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窪田恭史のリサイクルライフ

古着を扱う横浜の襤褸(ぼろ)屋さんのブログ。日記、繊維リサイクルの歴史、ウエスものがたり、リサイクル軍手、趣味の話など。

「脅威の評価と非言語行動入門」を受講しました

2021年09月28日 | 表情分析


 昨年、「危険行動検知トレーニング」という、Humintellが提供する暴力やテロなどの危険行為を起こす兆候を表情から検知するトレーニング(ウェビナー)を受講しました。

 このブログでも何回かご紹介していますが、Humintellは表情分析の第一人者、D.Matsumoto博士の会社で、最先端の行動科学を現実世界の実践経験と結びつけ、個人から得られるより正確な情報をより迅速に活用し、嘘と真実を評価し、敵意や疑わしい行動の兆候を検知し、他者に影響を与えるスキルを教えているトレーニングや、調査研究、コンサルテーションを行っています。科学者が提供するトレーニングですので、エビデンスに基づいているのが特徴です。

 今回の内容は、例えば空港やイベント会場などで危険行動をとろうとしている人物を見分け、危険を未然に防ぐかというものです。差し迫った脅威の兆候がどのような言語、非言語行動に現れるか?昨年の「危険行動検知トレーニング」は、表情から脅威の兆候を読み取るため、危険な表情を識別するためのトレーニングでした。

 身も蓋もないことのように聞こえるかもしれませんが、脅威といっても様々なであり、今回取り上げられることが全てに当てはまるものではありません。また、本トレーニングで扱った内容で、全ての脅威が防げるわけでもありません。人間行動はそんな単純ではないということは、心に留めておくべきかと思います。



上の図は脅威のプロセスを表したものです。右の「関与」、「離脱」は実際の危険が起こった後のことになりますので、脅威の評価はそれより川上(左側)のプロセスで行われることになります。評価にあたって必要なことは、①危険行動の根底にある動機と反応に焦点を当てること、②誰がするかではなく、何をするかに焦点を当てる(行動に焦点を当てる)こと、③観察の大切さです。

 危険行動の兆候に影響を及ぼす「脅威」には、①動機、②虚偽、③コンテクストへの反応という3つの特徴があります。動機とは、危険行動とその意図には理由があるということ、虚偽とは、(例えば空港の保安検査場などで)危険人物は嘘をつく必要が生じること、コンテクストへの反応とは、状況を変えたり、他人(あるいは自分自身)に危害を加えるための反応を言います。

 危険行動の兆候を発見するため、これら3つの特徴にアプローチします。そのために、①動機に対しては、悪意を持った人物に「普遍的に」当てはまる、根底にある心理学的構成概念を認識すること、②虚偽に対しては、真実を話す人と嘘をついている人を区別する、普遍的な心理学的構成概念を認識すること、③コンテクストへの反応に対しては、状況を変える、自身や他人に危害を加えるといった、コンテクストへの反応に関して、「普遍的に」当てはまる、根底にある心理学的構成概念を認識することが必要になります。

 動機には多面的な性格があります。キリスト教における7つの大罪に、「憤怒」、「暴食」、「強欲」、「嫉妬」、「怠惰」、「色欲」、「傲慢」というのがありますが、例えば敵意の動機は憎悪ばかりとは限りません。同じように、嘘をつく動機も捕まることに対する恐怖だけとは限りません。

 次に、危険行動の兆候を発見するため、言語行動(言葉、言語的特徴、文法的特徴)、非言語行動(表情、声、身体動作、ジェスチャー)に目を向けます。因みに表情、声、身体動作、ジェスチャーといった非言語行動については、5年ぐらい前に読んだMatsumoto博士の” Nonverbal Communication: Science and Applications”に様々な研究と事例が掲載されています。また、最近ではテクノロジーの発達により、歩き方や凝視、床反力計や圧力センサー、熱分析なども行われています。
   


 Matsumoto博士らは、時代、文化、言語を超えて危険行動の動機として、怒り(Anger)、軽蔑(Contempt)、嫌悪(Disgust)の3つの感情があること、それらの感情が言語、非言語行動に現れることを明らかにしています(ANCODI仮説)。2014年にMatsumoto博士らが行った研究によると、グループAのリーダーが行った、敵対するグループBに対する煽動的スピーチを調べた結果、グループAによる暴力行動が起こる12ヶ月前から6ヶ月前は変化が観られなかったものの、6ヶ月前から3ヶ月前において怒り、軽蔑、嫌悪が有意に増加しているということが分かっています。

 ANCODIつまり、怒り、軽蔑、嫌悪感情は、怒りや不当な扱いを受けている感覚、道徳的優位性の誇示、相手の間化、汚染物との同一視などの形で、レトリックで表現されます。

 例えば、下は2011年4月7日に掲載された、カダフィ大佐の息子、サイフ・アル=イスラームの発言。

 私は奴らをネズミと呼んでいる。NATOとフランスを通じてリビアを支配するなどあり得ない。ネズミどもは、自分たちを非常に誇りに思っている。奴らは何者でもない、今奴らはエリゼ宮殿、ダウニング街10番地、オバマに招待されているが、国民は奴らを支持していない。いつの日か、私の言ったことを思い出すだろう。ネズミどもがこの国を支配することは決してない。奴らは反逆者だ。わが国民を爆撃するため、ヨーロッパ人、アメリカ人、その他の連中と手を組んでいるのだ。

 こちらは、2016年6月1日に起きたUCLA銃撃事件の容疑者マイナク・サーカーの発言です。

 UCLA教授、ウィリアム・クラッグは、みなが教授と考えるような人物ではない。彼は非常に病んでいる。私はUCLAに入学してくる新入生皆に、この男から離れるよう促している…私の名前は、マイナク・サーカー。この男の博士課程の学生だった。我々は個人として違っていた。彼は私のコードを全て巧みに盗み、他の生徒に与えた。彼には本当にうんざりした。あなたの敵は私の敵だ。だが、あなたの友達は、もっと害を及ぼす可能性がある。信用している人に注意しろ。この病める男から離れるんだ

 次に、行動の異常に気づくためには、比較対象としてその人のベースラインを理解しなければなりません。ベースラインとは、「あるコンテクストで生じる『典型的』行動」のことを言います。ベースラインには環境的なものと個人に属するものとがあります。ベースラインの観察は難しく、普段から身の回りの地域社会、家族、友人などを観察し、訓練する必要があります。

 Matsumoto博士らは、2014年の研究で、差し迫った攻撃に先行して軽蔑や嫌悪を伴った怒りの表情が現れる可能性を明らかにしています。因みに暴力行為は、他に目的(例えば金品を奪う)があって身体的攻撃はあくまで二義的なものである「道具的暴力」と、敵対的反応による「反応的暴力」とに分けられます。

 最後に、冒頭でも述べましたが、あらゆる脅威を予測できる万能薬はありません。今回述べた方法も、そもそもベースラインを発見すること自体が困難ですし、予測される行動も絶対ではありません。しかしながら、状況を認識する能力は科学的知見に基づいてある程度訓練することはできます。絶対でないから無駄というのではなく、限界をわきまえた上で活用していくことが重要と言えるでしょう。

繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした

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