都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「のぞいてびっくり江戸絵画」 サントリー美術館
サントリー美術館
「のぞいてびっくり江戸絵画 科学の眼、視覚のふしぎ」
3/29-5/11
サントリー美術館で開催中の「のぞいてびっくり江戸絵画 科学の眼、視覚のふしぎ」を見て来ました。
江戸時代後期、蘭学とともに日本へやって来た顕微鏡や望遠鏡。それは日本人の視ることに対する認識を一変させた。「浮絵」に「眼鏡絵」。絵画においてもまた変革をもたらしました。
歌川広重「名所江戸百景 する賀てふ」 安政3(1856)年 個人蔵
テーマは江戸後期の「視覚文化」です。出品は全160点弱。錦絵、銅版画、絹本、墨画、さらには当時使われた望遠鏡などの装置も登場。江戸の人々がどのように新たな視覚を得ていったのか。それを様々な角度から紹介していました。
さてはじめは遠近法です。西洋の透視図法を用いた「浮絵」の存在。興味深いのは秋田藩士、小野田直武によって始められた「秋田蘭画」と呼ばれる一連の作品です。
小田野直武「不忍池図」(重要文化財) 1770年代 秋田県立近代美術館
中でも「不忍池図」。言うまでもなく上野の不忍池を描いたものですが、ともかく際立つのは前景の鉢植え。白にうっすら紅色を帯びた芍薬。それが背景の池のうっすらとした色味とは異なり、強い色彩で表されている。また驚くのが蕾みです。隣のキャプションを読むまで私も気がつきませんでしたが、目を凝らすと一つの黒い粒、ようは蟻が描かれていることが分かります。何とも心憎い表現です。
司馬江漢の「鵞鳥図」はどうでしょうか。岩場を前につがいの鵞鳥。何やら黄昏れているかの如く人間味を帯びている。洋風表現ということなのでしょうか。いわゆる江戸の花鳥画とは異なっいます。
また亜欧堂田善の「江戸城辺風景図」です。江戸城の堀の傍、その並木道を俯瞰するかのように描いていますが、手前の二人の男の背中姿が何とも印象的。素朴でもある。不思議とルソーの絵画を思い出しました。
円山応挙「反射式 眼鏡絵 三十三間堂図」 18世紀 歸空庵コレクション
さて今度は「眼鏡絵」です。遠近法を強調する透視図法。会場では絵を実際に見る際に用いた覗き眼鏡もあわせて展示しています。例えばイギリス製の「反射式覗き眼鏡」の先には伝応挙の「三十三間堂」がある。作品は眼鏡を通すために左右反転です。確かに覗いてみると堂の奥行きがさらに延びて見えます。
またここで面白いのが「浅草風俗図屏風」です。六曲一双の大画面、隅田川に両国橋。浅草界隈の賑わいを記していますが、画面下方、右から三枚目に注目です。何やら箱を覗き込む人たちが描かれている。これがまさしく覗き眼鏡そのもの。よってここから既に18世紀の前半には覗き眼鏡の興行があったことが分かるのです。
オランダにイギリス。当時の望遠鏡も数点出ています。中には和製で漆塗りのものも。これがまた渋い。そして絵画中においても望遠鏡の描かれた作品がある。一例が「長崎蘭館響宴図」です。長崎の出島にあったオランダ商館での食事の様子。海に面した欄干には望遠鏡が突き出ています。何故ならオランダ人は出島から出ることは許されません。だからこそこうして望遠鏡で人々の様子なりを見ていたのだそうです。
長くなってきました。少し先を急ぎます。遠くを望む望遠鏡に対して、近いものを拡大して見るのは顕微鏡。同じく18世紀に日本へやって来てきました。
目を引くのは山田訥斎の「蚤図」です。大きな軸画に巨大な蚤が一匹。本物の何倍でしょうか。墨で颯爽と描き上げた一枚。おそらくは席画。顕微鏡を見た時の驚きをそのまま絵に表したと考えられているそうです。
坂本浩然「本草写生帖」 天保4(1833)年 西尾市岩瀬文庫
ラスト博物図譜から光の陰影への展開。歪んだ絵を円筒状の鏡に投影して見やる「鞘絵」なども。なかなか盛りだくさんです。
歌川国芳「三ツの猿夜の賑ひ」嘉永年間(1848~54年) 名古屋市博物館
ありそうでなかった「視覚」に焦点を当てた江戸絵画展。当時の人々の反応はどうだったのか。おそらくは今の我々が考える以上に新奇な眼で見ていたに違いありません。
会期中、作品が入れ替わります。(出品リスト)
前期:3月29日~4月21日
後期:4月23日~5月11日
体験型の展示もありました。それが立版古に七面鏡。ちなみに立版古とは錦絵を切り取り、立体的に組み合わせたもの。さながら飛び出す絵本と言えるのでしょうか。また七面鏡とは姿を大きくしたり小さくして見せる鏡のことです。ちなみに当時は自分を美しく写す「おらんだの洗かがみ」というものもあったとか。どのような鏡だったのでしょうか。いずれにせよ「見せ物興行の視覚的な遊び心」とは同館学芸員の池田氏の言葉。(図録より)ここはその気になって覗き込んでは楽しみました。
「鏡中絵(さや絵) 桜寧斎画集のうち 桜寧斎」 寛延年間(1748~51年) 名古屋テレビ放送
図録の巻頭に江戸文化研究でお馴染みの田中優子氏の論文が載っていました。氏は本展の企画協力者でもあります。
「江戸の想像力ー18世紀のメディアと表徴/田中優子/ちくま学芸文庫」
4/19の六本木アートナイト時は深夜24時まで開館。またその日は一律500円で入場出来るそうです。
5月11日まで開催されています。
「のぞいてびっくり江戸絵画 科学の眼、視覚のふしぎ」 サントリー美術館(@sun_SMA)
会期:3月29日(土)~5月11日(日)
休館:火曜日。但し4/29(火・祝)、5/6(火・休)は開館。
時間:10:00~18:00(金・土は10:00~20:00)
*4/28(月)、5/4(日)、5/5(月・祝)は20時まで開館
*4/19(土)は「六本木アートナイト」のため24時まで開館
料金:一般1300円、大学・高校生1000円、中学生以下無料。
*4/19(土)は「六本木アートナイト割引」のため一般および大学・高校生は一律500円。
*アクセスクーポン、及び携帯割(携帯/スマホサイトの割引券提示)あり。
場所:港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウンガレリア3階
交通:都営地下鉄大江戸線六本木駅出口8より直結。東京メトロ日比谷線六本木駅より地下通路にて直結。東京メトロ千代田線乃木坂駅出口3より徒歩3分。
「のぞいてびっくり江戸絵画 科学の眼、視覚のふしぎ」
3/29-5/11
サントリー美術館で開催中の「のぞいてびっくり江戸絵画 科学の眼、視覚のふしぎ」を見て来ました。
江戸時代後期、蘭学とともに日本へやって来た顕微鏡や望遠鏡。それは日本人の視ることに対する認識を一変させた。「浮絵」に「眼鏡絵」。絵画においてもまた変革をもたらしました。
歌川広重「名所江戸百景 する賀てふ」 安政3(1856)年 個人蔵
テーマは江戸後期の「視覚文化」です。出品は全160点弱。錦絵、銅版画、絹本、墨画、さらには当時使われた望遠鏡などの装置も登場。江戸の人々がどのように新たな視覚を得ていったのか。それを様々な角度から紹介していました。
さてはじめは遠近法です。西洋の透視図法を用いた「浮絵」の存在。興味深いのは秋田藩士、小野田直武によって始められた「秋田蘭画」と呼ばれる一連の作品です。
小田野直武「不忍池図」(重要文化財) 1770年代 秋田県立近代美術館
中でも「不忍池図」。言うまでもなく上野の不忍池を描いたものですが、ともかく際立つのは前景の鉢植え。白にうっすら紅色を帯びた芍薬。それが背景の池のうっすらとした色味とは異なり、強い色彩で表されている。また驚くのが蕾みです。隣のキャプションを読むまで私も気がつきませんでしたが、目を凝らすと一つの黒い粒、ようは蟻が描かれていることが分かります。何とも心憎い表現です。
司馬江漢の「鵞鳥図」はどうでしょうか。岩場を前につがいの鵞鳥。何やら黄昏れているかの如く人間味を帯びている。洋風表現ということなのでしょうか。いわゆる江戸の花鳥画とは異なっいます。
また亜欧堂田善の「江戸城辺風景図」です。江戸城の堀の傍、その並木道を俯瞰するかのように描いていますが、手前の二人の男の背中姿が何とも印象的。素朴でもある。不思議とルソーの絵画を思い出しました。
円山応挙「反射式 眼鏡絵 三十三間堂図」 18世紀 歸空庵コレクション
