窪田恭史のリサイクルライフ

古着を扱う横浜の襤褸(ぼろ)屋さんのブログ。日記、繊維リサイクルの歴史、ウエスものがたり、リサイクル軍手、趣味の話など。

事例発表三本立て-第60回燮(やわらぎ)会

2023年05月15日 | 交渉アナリスト関係


 5月13日、第60回燮会を開催しました。燮会は交渉アナリスト1級会員のための交渉勉強会です。2016年から始まった横浜での開催(2020年は中止)、今回で7回目となります。過去の横浜開催の内容については、下記をご覧ください。

【過去の横浜開催】
第55回燮会
第48回燮会
第42回燮会
第37回燮会
第32回燮会
第27回燮会

 これまでの横浜大会は、通常の燮会では時間の制約上難しい理論の掘り下げやロープレ、ゲームなどを行ってきましたが、今回は1級会員による事例発表三本立てです。



 第1部は、荻島亮一さんより、「交渉学の視点で自動車製造の当たり前を考えてみる」。日々のお仕事の中で自分の交渉の癖を痛感されたことが交渉学を学ぶきっかけとなったという荻島さん。自分を知ることの大切さと同時に、お仕事の目線から日本も自分たちの価値に気づくことが大切なのではないかというお話でした。



 第2部は篠原祥さんによる、恒例の「実践的交渉戦術と実例」。篠原さんには第56回燮会より、交渉関連書籍の実践的な交渉術と、お仕事を通じたその活用事例を紹介していただいています。今回の参考図書は、クリス・ヴォス著『逆転交渉術――まずは「ノー」を引き出せ』。





 クリス・ヴォスはFBI主席交渉人として、20年以上にわたり人質交渉に携わってきました。人の生死がかかる失敗の許されない環境で、相手の感情に寄り添い言語/非言語コミュニケーションを駆使して彼は犯人と対峙してきました。同書は、自身の経験を交渉理論と照らし合わせて構築した、独自の交渉術を紹介しています。上は、それらの様々なスキルを僕なりに分類・再構成した図です。人質交渉という、最も過酷な交渉であるにもかかわらず、そのキーワードは意外にも「傾聴」、「共感」、「親密」、「影響」で、徹底した相手指向でした。

 同書から今回篠原さんが取り上げたポイントは、以下の二つです。

1.BATNA

 BATNAとは「交渉で合意する場合以外の代替案で最善のもの」のことで、交渉のパワーの源泉として大変重要な概念です。しかし、ヴォスによれば、脅しにも妥協することなく交渉できるというメリットがある一方、BATNAを意識しすぎることの弊害もあるということです。篠原さんのご経験では、特に厳しい交渉では心身の負担が大きい、例えば価格交渉のオファーのやり取りにおいて疲れてくると、安易に妥協してしまう恐れがあるということです。これは日本人に多い傾向ではないかともお話しされていました。また、交渉の結果到達したい目標値がBATNAに引っ張られ(このような心理をアンカリングといいます)、無意識に低く設定されてしまう恐れもあります。

2.譲歩の原則

 価格交渉における譲歩の仕方については諸説ありますが、ヴォスが同書の中で紹介しているのは、元CIAで誘拐専門コンサルタントのマイク・アッカーマンのモデルです。彼は、最初のオファー(出発点)を目標値の65%(買い手の場合。売り手であれば、+35%)に設定し、その後3段階で譲歩することを勧めています。

 一般に言われる譲歩の原則は、

①野心的な高い目標値(アスピレーション値)を慎重に考える(アッカーマンはそれを目標値の65%と述べているわけです)。
②譲歩幅は徐々に小さく。
③端数効果(端数を使ったほうが、信憑性が向上するという心理的効果)を利用する。

 篠原さんによれば、相手のオファーに対して同じノーと言うにも、状況を踏まえ言い方を工夫することが大事だということでした。



 第3部は、谷口則彦さんと和佐毅さんによる、「企業の組織再編における共創協働」。谷口と和佐さんの質疑応答という形で、和佐さんがお仕事で経験された組織統合と、そこで交渉学を活かされた事例について伺いました。

 和佐さんは食品輸入会社で長年調達を担当され、最近営業に配属となりました。交渉学を学んだきっかっけは、奪い合い型の交渉、いわゆる分配型交渉に悩まれていたことだったそうです。交渉学を学ばれる中で、交渉に正解はなく、理論と同時に場数を踏んで経験を積むことも大事だと思うようになったそうです。

 交渉の学びには終わりがなく、次第に学んだことを自分のものとするだけでなく社内にも広めていきたいと思うようになったそうです。そこで、2020年から交渉学の企業向け1日研修である「交渉アナリスト3級講座」を社内に導入しました。2021年は同研修を「社内外を問わず課題を解決する風土づくり」をテーマに行い、2022年には社員と協力してオリジナルのケーススタディづくりに取り組んだそうです。その過程で、社員が自発的に取り組んでくれたのが嬉しかったとおっしゃっていました。また、ケーススタディにより普段と違う部署の役割を演じることで、お互いの理解を深め合うことにも繋がりました。

 2023年より、和佐さんの会社は類似業務を行っていた提携会社の事業部と統合し、新会社として出発しました。組織が大きくなると縦割りな風土になりがちです。交渉学はその弊害を和らげ、全体最適を指向するのに役立つと考えておられるそうです。また、和佐さん自身も営業というこれまでとは逆の立場のお仕事に就くことになりました。営業では、傾聴、価値交換、価値創造といった交渉学のエッセンスが使えます。お客様との折衝は日々発見の連続だそうで、1回の質問だけでA4のレポート用紙にびっしり書けるほどの学びがあるそうです。これほど役立つ交渉学をぜひ広めていきたいとのこと。また、ロープレも今後は自分の交渉シーンを撮影して振り返ったり、成功事例・失敗事例を分析するようなものを取り入れていきたいということでした。

