窪田恭史のリサイクルライフ

古着を扱う横浜の襤褸(ぼろ)屋さんのブログ。日記、繊維リサイクルの歴史、ウエスものがたり、リサイクル軍手、趣味の話など。

第3回燮読書会に参加しました

2022年04月06日 | 交渉アナリスト関係


 4月5日、第3回燮読書会に参加しました。オンラインでの開催で、今回も東京、神奈川、千葉、長野、岐阜など各地から参加がありました。

 さて、今回からロジャー・ドーソン著、『本物の交渉術 あなたのビジネスを動かす「パワー・ネゴシエーション」』(KADOKAWA、2021年)です。まずは以下の1章から18章までが対象でした。

1.期待以上の要求をする(自分の要求を大げさに言おう)
2.最初のオファーにイエスと言わない
3.提案にひるむ(相手の提案にショックの表情をしてみよう)
4.対立的な交渉を避ける(“感じる・感じた・見出した”方式で対立を避けよう)
5.消極的な売り手と消極的な買い手(を演じて交渉範囲を広げよう)
6.バイス・ギャンビット(それ以上のことをして頂かなければなりませんと言って黙ろう)
7.決定権を持たない人への対応(高次権威がパワーを持つ)
8.サービスの価値の低下(譲歩の価値が低下する前に、相手から譲歩をもらえ)
9.差額折半の申し出を自分からしない(相手に「勝った」と感じさせよう)
10.インパスを処理する方法(インパス→袋小路→デッドロック)
11.袋小路への対応(いろいろ試してみよう)
12.デッドロックへの対応(第三者を入れてみよう)
13.常にトレードオフを求める(絞り取られるのを止めよう)
14.グッドガイ/バッドガイ(二人と接するときは気をつけろ)
15.ニブル(ひっかく・かじる)(一つ合意したら、ニブルをかけていこう)
16.譲歩先細り(譲歩は先細りさせよう)
17.オファーを取り下げるギャンビット(相手が誠実でないときにだけ使おう)
18.受け入れ容易なポジショニング(ちょっとの譲歩で相手には勝ったと思わせよう)

 今回もファシリテーターの波戸岡さんがサマリー資料を作って下さいました。お忙しい中、本当にありがとうございます。



 いつもの通り、前半は2組グループアウト・セッションに分かれてディスカッションを行いました。結果は、同じ内容を呼んできたにも関わらず、考え方に対する視点が2組で正反対となり、非常に興味深いものでした。以下、一部をご紹介します。

・常にトレードオフを求めるというやり方は日本の習慣になじむのか?
・全体的に1回限りの交渉に偏っているのでは?
・文化差を感じる。同じ仕事でもユダヤ人と中国人では全く違うことを日常的に感じている。
・グッドガイ/バッドガイは演技下手が使うと諸刃の剣である。
・長年自動車販売を経験してきたが、その中で経験的に見につけてきたノウハウと本書の内容がまさに一致しており、大変腑に落ちた。
・騙すことと満足してもらうことは違う。
・仮に客観的基準を持っていたとしても、いきなり出してはいけない。まず感情を受け止めることが大事。
・分配型交渉の戦術も、使い方次第で価値交換に結び付けられることがある。
・交渉を始める前の雰囲気作りが非常に大事。これがないと同じことを言っても結果が異なってしまう。
・「聴き上手はお金のかからない譲歩」という故藤田先生の言葉を思い出した。
・「足して二で割る」は日本でも海外でも結構使える。

 また、本書の評価については、次のような声が寄せられました。

・1章がコンパクトで読みやすかった。
・各章のテーマごとにケースが付されているのが良い、ただ短すぎる。
・例えば売買交渉なら買い手と売り手、双方の視点から盛り込まれているのが良い。



 続いて今回の範囲に関連する交渉理論面の補足を行いました。今回のトピックは、

・相手に合意点は最適であると思わせる戦略
・目標値は高く
・最初のオファーは受けない
・譲歩の原則
・多層防御戦術(Defense in Depth)
・善玉悪玉戦術(Good Guy/Bad Guy)
・かじり戦術(Nibble)
・交渉と感情(失望)

 本書は様々な交渉テクニックが満載ですので、おさらいというかまとめのような形となりました。ただ、今回はほとんどありませんでしたが、中には著者が勧めるテクニックと理論で是とされていることが食い違うこともあります。その原因は研究における設定の限界である場合もありますし、俗説がまかり通っている場合もあります。また、現実の交渉の文脈次第で変わるということもあります。いかなる場合でもそうですが、こうした限界を踏まえた上で理論と経験を上手く融合していく必要があるでしょう。

 第4回は2022年6月開催予定です。

繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした
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DX時代に求められる統合型交渉-第53回燮(やわらぎ)会

2022年03月19日 | 交渉アナリスト関係


 2022年3月18日、オンラインによる第53回燮会が行われました。燮会は日本交渉協会が主催する交渉アナリスト1級会員のための勉強会です。

 さて、今回は昨年9月17日に行われた第49回燮会以来、実に半年ぶりに通常の二部構成で行われました。第1部は「第15回交渉理論研究」、「分配型交渉の理論」の第2回目「交渉と時間」についてお話ししました。



 「時期」(長さ)としての時間
 「時機」(タイミング)としての時間
 「いつ止めるか?」という問題
 行動のエスカレーション
 ストレッチ・コラボレーション

 交渉に関する「時間」の問題として、上記のようなトピックを取りあげました。初めに、「時期としての時間」。兵法書『孫子』に、「兵は拙速を聞くも、未だ巧の久しきを睹ざるなり」(戦争は速やかに終結に導くのが良策であって、長期戦による完全な勝利というのは歴史上聞いたことがない)とありますが、交渉においてはどうなのでしょうか?ここでは、交渉に時間をかけることによって考えられるメリットとデメリットについてお話ししました。

 次に、「時機としての時間」。これも厳密な決まりはなく文脈に依存しますが、「どのタイミング」で交渉を行うかは、その結果に大きな影響を及ぼします。

 第三に、「いつ止めるか?」という問題。「いつやるか」と同じくらい交渉では「いつ止めるか?」も重要です。「いつ止めるか」については、心理的なアプローチと数学的なアプローチで研究がなされていますが、ここでは数学的なアプローチ、「最適停止問題」を数式なしで取りあげました。

 第四は、「行動のエスカレーション」。「いつ止めるか」が重要である理由の一つに、この「エスカレーション」の問題があります。ここでは代表的な行動のエスカレーションとして、「競争のエスカレーション」と「コンフリクトのエスカレーション」を取りあげました。

 最後は、「期限を切らない」という意味で時間と関係があるので、紛争解決ファシリテーターのアダム・カヘンが唱える「ストレッチ・コラボレーション」を取りあげました。カヘンは交渉も状況への対処の一手段に過ぎず、場合によっては交渉せず、「強制する」、「適応する」、「離脱する」といったことも肯定されると述べています。また、交渉が困難なほど敵対する当事者同士が協働する手段として、目標やプロセス設定を課さず、ただ「状況を打破するために何をするべきか」だけを双方が考え、それぞれができることに集中するという新たなアプローチ、「ストレッチ・コラボレーション」を提案しています。



 つづいて第2部。1級会員の鈴木雄太さんより「見えない未来は、お客様と一緒に見つけよう! 統合型交渉を活用したデジタル変革支援」と題して、お話しいただきました。鈴木さんは、IT企業でお客様の業務改革やシステム企画支援に取り組んでいらっしゃいます。その中で、DX(デジタルトランスフォーメーション)により人々の生活や企業の事業環境が急激に変化する時代にこそ、まさに「統合型交渉」のアプローチで従来の「提案営業」からお客様と共に問題や解決策を考え実行まで伴走する「探索営業」に変わっていくことが求められている、とおっしゃっています。何故なら、あまりに早い技術革新と市場環境の変化のため、お客様が「何が問題なのか」を認識することさえ難しくなってきているからです。この点で、ゴールから逆算して問題を明らかにし、問題の根底にある当事者の関心から解決策を創造していく「統合型交渉」のアプローチは、確かにうってつけと言えます。僕も交渉学を学んで感じていることですが、およそコミュニケーションの存在するところにおいて、交渉理論は思考の基盤として役立つと思います。



 さて、鈴木さんは「統合型交渉」による「探索営業」のアプローチを上の図のような4フェーズ、12プロセスにまとめていらっしゃいます(図は鈴木さんのお話を元にこちらで作成しました)。

 「理解」のフェーズでは、例えばDXについて理解するところから、伴走を始めます。趣旨やプロセスを説明すると共に、相手が意見を言える場を整えます。

 「協働」のフェーズでは、質問で考えや意見を掘り下げていきます。共通の目的達成のため、解決策を検討する場を整えます。

 「創出」フェーズでは、ゴールから遡る(これを「バックキャスト」と呼んでおられました)ことで、解決策のブレインストーミングを行い、アイデアの整理と可視化を行います。さらに先進の成功事例集を紹介することでさらにアイデアの質を高めます。

 「合意」フェーズでは、相手に解決策を選択してもらいます。同時に、解決策に対する懸念も確認します。あくまで相手の選択を尊重することが大事です。

 最後に、交渉はほぼ必ず複数のラウンドで行われるということを理解しておくこと、また変革を促すには様々なステークホルダーをいかに巻き込むかが重要であるということでした。そのような視野の点でも、第48回燮会(3D交渉)でご紹介したように、交渉理論は役立つと思います。「統合型交渉の用語を(デジタル変革支援の)共通言語にしたい」と鈴木さんはお話しされていました。

繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした
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4年ぶり地方開催です-第52回燮(やわらぎ)会

2022年02月18日 | 交渉アナリスト関係


 2022年2月17日、4年ぶり3回目の開催となる(2020年九州大会は中止)、第52回燮会が長野県飯山市より行われました。燮会は日本交渉協会が主催する交渉アナリスト1級会員のための勉強会で、地方大会はまだオンライン研修が一般的でなかった2017年に地方会員の皆様との交流を目的に始まりました。

【過去の地方大会については、こちらをご覧ください】
第33回燮会(九州大会)
第39回燮会(金沢大会)



 ただ生憎、飯山市は例年にも増しての大雪。さらに新型コロナの蔓延防止等重点措置の影響も相俟って、残念ながら直前にオンラインのみの開催となりました。上の写真は前日に北陸新幹線から撮影した飯山市の様子です。翌日の開催当日はさらに猛吹雪でした。



 代わりに、今回のナビゲータをしてくださった1級会員の山中さんが、飯山の魅力を伝えるスライドを用意してくださいました。個人的には雪が解け、山菜の豊富な5月頃にぜひ行ってみたいと思いました。新幹線で東京から1時間47分、意外と近いです。



 第二部は、「コンセンサス・ゲーム」をやりました。コンセンサス・ゲームというのは、ある問題解決の課題に対して、個人およびグループで検討を行い、コンセンサス(合意)を得た結論を導き出すというゲームです。「三人寄れば文殊の知恵」と言いますが、一般的に個人より集団で考えた方がより創造的な解決ができるということを体感するゲームになります(一方、「グループ・シンク(集団浅慮)」と呼ばれる逆の現象もあります)。個人的には14年前にやったことがあるのですが、すっかり忘れてしまっていました。



 課題は、砂漠の真ん中で遭難したグループが生き残るために使えるアイテムの中からどれを選ぶかというもの。選定理由も含めて議論します。やってみた感想ですが、本当に自分では考えもしなかった視点や気づきが得られ、様々な視点から物事を見る、そのために協力することの大切さを感じました。また、話し合っているうちに、本当に自分たちが遭難しているかのような没入感が楽しかったです。

 結果は、どのチームも個人成績よりグループ成績の方が優れていました。主催者のお一人である加藤さんが結論としてお話しされていたように、交渉力も「対話によって双方にとってより良い解決策を創造する力、またそれによって他者との信頼関係を築く力」と言い換えることができます。またそのために大切なのが、「自分も相手も尊重し、提案を相手が受け取りやすくする」、アサーティブ・コミュニケーションではないかということでした。

 次回、第53回燮会は3月18日(金)開催の予定です。

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第2回燮読書会に参加しました

2022年02月07日 | 交渉アナリスト関係


 2月1日、第2回燮読書会に参加しました。オンラインでの開催で、今回も東京、神奈川、岐阜、石川、長野など各地から参加がありました。

 さて、第2回はローレンス・E.サスカインド著、『ハーバード×MIT流 世界最強の交渉術---信頼関係を壊さずに最大の成果を得る6原則』(ダイヤモンド社、2015年)の後半です(前半については、前回の記事をご覧ください)。

第4章:交渉相手の勝利宣言を思い描け-自分にとって最高の条件を、相手に納得してもらう
第5章:交渉にファシリテーションを活用せよ-自分の立場を守り、合意が崩れないようにする
第6章:組織の交渉力を高める-常に交渉を有利に進められる企業になるには? 

