「宗達のすべて」 芸術新潮 2014年4月号

芸術新潮の今月号、特集「日本美術の七不思議ベスト1 風神雷神図に見る 宗達のすべて」を読んでみました。

「芸術新潮2014年4月号/宗達のすべて/新潮社」

現在、東京国立博物館の「栄西と建仁寺」展に出品中の宗達筆「風神雷神図屏風」。その展覧会にあわせての企画ということでしょう。芸術新潮でも「風神雷神図屏風」をテーマとした宗達特集が行われています。

「芸術新潮 最新号立ち読み 宗達のすべて」

ドンと表には風神様のアップ。書店で中をめくる間もなく、思わず表紙買いしてしまいました。メインの解説は自らを「萬美術屋」と名乗り、板橋区立美術館の前の館長である安村敏信氏です。またゲストエディターに橋本麻里さん。そして昨年の「描かれた都」を企画された板倉聖哲氏、兵庫県立歴史博物館学芸員の五十嵐公一氏らも執筆。ともかくかなり読ませます。

以下に内容を簡単にご紹介します。(ネタバレを含みます。)

まずは「はじめに」。本特集における安村先生の大きなメッセージは「宗達を伝説から解き放て」。かねてより認められて来た「風神雷神図屏風は宗達晩年の作品である。」ことを再考する。ようは良く分かっていない宗達の画業史を一からひも解いていく。改めて様式展開なりを分析しているわけです。



キーワードは9つです。「琳派への疑問」、「俵屋」、「モティーフ」、「ルーツ」、「技法」、「形式と構図」、「色彩と背景」、「後継者たち」、「制作年代の謎」。これに沿って誌面も進行します。宗達像を多角的に見据えていました。

さてともかくは「解き放て」。まずは宗達・光琳・抱一のそろい踏み云々で引用される「風神雷神図屏風」の問題。そもそも光琳は何も私淑て宗達画をトレースしたわけでなく、また抱一もオリジナルが宗達であることを知っていたわけではない。よって本作による「私淑によって継承された琳派」を半ば否定。さらに「光琳は宗達学習をしていない。」と踏み込んでいきます。



宗達を「ゼロからイメージを創造する人間」ではなく、「翻案のスペシャリスト」であると位置づける安村先生。宗達が若い頃に関わっていたという平家納経の修復作業。これが後の画風に大きな影響を与えたのではないか。また室町期の料紙装飾や絵巻、屏風、さらには宋・元・明の水墨。宗達が何を見て何を摂取し、何を表現していったのか。そして「風神雷神図屏風」における先行作品の存在です。よく言われるのは「北野天神縁起絵巻」ですが、その点についても細かく検証しています。

またここで面白いのが医学の立場から見た雷神のポーズです。「頸反射」の一種と見なす。神や鬼をモチーフにする際に何故にこの反射を取り入れたのか。一つの仮説が論じられています。



水墨画との関係も重要です。安村先生は中国の水墨画も宗達の料紙装飾に影響を及ぼしたとしている。また宗達はこれまでの日本絵画と違って「線に頼らない水墨画を成功させた」。たらし込みについての言及もあります。ただその後、例えば光琳は再び「線」に戻った。他の琳派のたらしこみも「宗達の志向した面的表現のため」ではなかった。そうも述べています。



また宗達の中国の水墨画との関連については、板倉先生がコラム「馬脚を現さないひと」で一部反論する形で分析。軽妙な語り口ながらも、宗達は具体的に参照したであろう中国絵画をピックアップ。もちろん図版の引用もお手の物です。宗達による中国絵画の「再編集」の有り様を見ています。

二曲一双というフォーマット、現存する作品では宗達の「風神雷神図屏風」が最も古いそうです。宗達は当時、あまり人気のなかった二曲一双をむしろ得意としていた。一方で彼の六曲一双の屏風は「構図が今ひとつ」と位置づける。小さな真四角や長大な和歌巻は得意としながらも、六曲のような「中距離」は「保たせられない」。その例として「舞楽図屏風」を挙げています。



ただここで問われるのが「蔦の細道図屏風」です。お馴染みのなだらかな地平が蔦と大胆に交わる構図。傑作とも称され、私も大好きな作品の一つですが、これはあくまでも宗達の工房の「エース級の職人」の作であると定義している。またそこから宗達の後継者、さらには光琳、抱一のいわゆる琳派変奏についても触れています。光琳は宗達の弟の宗雪から入ったのではないか。彼の有名な「紅白梅図屏風」も決して「風神雷神図屏風」を意識しているのではない。この辺の指摘は興味深いものがあります。



特集のラストは「制作年代の謎 風神雷神図屏風は晩年の到達年なのか」です。さらなるネタバレになるので、あえて触れませんが、半ばミステリーを追うようなスリリングな推論。一定の結末に達します。読み応えがありました。

また「白象図」などで知られる養源院の紹介や、宗達の年譜、さらには宗達画における金地について分析するコラムもある。それに光悦らの琳派の系譜ではなく、同時代の京狩野との関係に着目する。時に専門的でもあります。

「江戸絵画の非常識ー近世絵画の定説をくつがえす/安村敏信/敬文社」

他にはもう間もなく都美館で始まるバルテュスや一号館のバロットンについての小特集もあります。盛りだくさん。ともかくは琳派ファンにはたまらない宗達特集。そもそも芸術新潮で宗達が取り上げられたのも久しぶりではないでしょうか。楽しめました。

「芸術新潮2014年4月号/宗達のすべて/新潮社」

芸術新潮2014年4月号 宗達のすべて」(@G_Shincho) 新潮社
内容:特集「日本美術の七不思議ベスト1 風神雷神図に見る 宗達のすべて」、小特集「スイスのふたり バルテュスの遺香を求めて 19世紀生まれの現代画家ヴァロットン」、art news「ポルディ・ペッツォーリ美術館展」ほか
価格:1440円
刊行:2014年3月
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )