窪田恭史のリサイクルライフ

古着を扱う横浜の襤褸(ぼろ)屋さんのブログ。日記、繊維リサイクルの歴史、ウエスものがたり、リサイクル軍手、趣味の話など。

関係の質が組織の質を高める-第83回YMS

2017年05月11日 | YMS情報


  5月10日、mass×mass関内フューチャーセンターにおいて、第83回YMS(ヨコハマ・マネージャーズ・セミナー)を開催しました。おかげさまで、今回で累計参加者数が1,500名を超えました(1,516名)!

  テーマは『「組織の関係性の質を上げて成果をだす」にアプローチするシステムコーチング® 』、講師として株式会社キャリアプロデュースの俵嘉彦様にお越しいただきました。



  システムコーチングとは、アメリカのCRR Global社によって開発された、新しいコーチングの手法で、一言で言えば、従来のコーチングが「個」を対象にするものであったのに対し、組織におけるチームの関係性を明らかにするため、「二人以上のパートナーシップやクライアントと行うコーチングの手法」を言うそうです。ここでの「システム」とは「複数人による共通目的や相互依存」を指します。

 

  さて、第77回YMSの中でも、D.キム教授の「組織の成功循環モデル」が紹介されました。簡単に言えば、「組織としての「結果の質」を高めるためには、まず組織に所属するメンバー相互の「関係の質」を高めるべきである」ということですが、「関係の質」とは組織内における相互理解や心理的安全性が向上することを言います。心理的安全性とは、遠慮なく発言や行動できるような、心理的不安のない状態のことです。直感的にも分かることですが、実際、グーグルが行った生産性向上への取り組みの中で、心理的安全性と生産性との相関関係が確認されたとのことです。

  尤も、関係性の重要性は古くから言われており、有名なところではリーダーシップ論の古典で、1966年に三隅二不二博士が提唱した「PM理論」があります。即ち、P(目標達成機能)とM(集団維持機能)が共に高いことが理想的なリーダーシップのあり方だというものです。言うなればシステムコーチングは、このPMに働きかける手法です。

  システムコーチングは研修やコンサルティングの基底を成すもので、「導入」→「継続」→「完了」の3つのフェーズを回しながら行われます。組織のメンバーが自ら答えを出すことを重視し、場合によってはチームが崩壊することもあるとか。

  1時間半という短い時間の中、前半では「関係性」を体感する紐と本を使ったワークを行いました。そのステップは以下の通りです。

前提:言葉を発してはいけない

①一人で紐の両端を持ち、引っ張る…一人なので意のままになる
②二人組で互いのひもを絡め、引っ張る…相手との関係が生じる
③数名(今回は5名)で全員の紐を絡め、引っ張る…多人数との関係が生じる
④引き合った紐の上に乗せられた本を落とさずに所定の場所まで運ぶ。その際、コーチにタッチされたメンバーは直ちに紐を放さなければならない。…多人数の共同作業が生じる

  このワークを通じてメンバーが感じたことを共有します。「本」や「紐」や「引き合う行為」が何を象徴しているのか?メンバーそれぞれで様々な感じ方がありました。

 

  最初のワークは、「言葉を使わずに協同作業を行う」という点が重要だったように思います。言葉が使えないので、各メンバーは自らの身体感覚や互いの感情を察する心理的感覚に頼らざるを得ません。この感覚が上の図における「ドリーミングレベル」を疑似的に体感するということなのではないかと思いました。

 「言ってもやらない」という現実がある一方で、先のワークのように「いわなくてもできる」という現実もある。人間の行動の誘因は言語による約束だけではなく、その基底にある感情や使命感といったものが深くかかわっています。ここで思い出されるのが、第35回YMSでご紹介した「三人のレンガ職人の話」です。

  ある人が、建物の壁を作っている3人のレンガ職人に出会いました。彼は3人に近づき、「何をしているのですか?」尋ねました。最初のレンガ職人は、「何をしているかって?私はレンガを積み重ねているのです。一日中、モルタルを塗り、レンガを積み重ねています。」と答えました。二番目のレンガ職人は、「私はこの建物の壁を作るためにレンガを積み重ねているのです。」と答えました。三番目のレンガ職人は興奮した様子で、「私は偉大な神の栄光のために建てられるこの聖堂の壁を作るためレンガを積み重ねているのです。このような仕事ができるなんて光栄なことです!」と答えました。

 

  後半は逆に、「関係性を壊す四毒素」についてのお話でした。これはカップルの研究からジョン・ゴッドマン博士が導き出したもので、関係性を壊すネガティブ発言は、

①非難…相手の人格に対する批判
②侮辱…優位な立場から相手を軽蔑する
③自己防衛…防衛的な態度をとる
④逃避…拒否的態度ないし対話から感情的に引きこもる

の4つに分類されるそうです。第70回YMSの「表情分析」も関連しますが、ゴッドマン博士によると、夫婦喧嘩の際に「軽蔑」(男性に多い)と「嫌悪」(女性に多い)の表情が現れた夫婦の実に90%が4年後には離婚していたということです。

  なお、上の図はゴッドマン博士が導き出した、「人間関係を維持するために必要なポジティブ発言とネガティブ発言の比率」(ゴッドマン率)です。これを見ると友人関係が意外と脆いことに驚かされます。「刎頸の交わり」や「水魚の交わり」も今は昔ということでしょうか?

  さて二番目のワークは、この四毒素を感じるというものでした。床に四毒素を書いた四象限を作り、各々気になる象限の中に入りそれを感じてもらいます。ここでも「何を感じたか」が重要になります。

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  最後は「ポジティブアプローチ」について。ある自動車修理工場が行った顧客満足度調査では、ポジティブな回答が74%、ネガティブな回答が21%あったそうです。とかく我々はポジティブな要素を所与としてネガティブな要素の改善ばかりに目が行きがちですが、この工場ではポジティブな要素を伸ばすことで、サービスの質が向上したそうです。最近ではスポーツの世界でも、短所の克服より長所を伸ばすアプローチをしばしば耳にします。

  しかし、従来のネガティブ側面に目を向ける「問題解決アプローチ」が悪いという訳ではありません。大事なのは捉え方で、ネガティブとは視点を変えれば「願望」の裏返しだと理解することができます。近年の幸福ブームによりとかく悪者扱いされがちなネガティブ側面ですが、ネガティブも重要であることに変わりはありません。そう言えば、以前に読んだポジティブ心理学者、トッド・カシュダン博士とロバート・ビスワス・ディーナー博士による『ネガティブな感情が成功を呼ぶ』でも、ポジティブ感情に偏るのではなく、ネガティブ感情にも重要な役割があり、両者のバランス(ホールネス)が大事であると書かれていたように記憶しています。

ネガティブな感情が成功を呼ぶ
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  短い時間でしたが、自分の身の回りに起こっていることも含め、考えさせられることの多かった第83回YMSでした。

  次回第84回YMSは6月14日(水)開催の予定です。

過去のセミナーレポートはこちら。

繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした
コメント
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