 今回もファシリテーターの波戸岡さんがサマリー資料を作って下さいました。お忙しい中、本当にありがとうございます。



 これを元に、早速ブレイクアウト・ルームに分かれてディスカッションを行いました。

・アメリカでは、調停者がビジネスとして成り立っている。この点は日本と違う。
・大企業では確かに内部交渉に多大な労力がかかる。
・嘘を嘘であると指摘することが本当に良いことなのか?
・全体として内容がとりとめもない。

等々、様々な感想が飛び交いました。ここでのディスカッションの良い点は、参加者が持つ様々な交渉経験を共有できることです。

 つづいて、今回の範囲に関連する交渉理論面の補足を行いました。今回のトピックは、

・対立する利害関係者間の調整プロセスをいかに構造化するか?

 激しく対立する交渉を進めるのに、中立的第三者による調停を提案している交渉の本は数多くあります。また、具体例として単一交渉草案(SNT)のような手法が取り上げられることもあります。しかし、具体的に調停者がどのようなプロセスを辿って対立する利害関係者を交渉テーブルに着けたのか、あるいは合意に結び付けたのかを構造的に説明したものは、今のところ出会えていません。

 そこで、今回はL.キーニーの1994年の論文” Creating Policy Alternatives Using Stakeholder Values”より、キーニーらが”PrOACT”と呼ばれる意思決定フレームワークを用いて、いかにして対立する利害関係者を交渉テーブルに着かせたのかについて、お話ししました。



 なお、論文中ではキーニーが”PrOACT”を使用したとは明示されていません。しかし、その内容が”PrOACT”のプロセスに即したものであること、キーニー自身が”PrOACT”の提唱者の一人であることなどから、キーニーが”PrOACT”を用いたと考えても差し支えないと思っています。“PrOACT”については、「第42回燮会」で採り上げました。また、「交渉アナリストニュースレター 2020年2月号~8月号」でも採り上げておりますので、詳しくはそちらをご覧ください。

2020年2月号
2020年4月号
2020年6月号
2020年8月号

 キーニーらが中立的第三者として手掛けたのは、1991年、東マレーシア・サバ州に残る原生林「マリアウ・ベイシン」で発見された石炭鉱脈の開発をめぐり、その予備調査をどのように行うかというものでした。彼らが優れていたのは、考えられる全ての利害関係者の代表を意思決定プロセスに参加させ、“PrOACT”に則って各利害関係者の持つ関心を深く洗い出し、誰ものけ者にすることのない代替案を創出する下地を整えたことです。

 もちろん、全ての利害関係者を参加させることが常に正解とは限りません。1996年、北アイルランド和平交渉にあたり、調停者のジョージ・ミッチェルはあえて過激な右派と左派を外すことによって大多数の中道連合を形成し、和平を実現させました。しかし、ミッチェルとキーニーのアプローチで共通しているのは、対立する利害関係者に共同作業を行わせ、そのコミュニケーションの過程で、共同で問題を解決しようという雰囲気を作り上げたことです。この点が、今回のポイントになります。

 個人的な話ですが、僕は仕事でサバ州を訪れたこともあるので、その意味でもこの論文は興味深いものでした。

 第2回も参加された皆さんからは、

・書籍の内容をきっかけに皆さんの体験が共有できて良い
・交渉の書籍を読むこと自体が良い
・自分では気づかない交渉の方法が得られる
・もう少し読む範囲を分けても良い

といった感想が寄せられました。

 第3回は2022年4月開催予定、本も2冊目に入り最近翻訳が出されたばかりの、この本が選ばれました。



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第1回燮読書会に参加しました

2021年12月07日 | 交渉アナリスト関係


 12月7日、第1回燮読書会に参加しました。交渉アナリスト1級会員の勉強会である「第50回燮(やわらぎ)会」での意見交換で、1級会員の波戸岡光太さんより提案があり、2ヶ月足らずのうちに実現の運びとなりました。オンラインでの開催で、東京、千葉、神奈川、石川、長野など各地から参加がありました。

 読書会の名が示す通り、交渉関連の本をあらかじめ読み、ディスカッションを行う会です。記念すべき最初に選ばれた本は、ローレンス・E.サスカインド著、『ハーバード×MIT流 世界最強の交渉術---信頼関係を壊さずに最大の成果を得る6原則』(ダイヤモンド社、2015年)。



 第1回は前半の3章が読書範囲でした。

第1章:「交渉の土俵」に相手を引き込むには?-相手の要求内容や優先順位を変えさせる
第2章:もっとパイを大きくすればいい-付加価値を創造する
第3章:「想定外」を想定せよ-相手よりも多くを手に入れるために、条件提示を行う

 3章全部読む時間のなかった方でも参加できるよう、初めに波戸岡さんから3章分の要約がありました。交渉関連の本、特に海外の翻訳本はとかく読み難いものが多いので、これだけの短期間にサマリーを作成するのも大変だったのではないかと思います。

 これを元に、早速ブレイクアウト・ルームに分かれてディスカッションを行いました。

・先入観を捨てること、結局相手へのやさしさが大事なのではないか?
・相手を知る準備の大切さを感じた。
・(本書中の事例から)金額面では成功と言えずとも、奥さんの気に入った物件を早期購入できたのであれば、それも価値であり、成功と言えるのではないか?
・BATNAを用意することの大切さ。

等々、様々な感想が飛び交いました。



 つづいて、今回の範囲に関連する交渉理論面の補足を行いました。トピックとしては、

・交渉者のジレンマ
・多元的交渉
・連合の理論

など、幾つか含まれると思いますが、中でも前半部の中核をなすと思われる「交渉者のジレンマ」について取り上げました。「交渉者のジレンマ」は、以下の「交渉アナリストニュースレター」でも扱いましたので、よろしければそちらもご覧ください。

