都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「永井荷風 『断腸亭日乗』と『遺品』でたどる365日」 市川市文学ミュージアム
市川市文学ミュージアム
「永井荷風 『断腸亭日乗』と『遺品』でたどる365日」
7/20-10/14

市川市文学ミュージアムで開催中の「永井荷風 『断腸亭日乗』と『遺品』でたどる365日」へ行ってきました。
小説、随筆、日記文学などに大きな業績を残した永井荷風。彼は第二次大戦後に市川へと移住。その後も13年ほど住み続け、同市八幡にて生涯を閉じました。

そうした荷風の足跡を日記「断腸亭日乗」と、蔵書、日用品、また文具などの「遺品」で辿る展覧会が、市文学ミュージアムにて開催されています。
まずは断腸亭日乗から。これは言うまでもなく荷風が大正6年から死の前日(昭和34年4月29日)まで日常の出来事を綴ったもので、その日の天気や食事などともに、時に批判的な眼差しをもって、当時の世相や風俗、文化などについて記しています。
会場では原本、ノート、手帳などを数点紹介(会期中展示替えあり)。それまで使っていた紙が終戦直後の物資不足でなくなってしまったというエピソードも。またテキストだけではなく、例えば家の見取り図や街ゆく女性の髪型などを描いたスケッチも残しています。
「摘録 断腸亭日乗〈上〉/永井荷風/岩波文庫」
続いては荷風の著作がずらり。自著を遺品としては60点ほど残した荷風。「問はずがたり」では装丁にも注目。手がけたのは川端龍子です。
それに自筆の色紙や掛け軸画も2~3点ほど。色紙に描かれた抱一風の草花図が軽妙です。「うぐいすや 障子にうつる 水の紋」の句が記されていました。
また軸画では「ワイン昼食の図」が佳作。ワインボトルを画面の右手に描き、おつまみなのかトマトの切れ端が三枚。グラスにはワインも注がれています。どことなく清涼感を覚える作品でした。
さて荷風の人となりや交遊を知るのに面白いのは書簡です。ここには谷崎から荷風に当てられた葉書も。ちなみに谷崎、荷風が非常に評価したことも由縁もあって、作家としての歩みを固めたとか。またその谷崎から同じく贈られ、荷風が終生大切に使用していたという印章「断腸亭」も。二人の交流を伺わせます。

そして何よりも荷風の息遣いを感じられるのは遺品です。釜に茶碗、櫛から帽子に靴、また時計に眼鏡、さらにはシガレットケースなど、その数20点弱。さりげなく出ていた湯呑は富本憲吉の作というから驚きです。また甘いものの大好きな荷風、大きな砂糖壺を離さなかったとか。それに荷風のかけている眼鏡も。丸ぶち2個、角ぶち1個の眼鏡を愛用していました。

なお会場内には終の住処となった市川市八幡の6畳間の書斎を一部再現したコーナーも。本棚には荷風の蔵書がずらり。ちなみに遺品として残された蔵書は全部で520冊。うち三分の一がフランス語の著作だったそうです。
さらに荷風の葬儀を8ミリで捉えた珍しい映像も公開。会場はともかく手狭、展示も小品がメインです。遠方からわざわざとまではいかないかもしれませんが、一部新出の資料もあり、コンパクトながらも、よくまとまった展覧会だと感心しました。
さて最後にこの文学ミュージアムについて触れておきます。同ミュージアムは市川にゆかりのある文学者や映像作家、写真家などの資料を展示、また収集保存するための施設。つい先日の7月20日に開館しました。つまり永井荷風展はオープニングを飾る企画展というわけです。

