11月13日、NATULUCK関内セルテ 801にて、第170回YMS(ヨコハマ・マネージャーズ・セミナー)を開催しました。
昨年6月の第151回YMSで、ながさき一生さんからお魚の話をしていただきました。今回は「肉」、和牛がテーマです。和牛に関するテレビ出演やSNSによる発信で活躍されている、小池克臣様より「教養としての『和牛』」と題してお話しいただきました。
小池さんは地元横浜市生まれ。意外なことに実家は魚屋さんでした。しかし、魚に溢れた生活を送ってきたがゆえに、ご家族みんな肉好きになったそうです。18歳の時、アルバイトで稼いだお金で焼肉屋に行くようになり、次第にその回数が増え、現在では年間和牛を食べない日は4、5日しかないとか。肉好きが高じて本業とは別の独自の道としてYoutubeチャンネル「肉バカの和牛大学」をはじめ、本も数冊出版され、和牛に関する情報発信をされています。
特に上記の外国人向けに書かれた『THE WAGYU BOOK』をきっかけに、U.A.Eの皇太子からも助言を求められるほどになりました。
1.「和牛」とは何か?
さて、本題の「和牛」の話に進みましょう。まず、「国産牛」についてですが、国産牛とは、生まれた場所や品種に関わらず、日本での飼育期間が最も長い牛を言い、今回のテーマである「和牛」、「交雑種」、「その他」に分類されます。国産牛の一分類である和牛と交雑種は、在来種と外来種の交配により品種改良された牛で、和牛=在来種ではありません。
さらに、和牛は「黒毛和種」、「褐毛和種」、「日本短角種」、「無角和種」に分類されます。なお、黒毛和種は私たちにとって一番馴染みがあると思いますが、実際に柔らかく甘みのある黒毛和種は人気があり、和牛の大半を占めているそうです。逆に、褐毛和種や日本短角種は赤身がしっかりしており、希少ですが近年の霜降り肉偏重に辟易している人に良さそうです。
2.和牛の美味しさ
和牛の特徴として、柔らかさ、肉本来の旨味、良質の脂による甘み、きめの細かな食感、とろける舌ざわり、そして香りが挙げられます。輸入牛は日本に持ってくるまでの流通過程の制約から、どうしても肉本来の旨味が出にくくなってしまうそうです。甘みに関しては、前述のように近年は逆にサシが多すぎ、甘すぎるのが逆に問題なのではないかという意見もあります。僕もこの歳になるとそれは感じます。
3.ブランド和牛
皆さんもよくご存じの通り、全国各地には様々なブランド牛があります。このブログでも過去いくつかのブランド和牛が登場しました。
●但馬牛
●松阪牛
●近江牛
●鹿児島黒牛
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おまけとして、韓国の国産牛「韓牛(ハヌ)」も挙げておきます。
●韓牛
肉牛農家は、繁殖農家と肥育農家とに分かれ、肥育農家は繁殖農家から子牛を購入して育て、食肉処理施設に出荷します。各肥育農家はそれぞれ好みの牛を調達し、独自の工夫を凝らして育てているため、同じ銘柄のブランド牛でも違いがあるそうです。また、ブランドとして一定の定義はあるものの、全国的に似たような方向を指向した結果、特徴が出にくくなっているということもあるようです。
その中で異彩を放っているのが「但馬牛」。但馬牛は、他のブランド牛のような肥育した場所ではなく、「但馬の牛」という血統を表しています。外来種との交配を止め、但馬牛同士の交配によって品種改良を重ねてきました。有名な「神戸ビーフ」や「三田牛」は但馬牛を肥育したものだけが名乗れるブランドです。
4.美味しさを決める要素
焼肉屋さんでアピールされている、A5ランクやA4ランクといった格付けは、どれだけ肉が採れるかという「歩留等級」と1.サシ、2.色沢、3.肉の締まりとキメ、4.脂肪の色沢と質による「肉質等級」で評価したものです。したがって、必ずしもA4よりA5の方が良い肉であるとは限りません。また、格付けされる牛の約20%がA5と評価されるそうですが、上記のようにみな似たような品種改良の方向を指向した結果、A5ランクが一番多くなってしまったそうです。
牛肉の美味しさを決める要素は、1.性別。オスよりもメスの方が美味しいと言われ、オスも去勢牛でメスに近づけています。2.月齢。牛は26ヶ月頃成長期が終わります。これ以上は大きくならないので、経済上の観点だけで見れば、この時が屠畜のタイミングになります。しかし、肉の味を左右する、餌の影響が表れるのは、成長期が終わった後の30ヶ月~32ヶ月頃からと言われ、松阪牛の中でも特に厳選された「特産松阪牛」は、39ヶ月もの間肥育します。ただ、長く育てるということはそれだけコストがかかり、病気などにかかるリスクも高まるので、簡単ではありません。その他、但馬牛のところで述べた4.血統や5.生産者の技術(飼料、水を含む)などがあります。水について言えば、硬水の方が肉に味がのりやすいそうです。
5.良い和牛とは何か?
結局、「良い和牛」とは何なのか?様々な声を集めると、生産者、精肉店、飲食店、消費者、またはメディアによって「良い和牛」の捉え方は異なるようです。生産者にとっては、高く売れる肉、例えば霜降りで身体が大きい牛が良いということになりますし、精肉店にとっては売りやすい肉、例えばチャンピオン牛であるとかがそれに当たります。牛の体形というのも重要なようで、話を聞いてなるほどと思ったのですが、牛にも個性があって、腹側の肉が多い牛もいれば、背中側が厚い牛もいます。
しかし、上の図をご覧ください。牛は背中側に値段の高い部位が集中しています。つまり、背中側が厚い牛はそれだけ値段の高い肉が多く採れる、良い牛ということになります。
ところで、神奈川県が牛に見えているのは僕だけでしょうか?
飲食店にとっては、扱いやすい牛肉が「良い牛」ということになります。メスよりもオスの方が肉は硬い傾向にあるでしょう、一方でメスの方が脂肪が多く、用途によっては歩留まりが悪い(手間がかかる)かもしれません。消費者にとっては、美味しさ、ブランド牛としての分かりやすさ、値段と味の比例、味の安定性、購入しやすさなどが良い肉の決め手になるでしょう。そして、メディアにとっては希少性だったり、ブランドが重要になるようです。
6.焼肉(ホルモン)を知る
最後は、和牛のホルモンの豆知識についてまとめます。
鮮度の良いホルモンとは?ホルモンは内臓なので、消化酵素で痛むこともありますが、大抵は処理の仕方にあります。屠畜後、取り出された内臓は、水槽に入れられます。その結果、ホルモンは水を吸い、重さが2、3割増します。私たちがホルモンを食べた時肉汁だと思っているものは、実は水なのだそうです。水を吸ったものは腐りやすいという問題があります。かつては、朝どれのホルモンもあったそうですが、狂牛病が騒がれるようになってからなくなってしまいました。したがって、時間のかかる流通過程に乗る前に、いかに丁寧に処理をするかが大事になります。また、一部には水に漬けないというところもあるそうです。
ホルモン独特の課題は、客の増減に関わらず自由に仕入れられないという点です。例えば東京都の場合、都が決まった量を割り当て、品物も選ぶことができません。できるだけ自分が望むホルモンを仕入れるためには、結局のところ人間関係がモノを言う側面があり、新規参入業者は不利ということができます。
シマチョウ(大腸。韓国語読みでテッチャン。上の写真)の縞が伸びているのは鮮度が落ちているためではないそうです。ホルモンを洗浄する処理ラインが繁忙になると、普段休止しているラインを稼働させるのですが、そのラインの水圧が通常より強いため、縞が伸びてしまうのだそうです。
7.和牛に「旬」はあるのか?
魚や野菜に旬があるように、和牛にも旬があるそうです。牛は暑さに弱いため、寒い時期が旬になります。また寒くなるとすき焼きなどの需要が高まるため、値段が上がります。したがって、生産者もこの時期に出荷するので鮮度が良くなるというわけです。具体的には11月から1月にかけてで、特に12月はおすすめとのこと。なお、肉牛の品評会もこの時期に行われます。これは牛耕時代の名残で、米の収穫後に品評会を行ったからだそうです。
さんざんお肉の話を伺った後でしたが、お金のないYMSは焼き鳥屋で懇親会を行いました。しかし、小池さんのYoutubeチャンネルには、美味しそうな焼肉屋さんが沢山出てきます。是非参考になさってください。
繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした
過去のセミナーレポートはこちら。
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