 最後に。

●自分達ならできると思えること。相違は障害ではなく、やれることが増えたのだということ。
●相手を思いやる燮(やわらぎ)の精神。
●成功体験の積み重ねと未来を見据えて考えることの大切さ。

今回の経験から得られた、和佐さんが伝えたいポイントです。

繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした
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第19回ネゴシエーション研究フォーラムに参加しました

2022年12月13日 | 交渉アナリスト関係


 2022年12月3日、半蔵門のシェアオフィス「パズル一番町」とオンラインのハイブリッドで行われた、第19回ネゴシエーション研究フォーラムに参加しました。

 今回は、上智大学、法科大学院、および社会人向け講座で交渉学を教授しておられる森下哲朗先生より、「大学対抗交渉コンペティションから見た交渉スキルの課題と交渉教育の必要性について」と題してお話しいただきました。

 まず「大学対抗交渉コンペティション」についてですが、意外にも歴史は古く、2002年から行われているそうです。現在でもそうですが、日本の大学において交渉学が教えられているケースは少なく、交渉に対する社会に関心を高めると共に、学生が交渉を学ぶ動機付けとするため設立されました。

 つい最近第21回大会が行われましたが、年々そのレベルは高まっているそうです。コンペは日本語の部と英語の部があり、海外を含む27大学が参加。4名~6名から成るチームで競われます。チームを一つの会社と見立て、役割分担し、国際ビジネスを題材としたロールプレイを準備から本番まで約2ヶ月にわたって行います。

 ビジネスプランの発表会ではないので、交渉の内容そのものに重点を置いて審査がなされます。具体的には、目標設定、交渉方針、相手方についての理解、説得の仕方、交渉戦略、相手との関係、合意、チームワーク、交渉態度、自己評価が優れたものであったか基準とされます。(合意バイアスや経験不足など)若さや学生であることが影響してか、過去の大会では交渉態度、目標設定、チームワークなどは安定して高い評価を得ている一方、相手との関係については大会ごとの参加者によってバラツキがあるようです。逆に一貫して評価が低いのは戦略、合意、提案など。特に日本の学生は合意内容を明確にするのが苦手なようです。



 『ハーバード流交渉術』で交渉理論の成果を広く一般に普及することに貢献したロジャー・フィッシャーは、あらゆる交渉に含まれる、相互に関連した以下の7つの要素(交渉の7要素)を特定し、交渉をより広い視野で捉え、質の高い合意をするための縁としました。学生にも基本的にこの7要素に沿って交渉が教えられています。

1.関心(Interests)
2.代替案(Alternatives)
3.関係(Relationship)
4.選択肢(Options)
5.正当性(Legitimacy)
6.コミュニケーション(Communication)
7.コミットメント(Commitment)

 一方、交渉を学んだ学生が抱いている課題には、次のようなものが浮かび上がっています。

1. どのように相手から情報を得、どの程度自分の情報を開示すればよいのか?
2. 効果的な相手への伝え方。
3. 譲歩の仕方、タイミング。
4. どの水準で合意すればよいのか?
5. 交渉プロセス、相手との関係。
6. 戦略。
7. ハード・ネゴシエーターへの対処。

 これらの課題は、実務交渉を積んでいる社会人であっても多くの人に共通するのではないでしょうか?しかし、残念ながら交渉に「これでなければ」という答えはありません。判断の基準として原則を抑えること、原則はコンテクストに応じて順用も逆用もあり得るということを「当然」だと思うことが大事だと思います。普遍的な答えがないから無意味だということにはなりません。

 交渉学はアートとサイエンスの両方を含む学問であるがゆえ、そこに教える際の難しさがあるようです。しかし、交渉学が有益であるのは、2500年の時代を超えてなお『孫子』が現代のビジネスマンにとって有益であるのと同じだと思っています。例えば、『孫子』に「兵は拙速を聞くも、未だ巧の久しきを睹ざるなり(作戦篇)」とあります(例えば、1991年の湾岸戦争)。しかし、これは兵力優勢である場合の「原則」であることを心得ておく必要があります。仮に自分が劣勢である場合、それこそ「兵の勝つは、実を避けて虚を撃つ(虚実篇)」とあるように、持久戦に持ち込むことで相手の「実」を「虚」とすることもあり得るのです(例えば、1955年~75年のベトナム戦争)。何故なら状況が違うからです。

 交渉学を学び、現実に活かす場合にも同じことが言えるのです。

繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした
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負けない交渉実践事例-第58回燮(やわらぎ)会

2022年12月12日 | 交渉アナリスト関係


 2022年12月2日、オンラインによる第58回燮会が行われました。燮会は日本交渉協会が主催する交渉アナリスト1級会員のための勉強会です。

 今回は二部構成。第一部は、1級会員の高瀬誠さんより「負けない交渉実践事例」と題してお話しいただきました。高瀬さんは2017年11月18日に行われた「第12回ネゴシエーション研究フォーラム」でも講師をしていただいています。

 さて、初めに参加者であるケースを読みました。時代は35年前のバブル期。父親から引き継いだ店の立ち退きを大家から迫られ、立ち退き料交渉にいわゆる「地上げ屋」が乗り込んできたというお話です。ここで言う地上げ屋とは、この時代に横行し、今でも悪いイメージが付きまとう原因となった人たちで、行われたのは交渉というより立ち退きを迫る恫喝でした。

 この状況にケースの主人公である20代の若者はどう対処したのか?まずは参加者から意見を出し合いました。僕などは全く想像もつかなかったのですが、さすが1級会員の皆さんは経験が豊富で的確な意見を次々出されていました。

 もちろん交渉に正解はなく、その成果は結果から推し量るしかないのですが、素人で恫喝してくる相手と対峙した主人公のとった対応は次のようなものでした。

・弁護士に相談(但し、当時店は赤字経営が続いており、主人公にはお金がありませんでした)
・交渉場所として、知人の喫茶店を選び、客の目がある13時を指定。窓を背に店の中央の席に座った。
・大家が立ち退きを求める真意が相続税の支払いにあることが分かった(支払期限があるため、相手には時間がない)。
・相手方提示額の3倍を提示し、立場を固定した。
・ただ立場を固定するだけでなく、その額を提示する正当性を示した。
・脅してくる相手にも理解を示し、自分の事情も正直に話した(いわゆる「浪花節」も含む)。

 結果的に、相手は主人公がやや譲歩したものの、ほぼ提示額に近い金額で合意しました。この主人公がとった行動には、交渉理論で扱われる幾つかの戦略・戦術が観察できます。例えば、

・ 交渉の「場」の戦略(環境、時間、対人位置):ゴフマン(1963)、ラパポート(1983)、アッカーマンら(2010)の研究では、部屋のデザインや中の椅子の配置などが人の感情、行動、解釈、交渉スタイルに影響を及ぼすことが分かっています。
・ 時間のプレッシャー:多くの場合、時間のプレッシャーは交渉者間で非対称です。焦りは迅速な譲歩や合意を生む要因となり得ます。本件では、焦りは相手側の方に強くありました。
・ 正当性:『ハーバード流交渉術』を著したロジャー・フィッシャーは、あらゆる交渉に含まれる7つの要素の一つに「正当性」を挙げています。正当性とは例えば客観的な数字による根拠などですが、説得の上で非常に重要です。霊長類学者のブロスナンとデ・ワールによると、オマキザルでさえ正当性を欠いた不公平な扱いには憤然と怒りを示したそうです。
・ 相手の受容、敬意、正直さなど。



 第二部は、「第20回交渉理論研究」。「分配型交渉の理論」の4回目、「オークションの理論」の後半についてお話ししました。今回は、1994年に米連邦通信委員会(FCC)が行った同時複数回の周波数オークションについて。同時複数回オークションを提案したポール・ミルグロムとロバート・ウィルソンは、「オークション理論の改良と新しいオークション形式の発明」の功績により、2020年にノーベル経済学賞を受賞しました。ゲーム理論を現実へ適用した成功例として有名な「FCC周波数オークション」ですが、どのような利益をFCCにもたらし、一方でどのような問題があるのか?これについて単純化したモデルを用いて検討しました。

 因みに、ポール・ミルグロムと言えば、すでに卒業した後でしたが大学時代の専攻の関係で、『組織の経済学』という電話帳のような分厚い本と格闘したトラウマに近い思い出があります。ちゃんと理解できたのかどうかは別として…。



 以上で「分配型交渉」のパートは終わりです。次回から「統合型交渉の理論」に入ります。

繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした
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交渉の男女差研究②-第57回燮(やわらぎ)会

2022年10月14日 | 交渉アナリスト関係


 2022年10月13日、オンラインによる第57回燮会が行われました。燮会は日本交渉協会が主催する交渉アナリスト1級会員のための勉強会です。

 今回は5月12日にお話しした、「交渉の男女差研究」の続編。前回取り上げた交渉の男女差研究から明らかになった、(男性にももちろん役立ちますが)とりわけ女性が抑えておくと良い交渉力アップのポイントについてお話ししました。

 前回もお話ししましたが、前提として全体として見れば交渉結果の男女差は有意ではあるものの、その差は小さいという結論が出ています。しかし、特定の状況によっては交渉行動や結果に男女差がみられる場合があり、この2回の燮会で取り上げているのは、その部分における議論です。また、これらの研究は主としてアメリカで行われたもので、他の文化圏でも当てはまるかのまでの検証はなされていません(一部例外もあります)。さらに、ここで「男女」という場合、それは全ての男女を指しているものではなく、過度な一般化は禁物であるという点に注意が必要です。

 以上の前提を踏まえた上で、今回お話しした交渉力アップのポイントは次のようなものです。

1.交渉力の源泉
・BATNA
・タイミング
・情報収集
・「誰かのため」に交渉する
・地位
・証拠の補強
・共通目標
・好感度
2.感情のマネジメント
・感情への対処(不安・怒り・失望/後悔・幸福)
・相手の感情への対処(二つの戦略)



 さらに補足として、カーネギーメロン大学ハインツ校のリンダ・バブコックが提唱する「交渉ジム」、即ち交渉に苦手意識を持っている人が、交渉や交渉環境に徐々に適応していくための6つのステップについてお話ししました。

 話は1時間半ほどで終わり、残りの30分は自由な意見交換。

(あくまで傾向として)
・看護現場から:習得が早いのは女性、患者に受けがいいのは男性
・クレーム対応:感情の受け止めは女性対応、技術的解決は男性対応
・クレームの目的:感情を受け止めて欲しい女性、問題を解決して欲しい男性
・交渉時の男女の着眼点の相違(女性の感情を察する能力)