2019年3月号
2019年5月号

 最後にもう一度ブレイクアウト・ルームに分かれてディスカッションを行いました。

 手探りで始まった「燮読書会」ですが、第1回の参加者の皆さんからは、以下のような感想が寄せられました。

・視野の狭さに気づいた
・様々な考え方に触れることができた
・まとめが有り難かった
・知的刺激を受けた
・整理ができていないので、体系が欲しい
・十人十色の視点が勉強になった、楽しかった
・今回の範囲を復習して理解を深めたい
・とても楽しかった、都会を離れるので、こういう機会を楽しみにしている

 第2回は2022年2月開催の予定です。今回参加できなかったかもぜひご参加ください。

繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした
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第17回ネゴシエーション研究フォーラムに参加しました

2021年11月26日 | 交渉アナリスト関係


 オンラインという形ではありますが、約2年ぶりとなる第17回ネゴシエーション研究フォーラムが11月25日、開催されました。

 今回は、日本交渉協会の「表情分析プラクティショナー養成オンデマンドコース」開講に伴い、特別編として日本交渉協会特別顧問、空気を読むを科学する研究所代表の清水建二先生に「交渉に使える! 表情観察・分析力向上セミナー」 と題してお話しいただきました。

 実は清水先生、過去に二度日本交渉協会でお話しいただいておりますので、表情分析とはどのようなものか、宜しければそちらもご覧ください。

第11回ネゴシエーション研究フォーラム:「微表情を交渉で活かす」
情報収集テクニック研修:「微表情・しぐさから相手の心理を見抜く」

 さて、表情を含む、姿勢やしぐさなどの非言語コミュニケーションを観察する目的は、その源にある感情を推測することで、対人コミュニケーションをより良いものにしていくことです。しかしながら、表情一つとっても人間の表情は約1万種あると言われており、これにしぐさなどの会話のシグナルが加わると、それこそ情報源は無数に存在することになります。

 その中で、表情には万国共通と言われる表情が7つ(初期の研究では6つと言われていました)あります。まずはこの7つの基本感情表情(悲しみ、幸福、怒り、軽蔑、嫌悪、恐怖、驚き)を手掛かりに、売買交渉や接待などの場面で表情分析がどのように活用できるのかというのが、今回の趣旨です。

 因みに、新型コロナウィルスの影響で、世界中の学校で授業のオンライン化が急速に進みました。そうした中、画面を通じた受講者の表情を読み取り、授業の質の改善に役立てていこうという研究が早くも行われています。

1.売買交渉①:お客様の「分かる」、「分からない」を「見える化」する

 今回の講義の興味深いところは、模擬交渉で実際に現れた表情の動画が見られたという点です。動画①は、お客様に商品の説明をしている際、お客様の顔に現れた表情から隠された感情を読み取り、文脈に応じた適切な対処の方法を考えるというものです。

 動画①のお客様は、眉間にしわが寄り、眉毛が下がりました。これは表情について学んでいない方でもお分かりだと思いますが、熟考の表情です。熟考は表情筋の動きとしては基本感情の「怒り」と同じです。

 つまり、この方はよく考えたいという欲求を持っている、口では「なるほど」と言っていても実はこちらの説明が理解できていない可能性があると推測できます。そうであれば、理解しているかを確認する、質問があるか聞く、ゆっくり説明するなどの対応をとることで、お客様の中の不協和を和らげることができます。

 動画①は、非常にはっきりと表情が現れたので分かりやすいものでした。しかし、現実世界ではいつもこのように分かりやすく表情が出るとは限りません。そこで動画②では、同じ人による非常に微妙な熟考表情と、そうでない表情を見比べました。このような微妙な表情を微表情と言います。通常、0.5秒以下で現れ消える表情を微表情を指しています。実はこの微表情は意図的に制御することが難しいため、本当の感情を探る手掛かりとしてより有力なものとなります。その代わり、微表情が読み取れるようになるためにはある程度訓練が必要となります。

2.売買交渉②:お客様の「懐事情」を「見える化」し、交渉の流れを変える

 動画③は、売買交渉において提示した単価に対する相手の反応です。この交渉相手からは、驚きと嫌悪の表情が読み取れました。表情の意味するところは「不快なものを取り除きたい」ということですが、交渉の文脈から判断して、価格の理由を補う、条件付き割引を提示するなどの対応が考えられます。このように、表情を文脈から判断し、どこに感情が向けられているかを推測することが、一般的に「心を読む」と言われている行為だと言えます。

 研究によれば、表情認識力の高い売り手はモノを高く売ることができるという実験結果が出ているそうです。交渉学では、ZOPA(合意可能範囲)を推測することが良い交渉結果を生むために非常に重要だと言われています。表情認識から相手の留保価格を推測することができればZOPAを推測することが可能になりますので、より良い交渉結果を生むことにつながるというわけです。

 動画④では、提示された単価に対して、口角が横に広がり、頬が持ち上がる表情が読み取れました。これは恐怖と嫌悪であり、その価格を不都合だ、排除したいと考えていると同時に切羽詰まった状況であると推測できます。つまり、価格は満足できないが、かといって合意しないわけにもいかないと感じていると考えられるので、やはり条件付き割引といった代替案を提示することなどが対応として考えられます。

 一方、動画⑤では、提示された価格に対して、口角が上がりました。これは幸福、即ち心地よい状態が続いてほしいという感情です。つまり、ほぼ間違いなくZOPAに入っており、合意は可能だと推測できます。

3.接待:表情から相手の好みを探る

 動画⑥は、同じ人が水、美味しいもの、美味しくないものの三種類の飲み物を飲み、そこに現れた表情を読み取るというものでした。水の場合の表情は、その人のベースラインだと考えることができます。人によって顔つきは様々です。初めから眉毛が下がっていたり、口角が歪んでいる人などがいます。ですから、表情を読むにあたっては、その人の普通の顔(ベースライン)を観察しておくことも大切なのです。