市川市文学ミュージアム(通常展示フロア)をのぞむ *内部は撮影出来ません
会場は企画展示室(荷風展)と通常展示フロアの2部構成。企画フロアのみ有料です。そして通常展示フロアでは映画、演劇、小説、詩歌、文芸の5つのテーマに分けて市川ゆかりの作家を紹介。映画の水木洋子、演劇の井上ひさし、詩の宗左近、また放送作家の小島貞二、そして小説の永井荷風などの名が。タッチパネル方式の大型スクリーンを操作しながら、作家に関する写真や映像資料を閲覧することが出来ます。
これが思いの外にシンプル。凝った作りではありませんが、感覚的に市川ゆかりの作家の業績を知るのにはちょうど良いのかもしれません。
「文豪永井荷風ー人生の旅路/壬生篤/徳間書店」
場所はJR総武線・都営新宿線本八幡駅より徒歩15分ほどの生涯学習センター「メディアパーク市川」(1階は市立図書館です。)の2階。駅からやや距離がありますが、駅北口ロータリーと隣接のショッピングセンター(コルトンプラザ)を行き来するシャトルバスがあります。こちらは無料です。
ミュージアムのフロアにロッカーがありませんでしたが、一つ上の3階の文学ミュージアム資料室前には設置されていました。なお資料室では市川に関する作家の様々な資料を閲覧出来ます。(複写やレファレンスも。)
[関連イベント]
・川本三郎氏講演会(評論家)「荷風をめぐる女性たち」
9月7日(土)午後2時/グリーンスタジオ/定員220人/申し込み8月6日(火)必着
・はこ崎博生氏講演会(葛飾八幡宮宮司)「父はこ先鴻東(こうとう)と荷風の交友」
8月7日(水)/午後2時/ベルホール/定員46人/申し込み7月24日(水)必着
・映画上映「墨東綺譚(ぼくとうきたん)」(1960年120分)
7月28日(日)午後2時/グリーンスタジオ/定員220人/申し込み7月17日(水)必着
・ギャラリー・トーク(文学ミュージアム学芸員によるギャラリー・トーク)
8月1日(木)午後2時/申し込み不要

市川市生涯学習センター「メディアパーク市川」
市内散策とあわせて出かけるのも良いかもしれません。(いちかわ観光MAP)10月14日まで開催されています。
「永井荷風 『断腸亭日乗』と『遺品』でたどる365日」 市川市文学ミュージアム
会期:7月20日(土)~10月14日(月・祝)
休館:月曜日。但し7/15は開館。
料金:一般400(320)円、65歳以上320円、高校・大学生200(160)円、中学生以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
時間:10:00~19:30(平日)、10:00~18:00(土日祝)。最終入場は閉館の30分前まで
住所:千葉県市川市鬼高1-1-4 市川市生涯学習センター2階
交通:JR線・都営新宿線本八幡駅より徒歩15分。京成線鬼越駅より徒歩10分。
「永井荷風 『断腸亭日乗』と『遺品』でたどる365日」
7/20-10/14

市川市文学ミュージアムで開催中の「永井荷風 『断腸亭日乗』と『遺品』でたどる365日」へ行ってきました。
小説、随筆、日記文学などに大きな業績を残した永井荷風。彼は第二次大戦後に市川へと移住。その後も13年ほど住み続け、同市八幡にて生涯を閉じました。

そうした荷風の足跡を日記「断腸亭日乗」と、蔵書、日用品、また文具などの「遺品」で辿る展覧会が、市文学ミュージアムにて開催されています。
まずは断腸亭日乗から。これは言うまでもなく荷風が大正6年から死の前日(昭和34年4月29日)まで日常の出来事を綴ったもので、その日の天気や食事などともに、時に批判的な眼差しをもって、当時の世相や風俗、文化などについて記しています。
会場では原本、ノート、手帳などを数点紹介(会期中展示替えあり)。それまで使っていた紙が終戦直後の物資不足でなくなってしまったというエピソードも。またテキストだけではなく、例えば家の見取り図や街ゆく女性の髪型などを描いたスケッチも残しています。

続いては荷風の著作がずらり。自著を遺品としては60点ほど残した荷風。「問はずがたり」では装丁にも注目。手がけたのは川端龍子です。
それに自筆の色紙や掛け軸画も2~3点ほど。色紙に描かれた抱一風の草花図が軽妙です。「うぐいすや 障子にうつる 水の紋」の句が記されていました。
また軸画では「ワイン昼食の図」が佳作。ワインボトルを画面の右手に描き、おつまみなのかトマトの切れ端が三枚。グラスにはワインも注がれています。どことなく清涼感を覚える作品でした。
さて荷風の人となりや交遊を知るのに面白いのは書簡です。ここには谷崎から荷風に当てられた葉書も。ちなみに谷崎、荷風が非常に評価したことも由縁もあって、作家としての歩みを固めたとか。またその谷崎から同じく贈られ、荷風が終生大切に使用していたという印章「断腸亭」も。二人の交流を伺わせます。

そして何よりも荷風の息遣いを感じられるのは遺品です。釜に茶碗、櫛から帽子に靴、また時計に眼鏡、さらにはシガレットケースなど、その数20点弱。さりげなく出ていた湯呑は富本憲吉の作というから驚きです。また甘いものの大好きな荷風、大きな砂糖壺を離さなかったとか。それに荷風のかけている眼鏡も。丸ぶち2個、角ぶち1個の眼鏡を愛用していました。

なお会場内には終の住処となった市川市八幡の6畳間の書斎を一部再現したコーナーも。本棚には荷風の蔵書がずらり。ちなみに遺品として残された蔵書は全部で520冊。うち三分の一がフランス語の著作だったそうです。
さらに荷風の葬儀を8ミリで捉えた珍しい映像も公開。会場はともかく手狭、展示も小品がメインです。遠方からわざわざとまではいかないかもしれませんが、一部新出の資料もあり、コンパクトながらも、よくまとまった展覧会だと感心しました。
さて最後にこの文学ミュージアムについて触れておきます。同ミュージアムは市川にゆかりのある文学者や映像作家、写真家などの資料を展示、また収集保存するための施設。つい先日の7月20日に開館しました。つまり永井荷風展はオープニングを飾る企画展というわけです。

市川市文学ミュージアム(通常展示フロア)をのぞむ *内部は撮影出来ません
会場は企画展示室(荷風展)と通常展示フロアの2部構成。企画フロアのみ有料です。そして通常展示フロアでは映画、演劇、小説、詩歌、文芸の5つのテーマに分けて市川ゆかりの作家を紹介。映画の水木洋子、演劇の井上ひさし、詩の宗左近、また放送作家の小島貞二、そして小説の永井荷風などの名が。タッチパネル方式の大型スクリーンを操作しながら、作家に関する写真や映像資料を閲覧することが出来ます。
これが思いの外にシンプル。凝った作りではありませんが、感覚的に市川ゆかりの作家の業績を知るのにはちょうど良いのかもしれません。

場所はJR総武線・都営新宿線本八幡駅より徒歩15分ほどの生涯学習センター「メディアパーク市川」(1階は市立図書館です。)の2階。駅からやや距離がありますが、駅北口ロータリーと隣接のショッピングセンター(コルトンプラザ)を行き来するシャトルバスがあります。こちらは無料です。
ミュージアムのフロアにロッカーがありませんでしたが、一つ上の3階の文学ミュージアム資料室前には設置されていました。なお資料室では市川に関する作家の様々な資料を閲覧出来ます。(複写やレファレンスも。)
[関連イベント]
・川本三郎氏講演会(評論家)「荷風をめぐる女性たち」
9月7日(土)午後2時/グリーンスタジオ/定員220人/申し込み8月6日(火)必着
・はこ崎博生氏講演会(葛飾八幡宮宮司)「父はこ先鴻東(こうとう)と荷風の交友」
8月7日(水)/午後2時/ベルホール/定員46人/申し込み7月24日(水)必着
・映画上映「墨東綺譚(ぼくとうきたん)」(1960年120分)
7月28日(日)午後2時/グリーンスタジオ/定員220人/申し込み7月17日(水)必着
・ギャラリー・トーク(文学ミュージアム学芸員によるギャラリー・トーク)
8月1日(木)午後2時/申し込み不要

市川市生涯学習センター「メディアパーク市川」
市内散策とあわせて出かけるのも良いかもしれません。(いちかわ観光MAP)10月14日まで開催されています。
「永井荷風 『断腸亭日乗』と『遺品』でたどる365日」 市川市文学ミュージアム
会期:7月20日(土)~10月14日(月・祝)
休館:月曜日。但し7/15は開館。
料金:一般400(320)円、65歳以上320円、高校・大学生200(160)円、中学生以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
時間:10:00~19:30(平日)、10:00~18:00(土日祝)。最終入場は閉館の30分前まで
住所:千葉県市川市鬼高1-1-4 市川市生涯学習センター2階
交通:JR線・都営新宿線本八幡駅より徒歩15分。京成線鬼越駅より徒歩10分。
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