といった具合に、初めは皆さんの男女差に関する経験則に始まり、

・女性集団における「外集団」と「内集団」
・「交渉ジム」の文化的相違
・「失望」というネガティブ感情も有効なものとなり得る
・交渉の実質以上に「枠組み」を設計することの大切さ(「3D交渉」がこれにあたります)
・男女差以外に世代差に起因する戸惑いについて
・交渉の地域差(大阪と東京の違い)

次第に今回の内容を起点に様々な方向に意見が展開していきました。みなさん各方面で様々な経験をお持ちなので、非常に勉強になりました。

繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした
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第6回燮読書会に参加しました

2022年10月05日 | 交渉アナリスト関係


 10月4日、第6回燮読書会に参加しました。取り上げるのは前回に続き「世界標準のビジネス交渉」(現代産業選書、2022年)、今回の範囲は第3章~第4章です。





 いつものように、ファシリテーターの波戸岡のサマリーから始まります。今回も本を読んでくる時間がなかったという方からの飛び入り参加がありましたが、サマリーのおかげで無理なく議論に参加できていました。また、事前に本に目を通してきた皆さんにとっても、議論の前のよいおさらいになります。

第3章 交渉戦術の基礎知識
3-1.アンカー効果(船の錨効果)
3-2.留保値(最低の合意点、踏みとどまるポイント)
3-3.BATNA(不調時対策案)
3-4.原則立脚型交渉
3-5.ゲーム理論
3-6.戦術の極意(相手の真の関心事項と目的を正しく知る)

第4章 ビジネス交渉の計画と立案
4-1.交渉開始の二つのアプローチ
4-2.交渉開始時の最適な順序とアプローチ法(信頼関係を育てるには)
4-3.ハーバード流3D交渉術
4-4.交渉戦術のプランニング
4-5.利害を特定する
4-6.逆算マッピング(ゴールからの引き算プランニング。バックキャスト)
4-7.交渉結果の評価法
4-8.交渉テーブルにおける対話の順序



 その後、2回のグループアウトセッションでディスカッション。

・都合よくBATNAが探せない場合について。
・倫理的観点から、腹に落としどころを描いて交渉に臨むことの是非について。
・“Divide and Conquer(分割統治)”は分かるが、過去に経験した国際交渉だと、一部の議題で合意に達することができたとしても、結局トータルで合意できずご破算を選択するケースが多かった。部分合意で上手くいった事例はないか?
・部分合意の場合でも、交渉当事者のトップ間、組織内で大枠のベクトルを合わせておくことが不可欠。
・交渉の評価は何をもってなされるべきか?(例えば、今回取り上げたベトナム戦争停戦協定(パリ和平協定)も、合意時点ではアメリカにとって優れた交渉成果だったといえますが、そのわずか2年後に合意は崩壊し、北ベトナムによるベトナム統一という結果となったのは周知の事実です)

 「世界標準のビジネス交渉」は事例も豊富なので、理論部分だけでなく事例についての考察にもいろいろと議論が及びました。



 最後に、今回の範囲に関連する交渉理論面の補足を行いました。今回のトピックは、

① 繰り返し囚人のジレンマゲームについて
② 3D交渉:セットアップ(相手のBATNAを弱めた交渉事例について)
③ ハワード・ライファのスコアカードについて

 ①は第37回燮会(第2回交渉理論研究)、②は第48回燮会(第13回交渉理論研究)で取り上げたテーマですが、②については上記の「パリ和平協定」の事例を改めてお話ししました。③はライファの”Negotiation Analysis”では「テンプレート」と呼ばれているもので、第59回燮会(第21回交渉理論研究)「統合型交渉の理論」で詳しくお話しする予定ですが、読書会の皆さんには先取りして、テンプレートの採点方法と複数課題交渉の留保価値をどのようにして定量的に設定するかについてお話ししました。



 次回は12月第1火曜日の開催となります。

繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした
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産学連携による新たな価値創造-第56回燮(やわらぎ)会

2022年09月17日 | 交渉アナリスト関係


 2022年9月168日、第56回燮会がオンラインで行われました。燮会は日本交渉協会が主催する交渉アナリスト1級会員のための勉強会です。



 今回からレギュラーの燮会は三部構成で行われることになりました。第一部は、前回(第55回燮会)から始まった、1級会員篠原祥さんによる日々の交渉で頻出する交渉戦術の実例について。今回取り上げられたのは、アメリカ人が最もよく使うと言われ、実際に篠原さんも実務の中で遭遇されるという戦術、「High Ball Low Ball」。達成不可能と思われる途方もなく高い、あるいは低い最初の提案をすることです。

 この戦術への対処法は、合理的な提案を再度要求すること、こちらも極端な要求で対抗する、交渉決裂を匂わすといったことが考えられます。また、交渉の準備を念入りに行い、良いBATNA(当該交渉で合意する場合以外の代替案で最善のもの)を用意しておくことも重要です。また、どこで交渉を打ち切るかの「撤退ライン」も自分の中で決めておきます。

 もう一つは、両者の提示額に差がある場合、人はその差額の中間点で妥結する傾向があります。日本には「足して二で割る」という言葉がありますが、アメリカでの研究でも「最終合意は、二つの提示の中間点になることが多い」ことが分かっています。長引く厳しい交渉の果てに精神的に疲れ、早く妥結したいという思いに捉われることは、交渉者の心理としてある話だと思います。そこで安易に中間点で妥結することを提案し、損をすることのないよう、交渉学では様々な方法が提案されていますが、今回紹介されたのは、「1・2・3理論」と呼ばれる方法。即ち、こちらと相手の提示額の差(距離)を「1」とします。その「2」分の1が「足して二で割る」場合の妥結点。しかし、最初に中間点を提案してしまうと、相手からさらなる譲歩を求められる可能性があるので、予めその譲歩幅を折り込み、中間点より「3」割ほど高い金額を譲歩案として提示するという方法です。