 3つ並んだ動画の内、ある動画では眉が上がったあと下がり、口角下がりました。これは基本感情で言えば驚き、怒り、悲しみです。つまり、障害を取り除きたいという意味があり、その飲み物を美味しくないと感じていると推測できます。そういう場合は、さりげなくその飲み物を下げたり、次回に活かしたりするといった対応ができます。味覚と表情については、美味しいものより美味しくないものの方が出やすいようです。しかし、接待を受けていてあからさまに美味しくない表情をする人はそういないでしょうから、美味しそうなふりをしたマスキングされた表情から漏出するネガティブ表情を見逃さないことです。



 さて、以上で講義は終わり、質疑応答に移りました。参加者の皆さんからチャットで質問を受け付け、それを僕と清水先生との対談形式で回答していきました。表情分析に初めて触れたという方が多かったのではないかと思いますが、核心を突いた興味深い質問が数多く寄せられ、さらに議論を深めることができたと思います。

 表情分析に興味を持たれた方は、冒頭にご紹介した「表情分析プラクティショナー養成オンデマンドコース」でさらに理解を深めていただければと思います。

繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした
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共創のための意見交換会-第50回燮(やわらぎ)会

2021年10月13日 | 交渉アナリスト関係


 4月に初めて開催し好評だったオンラインのみの燮会、その第2回目が10月12日に開催されました。燮会は交渉アナリスト1級会員のための交渉勉強会です。

 前回も後半は会員間の意見交換会をしたのですが、「もっと意見交換の時間が欲しかった」というお声もあり、今回はそれに特化した会となったようです。運営に当たられた皆様、ありがとうございました。

 さて、燮会は会員によって作り上げていく交流会、勉強会です。ウェビナーがすっかり定着した現在、従来の理論研究や事例発表中心の燮会とはまた別に、今までなかなかできなかったことで、今後どんなことをしていきたいかについて話し合われました。そのステップは以下の通りです。

1.個人によるアイデアだし
2.グループアウトセッション
3.発表・共有



 実に様々な意見がありましたが、いずれにしても相互交流によって切磋琢磨していきたいという想いを皆さん強く持たれているという点では共通しているように思いました。以下に寄せられたご意見の一部をご紹介します(実際のご意見はさらに具体的でしたが、タイトルのみ列挙します)。

・北海道から沖縄まで幅広い会員の交流
・オンライン交渉ゲームをやる
・事例発表にディスカッションの時間を厚くする
・日頃交渉にまつわる悩み相談
・本の紹介、輪読会
・チーム交渉、組織交渉の研究
・時間をかけてロープレを行う
・交渉の要素を分解しての深堀
・地域特有の交渉史探訪
・オープンセミナー

 その他、オンラインではありませんがコロナで中断している地方大会等、生の交流も大事といったご意見がありました。アイデアの中にはすぐにもできるものもありましたので、今後様々な形の会がみなさんの関心に応じて生まれてくるのだろうと思います。楽しみです。





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勝敗は兵家の常勢なり-第49回燮(やわらぎ)会

2021年09月20日 | 交渉アナリスト関係


 9月17日、東京都の緊急事態宣言延長に伴い、オンラインのみで第49回燮会が開催されました。燮会は交渉アナリスト1級会員のための交渉勉強会です。

 さて、いつものように第一部は交渉理論研究です。長かった「決定分析」が終わり、第14回からようやく「分配型交渉の理論」に入ります。尤も、分配型交渉については、交渉アナリスト2級テキストにおいても、その他市販の交渉関連本や交渉講座等においても比較的理論的な部分がおさえられていますので、当理論研究においては、補足程度に留めようと思っています。



 今回は、H.ライファの“Negotiation Analysis”や前、前著” The Art and Science of Negotiation”に掲載された、「エルムツリー・ハウス」という、架空の青少年の社会復帰訓練所売却をめぐる交渉のケースを取り上げ、そこから得られる以下のような交渉ポイントと最近の研究成果を紹介させていただきました。

1.オファーは先にすべきか?
2.なぜ合意点はお互いの提示価格の中間に落ち着くことが多いのか?
3.法外なオファーを行うことにはどのような問題があるのか?
4.留保点の開示の問題点
5.譲歩の定石
6.相手の立場固定は本気か、ブラフ(はったり)か?
7.ZOPA(交渉可能範囲)の推測





 続いて第二部。1級会員の篠原祥さんより、「グローバルビジネスにおける統合型交渉の事例」と題してお話しいただきました。篠原さんが交渉学に取り組まれたのは、ビジネススクールで交渉の講座を受講されたのがきっかけだそうですが、お仕事がそもそも船舶仲介業ということで、まさに日々是交渉という環境におられます。掛け値なしに、「言うは易し」の統合型交渉を熾烈なグローバル競争の中で実践されている方からの、生の成功談、失敗談は大変興味深いものでした。



 前述の通り、篠原さんのお仕事は船主と船会社を仲介することですので、交渉がなければ成り立たたないものと言えます。篠原さんが統合型交渉を心掛けていらっしゃるのは、一つには船腹(貨物積載スペース)が少ない時などは、顧客のニーズを満たすため競合他社の力も借りなければならない場合があるからです。そうした際、日ごろからWin-Winの関係を築いていなければ、いざという時の役に立ちません。ただ勝敗は兵家の常勢、統合型交渉を目指したからと言って必ずそうなるというものでもありません。だからこそ、成功事例と失敗事例が興味深いものになるのだと思います。

 まずは上手くいった例です。あるアジアの船社(A社)の船が足りていませんでした。しかし、同じアジアの船社ですと市場が被るので、他社でも同様に船が足りないということが起こっています。そうすると抱えている問題が似ているのでどうしても交渉は分配型になりがちです。そこで、市場の被らない欧州の船社(B社)の力を借りることにしました。これでA社は顧客のニーズを満たすことができ、B社は間接的とは言え仕事が増えます。ただ、欧州は距離的に遠いので、燃料費の負担が大きくなります。そこで、船をB社のある大西洋までもどすまでをA社の負担とする案を出しました。ところが、いざ話がまとまるかという段になってA社とB社が用船料で対立してしまいます。このように、統合型交渉でパイを大きくしても、その大きくしたパイをどう切り分けるかという分配型の問題が浮上する、統合型交渉と分配型交渉の緊張関係を「交渉者のジレンマ」と言います。交渉が価値の分配である以上、統合型交渉にも必ず分配的要素は付きまとうと考えた方が良いでしょう。この問題を篠原さんは、船を複数のパッケージとする代わりに1隻当たりの用船料を減額することで解決しました。つまり、さらにパイを大きくすることで、A社とB社が得られる価値を増やしたのです。

 ご本人が成功要因として挙げておられたのは、①A社、B社両方と良好な関係を築くことで、相手の状況を把握できたこと(つまり「情報の非対称性」を限りなくなくすことができたこと)、②「利益」にフォーカスすることで、文化の違いを克服できたこと、③それぞれの担当者を合意案作成プロセスに巻き込むことで、当事者の一体感を増したことの三点でした。特に過去に取引のなかったB社とは、時差を考慮しつつも毎日のように電話をしたそうです。この「単純接触効果」が大事だとおっしゃっていました。逆に反省点としては、当事者同士の距離が近くなりすぎ、当事者以外の人から見て何をやっているのか分かりにくくなってしまった点を挙げておられました。

 続いて、上手くいかなかった例。欧州の船社C社がアジア市場の急拡大に伴い、パートナーを探していたので、アジアの船社D社を紹介しました。今回も利害の一致を重視し、D社も優先的に貨物を回してくれるならと乗り気でした。さらに、年間契約とすることで長期的パートナーシップづくりを目指しました。ところが、この関係が上手くいかなかったのです。というのも、C社のパートナーにアジア系のE社がおり、実はC社は自社でこなしきれないE社の貨物をD社に回そうとしていたのです。E社は、C社の不安定さに不満を持っていた上、同じアジアの船社同士のネットワークからE社がこの話をキャッチ。C社を飛び越え、D社と直接交渉を始めてしまったのでした。

 このように、ある交渉が外部からの横槍によって根本から崩れてしまうことはままあります(交渉理論ではこれを「ゲームが変わる」といいます)。

 反省点として挙げておられたのは、①時間:交渉を早くまとめようとし過ぎた。これには理由があるのですが、結果的にそのために②俯瞰的な視点で外部環境の把握と交渉の図式化が不十分であった、③C社と築いていた信頼関係は、E社にまで及んでいなかった(C社との信頼関係から、E社についてはC社に任せ過ぎた)、④C社、D社との共通目標設定が不十分だった、の四点です。

 この反省を踏まえ、篠原さんは交渉をより俯瞰的に捉え、交渉環境と情報整理のためのマッピングをされているそうです。前回の第48回燮会でご紹介した、「全当事者相関図」と同じです。マップを作成することにより、より相手の視点に立ちやすくなったとおっしゃっていました。

 そして、上の④の「共通目標の設定」が上手くいったのが、最後の事例になります。

 今度は船主と船社(F社)との交渉です。ちょうど契約が切れる船が1隻あり、期限の前年に両者は延長を前提とした話し合いを約束していました。ところが新型コロナの世界的流行で、状況が一変します。世界中でロックダウンが相次ぎ、一時的とはいえ荷動きがストップした結果、多くの船が入港すらできず海上に留まる事態が発生しました。船社は船を借りている限り用船料を支払わなければならないため、世界中で契約打ち切りが続出。F社も契約延長は難しいと通告してきました。

 そこで、篠原さんはこの契約交渉の大義となる「共通目標」をまず設定し、共有することにしました。外交交渉でよく首脳同士が「原則合意」だけして握手している場面が報道されますが、素人目にはただの政治的パフォーマンスにしか見えない「原則合意」も、こうして「共通目標」に対する合意だと考えてみると、その後の交渉の方向性を決める極めて重要なものであることが分かります。

 さて、篠原さんの設定した「共通目標」は、「協力してコロナを乗り切り、長期的信頼関係を強固にすること」。つまり、統合型交渉を目指すことをフレーミングしたのです。世界中で契約打ち切りや、用船料の一時停止が相次ぐ中、船主の課題は「満期を迎える船の契約延長」であり、船社の課題は「資金流出を抑えること」です。この一時的とはいえ非常時を、できる限り用船料を支払わずに乗り越え、それによって船社の負担を軽減し、いかに契約延長を了承してもらうか?篠原さんが考えたのは、メンテナンスの活用でした。

 船は定期的にメンテナンスすることが義務付けられています。メンテナンス費用は慣例的に船主の負担であり、この間だけは船社は用船料を支払う必要がありません。篠原さんは、このメンテナンスを前倒しして実施してもらうよう交渉しました。メンテナンスはいずれにせよ実施しなければならないものですから、前倒しは船主にとってさほど大きな負担ではありません。船主にとって費用が小さく、船社にとって便益が大きいものをトレードオフする、つまり「不等価交換」は統合型交渉における価値創造の原則です。ところが、この案に大きな障害が立ちはだかりました。ロックダウンの影響で、メンテナンスを行うドライドックも多くが閉鎖中だったのです。そこで篠原さんは、本来義務のない船社へもドライドック探しの協力を依頼しました。「協力してコロナを乗り切り、長期的信頼関係を強固にすること」、この共通目標を忠実に果たした結果、その後徐々に荷動きが回復すると、無事契約延長がまとまったのです。

 冒頭で篠原さんが統合型交渉を心掛けていらっしゃるのは、一つには競合他社の力も借りなければならない場合があるからだと述べました。もう一つは統合型交渉が長期的利益につながるからです。今回、海運業界を直撃した「コロナ・ショック」の渦中で、必死の中でも目先の利益ではなく誠実なマッチングを心掛けた結果、顧客が増えたと篠原さんはおっしゃっていました。

 大変示唆に富む、統合型交渉の実例だったと思います。今回のお話しを伺った僕なりのキーワードは、「勝敗は兵家の常勢」。ここで比喩的に用いている場合の勝敗とは、元の字義通りの勝敗ではなく、「上手くいくことも、いかないこともある」という意味です。この言葉には、「そこから学んでどうするか」という含意があります。篠原さんのお話しには、上手くいくこと、いかないことがある中で、そこから学び、次にどう活かしていくかという姿勢が常に感じられ、さらに交渉理論のフレームワークをそのために有効に活用されている点に、感銘を受けました。

繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした
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ゲームを変える3D交渉-第48回燮(やわらぎ)会

