しかも、現在の日本にはこのデフレから脱却するための明確な対策があるのです。本書においてそれを三橋氏が述べているので挙げてみますと、
財務当局と金融当局が一時的に協力して、
①日銀は国債を買取り
②財政当局は財政出動して
③さらに減税を行う
というものです。もう少し具体的に言いますと、日本は世界最大の対外債権国であり、国債は100%円建てで95%国内の金融機関などが持っています。しかも長期金利が世界最低水準なので資金調達がしやすく、長年のデフレで貯蓄過剰状態にあります。そこでこの余っている資金を活用するために国債を発行し資金調達するわけですが、この際に金利が上昇するリスクを抑えるため政府と日銀が協調し日銀による国債の買取り(つまり買いオペ)を同時に行います。政府はその資金で公共事業を行い、需要と雇用を拡大します。そして民間企業に対しては国内投資を促すため、例えば投資減税を行うなどして内需拡大を促進するというものです。
本書で述べられているように日本のGDPは6割が個人消費ですから、経済を成長させるには内需拡大が最も効果的なのです。内需が拡大してくれば、製造業も国内への依存度を高め雇用が生まれます。国内であれば円高に苦しむこともありませんし、相対的に貨幣価値が下がるので中期的には円安になる可能性すらあります。しかも日本には震災復興は言うまでもなく、高度成長期に作られ耐用年数の過ぎたインフラの再整備、成長分野へのインフラ整備など公共事業を行うべき材料がいくらでもあるといいます。
これほどまでに明快な日本再生のシナリオですが、三橋氏によるとこの政策提案は何と2003年に当時のFRB理事、バーナンキから出てきたものなのだそうです。2003年といえば、日本国民が「痛みを伴う構造改革」、「郵政民営化こそ改革の本丸」といったキャッチフレーズに熱狂し、デフレ政策に邁進していた頃のことです。アメリカはその頃、不動産バブルでしたからまだ余裕のある提言だったのかもしれませんが、同じアメリカからでも今度のTPPより180度マシだと思います。
しかし、このシナリオはまだ実現していません。むしろ現実は真逆の方向に進もうとしているようです。TPPが本当に危ういと思うのは、現在明らかになっているだけで農産物や工業製品のみならず、政府調達、電気通信、金融、投資、労働といった幅広い分野において参加国間の貿易自由化を目指しているという点です。デフレにより資産価値が下がっている時にこのような枠組みに参加すれば、企業買収等を通じて食糧、情報インフラ、金融、労働といった国の存亡に関わる重要な分野において外国資本の支配が進む可能性が大いにあります。本書では実際にそのようになった海外の事例を東谷氏が紹介しています。そうすると、仮に政府が上のような政策を行おうとしても、金融機関を支配する海外投資家がNOといえば、できないということになります。投資家は投資収益の最大化が目的ですから、日本国民の生活を守るために得られるはずの利益を放棄するということは考えられません。その時になって道徳論を持ち出して騒いでも遅いのです。
さらに東谷氏が指摘しているように、過度に自由化を進めた経済協定は、仮に政府が国民生活を守るために何らかの規制や施策を行おうとした場合、それが貿易相手国にとって不利益であれば相手国は国際協定を盾に圧力をかけてくる可能性があります。これをConstitutionalization(経済協議の憲法化)というそうですが、経済自由主義を教条的に信奉している国にそれを内政干渉という理由で拒否する政治力があるとは到底思えません。すなわち、この問題は国家主権が制限されかねないという危険すら孕んでいるのです。たとえ国民が塗炭の苦しみを味わっていたとしても国家になす術がなくなったとき、一体誰が守るというのでしょうか。
<つづく>
繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした
ブログをご覧いただいたすべての皆様に感謝を込めて。
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財務当局と金融当局が一時的に協力して、
①日銀は国債を買取り
②財政当局は財政出動して
③さらに減税を行う
というものです。もう少し具体的に言いますと、日本は世界最大の対外債権国であり、国債は100%円建てで95%国内の金融機関などが持っています。しかも長期金利が世界最低水準なので資金調達がしやすく、長年のデフレで貯蓄過剰状態にあります。そこでこの余っている資金を活用するために国債を発行し資金調達するわけですが、この際に金利が上昇するリスクを抑えるため政府と日銀が協調し日銀による国債の買取り(つまり買いオペ)を同時に行います。政府はその資金で公共事業を行い、需要と雇用を拡大します。そして民間企業に対しては国内投資を促すため、例えば投資減税を行うなどして内需拡大を促進するというものです。
本書で述べられているように日本のGDPは6割が個人消費ですから、経済を成長させるには内需拡大が最も効果的なのです。内需が拡大してくれば、製造業も国内への依存度を高め雇用が生まれます。国内であれば円高に苦しむこともありませんし、相対的に貨幣価値が下がるので中期的には円安になる可能性すらあります。しかも日本には震災復興は言うまでもなく、高度成長期に作られ耐用年数の過ぎたインフラの再整備、成長分野へのインフラ整備など公共事業を行うべき材料がいくらでもあるといいます。
これほどまでに明快な日本再生のシナリオですが、三橋氏によるとこの政策提案は何と2003年に当時のFRB理事、バーナンキから出てきたものなのだそうです。2003年といえば、日本国民が「痛みを伴う構造改革」、「郵政民営化こそ改革の本丸」といったキャッチフレーズに熱狂し、デフレ政策に邁進していた頃のことです。アメリカはその頃、不動産バブルでしたからまだ余裕のある提言だったのかもしれませんが、同じアメリカからでも今度のTPPより180度マシだと思います。
しかし、このシナリオはまだ実現していません。むしろ現実は真逆の方向に進もうとしているようです。TPPが本当に危ういと思うのは、現在明らかになっているだけで農産物や工業製品のみならず、政府調達、電気通信、金融、投資、労働といった幅広い分野において参加国間の貿易自由化を目指しているという点です。デフレにより資産価値が下がっている時にこのような枠組みに参加すれば、企業買収等を通じて食糧、情報インフラ、金融、労働といった国の存亡に関わる重要な分野において外国資本の支配が進む可能性が大いにあります。本書では実際にそのようになった海外の事例を東谷氏が紹介しています。そうすると、仮に政府が上のような政策を行おうとしても、金融機関を支配する海外投資家がNOといえば、できないということになります。投資家は投資収益の最大化が目的ですから、日本国民の生活を守るために得られるはずの利益を放棄するということは考えられません。その時になって道徳論を持ち出して騒いでも遅いのです。
さらに東谷氏が指摘しているように、過度に自由化を進めた経済協定は、仮に政府が国民生活を守るために何らかの規制や施策を行おうとした場合、それが貿易相手国にとって不利益であれば相手国は国際協定を盾に圧力をかけてくる可能性があります。これをConstitutionalization(経済協議の憲法化)というそうですが、経済自由主義を教条的に信奉している国にそれを内政干渉という理由で拒否する政治力があるとは到底思えません。すなわち、この問題は国家主権が制限されかねないという危険すら孕んでいるのです。たとえ国民が塗炭の苦しみを味わっていたとしても国家になす術がなくなったとき、一体誰が守るというのでしょうか。
<つづく>
「TPP開国論」のウソ 平成の黒船は泥舟だった | |
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繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした
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