都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「瀧口修造とマルセル・デュシャン」 千葉市美術館
千葉市美術館
「瀧口修造とマルセル・デュシャン」
2011/11/22-2012/1/29
千葉市美術館で開催中の「瀧口修造とマルセル・デュシャン」へ行ってきました。
日本を代表する美術評論家、また詩人としても知られる瀧口修造ですが、戦後の活動における最も重要な基盤がマルセル・デュシャンとの交流であったのは言うまでもありません。
今回の展覧会ではその瀧口とデュシャンの交流に着目しつつ、瀧口の主催した芸術運動である実験工房の作家などを紹介しています。
マルセル・デュシャン「トランクの中の箱(特装版)」1946年 富山県立近代美術館
瀧口とデュシャンとの出会いは、1958年に瀧口がヴェネツィアビエンナーレの審査委員として渡欧した時に遡ります。瀧口は当初、欧米で評価される以前からデュシャンに注目していましたが、この年にスペインのカダケスにあるダリ邸を訪ね、居合わせたデュシャンとの邂逅を果たしました。
展示はその瀧口の注目していたデュシャンの戦前の制作から始まります。1923年、デュシャンは「大ガラス」の活動を放棄し、主に小品などを手がけていましたが、瀧口がデュシャンを初めて知ったのもそうした作品でした。
マルセル・デュシャン「泉」1917/1964年 京都国立近代美術館
京近美から約10点ほど出品された一連のレディ・メイドが際立ちます。お馴染み「泉」をはじめ、森美術館のフレンチ・ウィンドウ展でも引用された「フレッシュ・ウィドウ」なども展示されていました。
デュシャン受容の先駆者としての瀧口の活動を知るには、1938年に出版された「みづえ」に当たるのがベストかもしれません。瀧口はこの誌面にていわゆる日本語で読むことのできるデュシャン論を初めて発表しました。
結局、デュシャンと瀧口が会ったのは1958年の渡欧時の一回のみでしたが、ともかくもデュシャンの活動は瀧口に大きな影響を与えていきます。
瀧口修造「ローズ・セラヴィのために」1968年 個人蔵
その一例としてあげられるのが「オブジェの店」の構想です。これは流通経路のないものを流通させるという、言わば一つの価値形態を問い直そうという試みの一つですが、展示ではその部分についても突っ込んで紹介されています。
またドローイングではモーターの回転運動を利用した「ロトデッサン」も登場していました。こうした作品においてデュシャンと瀧口の制作を比較するのも興味深いかもしれません。
瀧口修造「マルセル・デュシャン語録」1968年 富山県立近代美術館
1972年、フィラデルフィアでデュシャン回顧展が開催された際には、瀧口がカタログに論を寄せたこともあったそうです。また瀧口の装幀の仕事についても触れられています。それによると彼は凸版の明朝体で、なおかつ文字が紙に食い込みかのようなデザインを理想としていたのだそうです。
瀧口のお墓の写真には驚かされました。彼は墓石の裏にデュシャンのサインを入れさせたそうです。まさしくデュシャンへの思いを伺い知れるエピソードでした。
瀧口とデュシャンの関係を追った後は、彼らに縁の深い作家が登場します。マンレイ、コーネル、ジャスパー・ジョーンズから、瀧口の主催した実験工房の日本人作家の作品が数多く紹介されていました。
音楽好きには嬉しい作品も展示されています。ゲージの4分33秒のスコアを見たのは初めてでした。
またコーネルがデュシャンに初めて会った時、あまりにも興奮のため、トイレに1時間こもったという逸話も残っているのだそうです。
岡崎和郎「マルセル・デュシャン(人名録より)」1970年 作家蔵
その他、赤瀬川原平の千円札の一連の作品や、奈良原一高撮影の大ガラスシリーズなども目を引きました。
出品は全330点です。資料なども多く、丹念に追っていくと、かなりの時間がかかるかもしれません。
さて展示関連の情報です。本展開催中、ここ千葉市美術館と佐倉のDIC川村記念美術館との間に無料直行シャトルバスが運行されています。
DIC川村記念美術館との提携実施中!
運行日は今週以降、12月10、11日、また来年1月の14、15、21、22、28、29日です。以前にも同様のバスが出ていたこともあり、一度利用しましたが、とても便利でした。詳細は上記リンク先をご参照下さい。
なお来週までDIC川村記念美術館で開催中のナジ展については、プレスプレビューの様子を拙ブログにまとめてあります。宜しければご覧ください。
「モホイ=ナジ/イン・モーション」@DIC川村記念美術館
企画展に続く所蔵品展とあわせると、このクラスの瀧口と実験工房の展覧会はそう滅多にないかもしれません。率直なところ私にとっては親しみのないジャンルでしたが、思いの他に見応えのある内容という印象を受けました。解説パネルも丁寧です。
「デュシャンは語る/ちくま学芸文庫」
来年1月29日まで開催されています。
「瀧口修造とマルセル・デュシャン」 千葉市美術館
会期:2011年11月22日(火)~ 2012年1月29日(日)
休館:12月5日(月)、12月29日(木)~1月3日(火)
時間:10:00~18:00。金・土曜日は20時まで開館。
住所:千葉市中央区中央3-10-8
交通:千葉都市モノレールよしかわ公園駅下車徒歩5分。京成千葉中央駅東口より徒歩約10分。JR千葉駅東口より徒歩約15分。JR千葉駅東口より京成バス(バスのりば7)より大学病院行または南矢作行にて「中央3丁目」下車徒歩2分。
「瀧口修造とマルセル・デュシャン」
2011/11/22-2012/1/29
千葉市美術館で開催中の「瀧口修造とマルセル・デュシャン」へ行ってきました。
日本を代表する美術評論家、また詩人としても知られる瀧口修造ですが、戦後の活動における最も重要な基盤がマルセル・デュシャンとの交流であったのは言うまでもありません。
今回の展覧会ではその瀧口とデュシャンの交流に着目しつつ、瀧口の主催した芸術運動である実験工房の作家などを紹介しています。
マルセル・デュシャン「トランクの中の箱(特装版)」1946年 富山県立近代美術館
瀧口とデュシャンとの出会いは、1958年に瀧口がヴェネツィアビエンナーレの審査委員として渡欧した時に遡ります。瀧口は当初、欧米で評価される以前からデュシャンに注目していましたが、この年にスペインのカダケスにあるダリ邸を訪ね、居合わせたデュシャンとの邂逅を果たしました。
展示はその瀧口の注目していたデュシャンの戦前の制作から始まります。1923年、デュシャンは「大ガラス」の活動を放棄し、主に小品などを手がけていましたが、瀧口がデュシャンを初めて知ったのもそうした作品でした。
マルセル・デュシャン「泉」1917/1964年 京都国立近代美術館
京近美から約10点ほど出品された一連のレディ・メイドが際立ちます。お馴染み「泉」をはじめ、森美術館のフレンチ・ウィンドウ展でも引用された「フレッシュ・ウィドウ」なども展示されていました。
デュシャン受容の先駆者としての瀧口の活動を知るには、1938年に出版された「みづえ」に当たるのがベストかもしれません。瀧口はこの誌面にていわゆる日本語で読むことのできるデュシャン論を初めて発表しました。
結局、デュシャンと瀧口が会ったのは1958年の渡欧時の一回のみでしたが、ともかくもデュシャンの活動は瀧口に大きな影響を与えていきます。
瀧口修造「ローズ・セラヴィのために」1968年 個人蔵
その一例としてあげられるのが「オブジェの店」の構想です。これは流通経路のないものを流通させるという、言わば一つの価値形態を問い直そうという試みの一つですが、展示ではその部分についても突っ込んで紹介されています。
またドローイングではモーターの回転運動を利用した「ロトデッサン」も登場していました。こうした作品においてデュシャンと瀧口の制作を比較するのも興味深いかもしれません。
瀧口修造「マルセル・デュシャン語録」1968年 富山県立近代美術館
1972年、フィラデルフィアでデュシャン回顧展が開催された際には、瀧口がカタログに論を寄せたこともあったそうです。また瀧口の装幀の仕事についても触れられています。それによると彼は凸版の明朝体で、なおかつ文字が紙に食い込みかのようなデザインを理想としていたのだそうです。
瀧口のお墓の写真には驚かされました。彼は墓石の裏にデュシャンのサインを入れさせたそうです。まさしくデュシャンへの思いを伺い知れるエピソードでした。
瀧口とデュシャンの関係を追った後は、彼らに縁の深い作家が登場します。マンレイ、コーネル、ジャスパー・ジョーンズから、瀧口の主催した実験工房の日本人作家の作品が数多く紹介されていました。
音楽好きには嬉しい作品も展示されています。ゲージの4分33秒のスコアを見たのは初めてでした。
またコーネルがデュシャンに初めて会った時、あまりにも興奮のため、トイレに1時間こもったという逸話も残っているのだそうです。
岡崎和郎「マルセル・デュシャン(人名録より)」1970年 作家蔵
その他、赤瀬川原平の千円札の一連の作品や、奈良原一高撮影の大ガラスシリーズなども目を引きました。
出品は全330点です。資料なども多く、丹念に追っていくと、かなりの時間がかかるかもしれません。
さて展示関連の情報です。本展開催中、ここ千葉市美術館と佐倉のDIC川村記念美術館との間に無料直行シャトルバスが運行されています。
DIC川村記念美術館との提携実施中!
運行日は今週以降、12月10、11日、また来年1月の14、15、21、22、28、29日です。以前にも同様のバスが出ていたこともあり、一度利用しましたが、とても便利でした。詳細は上記リンク先をご参照下さい。
なお来週までDIC川村記念美術館で開催中のナジ展については、プレスプレビューの様子を拙ブログにまとめてあります。宜しければご覧ください。
「モホイ=ナジ/イン・モーション」@DIC川村記念美術館
企画展に続く所蔵品展とあわせると、このクラスの瀧口と実験工房の展覧会はそう滅多にないかもしれません。率直なところ私にとっては親しみのないジャンルでしたが、思いの他に見応えのある内容という印象を受けました。解説パネルも丁寧です。
「デュシャンは語る/ちくま学芸文庫」
来年1月29日まで開催されています。
「瀧口修造とマルセル・デュシャン」 千葉市美術館
会期:2011年11月22日(火)~ 2012年1月29日(日)
休館:12月5日(月)、12月29日(木)~1月3日(火)
時間:10:00~18:00。金・土曜日は20時まで開館。
住所:千葉市中央区中央3-10-8
交通:千葉都市モノレールよしかわ公園駅下車徒歩5分。京成千葉中央駅東口より徒歩約10分。JR千葉駅東口より徒歩約15分。JR千葉駅東口より京成バス(バスのりば7)より大学病院行または南矢作行にて「中央3丁目」下車徒歩2分。
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