 第二部は、「第18回交渉理論研究」。「分配型交渉の理論」の3回目、「オークションの理論」の前半についてお話ししました。

 オークションはゲーム理論で研究されている分野です。交渉でなぜオークションを取りあげるのかと言えば、一つにはオークションは複数人が競合する分配型交渉の特殊形態と見なすことができるということ。もう一つは、オークションは、経済学において社会的総余剰を高める(効率的資源分配を達成する)仕組みと考えられており、分配型交渉理論の主たる関心である「分配」の問題を規範的に解決する一手段として位置づけられるためです。

 さて、今回は数あるオークションの中で、「ファーストプライスオークション(最高金額を入札した者が落札する)」と「セカンドプライスオークション(最高金額を入札した者が落札。ただし、落札者は入札された二番目に高い金額を支払えばよい)」の分析を取り上げました。

 前提として、幾つか知っておかなければゲーム理論の概念がありますので、4年前の「第2回交渉理論研究」から必要な部分のおさらいをしました。

・支配戦略と弱支配戦略
・被支配戦略の逐次消去
・ナッシュ均衡

 その上で、初めに「セカンドプライスオークション」の分析から。詳細は割愛しますが、セカンドプライスオークションにおいては理論上、入札するプレイヤーが獲得したい財に対して持っている評価額(その人が財に対して持っている価値)通りの金額を入札することが最適戦略であることが分かっています。

 続いて「ファーストプライスオークション」の分析。まず、数ある戦略の組み合わせ(ここでは36個)から、「被支配戦略の逐次消去」という考え方を使い、弱支配されている戦略を選択肢から外していきます。その結果残ったものが最適戦略になるのですが、この結果から導き出されることは、ファーストプライスオークションにおいては、「評価額の一番高い買い手が、二番目に高い評価額で入札し、その他の買い手は、評価額より1単位低い価格を入札することが解となる」ということです。



 因みに、3年前の「第7回交渉理論研究」で、意思決定アプローチ「PrOACT」、そのプロセスの最後にある「トレードオフ」を行う手法としての「等価交換法(Even Swap)」を取り上げました。この等価交換法は、上記の「被支配戦略の逐次消去」を応用した考え方です。



 第3部は、1級会員松本邦弘さんによる事例紹介。「産学連携による新たな価値創造」と題してお話しいただきました。大手航空会社にお勤めの松本さんが携わった、離島路線の小規模航空会社、地方国立大学と連携しての価値創造のお話です。

 小規模航空会社では、パイロット不足に課題がありました。離島路線は単に乗客を運ぶだけでなく、離島への物資や医薬品の運搬、重症患者の搬送など、離島の住民の皆さんにとってライフラインとなっています。それだけ高い社会的使命を帯びた仕事ではありますが、パイロットを自社で養成する力はなく、全国に数少ない操縦科を持つ大学を卒業し、ライセンスを取得した人材を採用せざるを得ません。しかし、そうした人材はただでさえ数が少ない上、学生の大手志向、LCCなどとの人材のとり合いなどもあり、満足のいく採用ができていませんでした。

 これに対し、松本さんがいらっしゃる大手航空会社には社内でパイロットを養成するノウハウがあります。しかし、逆に規模が大きいために離島路線までを自社がカバーすることは困難であり、小規模航空会社が成り立つことはお互いにとって良いことです。

 もう一人のプレイヤーは、離島路線のある地方の国立大学です。この大学に操縦科はありませんが、地域に貢献する人材を育成したいという思いがありました。なお、同大学はこのプロジェクトによって文部科学省の「インターンシップアワード」を受賞しました。

 そこで企画されたのが、大手航空会社がインターンプログラムとして、この大学に学生にセスナ機の操縦体験を提供します。まず、これにより大学生の皆さんに就職先の選択肢として、パイロットに関心を持ってもらうことができます。また、飛行機の操縦というものは隣に乗機する教官が肌で感じて訓練生のパイロットとしての適性を見極めなければならない側面があるそうで、この操縦体験により潜在的にパイロットの適性を持った人材を発掘することもできます。

 プログラムを終え、小規模航空会社を志望する場合、条件付き内定が得られる可能性が開けます。しかし、ライセンスを取得しなければならないので、地元にある操縦科を持つ大学に通う必要があります。これには決して安いとは言えない費用が掛かりますが、このプログラムでは奨学金など様々な支援が受けられます。大手航空会社にとっても、元々採用は普通の四年制大学からですので、四年制の国立大学の学生にパイロットへの関心を持ってもらうことは、採用の母集団を広げる意味で利があります。

 交渉にも通じる、松本さんがこのプロジェクトで大事にしたことは、特に初動の対応です。過去に例のない企画を初顔合わせのメンバーが行わなければならないため、三者の信頼関係の構築、そして共通のゴール(何のために取り組むのか?トラブルがあっても立ち戻れる共通の価値観)の設定に時間をかけたそうです。その結果、意見の食い違いによる対立はあっても、それはあくまで共通のゴール実現のための建設的なものであり、そもそもプロジェクト自体をやるか、やらないかというような議論に陥ることを防ぐことができたそうです。

 この信頼関係を構築すること、ゴールの共有を実現するため、松本さんは次の三つを大切にされているとのことでした。

●たずねる:必ず相手に会うという「訪ねる」と、相手の真意を深く理解するための「尋ねる」とがある。
●おぼえる:入手した情報(特に相手に関する情報)を覚えておく。会議前に必ず前回のおさらいをする。
●わすれる:時には自分のユニークな経験ゆえに自信過剰バイアスに陥ることも。これを防ぐため、我を捨て相手を尊重することを心がける。

 同プロジェクトの資金面をサポートする金融機関との交渉が難航した際も、平素から相手を深く理解する習慣が役立ったそうです。当初予定していた金融機関との交渉が暗礁に乗り上げた際、同プロジェクトの趣旨を理解してもらえそうな代替金融機関を見つけることができたのも、別件でその金融機関の性格を把握できていたからでした。交渉の本台に入る前の土台作りがいかに大切か、平素から深く相手を知り、信頼関係を築いておくことがいかに力となるかを改めて考えさせられるお話でした。

繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした
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第5回燮読書会に参加しました

2022年08月02日 | 交渉アナリスト関係


 8月1日、第5回燮読書会に参加しました。こちらは交渉アナリスト1級会員のための勉強会である燮会のメンバーが有志で立ち上げた読書会で、昨年12月から毎月第一火曜日(今回はたまたま月曜でしたが)に開催しています。このように、燮会は基本的にメンバーがめいめいやりたいことがあれば手を挙げられることになっています。今回は1級会員になって初めて燮会に参加するという方も複数名いらっしゃいました。



 さて、今回から3冊目に入ります。選んだのは日本交渉学会常務理事の東川達三先生が出された、「世界標準のビジネス交渉」(現代産業選書、2022年)です。こちらは京都大学経営管理大学院でも使用されているテキスト”Practical Business Negotiation”の翻訳版ですが、日本人にも読みやすいよう随所に日本の事例等が盛り込まれています。「読み物」としての過去2冊とは違い、コチコチの教科書ですが、体系的な構成で例題も多く良書です。





 今回の範囲は第1章~第2章。いつものように、ファシリテーターの波戸岡さんより今回の範囲のサマリー。これがあるので、忙しくて本を読めなかったという人でも安心です。

第1章:交渉戦略-ビジネス交渉の戦略構想-
・分配型交渉と統合型交渉
・交渉戦略の選択
・交渉を避ける戦略

第2章:交渉の心理戦略-敵対ではなく互恵関係を築く‐
・情報収集のための戦略的質問法
・共感のメカニズム
・印象操作
・交渉に役立つ満足の感情



 その後、グループアウトセッションに分かれ少人数でディスカッション。その後全体で話し合われたことを共有しました。いつものことですが、同じテーマを扱っていても話し合われる内容はそれぞれのグループで驚くほど異なります。

 第1章については、このような意見がありました。

・「状況の変化に合わせて戦略を変更する」というのは実務でも非常に大事だと思う。
・しかし、その状況が変化していることに気づけないというような状況にしばしば遭遇する。
・当初は、最初はお互いの気持ちに配慮していても、時間の制約と共に構っていられなくなる。
・逆に戦略的に土壇場の状況を作り出すこともある。
・サンクコストの罠は意外に多い。
・「譲歩」は統合型交渉として扱うべきなのか?
・情報の非対称性が大きい場合、片方にとって統合型でももう片方にとって分配型になることがある。
・立場の強い側は分配型になりがち、弱い側はいかに統合型にもっていけるか?
・分配型と統合型の境界について疑問。
・BATNAを「BATNA力」とあえて「力」をつけている翻訳は良い。実際BATNAは交渉のパワーのひとつであり、それが感じられる。

 第2章については、このような意見がありました。

・情報収集、質問は大事。
・業界の性質上、分配型が主流の世界でも聞くことによって、相手が心を開いてくれることが多い。
・最初に何を実現したいのか、目的をはっきりさせる必要がある
・交渉の満足度のカテゴリは、交渉準備のチェックリストとして大切。ただ、各カテゴリのウェイトについては状況や文化により異なると思う。
・本当はそうでなくても相手が勝ったと思っていればwin-winになりうることもある。
・当事者の共感、信頼が代理人の存在によって阻まれることがある。
・お互いの認識はズレているのが前提であり、真意を確かめないとモデルを当てはめるだけではうまくいかない。
・交渉におけるコミュニケーションは情報収集の手段と捉えるべき。
・交渉における「共感」とは何なのか?美辞麗句にとらわれずその目的を忘れないことも大事(例えば、カウンセラーとビジネスとでは目的が違う)。

 因みに、「質問」については、日本交渉協会顧問でもある清水建二さんの「裏切り者は顔に出る-上司、顧客、家族のホンネは「表情」から読み解ける」が、タイトルこそ過激ですが科学的証拠に基づいて書かれておりお勧めです。



 今回は最初の章ということで、イントロ的色合いが強かったのですが、その割には時間一杯使い切る活発な議論がなされました。次回は10月開催となります。

繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした
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連合の理論-第55回燮(やわらぎ)会

2022年06月19日 | 交渉アナリスト関係


 6月18日、第55回燮会を開催しました。燮会は交渉アナリスト1級会員のための交渉勉強会です。2016年から始まった横浜での開催(2020年は中止)、今回で6回目となります。過去の横浜開催の内容については、下記をご覧ください。

