemialliset Ystävät - Arkistorotat(鼠の古文書)


ホームビデオを編集した安上りのビデオドラッグや家族総出で寸劇に興じるスラップスティックを観る限り、彼らのお楽しみは大袈裟な社会革命や頭脳改革ではなく、日常や自然界に潜む身近な神秘の解放にあるに違いない。狂っているように見えるのは、ムーミントロールの生まれ故郷フィンランドの風土が持つメルヒェン・エキスの成せる技だろうか。

取り急ぎ国内の中古レコ屋やネットサイトで注文可能な2枚を入手した。

『Kemialliset Ystävät / Sunroof! ‎– Split Series #19』
(FatCat Records ‎– 12FAT076 / 2008)


A1 –Kemialliset Ystävät : Taivaassa On Loivemmat Mäet(天国のなだらかな丘)
A2 –Kemialliset Ystävät : Hyvällisen Tähdellistä(よくやった)
A3 –Kemialliset Ystävät : Yöllä Tulen Ja Raapasen Tulen Karvoihin!(夜に髪に火を点けてひっかけ!)
A4 –Kemialliset Ystävät : Pirtua Raamatun Kansissa(聖書の糞野郎)
A5 –Kemialliset Ystävät : Tässä Maassa Kun Näin Makailen(あなたが横たわるこの地球で)
B1 –Sunroof! : Little Ornamental Lake Of Death
B2 –Sunroof! : Spiritual Forgery
B3 –Sunroof! : Extinction Fantasy

イギリスの80’sノイズバンドSkullflowerのMatthew BowerのソロプロジェクトSunroof!とのスプリットアルバム。イギリスのFatCatレコードのスプリットシリーズの第19弾で、両者の間に直接の関係はなさそうだが、Sunroof!の時代を感じさせるLoFiノイズドローンに比べて、時代も出自も超越したケミアリセットの森羅万象音楽の異様さがよくわかる。ちなみに白いジャケットに穿たれた穴は、シリーズ番号の数になっている。本作は19個の穴がある。

Kemialliset Ystävät - PS-1 part 1 Live at PS-1, Long Island City, Queens, NY on afternoon of June 1, 2008



『Kemialliset Ystävät ‎- Kultaista Kaupunkia Etsimässä (黄金の街を探して)』
(Dekorder ‎– Dekorder 071 / 2013)


A1 –Kemialliset Ystävät : Marsin Kanaalit(火星の運河)
A2 –Kemialliset Ystävät : Opaali(オパール)
A3 –Kemialliset Ystävät : Yhdeksänmetrinen Jättiläinen(9メートルの巨人)
A4 –Kemialliset Ystävät : Hyppivät Saaret(跳躍諸島)
A5 –Kemialliset Ystävät : Onko Tulella Vapaa-Aikaa?(灯を消す時間だね?)
A6 –Tomutonttu : E.K.A.(E.K.A.)
A7 –Tomutonttu : Nahinahin Ranta(ナヒナヒ・ビーチ)

片面ピクチャー・レコード。もともと2009年8月にレコーディングされ、Olde English Spelling Beeレーベルからリリースされる予定だったが、レーベルの閉鎖によりお蔵入りしていた音源。ドイツのDekorderレーベルの10周年記念Hybrid Vinyl Seriesのひとつとしてリリースされた。ヤン・アンデルセンのソロユニット、トムトントゥ Tomutonttuの曲が2曲ボーナス・トラックとして収録されている。ヴィジュアルアーティストでもあるヤンのカラフルなデザインのピクチャーディスクが素晴らしい。

Kemialliset Ystävät - Marsin Kanaalit



1995年に結成されてから2018年の最新作『Siipi Empii(躊躇いの翼)』まで15作を超える作品をリリースしていて、BandcampやSpotifyで多くの音源が聴ける。聴けば聴くほど増幅する曖昧性の迷宮に魅了され、ヤンの北欧テキスタイル・アートに包まれたレコードの現物が欲しくなり、Discogsでフィンランドのディーラーへ注文したが、COVID-19の為に日本へ荷物を送れない状況にあると連絡がきた。待ち遠しいが今は雌伏すべきとき。コロナが回避できた暁には、フィンランドの化学の友の音楽に脳と心臓と肺が機能放棄するまで耽溺したい。

Kemialliset Ystävät⇒http://www.kemiallisetystavat.com/
Jan Anderzén⇒http://www.janderzen.net/
Interview⇒http://www.phinnweb.org/5HT/interviews/kemialliset/

ケミカルな
化学反応
サイケ道

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