株式会社マインドシーズの丹羽亮介さんが、去る8月9日に著書『マーケティングの大事なところを3時間で学ぶ』を出版されたというので、早速拝読しました。丹羽さんと知り合ったのは15年ほど前、8年前には我々が主催する勉強会(第68回YMS)でも講師としてお話しいただいたのですが、その後シンガポールに拠点を移されたため、時折メルマガを拝読するくらいになっていました。
同書はオンライン教育プラットフォーム「Udemy」で配信された人気講座『はじめてのマーケティング』(2024年5月現在、受講生総数約9.5万人)を加筆して書籍化したものです。丹羽さんは僕がこれまで出会った中で屈指の切れ者ですが、タイトルが示す通り、僕のような初学者にも分かりやすく、かつ簡潔にまとめられているので、一気に読み終えることができました。古典的なものから今日的なものまで事例も豊富なので、恐らく読者はそれぞれのマーケティング・フレームワークに自らの体験当てはめながら、理解を深めることができるのではないでしょうか?また、豊富な事例を読むことで、周囲のビジネスの見え方が変わるかもしれません。専門ではないが、マーケティングの概要を掴みたいビジネスマン、経営学部などでこれから勉強を始める学生さんなどにお勧めです。事例が豊富なので、単純に読み物としても楽しいですが。
同書は、「顧客の視点に立って継続的に行う企業活動すべて」という、マーケティングの定義における「顧客の視点に立つ」ことの重要性を強調し、まずそのために1章を割き、一貫してその立場から2章以降の議論を展開していきます。これは現実の私たちが、分かっていてもつい「顧客視点という名の自分視点」に陥りがちだからであり、せっかくマーケティングを学んでも、錯覚の顧客視点のために似て非なるもの、成果の上がらない結果なってしまうことが往々にしてあるためだと思います。それゆえ、同書ではその「似て非なるもの」になってしまった失敗事例も随所に散りばめられ、読者が「顧客視点」という原則に立ち返ることを助けてくれます。このように、入門書でありながら楽しく読め、かつ実用性も兼ね備えた一冊と言えるでしょう。
因みに、購入者特典として、価格戦略への理解を深めるための補足資料がダウンロードできます。
個人的には、「交渉相手(顧客)の立場の背後にある利害関心を明らかにし、それに見合った価値を創造する」という点において、交渉理論とマーケティング理論は重なり合う部分が多いと感じました。むしろ、利害関心を明らかにする、価値を創造するという点においては、マーケティング理論の方がより長い歴史の蓄積があり、これらのフレームワークは大いに参考になると思います。
繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした