ヴォルフガング・サヴァリッシュが引退

チケット・クラシック「Daily NEWS」に掲載されていました。指揮者のヴォルフガング・サヴァリッシュの引退が発表されたようです。N響での長い指揮活動など、日本とも縁の深かった「巨匠」のまた一人の引退です。まずはごゆっくりお休みいただきたいと思います。

サヴァリッシュが引退を発表(Daily NEWS)

そんなに聴き込んでいるわけでもないのに、いきなりこんなことを書くのもおこがましい話ですが、サヴァリッシュは私にとって苦手な指揮者の一人です。氏の振ったN響の公演には何度か足を運びましたが、何年か前のR.シュトラウスの演奏以外はあまり感銘した記憶がありません。特にベートーヴェンやブラームスなどは、少なくとも私の趣向とは合いませんでした。もちろんオーケストラをしっかりと揃えていく手堅さや、ニュアンスに富んだ、ふくよかな音楽作りは素晴らしいと思うのですが、如何せん私の耳のマズさと、全く勝手な好みの問題で感動に至ることがないのです。CDではワーグナーの楽劇などが有名で、特にリングはいわゆる「名盤」としても名高い演奏ですが、私が惹かれたのは「ローエングリン」のみでした。また同じくオペラにて世評の高い「魔笛」も、ハイティンク盤と同じ位に苦手です。こちらも楽しんで聴くことが出来ませんでした。

最後に苦手と言いつつ、一つだけ私の愛聴盤を挙げたいと思います。それは、ドレスデン・シュターツカペレとのシューマンの交響曲全集です。不思議とこのシューマンだけは、颯爽としたリズム感が耳に心地良く、その清涼な音楽感が、この曲とは不釣り合いだと思うほどに個性的に響きます。何度も聴きたくなるシューマンは、このサヴァリッシュ盤だけです。もちろん今も聴き直しています。

私の聞き逃した、もしくは埋もれた名盤があるやもしれません。サヴァリッシュのオススメCDがあればご教授いただけると嬉しいです。
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「転換期の作法」 東京都現代美術館 3/4

「転換期の作法~ポーランド、チェコ、スロヴァキア、ハンガリーの現代美術」
東京都現代美術館(江東区三好4-1-1)
1/21-3/26

「MOTアニュアル2006」と同時開催の、中東欧4ヶ国の現代美術を紹介する展覧会です。「転換」と言うのは、社会主義、ないしは共産主義政権からの「民主化」を意味(現在進行形として捉えています。)しますが、この展覧会ではその過程におけるアートの状況を概観していきます。展示は映像作品がメインです。しっかり見ると3時間以上はかかります。(逆にそれらを飛ばし気味に見ていくと30分もかかりませんが…。)

好き嫌いはさて置き、会場で一番気になったのは、ポーランドの四人組ビデオ・アーティスト、アゾロの映像作品でした。彼らの作品の根底にあるのは、一貫した既成の「美術」への批判精神です。「美術とは、または芸術家とは何ぞや。」という問いは、ビデオアートという美術の枠内に則った表現に立脚しながらも、かなりラディカルに美術界の秩序へ切り込んでいきます。その最たる例はパフォーマンス的な要素を含む「ベスト・ギャラリー」(2002)でしょう。彼らはここで美術を取り巻く世界を、(美術館やギャラリー、または作品そのものから価値まで。)痛烈に皮肉りながらひも解いていきます。しかしだからと言ってその先に提示される概念はありません。当然の如く見る者に委ねられている。またアゾロの映像作品は、会場のあちこちに散らばるように展示されていますが、それがまた、美術館にて美術を見ているはずの私に、いちいち「横やり」を入れる形となって現れることになります。この展覧会の主旨を効果的に伝える優れた展示方法。それが分散したアゾロの映像作品です。つまり鑑賞者を監視するかのように、随所でおせっかいに美術の見方を「転換」してくれます。

さて、とりあえずアゾロの「横やり」を忘れれば、バウカの「1750×760×250,3×(55×15×24)」(2001)という巨大な構築物の作品が、この展覧会で一際不気味な存在感を見せていました。バウカのアトリエを原寸で再現したという建物。しかしながら、どこにも入口も窓も見当たりません。あるのはただ、灰色の無機質な壁面と、内側から静かに滴り落ちる3カ所の水の出口だけ。強制収容所の記憶と結びつくということですが、私には遠藤利克の寡黙な構築物を思い出させました。

身体的な抑圧状況を感じさせる二作家の作品、プレスロヴァーの写真作品(目や手が、奇妙なメガネや大きな手袋で覆われています。)と、アンタルの一連のインスタレーション(人工的な力の負荷によって擬似的な肉体労働を味わうことが出来る作品です。手押し作業台や塗り手の作業台は、必至になってやるとかなり疲れます。あまりご無理をなさらずに…。)も記憶に残りました。社会や美術界を覆う閉塞状況からの打破を模索しながら、やはりそれでいてまだ新たな方策を示していない、そんなもどかしさを感じさせる展覧会です。アニュアル展と同じく、今月26日までの開催です。
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