2021年06月20日 | 交渉アナリスト関係


 6月19日、第48回燮会を開催しました。毎年6月は横浜で行われますが、昨年は緊急事態宣言下で中止となり、2年ぶりの開催となりました。燮会は交渉アナリスト1級会員のための交渉勉強会です。

 横浜開催は通常の燮会の倍の時間が取れるため、毎回普段では時間の制約上難しいテーマを取り上げてきました。過去の横浜開催の内容については、下記をご覧ください。

【過去の横浜開催】
第42回燮会
第37回燮会
第32回燮会
第27回燮会



 今回もオンラインと併用することで、これまでより多くの方にご参加いただくことができました。今回の参加人数を実地だけで収容することはできませんでしたので、オンライン研修の一般化はこの2年の良かった出来事の一つだと思います。

 開催に先立ち、燮会幹事の末永正司さんより、新たに発足する「購買・営業交渉研究会」のお知らせがありました。こちらは特定の分野に特化したテーマ型の燮会とも言うべきもので、ケース、ディスカッション、理論を3つの柱に進められます。真逆の立場にいる購買と営業双方の知見を同時に得られるユニークな内容となっておりますので、ぜひご参加ください。将来的には1級以外の会員にも広げていく計画だそうです。

 さて、毎回担当している「交渉理論研究」第13回のテーマは「3D交渉」。3D交渉とは、ハーバードのJ.セベニウスが提唱する、交渉をよりマクロに、より戦略的に捉える概念を言います。日本でも2007年に『最新ハーバード流 3D交渉術』として翻訳本が出版されています。交渉関係の書籍の中では有名ですが、その割に内容についてはあまり知られていない、あるいは「交渉術」とした邦題が災いしたのか、誤解されていることも多いと以前から感じていました。そこで今回は3D交渉について、以下の3部に分けてお話ししました。

第Ⅰ部:3Dスキーマ
第Ⅱ部:セットアップ
第Ⅲ部:マルチ・フロントの交渉キャンペーン



第Ⅰ部:3Dスキーマ

 3D交渉とは、D.ラックスとJ.セベニウスによって提唱された、交渉を「交渉戦術(1D )」、「交渉設計(2D)」、「セットアップ(3D)」の3次元でとらえる概念を言います。一般に交渉というと、交渉当事者がテーブルをはさんでやり取りするイメージがあると思います。実際その通りで、したがって交渉研究の多くもこの「テーブルでのやり取り」に焦点を当ててきました。これが「交渉戦術(1D )」になります。むしろ近年は行動心理学の立場から交渉を研究することがトレンドになっており、一層1Dに焦点を当てる傾向が強まっているとさえ言えると思います。

 一方、状況によっては、交渉テーブルに着く前に、誰と手を組むのかとか、二者間では解決が難しいので、仲裁者や調停者を呼んでくるべきかとか、「どういうやり方で交渉を行うのが望ましいのか?」をデザインする必要も生じます。こうした、交渉テーブルに着く前(あるいは交渉の合間でも)の戦略的行動が「交渉設計(2D)」になります。これまでの交渉研究の大半はこれら1Dと2Dの範疇に収まります。

 従来の交渉研究(ここでいう1D、2D)に共通しているのは、交渉を所与としてとらえ、その中でどうするかを対象としていたという点です。しかし、より複雑な交渉、例えば多数の当事者が関わるような交渉、刻々と問題が変化するような交渉、相手が絶対的に有利な立場にいるような交渉においては、1Dと2Dだけでは不十分であるとJ.セベニウスは考えるようになりました。そのような交渉では、事前に交渉を有利な状況に設定する戦略(新たな次元)が必要であり、それこそが「セットアップ(3D)」になります。この交渉を有利な状況に設定することを交渉理論の世界では「ゲームを変える」と言いますが、簡単に言うと1Dと2Dが「与えられた土俵」で何をするかを扱っているのに対し、3Dは「土俵そのものを作り変えてしまう」ことを扱っています。

 J.セベニウスは「ゲームを変える」という考え方を、2Dを拡張する形で発展させてきました。1987年の著書”Manager As Negotiator”の中にも「ゲームを変える」という言葉が出てきますが、この段階では現在の3Dの概念に照らして言うと、2Dの範疇に入ることを扱っています。明確に3つの次元として扱うようになるのは、僕の知る限り2002年頃ではないかと思います。





 さて、3Dというとき、全体概念として3Dという場合と、概念を構成する要素(つまりセットアップの部分)を3Dと呼ぶ場合とがあります。ここではJ.セベニウス(2003)に倣い、全体概念としての3Dを「3Dスキーマ」と呼んで区別することにします。なお、1.それぞれの次元は、累積的・補完的なものであり、ある次元が他の次元に取って代わるものではないこと、2.完全な次元分析には3つの次元が全て含まれること、3.3つの次元の境界は明確ではなく、漏れもダブりもある、つまりMECEではないことに注意が必要です。

第Ⅱ部:セットアップ

 1D、2Dは従来の交渉理論が対象としてきた範囲ですので、第Ⅱ部は3Dスキーマ最大の特徴である3D(セットアップ)に絞ってお話ししました。交渉のセットアップには、次の4つの「見極め」が必要です。

1.交渉相手の見極め
2.関心の見極め
3.BATNAの見極め
4.交渉順序と交渉プロセスの見極め

 ここでは交渉相手を見極める、「全当事者相関図」、交渉順序を見極める「逆方向マッピング」の二つを取り上げましょう。

 A.ブランデンバーガーとB.ネイルバフは1990年代半の名著『コーペティション経営』の中で、組み合わせや合意によって新たな価値を生み出す可能性のある関係者の相関関係を図にした『価値相関図(バリューネット)』を提案しました。この価値相関図と同様に、交渉の直接範囲を超えて交渉に価値を与えたり、自他のBATNAを強化または弱化させる当事者を「全当事者相関図」としてまとめることをJ.セベニウスは勧めています。



 上の図はケースとして取り上げたベトナム戦争停戦交渉(パリ和平協定交渉)の全当事者相関図です。「交渉テーブル」の直接的当事者は、上の図の赤点線枠で囲まれた、アメリカと北ベトナムです。しかし、「交渉テーブルを離れて」この交渉に価値を与えうる当事者は誰かということにまで思考の範囲を広げると、このように様々な当事者が浮かび上がってきます。このように当事者を相関図にまとめることで、より広い視野で交渉戦略を構築するのに役立ちます。