【過去の横浜開催】
第48回燮会
第42回燮会
第37回燮会
第32回燮会
第27回燮会



 さて、通常の燮会(2時間)より時間の取れる横浜開催(4時間)。第1部は、第49回燮会でもお話しいただいた、1級会員の篠原祥さん。交渉そのものを生業とされている篠原さんから、「実践的交渉戦術と実例」と題し、最近の燮読書会で取り上げたロジャー・ドーソン著『本物の交渉術 あなたのビジネスを動かす「パワー・ネゴシエーション」』、また昨年の第48回燮会で取り上げた、『キッシンジャー超交渉術』で説かれている交渉術やフレームワークの具体的事例をお話しいただきました。



 事例1のテーマは、「決定権を持たない人への対応」。『本物の交渉術 あなたのビジネスを動かす「パワー・ネゴシエーション」』からのキーポイントは、

1.自分が決定権を持っていることを相手に知られてはいけない。
2.あなたの高次権威は、個人ではなく漠然とした組織であるべき。

の2つでした。

 事例2のテーマは、「相互利益の交渉術」。海外のシンクタンクとの協力関係に関する事例で、キーポイントは、

1.相互利益とは、双方が等しく譲歩することでも、双方が等しく得ることでもない。
2.お互いに相手が負けたと思っていても、双方が勝ったと思えば、相互利益である。
3.相手が自分と同じものを望んでいると思い込まないこと。
4.交渉中に最も重要な思考は、「相手に何を与えてもらえるか」ではなく、「自分の立場を崩さず、相手にとって価値のあるものは何か」である。相手が望むものを与えれば、相手もあなたが望むものを与えてくれるだろう。

の4つでした。



事例1のテーマは、「広角的な見方を取り入れる」。第48回燮会でお話しした「3D交渉」の事例です。『キッシンジャー超交渉術』からのキーポイントは、

1.戦略を立てる際には「広角レンズ」を使って、関連が予想される関係者すべてを分析しよう。
2.交渉の準備をする時には、面前の相手だけではなく、交渉の成功率を上げてくれそうな他社に注意を向けよう。
3.有能な交渉者は、戦略的枠組みから「ズームアウト」する能力を育むと同時に、交渉相手に鋭く「ズームイン」する習慣を身につけるべきだ。そうすれば、ミクロの視点とマクロの視点が生産的な方向で連携できるようになる。

 3D交渉の提唱者、ジェームズ・セベニウスが推奨する通り、視野を広げて「全当事者相関図」を描き、「逆方向マッピング」によって、交渉目的を達成するための交渉順序を組み立てる。この非常に高度な交渉についての具体的なお話は大変興味深いものでした。



 休憩を挟み、第2部に入る前に、日本交渉協会名誉理事、国際基督教大学名誉教授の土居弘元先生より、昨年お亡くなりになった日本の交渉学の祖、藤田忠先生のお話と交渉学の歴史的流れについてお話しいただきました。先生からは実務家の立場からの交渉学を深めていって欲しいとの言葉を頂きました。



 続いて第2部は、毎回担当している「交渉理論研究」。第17回のテーマは、「連合形成」。最初に3人の交渉者が連合形成と、連合によって得られる得点の分配を決める交渉のロールプレイを行いました。



 二者間交渉と比べ、たった一人のプレイヤーが増えるだけで交渉は格段に複雑になります。30分の交渉を終えた後、各グループの結果を見ながら、以下のようなテーマで振り返りを行いました。

1.各グループでは、プレイヤーのパワーをどのように捉えていたのか?
2.その認識が交渉にどのような影響を及ぼしたのか?
3.(利己的に考えれば二者連合の方が得になるのに)三者連合を選択した理由は?
4.得点の配分は誰がどのように決めたのか?



 このロールプレイは各自が自己利益の最大化だけを追求すれば、二者連合の方が得点が多くなるように設計されています。しかし、今回の場合、全てのグループが三者連合で合意しました。分配については、1つのグループを除いて各プレイヤーのパワー関係に応じて得点が決められたようです。二者連合の過当競争に陥らないよう、最初に三者連合目指すことに合意したグループ、最もパワーを持っているプレイヤーがそのパワーを自己利益の最大化ではなく、平等を基準とした分配に他のプレイヤーを合意させるために行使したグループ、最もパワーが弱いと思われたプレイヤーがキャスティングボードを握ることによってパワーを行使したグループ。グループによってさまざまな交渉の形がみられました。

 この「交渉のパワー」は、ロールプレイから学ぶ重要ポイントの一つです。多数者間交渉におけるパワーの源泉として、以下のようなもの重要であるとロールプレイを通じて実感できたのではないかと思います。

1.パワーに対する認識
2.コミュニケーション
3.客観的基準
4.BATNA
5.明確かつ具体的なコミットメント



 最後に、上記の得点配分における「客観的基準」について、”Negotiation Analysis”で取り上げられている幾つかの解決策についてお話ししました。

1.安定した配分
2.シャープレイ値
3.H.ライファの折衷案





 今回は3年ぶりに懇親会も開催(乾杯撮影用にマスクを外しています)。おかげさまで大変有意義な時間を過ごすことができました。

繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした
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第4回燮読書会に参加しました

2022年06月09日 | 交渉アナリスト関係


 6月7日、第4回燮読書会に参加しました。前回に引き続き、ロジャー・ドーソン著、『本物の交渉術 あなたのビジネスを動かす「パワー・ネゴシエーション」』(KADOKAWA、2021年)より、第26~40章、第45~61章が対象でした。