さて今度は「眼鏡絵」です。遠近法を強調する透視図法。会場では絵を実際に見る際に用いた覗き眼鏡もあわせて展示しています。例えばイギリス製の「反射式覗き眼鏡」の先には伝応挙の「三十三間堂」がある。作品は眼鏡を通すために左右反転です。確かに覗いてみると堂の奥行きがさらに延びて見えます。
またここで面白いのが「浅草風俗図屏風」です。六曲一双の大画面、隅田川に両国橋。浅草界隈の賑わいを記していますが、画面下方、右から三枚目に注目です。何やら箱を覗き込む人たちが描かれている。これがまさしく覗き眼鏡そのもの。よってここから既に18世紀の前半には覗き眼鏡の興行があったことが分かるのです。
オランダにイギリス。当時の望遠鏡も数点出ています。中には和製で漆塗りのものも。これがまた渋い。そして絵画中においても望遠鏡の描かれた作品がある。一例が「長崎蘭館響宴図」です。長崎の出島にあったオランダ商館での食事の様子。海に面した欄干には望遠鏡が突き出ています。何故ならオランダ人は出島から出ることは許されません。だからこそこうして望遠鏡で人々の様子なりを見ていたのだそうです。
長くなってきました。少し先を急ぎます。遠くを望む望遠鏡に対して、近いものを拡大して見るのは顕微鏡。同じく18世紀に日本へやって来てきました。
目を引くのは山田訥斎の「蚤図」です。大きな軸画に巨大な蚤が一匹。本物の何倍でしょうか。墨で颯爽と描き上げた一枚。おそらくは席画。顕微鏡を見た時の驚きをそのまま絵に表したと考えられているそうです。
坂本浩然「本草写生帖」 天保4(1833)年 西尾市岩瀬文庫
ラスト博物図譜から光の陰影への展開。歪んだ絵を円筒状の鏡に投影して見やる「鞘絵」なども。なかなか盛りだくさんです。
歌川国芳「三ツの猿夜の賑ひ」嘉永年間(1848~54年) 名古屋市博物館
ありそうでなかった「視覚」に焦点を当てた江戸絵画展。当時の人々の反応はどうだったのか。おそらくは今の我々が考える以上に新奇な眼で見ていたに違いありません。
会期中、作品が入れ替わります。(出品リスト)
前期:3月29日~4月21日
後期:4月23日~5月11日
体験型の展示もありました。それが立版古に七面鏡。ちなみに立版古とは錦絵を切り取り、立体的に組み合わせたもの。さながら飛び出す絵本と言えるのでしょうか。また七面鏡とは姿を大きくしたり小さくして見せる鏡のことです。ちなみに当時は自分を美しく写す「おらんだの洗かがみ」というものもあったとか。どのような鏡だったのでしょうか。いずれにせよ「見せ物興行の視覚的な遊び心」とは同館学芸員の池田氏の言葉。(図録より)ここはその気になって覗き込んでは楽しみました。
「鏡中絵(さや絵) 桜寧斎画集のうち 桜寧斎」 寛延年間(1748~51年) 名古屋テレビ放送
図録の巻頭に江戸文化研究でお馴染みの田中優子氏の論文が載っていました。氏は本展の企画協力者でもあります。
「江戸の想像力ー18世紀のメディアと表徴/田中優子/ちくま学芸文庫」
4/19の六本木アートナイト時は深夜24時まで開館。またその日は一律500円で入場出来るそうです。
5月11日まで開催されています。
「のぞいてびっくり江戸絵画 科学の眼、視覚のふしぎ」 サントリー美術館(@sun_SMA)
会期:3月29日(土)~5月11日(日)
休館:火曜日。但し4/29(火・祝)、5/6(火・休)は開館。
時間:10:00~18:00(金・土は10:00~20:00)
*4/28(月)、5/4(日)、5/5(月・祝)は20時まで開館
*4/19(土)は「六本木アートナイト」のため24時まで開館
料金:一般1300円、大学・高校生1000円、中学生以下無料。
*4/19(土)は「六本木アートナイト割引」のため一般および大学・高校生は一律500円。
*アクセスクーポン、及び携帯割(携帯/スマホサイトの割引券提示)あり。
場所:港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウンガレリア3階
交通:都営地下鉄大江戸線六本木駅出口8より直結。東京メトロ日比谷線六本木駅より地下通路にて直結。東京メトロ千代田線乃木坂駅出口3より徒歩3分。
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