 次に、「逆方向マッピング」について。交渉理論研究「第2回:ゲーム理論と交渉」で、結論からゲームの木を遡っていく「後退帰納法(バックワード・インダクション)」(上図)を取り上げましたが、同じように暫定的な「最終ターゲット交渉」を設定し、そこから現在の状況へと立ち戻る図を描くことで、適正な交渉順序を明らかにしていきます。それを描いた図が「逆方向マッピング」です。具体的には、最終ターゲットの相手から「イエス」を引き出す前提条件として、他の誰に働きかけるべきかを考えます。さらに、その相手の「イエス」を得るために、誰に働きかけるべきかを考えるのです。この逆戻り方式を繰り返し、あらゆる可能性の中で最も有望な道筋を見つけ出します。下図は、「パリ和平協定交渉」で交渉を担当した国務長官H.キッシンジャーが辿ったと思われる「逆方向マッピング」です。こうすれば、どの順序で交渉すべきかが明らかになります。誰が誰に従うか、先行者が合意しているか否かは、後の合意に影響する(バンドワゴン効果)ため、適切な交渉順序は極めて重要です。



 なお、パリ和平協定交渉のケースについての詳細は、『キッシンジャー超交渉術』をご覧ください。





第Ⅲ部:マルチ・フロントの交渉キャンペーン

 最後に、J.セベニウスが2010年頃より唱え始めた「マルチ・フロントの交渉キャンペーン」について。これは、交渉を関連する様々なサブ交渉の集合体ととらえ、交渉全体の観点からそれぞれサブ交渉の現場(フロント)を連携させ、戦略的に対処する組織的活動をいいます。これも3Dスキーマの一形態ですが、複数の当事者を管理しやすいフロントにグループ分けし、戦略的に統合したり分離したりするという特徴があります。



 上図は、ケースとして取り上げたアメリカ通商代表部副代表S.バーシェフスキーの米中知的財産権交渉(1993年~1995年)の「全当事者相関図」です。図中の赤点線枠が、当事者を関心などによって分類した「フロント」です。そして、各フロントの関心に響くよう、それぞれに合ったフレーミングを行うことでサブ交渉の合意をまとめ上げます。これを「音響的分離(Acoustic Separation)」と言います。「心に響く言い回しの使い分け」といったところでしょうか。



 最後は、参加者の皆さんでディスカッションを行い、身近な3D事例について考えていただきました。急なことで難しいかと思っていたのですが、さっそくオリジナルの「全当事者相関図」を書きあげ、説明された方もいらっしゃいました。「全当事者相関図」を書き、それについて説明するだけでも新たな交渉のヒントにつながるのではないかという実感が得られました。

繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした
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燮会オンラインが始まりました-第47回燮(やわらぎ)会

2021年04月23日 | 交渉アナリスト関係


 4月22日、初めての完全オンラインによる燮会が開催されました。燮会は交渉アナリスト1級会員のための交渉勉強会です。場所を選ばず参加できることもあり、8名の新規1級会員の皆さんを含む、大変大勢の方にご参加いただくことができました。1級会員は全国にいらっしゃるので、場所に制約されないというのはオンラインの大きなメリットと言えます。

 さて、いつものように第一部は交渉理論研究。第12回は「行動意思決定論」。過去数回は、期待効用理論、アレやエルスバーグのパラドックス、プロスペクト理論、ベイズの定理などやや難しい理論を取り上げましたが、今回は一息つき、2級テキストでも学習した「認知バイアス」のお話しです。人間が持つ様々なバイアスと、それによって犯すエラーについては、M.ベイザーマンとD.ムーアの『行動意思決定論-バイアスの罠』が詳しいですが、今回は”Negotiation Analysis”より、以下の5つを取り上げました。

1.アンカー効果-第一印象
2.現状維持バイアス-過去に固執する
3.サンクコスト(埋没費用)-損失を取り戻そうとする
4.確証バイアス-見たいものだけを見る
5.フレーミングー間違った問題を解決する

 人の直感はしばしば合理性を逸脱し、誤りを犯します。それを認識した上で、より良い意思決定を行うためにはどうすればよいか?先のD.ムーアは、客観的な合理性が不十分な状態で意思決定を下してしまうという欠陥を是正するための方法を『行動意思決定論-バイアスの罠』の中で6つ挙げています。

1.決定分析ツールの使用
2.専門知識の習得
3.判断バイアスの補正(ディバイアシング)
4.類比的推論(ある物事の特徴ともう一方の物事の特徴の類似性に注目して推論する方法のこと)
5.外部者の視点(客観的視点)に立つ(第三者の視点を借りることも有効)
6.他者のバイアスを理解する





 続いて第二部ですが、今回は燮会加藤幹事と谷口幹事が担当されました。大勢の1級会員が集まった貴重な機会でもあり、テーマは「『交渉の継続的な学習方法について』みんなで考えましょう!」。参加者の簡単な自己紹介の後、ZOOMのブレイクアウトルーム機能を使って、1級取得後どんな継続的学習をしているか?、お勧めの図書は何か?などを忌憚なく話し合いました。

 グループセッション終了後、各グループで出た話を全体で共有したのですが、

1.カードゲーム(ボーナンザ)をやっている(※)
2.知識と身近な体験のフィードバックループ
3.準備と予測(ディシジョン・ツリー)の活用
4.マインドセットに注目する
5.Win-Winを意識する

など、皆さん1級を取得された後も様々な形で交渉学を生活の中に織り込んでいらっしゃることが分かりました。実際、交渉学の扱う範囲は非常に広く、交渉テーブルに着いている時の相互作用だけが交渉ではありません。広い意味では、交渉と無関係という方はいらっしゃらないのではないかと思います。恐らく皆さん、まだまだ聞きたいことがおありだったと思いますので、今後もこのような機会があると良いと思いました。

※実は、4年前の第32回燮会は「ボーナンザ」大会を開催しました。

 最後に、今回参加された皆さんから挙げられた推薦図書を一部抜粋してご紹介させていただきます。



















過去の燮会レポートはこちらをご覧ください

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