26.相手に先に提示してもらう方が有利になる
27.間抜けを演じるのは賢い
28.契約書は相手に書かせない
29.契約書は毎回読む
30.ファニーマネー(パーセンテージや月額など)ではなく、リアルマネー(総額)で考えよう。
31.人は印刷文字で見ると信じてしまうので、物事を文書化しよう
32.論点に集中しよう
33.常に相手を祝福しよう
34.タイム・プレッシャーの効力を知ろう
35.情報は力である
36.立ち去る準備をする
37.さもなくば立ち去るぞ、ではない。
38.フェエタ・コンプリ(既成事実化)
39.ホットポテト(責任転嫁)
40.最後通告
45.ボディランゲージ
46.会話に隠された意味
47.パワーネゴシエーターの個人的特性
48.心構え
49.信念
50.正統パワー
51.報酬パワー
52.強制パワー
53.畏敬パワー
54.カリスマ・パワー
55.エキスパート・パワー
56.シチュエーション・パワー
57.情報パワー
58.パワーの組み合わせ
59.その他のパワーの形
60.交渉の原動力
61.相互利益の交渉術



 今回は結構なボリュームがありましたが、いつもファシリテータの波戸岡さんがサマリーを作成してくださるので、忙しくて読めなかった方、極端な話、本をお持ちでない方でもお気軽にご参加いただけます。また、ディスカッションは1回完結ですので、出席できなかった回があったとしても大丈夫です。

 今回もサマリーを確認した後、グループアウトセッションを行いました。前回同様、同じ本を読んでいるにも拘らず、グループごとの着眼点が驚くほど違いました。その結果、各グループのご意見を合わせると、自分だけでは得られなかった非常に多角的な視点、知見が得られます。それが読書会の良いところですね。

※アジア人は名刺など肩書を重視すると言われているが、重きを置くポイントが異なるだけで、西洋社会でも肩書を重視するのは同じではないのか?
※本書が書かれたのがかなり前なので、交渉スタイルなど変わってきているものもあるのでは?
※契約書が大事というのは本書の通り。一方で、意外と契約書に無頓着な人が多いという印象もある。
※タイムプレッシャーの話は得心する。
※相手が望んでいるものをどうすれば分かるのか?実務の課題として持っている。
※理論が言うように、条件は先に提示してもらうのが良いのか?(本書では後が良いと述べている)
※立ち去る準備、その根拠を持っているのは強い。
※相手に勝ったと思っていただくのは大事。



 続いて今回の範囲に関連する交渉理論面の補足を行いました。今回のトピックは、

・オファーは先か後か?
・交渉と文化
・交渉とパワー

 特に、交渉に対する文化の影響について考えた時、様々な実験結果から分かることは、交渉理論そのものも主としてアメリカ文化の影響を多分に受けたものであるということでした。だからと言って理論が我々日本人にとって無意味ということではありませんが、(特に認知心理学系、言語/非言語コミュニケーション系については)普遍性が確かめられていない可能性が十分にあるということを弁えた上で、過度な一般化に注意するという姿勢は必要なことかと思います。

 第5回は2022年8月開催予定です。

<新刊本のご紹介>


繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした
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交渉の男女差研究①-第54回燮(やわらぎ)会

2022年05月17日 | 交渉アナリスト関係


 2022年5月12日、オンラインによる第54回燮会が行われました。燮会は日本交渉協会が主催する交渉アナリスト1級会員のための勉強会です。

 さて、今回は「交渉の男女差研究から見える、交渉力アップのポイント」について。10月に第2回が行われる予定ですので、今回は理論編。ここ25年程の研究から、交渉行動や結果にどのような男女差が分かっているのかについてお話ししました。

 初めにアイスブレイクを兼ね、「交渉系資格はなぜ女性が少ないのか?」について、みなさんにブレイクアウトセッションで話し合っていただきました。これについてハッキリとした答えはありませんが、僕が以前から抱いていた疑問の一つでもあります。



 続いて今回の中心テーマである、交渉の男女差研究について。初めにお断りしておきますと、交渉というものを総じて捉えた時、交渉結果の男女差は有意ではあるものの、差は小さいという結論が出ています。しかし、ある特定の状況によっては交渉行動や結果に男女差がみられる場合があり、それがどういう状況なのか8つ特定したのが今回のお話です。また、これらの研究はアメリカを中心とする西洋文化圏で行われたものがほとんどであり、例えば日本のような他の文化圏でそのまま当てはまるかの検証はなされていません(一部はなされているものもあります)。また、当然ですがここで「男女」という場合、それは全ての男女に当てはまるものではなく、過度な一般化は禁物であるという点に注意が必要です。

 特定の状況とは、おおよそ以下のようなものです。

1.交渉の捉え方
2.人間関係における位置づけ
3.統制の所在
4.力の使途
5.コミュニケーションの仕方
6.交渉中の扱われ方
7.交渉戦術が及ぼす影響
8.ステレオタイプ

 これらの状況で発生する男女差(この場合、男性の方が良い結果であるという結論が多い)から、差を埋めるための幾つかのポイントが見えてきました。広範囲に及ぶ交渉学の中で、これらのポイントを抑えることにより、効果的に女性の交渉力をアップさせることができるのではないかと思います。具体的なアプローチについては、第2回でお話ししたいと思います。



 第二部は、今年3月に日本交渉協会で実施したアンケート結果について。結果からは、第一部でお話しした西洋文化圏での研究結果とは異なる、日本人の交渉に対する捉え方、意識のようなものが見えてきました。結論だけお話しすると、第一部から見えてきた「交渉力アップのポイント」は、わが国の男性にとっても大いに有用なのではないかという仮説です。

 最後に、メディエーターのロバート・ベンジャミンが「人は何故交渉を避けるのか」について、その要因を幾つか自身のHPで紹介しています。これが興味深かったので、ご紹介させていただきました。

繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした
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